mixiユーザー(id:25849368)

2014年05月24日23:43

261 view

魔法少女の系譜、その21

 今回の日記は、断続的に書いている『魔法少女の系譜』シリーズの一つです。前回までの日記を読んでいないと、話が通じません。

 前回までのシリーズを読んでいない方や、読んだけれど忘れてしまった方は、以下のシリーズ目録より、先にお読み下さい。

魔法少女の系譜、シリーズ目録(2014年01月22日)
http://mixi.jp/view_diary.pl?owner_id=25849368&id=1920320548

 今回は、昭和四十六年(一九七一年)十月から、昭和四十七年(一九七二年)三月にかけて、放映された作品を取り上げます。
 この期間は、実写とアニメとを合わせて、なんと、三作もの魔法少女ものが放映されました。

 平成二十六年(二〇一四年)現在でも、一度に三作の魔法少女ものが放映されるなんて、そうそう、ありませんよね。
 まして、昭和四十年代では、奇跡的なことだったと思います。それだけ、勢いのあるジャンルだったんですね。

 その三作とは、『さるとびエッちゃん』、『好き!すき!!魔女先生』、そして、今回取り上げる『ふしぎなメルモ』です。

 『ふしぎなメルモ』は、手塚治虫先生原作のアニメということで、有名です。
 魔法少女ものというよりは、性教育アニメとして、知られています(笑)

 子供向けのテレビアニメで、真正面から「性と生殖」の問題を取り上げたのは、本作品が、初めてでしょう。
 とはいえ、露骨になり過ぎない、良心的な作りだったと思います。

 『ふしぎなメルモ』のヒロイン、渡【わたり】メルモは、ごく普通の、小学三年生(九歳)の女の子です。トトオとタッチという、二人の弟がいます。トトオが小学一年生くらいで、タッチはまだ赤ちゃんです。
 そんな彼女が、魔法少女になった―当時はまだ、魔法少女という言葉はありませんが―のは、母親の死という、衝撃的な事件がきっかけでした。

 メルモちゃんの母親は、交通事故で、突然、死んでしまいます。
 あの世へ行った母親の霊は、そこで、神さまから「早死にさせてしまった代わりに、一つだけ、願いを叶えてやる」と言われます。すかさず彼女は、「子供たちを、今すぐ大人にして下さい!」と願います。

 このあたり、子供の頃に見ていた時は、ぴんと来ませんでした。大人になった今、考えてみると、わかります。
 小学生や乳幼児の子供を残して、この世を去らなければならないとしたら、母親は、どんなにか無念でしょう。子供の成長を見届けたいと、誰もが願うのではないでしょうか。

 神さまは、メルモちゃんたちを今すぐ大人にする代わりに、メルモちゃんにふしぎなキャンディーを与えます。それは、赤いキャンディーと青いキャンディーがセットになったものでした。
 赤いキャンディーを食べると、十歳若返ります。青いキャンディーを食べると、十歳、年を取ります。
 つまり、これらのキャンディーがあれば、大人になるも子供になるも、自由自在です。

 こうして、メルモちゃんは、魔法道具型の魔法少女になりました。
 この作品は、何と言っても、このミラクルキャンディーの設定が、秀逸です。「大人になってみたい」、「でも、子供のままでもいいな」という、子供の無邪気な願いを、形にしています。

 キャンディーという、「食べるとなくなってしまう」物を魔法道具にした点も、素晴らしいです。
 いつかはキャンディーがなくなって、メルモちゃんが魔法少女でなくなることが、明白だからです。視聴者は、「メルモちゃんは、キャンディーを食べ終わって、普通の大人になるんだろうな」と、容易に想像できます。

 魔法少女の「その後」を確定させている点では、『魔法のマコちゃん』より、進んでいますね。
 マコちゃんも、「人間界で、普通の女性として、大人になるんだろうな」と、漠然と感じさせます。とはいえ、彼女が魔法のペンダントを持っている限りは、「魔法を使える大人の女性」になるわけです。彼女がペンダントを手離すかどうかまでは、視聴者には、わかりません。

 『ふしぎなメルモ』の最終回では、実際に、普通の大人の女性になったメルモが描かれます。彼女は結婚して、子供を産みます。今度は、自分がお母さんになるんですね。

 魔法少女の「その後」がはっきりと描かれた作品は、『ふしぎなメルモ』が最初だと思います。

 ミラクルキャンディーの効能は、年を取ったり若返ったりするだけではありません。この力を応用して、動物に変身することもできます。

 生物学をかじったことのある方なら、「個体発生は系統発生を繰り返す」という言葉を、御存知でしょう。
 例えば、ヒトの胎児が育ってゆく過程では、最初に魚のような形になり、鰓ができます。それから、両生類、爬虫類、哺乳類、と進化の段階を踏んで、最後にちゃんとヒトの形になって、生まれてきます。

 この発生の過程で、うまく「進化」の方向を選ぶことができれば、「いったんヒトの胎児になって、別の動物として育ち直す」ことで、ヒトから他の動物へ変身できる、という理屈で、ミラクルキャンディーを使うことができます。
 よく考えれば、そううまく行くはずはありませんが、そこは、フィクションですから(笑)

 キャンディーは、ヒト以外の動物や植物に使っても、効能があります。でなければ、ヒトから他の動物に変身したメルモちゃんは、ヒトに戻れませんよね。
 作品の中には、メルモちゃんや弟のトトオが、動物に変身してから、何らかの障害によって、しばらくヒトに戻れないという話もあります。

 トラブルも多々経験しながら、メルモちゃんは、キャンディーを良いことに使います。
 これまでの魔法少女と同じく、メルモちゃんも、良い子なんですね。キャンディーを悪用しようとは考えません。

 ちなみに、ミラクルキャンディーが、何から、どうやって作られるかは、アニメの中で、はっきり描かれています。ミラクルキャンディーの原料は、火の鳥の卵です。

 そう、手塚先生の畢生【ひっせい】の大作『火の鳥』と通じているんですね。
 手塚先生の作品の中で、火の鳥は、循環する生命全体の象徴です。その卵からミラクルキャンディーができるのは、手塚先生の中では、必然だったのでしょう。

 魔法道具型の魔法少女ものとしては、『ふしぎなメルモ』は、『ひみつのアッコちゃん』と並ぶ、傑作だと思います(^^)

2014年06月01日追記:
 この日記の続きを書きました。
 よろしければ、以下の日記もお読み下さい。

2.22)魔法少女の系譜、その22(2014年06月01日)
http://mixi.jp/view_diary.pl?owner_id=25849368&id=1927333386


 今回のレビューは、ミラクルキャンディーの変身能力にちなんで、『ゾウの時間 ネズミの時間』を選びました。
 生物は、サイズによって、まったく違う世界を生きていることを解説した本です。

 本書によれば、ゾウとネズミとでは、体感時間が違うというのですね。
 ネズミの一年は、ゾウの五十年くらいに当たります。ネズミのほうが寿命が短いぶん、濃い時間を生きているといいましょうか。

 ヒトよりも小さいネズミやネコなどは、ヒトより寿命が短くても、それなりに濃い経験をしているようです。
 ネコやネズミに変身したことがあるメルモちゃんは、普通のヒトの女の子より、よほど濃い経験をしているでしょうね。それでこそ魔法少女なんでしょう。

 よろしければ、以下のレビューもお読み下さい。

ゾウの時間 ネズミの時間―サイズの生物学
http://mixi.jp/view_item.pl?reviewer_id=25849368&id=4809

2 0

コメント

mixiユーザー

ログインしてコメントを確認・投稿する