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2012年01月10日23:09

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映画【宇宙人ポール】 〜明るい未来を受け取ろう(それが銀幕の中だけの夢に過ぎないとしても)

『あの日夢見た明るい未来と、未来は明るいと思えるココロを取り戻すオハナシ』


休暇を取って、はるばるイギリスから本場のコミ・コン見物に訪れた、グレアム(サイモン・ペッグ)とクライヴ(ニック・フロスト)は、筋金入りのSFヲタクコンビ。
コミ・コンついでに、2人は、キャンピングカーを借りて、アメリカのUFO関連名所を探訪する途中に、あろうことか、ホンモノの宇宙人/ポール(声:セス・ローゲン)と接近遭遇。
ポールが言うには、長年にわたって秘密施設に監禁されていたところを逃げ出してきたらしい。

こうして、ヲタクと宇宙人の奇天烈トリオの旅が始まったのだが…



http://www.paulthemovie.jp/



かつて、我々は、少なからず、ハリウッドSF作品を通して、スクリーンの向こう側に【明るい未来】を夢見ていました。

今でこそ、古典とされる『2001年〜』ですが、当時にあって、その圧倒的なリアル指向による物語の説得力を前にして、我々の誰もが、遠からず未来には宇宙旅行が現実化するのではないかと、思い描いていたのではないでしょうか。


しかし、当時のSFが描いた明るい未来は、現れませんでした。


パンナムは倒産してしまったし、ひいては、我々を宇宙旅行に連れて行くはずだったスペースシャトルは、打ち上げ途中に爆発し、帰還途中に木っ端微塵になってしまう始末。
何より、宇宙開発の費用対効果たるや、はなっから採算度外視であった事は明白で、それは、冷戦時代の政治的な意味でしか存在できないものでした。

そして、あとに残されたのは、衛星軌道上に無数に転がる使い捨ての人工衛星やら、宇宙ステーションの抜け殻やらなんやら…
しかも、そいつら、膨大な数の『夢の残骸』は、我々の頭上を狂ったような速度で飛び回りつつも、徐々に軌道を外れたり衝突したりして、いつ地球に墜落してきてもおかしくない状況にあるのです。


いまや、現実世界は、WALL−eが描いた皮肉な未来のほうへと向かっており、冷静な大人になった我々は、宇宙に対して学術的な興味を感じる事はあっても、規格外れに明るい夢を見ることは、(まず、)ありません。


本作/宇宙人ポールが、パロディやオマージュとして取り入れているSF作品群の大半は、1970〜80年代のハリウッドを代表する名作であり、それは、取りも直さず、強いアメリカによる『輝かしい未来、素晴らしい宇宙』のイメージを反映したものだったでしょう。
もちろん、そのネタの数々は、単に他愛もないものからかなり毒を含んだ曲解例まで揃っており、その引用元を遡ったりして、解釈や取り扱いの差を楽しむのが、王道といえます。

しかして、この作品は、単にパロディの寄せ集めに終わらず、真っ当なロードムービーとしても成立しており、宇宙人という究極の異分子の目を通して、人間のもつ感情や、対人関係の衝突や軋轢、嫉妬や摩擦や偏見等を示し、それでも前向きに生きていく人々のバイタリティを描いています。

主人公のヲタク2人組は、行く先々で『ゲイ』の烙印を押されかけるのですが、彼等は、体つきこそ大人のそれですが、精神的には男の子から成長していません。
思えば、年端もいかない男児は、女の子よりも男の子と一緒に遊ぶものです。
彼等は、ロボットやらヒーローやらが大好きで、その大好きな対象が変わらないまま体だけ大きくなったのが、本作の2人なのです。

名所巡りの道中においては、そんな2人にポールをはじめとする旅のお伴が割って入る事で、彼等の関係に微妙な変化が生じる様子が描かれます。
片方が、新参者等と打ち解けられる一方で、もう片方は、そんな連れ合いの行動に困惑し嫉妬しながらも、正直になれない自分の幼さを嫌悪します。
これらの描写は、男の子が思春期を迎えた頃の心情や行動変化に近いといえるでしょう。


また、夢が一杯詰まったSFの世界にどっぷりと浸かっていた彼等にとって、ポールとの出会いは、即ち、夢の実現そのものです。
この、『信じ続けたことで夢が叶う構図』というのは、お話の調理の仕方をミスすると、とてつもなくご都合主義に陥るのですが、この構図をさらに厚塗りし、バージョン違いを反復する事で物語を深堀りしてみせたところに、本作の脚本の巧さが光ります。

それは、2人と旅をするポールの目的の1つが、『とある人物にお別れの挨拶をしに行く事』という展開をとおして明らかになります。
その人物は、はるか昔に、ポールが初めて地上に降り立ったときの目撃者であり、以来、片時も彼の事を忘れずにひっそりと暮らしていました。
そして、ポールが、その人物にとびっきりのプレゼントを贈る展開は、大マジで泣けるのですが、よくよく考えると、『信じ続けたことで夢が叶う構図』の繰り返しになっているのです。

さらに、エンドロールでは、2年後の彼等の姿と、その2年間の変化を追った後日談が示されます。
それは、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』のオチそのものになっているばかりか、【ヲタク道に邁進したら、社会的に大成功しちゃうわ、リア充だわ…etc.】という、『信じ続けたことで夢が叶う構図』を徹底して『無限ポジティブ』の域にまで突き抜けてみせます。

エンドロールのオチを強化するかのように、ポールのラスト近くの台詞が、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』から引用されています。
それは、あの作品に漂う徹底したポジティブ思考と、作品で描かれた明るい未来図へのオマージュからでしょう。




本作が真正面から描ききる『無限ポジティブ』や『信じている夢が叶う構図』というのは、悪い言い方をすれば、子供っぽい願望の典型です。
しかし、ヲタクとは、根源的にコドモであり、自身の好きなジャンルを徹底的に信じ続けているからこそ、ヲタクは楽しいのです。

小さい頃、大好きな友達と時間を忘れて遊んでいたら、いつの間にか日が暮れて真っ暗になってしまい、両親がガン泣きしたり、或は、こっぴどく怒られたり…
大人が、自身の過去を振り返って、それが愚かで浅はかだったと反芻したとしても、それを全否定する必要があるでしょうか。


ポールは、やっと再会した大事な人に、こう語ります。

『ダメにした過去の代わりに、新しい未来を見せよう』

この台詞は、注意深く解釈すれば、制作者がスクリーンの前にいる我々に向かって発したメッセージに思えてきます。

『実現しなかった夢の代わりに、新しい夢を見せよう』


かつてのハリウッドSFが描いた明るい未来は、現実には夢のままで終わりました。
しかし、我々が、その夢を心底楽しんだという過去は変わりませんし、それを否定する必要もさらさらありません。

スクリーンの向こう側には、無限の夢が詰まっているし、まだ、ワタクシの中に、現実離れした夢を楽しむ幼心が残っている事に気づかされた、この上なくシアワセな時間でした。


どうか、皆様も、この2時間弱の(エア)タイムスリップをお近くの劇場でご堪能頂けたらと、切に願うばかりなのです。
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