城下町コミュの高取

　大和国高市(ﾀｹﾁ)郡鷹鞆(ﾀｶﾄﾓ)郷の高取山は標高583ｍ、山麓からの比高390ｍで、古くは鷹鞭山と呼ばれた。６世紀初頭、大和朝廷の命で土佐国から強制連行されて宮殿造りに従事させられた人々が北方山麓に住み着いたため、北方山麓は「土佐」と呼ばれるようになった。
　北側山腹には、皇極３(644)年に大臣蘇我蝦夷が桙削寺(ﾎｺﾉｷﾃﾞﾗ)を創建し、持統天皇時代には法器寺(ﾎｳﾉｷﾃﾞﾗ)、天平宝字４(752)年には丹恵山小島山寺と改称された。一方、西側中腹には大宝３(703)年に壺阪山南法華寺(壺阪寺)が創建されている。
　平安中期の『相模歌集』には「狩人の　こぬ日ありとも　鷹むちの　山のきぎすは　のどけからしな」の歌が収録されている。
　高市郡には奈良時代から大和国府が置かれ、11世紀中葉には大和守源頼親が興福寺に対抗して勢力を築こうとしたが失敗している。
　鎌倉時代になると高取と呼ばれるようになり、藤原長清撰の『夫木抄』に三位藤原知家の「よそにみて　散りやすぎなむ　たか取の　こじまの紅葉　浪ごしにして」の歌が収録されている。
　鎌倉時代の高市郡では、春日大社の神人である国民の首領で、源頼親の子孫と称する越智氏が貝吹山城を本拠として勢力を拡大した。また小島山寺は僧宇二十八坊を数える大寺院として繁栄していた。
　元弘２(1332)年、後醍醐天皇に呼応して挙兵した越智邦澄が高取山頂に城を築き、南北朝時代に南朝方となった越智氏の支城として機能する事となった。
　越智氏は室町時代には国中(ｸﾝﾅｶ；大和盆地)南半を制する散在党の首領として、興福寺の寺僧である衆徒(ｼｭﾄ)で国中北半を制する乾党の首領筒井氏に対抗し、永享元(1429)年から永享11(1439)年にかけて筒井氏との間で大和永享の乱と呼ばれる決戦を行なったが、室町幕府第６代将軍足利義教が筒井氏を支持して出兵したため、越智氏は大敗して全ての城を失い、吉野山中を放浪する事態に陥ってしまった。
　だが、嘉吉元(1441)年に足利義教が嘉吉の変で害されると、河内守護畠山持国の支援で越智家栄が越智氏を再興して、再び国中南半を制する勢力を回復、さらには管領細川政元と結んで、筒井氏を圧倒したのみならず、幕政にも参与し越智氏の最盛期を現出した。
　明応６(1497)年、筒井氏が河内守護畠山尚順(ﾋｻﾖﾘ)と結んで反撃に転じ、家栄は敗れて吉野山中に逃亡、小島山寺は燃亡してしまった。家栄は翌年には本領を回復したが、この時に越智氏の本城は貝吹山城から高取城に変更され、壺坂寺に政庁が置かれた。
　天文元(1532)年、摂津石山本願寺の一向一揆軍が大和国に侵攻して来ると、興福寺は越智家広に救援を求め、高取城で一向一揆軍を邀撃した家広は激戦の末、筒井軍とも協力して撃退に成功している。
　永禄11(1568)年に上洛した織田信長が松永久秀に大和国を与えると越智家広はこれに屈服、次いで天正５(1577)年に筒井順慶が信長から大和国を与えられた際も越智家秀はこれに服従した。
　天正８(1580)年、信長が筒井順慶の居城である郡山城以外の大和の城郭を悉く破却する命令を出したため、高取城や貝吹山城も廃城となってしまった。
　天正10(1582)年に羽柴秀吉が畿内の覇権を握ると、越智頼秀は筒井順慶配下で12000石を安堵されたが、翌年、順慶の謀略で暗殺されて越智氏は滅亡、順慶は郡山城の詰城として高取城を再建した。
　天正13(1585)年、筒井定次が伊賀国上野に転封となると、豊臣秀長が郡山城に入り、大和・紀伊・和泉等の1160000石を領する事となったが、高取城には秀長の重臣で賤ヶ岳七本槍の一人である脇坂安治が20000石で入った。
　しかしその直後に安治は淡路国洲本30000石に転じ、高取城には同じく秀長重臣の本多利久が25000石で入る事となった。天正17(1589)年、利久は家臣諸木大膳に命じて城を大改造し、本丸には多聞櫓で連結された三重の大小天守、二の丸には御殿が造営され、三重櫓が17基建ち並ぶ他に例を見ない壮大な近世山城が誕生した。郭内には侍屋敷も整備され、北方山麓の土佐に町人の住む城下町が成立した。
　利久は天正19(1591)年に秀長が没した後、後嗣となった豊臣秀保に仕え、文禄４(1595)年に秀保が没した後、利久の子俊政は秀吉の直臣となって高取15000石を与えられた。
　慶長５(1600)年、俊政は徳川家康の上杉景勝討伐に従軍したため、西軍方の松倉右近勝信が高取城に攻め寄せたが、俊政の従弟正広は徹底抗戦を貫いて松倉軍撃退に成功した。この結果、俊政は関ヶ原の戦の後、10000石の加増を受けて高取藩25000石の初代藩主となったのである。
　しかし、俊政の子の政武が寛永14(1637)年に嗣子無く没したため本多氏は廃絶し、高取城は大和国新庄藩主桑山一玄と丹波国園部藩主小出吉親が城番となって管理する事となった。
　寛永17(1640)年、9000石の旗本だった植村家政が25000石の大名に取り立てられ新たな高取藩主となったが、正保元(1644)年頃までに北方山麓に下屋敷が建てられて、家政はここに居住するようになった。これに伴い家臣団も山麓に屋敷を構えるようになり、山上の城には一部の者が城番として勤務するだけになった。こうして山麓の城下町が発展する事となり、土佐町・土佐新町・観覚寺町・子島町の四町が成立したが、土佐町がその中心であった。
　なお、植村家には大坂冬の陣で大坂城天守閣への砲撃に用いられたオランダ製の巨砲であるブリキトース砲６門が幕府から預けられた。
　第２代藩主植村家貞が万治元(1658)年に弟の政春に3000石を分与、第３代藩主家言(ｲｴﾉﾌﾞ)も貞享４(1687)年に弟の政明に1000石、正澄に500石を分与したため、高取藩の石高は20500石となった。
　天明５(1785)年、第８代藩主家利が遊女と入水心中し、露見すれば改易となるところ、江戸屋敷の留守居役が情報を抑えて病死として届けたため、高取藩は改易を免れて存続した。　
　第９代藩主家長は、寺社奉行・若年寄等の幕府要職を歴任したため4500石を加増され、高取藩は再び25000石に復した。
　第10代藩主家教は谷三山を招聘して尊皇攘夷に傾倒したが、第13代藩主家保は文久３(1863)年の天誅組事件の際には幕命に従っため、1000人余の天誅組の攻撃を受けたものの、鳥ヶ峰(現高取町役場)に陣を構えた城代家老中谷栄次郎は260名余の藩士だけで伝家のブリキトース砲を用いて撃退に成功している。
　慶応３(1867)年、王政復古の大号令が発せられると、家保は新政府支持を表明し、翌年の鳥羽伏見の戦の際には京都御所の警備を担当した。
　第14代藩主家壷(ｲｴﾋﾛ)は、明治２(1869)年に職制改革を行い、家老・用人以下の職を廃して、執政・参政・公議人を置き、翌年、藩校明倫館を設置した。
　明治４(1871)年の廃藩置県によって高取県とされ、直後に奈良県に編入された。城地は高取村、城下町は土佐村・観覚寺村・下子島村とされたが、明治24(1891)年に統合されて高市(ﾀｶｲﾁ)郡高取町となった。
　なお、高取城は険しい山上で取り壊しが困難だったため、廃藩置県後も放置されていたが、荒廃が進んだため明治20(1887)年に至って漸く解体された。二の門のみが、小島山寺の法灯を継承した城下の報恩山千寿院子嶋寺に移築されて現存している。
　藩主植村家の菩提寺は天台宗真各山宗泉寺である。
　平成20(2008)年から藩主の子孫の植村家忠が町長を務めているが、その邸宅は城代家老中谷家邸だったもので、長屋門は奈良県指定文化財となっている。
　また、藩主下屋敷門が石川医院の門として移築されており、児童公園に松ノ門が復元されている。

＊高取城跡
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