武器の音がする!
罪のない奴らが勝利の準備をしているのだ.
どうしてやつらの代わりにこのおれではいけないのか!
おれはおそろしい,
ええ糞いまいましい,ほかのやつらを軽蔑し続けたあげく
今になってやつらと同じ卑怯な心を抱くとは.
だがこれもなんということはない,
恐怖もまた長続きはしないからな.
おれは再び見出すのだ
心の静まるあの巨大な空虚を.
すべてはひどく複雑に見える.
ところが実はすべてしごく単純なのだ.
もしおれが月を手に入れていたら,
愛だけで十分だったなら,
すべては変わっていただろう.だがどこで癒せというのだ
この心の渇きを?
どんな心が,どんな神が,
おれにとって湖のような深さをたたえているのだ?
この世にも,あの世にも
おれの力に匹敵するものは何もない.
だがおれは知っている.
そうだ,
お前も知っているはずだ!
ただ不可能な事が可能になればそれで十分だということを.
不可能なこと!
それをおれは世界の果てまで,
このおれの内側のすみずみまで探し求めた,
おれは両の手を差し延べている,ところがおれが出会うのは貴様だ!
いつでもきまって貴様なのだ!
おれの前に立ちはだかるのは.
おれは貴様に対する烈しい憎悪に燃えている.
おれは進むべき道を進まなかった.
おれはどこにも行き着かない,
おれの自由は呪わしい自由だ!.
エリコン!
エリコンよ!
ない!
まだ何もない!
ああ この夜は重く苦しい!
エリコンは帰ってくるまい.
おれたちは永劫に罪を背負うのだ!
この夜の重さは
人間の苦悩と同じだ.
・・・
歴史に入るのだカリギュラ!歴史に
おれはまだ生きている!
Author:Albert Camus
Drama:CALIGULA