mixiユーザー(id:25109385)

2011年05月18日06:40

835 view

霊性への目覺めについて(東日本大震災を契機とする宗教的な私感)

 この作品を讀む時に、この音樂を聞きながら鑑賞して下さい。
 これは、

『Tommaso Albinoni(アルビノオニ・1671−1750) Adagio(アダアヂヨ)』 

 といふ曲で、YAMAHAの「QY100」で作りました。
 雰圍氣を味はつて戴ければ幸ひですが、ない方が良いといふ讀者は聞かなくても構ひませんので、ご自由にどうぞ。






     霊性への目覺めについて(東日本大震災を契機とする宗教的な私感)

 
 五月十六日の産經新聞の朝刊に、京都大學の教授、佐伯啓思氏が、

 『見えない「霊性への目覚め」』

 といふ一文を掲載してゐて、少し気になつたので目を通して見た。
 そこには、今年が「法然の800年の大遠忌」で、京都で樣々な催し(イベント)が開かれてゐて、彼は「ほぼ30年を叡山にこもって修業を積」んでゐたが、「43歳の時に山を降り」て「専修念仏を説」き、「ただ「ナムアミダブツ」と唱えて、阿弥陀仏の本願にすがるという絶対的な他力本願を説くのである」と述べてゐる。


 更に、「あらゆる経典を知り尽くした法然が、どうして念仏による阿弥陀仏の救済のみを説くようになつたのか、よくわからない」と説き、その理由が「今日の都では、大飢饉、大火、疫病さらには大地震が起き、(略)町中の建物が倒れ、死者の群れが横たわり、」「余震は20日も続いた(略)末法の時代だった」ので、「真の救済を求める衆生は、経典を読み修行する時間も余裕もなかつた」から、「彼らを救済するには、ただ一念を込めて念仏を唱えるという易業しかなかった」と話を進めて、實(じつ)はよく解つてゐた事を證明してしまつてゐる。


 けれどもその言に從へば、非常時に唱へる念仏とはその場しのぎの、謂(い)はば應急處置(おうきふしよち)に過ぎない事になつてしまふ。
 それを示すかのやうに、「末法の時代は、そんなオーソドックスなやり方は通用」せず、こんな時代にこそ「真に衆生を救う必要があ」り、「それは「聖道門」ではなく、「浄土門」によるほかな」く、かくして「阿弥陀仏への絶対的な帰依を説く他力本願がでてくる」のだと語る。


 だが、筆者が思ふに、所謂(いはゆる)聖道門(しやうだうもん・自力)に對(たい)する淨土門(じやうどもん)、即ち他力本願は、般若心經の「色」と「空」の關係ではないのかと考へられまいか。

 「色即是空 空即是色」

 と言つて、色は空に異ならず、空は色に異ならないのであれば、

 「他力即自力 自力即他力」

 といふ事になりはしないか。
 何故とならば、他力を願ふのは自力なのだから、自力(自意識)あればこその他力であるだらうから、強(あなが)ち的外れなものとも思はれない。


 續けて文章は、「この悲惨な末法の時代を経てはじめて日本人が(略)目覚めた」ものがあり、それが本題の「靈性」なのだといふ。
 「何か絶対的な力に帰依し、その力による救済を願うほかなくなったようなこの時代に、はじめて「霊性」に目覚め」られるのであると。
 言ふまでもなく、

 「靈性」

 とは、それについて書かれた鈴木大拙氏の有名な書物からの引用なのだらうが、

 「人智を超えたはかり知れない力である。絶対的な何かに自己を委ねること、すなわち信仰である。この絶対的な何かの前で、自己を無に帰する。自己を無にしたとき、初めて救済という契機が働き出すの」

 だとこの著者は説明する。


 しかし、「今日の日本人が直面している難局が、これに匹敵」し、「ひとたび近代化をくぐり抜けた今日の時代状況を、法然の生きた「末法」の時代に重ね合わせることはほとんど無意味」であり、「時代状況が悲慘であり絶望的であればあるほど、「霊性」への覚醒は鋭くも強度のものとな」り、靈性が目覺めなければならないといふ割には、今囘の震災による東北の状況からは、何か決定的なものが缺(か)けてゐると著者は開陳する。


 それは、

 「今回の大震災と原発事故が示したことは、いかに人間が「理性」を駆使して自然を管理し、エネルギーを作り出し、科学と技術によって経済を成長させても、人智・人力ではどうにもならない領域があ」り、この「領域に直面したとき、「生」と「死」は、通常の状態とはまったく様相を示して」き、「両者の境界は曖昧となり、(略)「生」に転ぶか「死」に転ぶかもほとんど偶然によるほかな」く、さうなれば「「生」と「死」は別物ではなく重なりあって(略)この状態にあつて生きようとすれば、人の領域を超えた何ものかに自らを委ねるほかなく」、それこそが「「霊性」というもの」

 だと指摘されるのであるが、ただ、気になつた事がふたつあつて、

 一つは、今囘の地震は自然現象だが、原發事故は人災による事故であるから、法然の時代と現在とを比較もせずに同列に論ずるのはどうか(多分解つてはをられるのだらうが)と思ふ事と、
 もうひとつは、

 「人智・人力ではどうにもならない領域が(略)、「想定外」などという気楽な言い方をするが、少なくとも「想定外」があることは想定しておかねばならないのである」

 といふ表現で、これでは想定外とは言へないだらう。
 論理性に缺けてゐるやうに思はれた。


 佐伯教授は續けて、

 「大震災から2ケ月が経過し、徐々に関心は復興に向いている。しかし、あくまでもテレビ画面でみる印象でしかないのだが、被災地を覆う絶望的な悲しみや怒りのなかから立ちあがってくるある種の「宗教的なもの」の姿がどうも見えない。「霊性」の覚醒のようなものが見えない」

 といふ事に不安を感じて、その根據(こんきよ)となるものが、

 「欧米で似たようなことが起きれば、人々は教会の廃墟にたたずみ、十字架を切り、祈りをささげ、ミサをあげる、といつた光景が映し出されるであろう。」

 といふもので、

 「それに類したものがない」

 事を心配してをられるが、さうかと言つて、

 「取り立てて「宗教」を持ち出そうとする意図は私にはないのだが」

 と言つたかと思ふと、

 「かくも人の領域を超えた何かに直面したときに、「霊性」への思いがまったく見えないのはいささか奇妙なことではなかろうか」

 と言葉は彷徨(さまよ)ひ、そのすぐ後には、

 「どうにもならない不条理に直面したとき、人はどこか「宗教的なもの」に触れるであろう」

 と反對の意見を言つたり、

 「それは人の能力の限界を思い起こさせ、人の倣慢を戒める」

 といふ表現で想定内の事を述べ、

 「近代主義や技術万能が限界にまできた今日、「霊性」を改めて思いかえすことも無意味ではない」

 と締め括られてゐる。


 最後まで讀んでみて、筆者の讀解力がない所爲か、思考が混濁してしまつた感がある。
 だが、「靈性」については、聊か筆者なりに考へた事もあり、以下にそれを述べて見たい。
 「靈性」とは宗教に對する信仰心の在り方であらうかと考へられ、さうであるならば、「霊的」なものとは、超英雄(スウパアヒイロオ)やゴジラを愛する支持(フアン)の氣持と通ずるものがあるのではないかと愚考するのである。


 電視臺(テレビ)劇(ドラマ)や映畫の主人公に憧れ、主題歌を口遊(ずさ)み、二次元の彼等と一體となる。
 勿論、その對象(たいしやう)は現實的なスポオツ選手や俳優だつて構ひはしない。
 何故なら、人間とは、假想空間(バアチヤル)で遊ぶ能力を有した動物だと言へるからで、とは言つても他の動物にないかどうかは知らないが、いづれにしても架空の存在に思ひを致し、それを心の據(よ)り所として日々を生きる糧とする。
 恰度、日本の奥様方が韓流の「ヨン樣」に血道を上げるやうに……。


 その支持(フアン)心理に神秘性を加へれば、『宗教的な靈性』は完璧なものとなると思はれるのだが、無宗教の筆者には與(あづか)り知らぬところである。
 無神論者の筆者にとつて、神の問題は、降誕祭(クリスマス)のサンタクロオスと然(さ)して變(かは)るものではない。
 所謂(いはゆる)サンタクロオスは大人が編み出したもので、その手柄を横取りされてまでも愛する子供に夢を與(あた)へようとした結果であり、それはいづれその子共が親になつたら繼承されるものだと解つてゐるからの健氣(けなげ)な行爲(かうゐ)の筈であり、まさかその子共が大人になつてまでも現實に向ひ合はずにサンタクロオスの存在を信じきると考へた譯のものではないだらうと思はれる。
 さう考へれば神への信仰は、醒めない夢を見續けてゐるやうなものだと思はれてならない。


 その意味では神は心の安全辨(あんぜんべん)で、病氣の時の醫療(いれう)の藥品と同じものであると思つてゐる。
 言ひ過ぎるのを覺悟すれば、宗教とは何かといふと筆者が思ふに「心の尻尾」で、

 「人類は進化して肉體的には尻尾がなくなつたが、精神的には宗教といふ尻尾が殘つてゐて進化しきれてゐない存在」

 なのではないかと思はれる程度のものでしかなく、所詮、宗教とは心理學なのだと考へてゐる次第である。

 などと素人考へで恐縮だが、この一文を讀んでこんな事まで感想を抱いてしまつた。



     關聯記事

『空』と『無』に就いて
http://mixi.jp/view_diary.pl?id=1343474641&owner_id=25109385

『複對統一場論 (主觀と客觀)』 
http://mixi.jp/view_bbs.pl?id=49102093&comm_id=4699373

獨(ひと)りぽつちの狐
http://mixi.jp/view_bbs.pl?id=50977363&comm_id=4657977


3 7

コメント

mixiユーザー

ログインしてコメントを確認・投稿する