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2014年09月22日04:57

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魔法少女の系譜、その28

 今回の日記は、断続的に連載している『魔法少女の系譜』シリーズの一つです。前回までのシリーズを読んでいないと、話が通じません。

 前回までのシリーズを読んでいない方や、読んだけれど忘れてしまった方は、以下のシリーズ目録から、先にお読み下さい。

魔法少女の系譜、シリーズ目録(2014年01月22日)
http://mixi.jp/view_diary.pl?owner_id=25849368&id=1920320548

 前回の続きで、今回も、『キューティーハニー』を取り上げます。

 ハニーの変身能力について、補足があります。

 ハニーは、日本のアニメの中で、魔法少女としての姿に変身した、初めての例でしたね。先行作品としては、実写の『好き!すき!!魔女先生』があるだけです。

 ハニーのすごいところは、「魔法少女としての姿」にだけ、変身するのではないことです。『ひみつのアッコちゃん』のように、いろいろな職業の女性に変身することもできました。
 レーサーの姿をしているハリケーンハニー、ファッションモデルの姿のファンシーハニー、カメラウーマン姿のフラッシュハニー、ロック歌手の姿のミスティーハニーなどです。どれも、昭和四〇年代後半(一九七〇年代前半)当時、憧れの職業でした。

 昭和四〇年代どころか、平成二十六年(二〇一四年)現在でも、憧れの職業ばかりですね。
 ファッションモデルや、ロック歌手など、芸能界につながる職業は、現在の魔法少女ものにも、取り入れられています。
 この点においても、『キューティーハニー』の先進性は、際立っています。

 『キューティーハニー』の話のパターンとしては、最初に、高校生の如月ハニーが登場し、何らかの事件を探るために、ハリケーンハニーやフラッシュハニーに変身し、最後に敵役のパンサークローの黒幕が出てきて、それと対決するために、愛の戦士キューティーハニーに変身する、というものが、典型的です。

 魔法少女ものとして、「戦士」という言葉を最初に使ったことも、注目されます。
 『好き!すき!!魔女先生』の段階では、戦士という言葉は、私の記憶にある限り、使われていませんでした。
 ただし、「魔法少女もの」のくくりを外せば、女性の戦士は、存在しました。「サイボーグ戦士」の003、フランソワーズです。

 「戦士」の部分が強調されたためか、一般的には、ハニーは、魔法少女と認識されていないことが多いですね。アンドロイドだから、ということも、あるでしょう。
 放映当時も、「魔法もの」―当時は、「魔法少女」という言葉は、ありません―の中には入れられておらず、「戦うヒロイン」として、ヒーローものの亜種のような扱いでした。

 時代に先駆け過ぎたために、『キューティーハニー』に続く作品は、ずっと後まで、現われませんでした。
 次に「戦士」が付く魔法少女が登場するのは、『美少女戦士セーラームーン』です。元号が変わって平成、一九九〇年代まで、なかったわけです。なんと、二十年近くの空白があります。

 じつは、『美少女戦士セーラームーン セーラースターズ』の後番組として、『キューティーハニー』のリメイク版である『キューティーハニーF』が、放映されています。
 「美少女戦士もの」の遠い祖先として、『キューティーハニー』が意識された証拠ですね。

 ここで、七つの視点で、『キューティーハニー』を分析してみましょう。

[1]魔法少女の魔力は、何に由来しているか?
[2]大人になった魔法少女は、どうなるのか?
[3]魔法少女は、いつから、なぜ、どのように、「変身」を始めたのか?
[4]魔法少女は、「魔法の道具」を持っているか? 持っているなら、それは、どのような物か?
[5]魔法少女は、マスコットを連れているか? 連れているなら、それは、どのような生き物か?
[6]魔法少女は、呪文を唱えるか? 唱えるなら、どんな時に唱えるか?
[7]魔法少女の魔法は、秘密にされているか否か? それに伴い、視点が内在的か、外在的か?

の、七つの視点ですね。

[1]魔法少女の魔力は、何に由来しているか?

 ヒロインのハニーは、アンドロイドです。人間に作られたものです。その力は、人工的な科学力に由来します。
 魔法少女の魔力のタイプに、「人造型」という、新しいものを付け加えました。


[2]大人になった魔法少女は、どうなるのか?

 これは、語られていません。とりあえずは、普通の女子高校生として、楽しい生活を送りそうです。

 最初にアニメ化された段階では、ハニーが年を取るかどうかが、わからないのですよね。アンドロイドであるハニーが、年を取るかどうかで、その後の展開が、大きく変わります。
 この点は、一九七〇年代の段階では、あいまいにされています。ですから、ハニーの未来は、見えません。

 一九九〇年代に、『キューティーハニー』のOVAである『新・キューティーハニー』が作られています。これは、最初の『キューティーハニー』の続編という扱いです。
 この作品によれば、ハニーは、年を取りません。若く、美しい姿のままです。ただし、昔の記憶を失っています。自分がアンドロイドであることも忘れて、普通の人間として暮らしています。

 年を取らないとなると、普通の人間として暮らすのは、無理ですよね。
 けれども、ハニーは、自分の記憶や能力を封印して、別の人間になり済まし、普通の人間のふりをして、生き続けられるようです。
 そして、何か危急のことがあれば、愛の戦士キューティーハニーとして、よみがえります。

 「封印されていた伝説の戦士が、いつかは、よみがえる」という設定は、口承文芸と似ています。アーサー王伝説などに、見られますね。

 誕生してから、二十年以上の時を経て、『キューティーハニー』という作品は、口承文芸に「先祖返り」したわけです。


[3]魔法少女は、いつから、なぜ、どのように、「変身」を始めたのか?

 ハニーこそが、日本の魔法少女アニメにおいて、最初に、「魔法少女としての姿」に変身しました。実写を含めれば、先行作品に、『好き!すき!!魔女先生』があります。
 そればかりでなく、当時の子供たちの憧れの職業の人にも、変身することができました。モデルや歌手なんて、今でも、女の子の憧れ職業です。

 直接的には、『魔女先生』と同じく、変身ヒーローものからの影響を受けていると思います。変身ヒーローものの要素に加えて、お色気要素をも入れることで、男子にも受け入れやすい「魔法少女もの」となりました。

 ハニーの変身は、女子と男子と、両方の客層を狙うためだったのですね。実際に、それは、成功しました。
 ハニーの全裸になる変身場面は、今なお、語り草ですよね。お色気要素のために、あのような変身場面となりました。


[4]魔法少女は、「魔法の道具」を持っているか? 持っているなら、それは、どのような物か?

 ハニーは、魔法の道具を、いくつも持っています。彼女はアンドロイドなので、「魔法」という扱いではなく、科学の道具という扱いです。

 最も強力なのは、空中元素固定装置です。でも、これは、ハニーの体内にあるため、道具というよりは、ハニーの体の一部です。

 体外にある道具としては、反重力ブーツ、シルバーフルーレ、ハニーブーメラン、それと、首に巻いたチョーカーがあります。
 反重力ブーツは、これを履くと、壁や天井を歩けるブーツです。シルバーフルーレは、剣です。ハニーブーメランは、名のとおりのブーメランです。チョーカーからは、ハニービームという、殺傷能力のあるビームが放たれます。

 見事なまでに、武器がそろっていますね。戦士を名乗るだけのことはあります。
 それまでの魔法少女の道具とは、まったく違います。作品の斬新さが、ここにも表われています。

 一応、それまでの魔法少女っぽい道具も、あるにはあります。
 首のチョーカーが、変身する時のスイッチになっているのです。変身道具の一種ですね。
 とはいえ、『ひみつのアッコちゃん』のコンパクトとは違います。チョーカーの力で変身するのではありません。チョーカーは、あくまでスイッチです。変身は、体内の空中元素固定装置の力で行なわれます。


[5]魔法少女は、マスコットを連れているか? 連れているなら、それは、どのような生き物か?

 ハニーは、マスコットは連れていません。


[6]魔法少女は、呪文を唱えるか? 唱えるなら、どんな時に唱えるか?

 ハニーは、「呪文」は唱えません。『魔女先生』と同じく、技名を叫びます。「ハニーブーメラン」などです。
 有名なのは、「ハニーフラッシュ!」ですね。変身する時の掛け声です。

 技名を叫ぶのは、直接的に、変身ヒーローものからの影響を受けているからでしょう。


[7]魔法少女の魔法は、秘密にされているか否か? それに伴い、視点が内在的か、外在的か?

 ハニーがアンドロイドであることは、一般の人には、秘密です。
 ところが、彼女の秘密は、ごく少数の人々には、知られています。その人々は、ハニーの正体を知っても、彼女を疎外せず、受け入れています。

 この「ごく一部にだけ、秘密が知られている」設定も、斬新ですね。これにより、ヒロインと周囲の人々との関わりを、より複雑に描くことができます。
 視点も、内在的にも外在的にも、することができます。ヒロインの秘密を知る人がいるため、その人の視点で、物語を作れるからです。

 実際に、『キューティーハニー』では、ハニー自身の視点(内在的)でも、早見家の人々の視点など(外在的)でも、物語が形作られています。


 調べれば調べるほど、『キューティーハニー』は、先進性が際立つ傑作です。書いていると、きりがありません。
 ひとまず、この作品については、今回で、一区切りとします。

 次回は、『キューティーハニー』と同時期に放映された、別の魔法少女アニメを取り上げる予定です。

2014年11月19日追記:
 この日記の続きを書きました。
 よろしければ、以下の日記もお読み下さい。

魔法少女の系譜、その29(2014年11月19日)
http://mixi.jp/view_diary.pl?owner_id=25849368&id=1935300387


 今回のレビューは、ハニーの変身能力にちなんだ本にしました。
 『アジアの仮面』です。題名のとおり、アジアの仮面芸能を紹介した本です。

 仮面は、人類が手にした、最も古い変身道具でしょう。
 仮面を着けることによって、人は、超常的な存在にも変身できると信じました。二十一世紀の今なお、地域や、職業集団によっては、そのように信じられています。

 よろしければ、以下のレビューもお読み下さい。

アジアの仮面―神々と人間のあいだ
http://mixi.jp/view_item.pl?reviewer_id=25849368&id=409747

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