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●刊HΛLコミュの流しの小咄野郎

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修行のために、小咄をしますよ。
お題は、みなさんに出してもらいます。
お題はこちらまで:
 「小咄お題募集」トピック
 http://mixi.jp/view_bbs.pl?id=4985251

ルールは以下の通り:
 ・お題は三つ
 ・全て、名詞で
感想、批評は、お題募集のほうにどうぞ。

コメント(13)

●小麦粉、免許証、倍率(お題 by たね)
 海に囲まれた日本ですから、その昔は海賊も沢山いたわけですが、江戸の世の平安続きで海賊達は一掃されてしまいました。ところが、世界を見渡すと、当時はまさに海賊達が大暴れしていた頃でして、時折、へんぴな港にもそんな海賊がいかがわしい荷をごっそりと積んで、売りさばきにきたりしておりました。その日も港に何やら怪しい船が着いたとかでーー

「聞いたかい?」
「なにをさ?」
「なんでも港にすごい倍率の船が来てるらしいって」
「なんだいその倍率ってのは」
「よくは知らねえけどな、だまし取ったり、盗んだりして、てんで安く手に入れた品物を、結構な値段で売りさばくってぇことらしいよ」
「はあ、それで、倍率」
「それでも、まともに手に入れるよりか随分と安く売るらしいから、どんなもんを売ってんのか、ちょっくら、覗きにいこうってわけでさ」
 と、いうわけで、二人は連れ立って船着き場へと参りました。そこには、舶来のものものしい船が舫っておりまして、二人はそれを見上げて仰天致します。
「ひゃぁ。こんなでかい船は観たこととがないねぇ」
「まったくだ。どんなにでかい奴が乗るんだろうなぁ?」
「…や、別に人がでかいわけじゃないだろうがさ」
「へ?そうなんかい?」
「沢山人だの物だの載せるためにゃ、でかくなきゃなんねぇんだよ」
「へぇ、そういうもんかい」
「お、見ろ、どうやらあすこから出入りしてらぁ」
 二人は船の甲板へと登る梯子へと寄って参りました。そこには、身の丈7尺もあろうかという大男が立っておりまして、その男はどうやらこちらの言葉を話すようでございます。
「ちょいと」
「ハイ」
「どんな品物扱ってんのか、見してくんねぇかな」
「ハイ、身元ガワカルモノ、モッテマスカ?」
「身元?」
「商売ノ免許証トカ、通行手形トカデスネ」
「こちとらただの町衆でぃ、んなもんあるわきゃねぇだろ」
「ソウ、ソレナラドウゾ、ハイッテクダサイ」
「なんだよ、身元が確かな奴を入れるのかと思ったら、反対かぃ。またえらくいかがわしいなぁ、おい」
 拍子抜けしながら船内に入りますと、あるわあるわ、大層沢山の品物が積まれております。
「ひゃー、たまげたねぇ」
「これみぃんな売りさばくつもりかねぇ?」
「ま、いろんな港に行くんだろ。お、こりゃなんだ?」
「袋だな」
「んなこた、言われなくてもわかってるよ。袋の中身はなんだろなって言ってんじゃねぇか」
「ああ、そっか」
「小麦粉にしちゃ小せぇやな」
「そうさな」
 ひとつその袋を手に取って眺めたりすかしたりしておりますと、がらんがらんと音が鳴り響きました。
「なんでい、なんでい?」
「ニゲテクダサーイ。オカピキデス」
「岡っ引き?おいおい、こんなところうろうろしてたら、お縄だぞ」
 それ、逃げろというわけで、一目散に逃げ出しました。這々の体で逃げ帰って、ふと気がつくと、あの得体の知れない袋を手に握ったまま。さて、これはどうしたもんかと考えた末、粉のことだからこの人だろうと、元はうどん屋の店主というご隠居のところへ持って参りました。
「ご隠居、この粉、頂きもんにくっついてきたんですがね、学のねぇあっしらには何の粉だかわからねぇんでさ。ちょいと調べてもらっちゃくれませんかね」
「ふむふむ。どれどれ…やや!こ、これは!」
「え、ちょ、ど、どうかしやしたか?」
「こんなもの、どこで手に入れたんじゃ?」
「え、や、と、あの、頂きもんに、えと、くっついて来て」
「こんなものを持っていてみろ。岡っ引きにしょっぴかれてお縄だぞ」
「ええ?そんなヤバいもんなんですかい?」
「こりゃな、阿片だ」
「阿片?」
「知らんか。知らんほうがいいぞ。うむ、これはな、わしがわからぬように処分しておいてやる。持っておかんほうが身のためじゃ。な」
「へ、へぇ、さいですか」
 ご隠居に強く言われては言い返せない二人、すごすごと引き返しました。もとより、金も払わず持ち帰ってしまったものですから、そんなもののせいでお縄頂戴では、割が合わないというところ。まんまと阿片を巻き上げたご隠居は、怪しい筋にこれを売りさばいて一儲け致しまして、一人ゴチたわけでございます。
「さすが粉屋じゃ、くいっぱぐれがないの」
●ウィンカー、桜、指輪
 その日、私は慣れない車の運転をする羽目になった。
 彼が、車で仕事に出かけたのに、取引先の偉い人につかまって、飲みに付き合わされてしまったから。妙に陽気な声で11時すぎに電話してきた彼に「飲んじゃったから、かわりに運転してくれない?」と、西麻布なんて滅多に行かないところに呼び出されて、今こうして彼の車を運転しているというわけ。
 彼の車は前の型のルノー・ルーテシア。ちっちゃくて可愛いから気に入ってるんだけれど、一つ難点がある。もともと左ハンドルだから、ウィンカーとワイパーのレバーが逆についているのよね。時々、交差点で雨も降っていないのにワイパーを動かしてしまって、酔っぱらってご機嫌な彼にくすくすと笑われている。
 西麻布から恵比寿を抜けて駒沢通りを走っていると、駒沢公園の脇でふいに彼が「停めて」と言った。
「どうしたの?」
「うん、ちょっと寄り道しよう。おいで」
「うん…」
そういうと彼はさっさと車を降りて歩いていってしまった。
(もう、勝手なんだから)
 思いながら、急ぎ足で彼の後を追いかける。彼は、振り返りもせずにどんどん歩いていく。そして、突然、立ち止まって、前を向いたまま静かな優しい声で言った。
「ごらん」
「え?」
「上だよ」
「上?」
「去年も一昨年も仕事忙しくてできなかったからさ、花見」
 見上げると、そこにはようやく開き始めた桜の花がぽつりぽつりと咲いていた。
「わあ…。綺麗」
 見とれている私の隣りにいつの間にか彼がやってきていた。彼はポケットからストローの袋を取り出すと、くるくるとよじり始めた。
「何してるの?」
「いいから。待ってて」
 ストローの袋をよじり終わった彼は、手を伸ばして花を一つ取ると、袋に結びつけた。
「右手出して」
 言われるままに右手を出すと、彼はよじった袋を花が上に向くようにして、薬指に結わえた。
「これ…?」
「これは仮の奴だから、手付けみたいなものだけれど。婚約指輪」
「え?」
「結婚しよう」
「…どうして右手なの?」
「ルーテシア乗りにとっちゃ、左は他の奴にウィンクする側だからさ」
●薬、雑巾、星(お題 by MAR)
 最近話題になった本に、「竿竹屋はなぜ潰れないのか」というものがございまして、一見すると儲かっていそうもない商売なのに、ずっと続けていられるのは一体どういうカラクリなのかという話が書いてあります。案の定、その本を読んで感化された男がおりましてーー

「なーるほど。元が取れない位安いものを売りつけて、後で芋づる式にあれこれ売りつけるっていうわけか。まるで詐欺だな、こりゃ。でも、あれだな、やりようによっちゃ儲かるな」
 この男、若い頃には企画部にいて随分と成績もよく、将来は社を背負って立つ期待の星と褒めそやされたものでした。ところが、ある大きな仕事で取り返しのつかない失敗してからというもの、出世街道からはすっかり外れてしまい、いわゆる窓際族と成り果てておりました。かつての栄華はどこへやら、会社にいても、家に帰っても、肩身の狭い毎日でございます。
「会社辞めようかな」
「え?」
「会社。毎日毎日誰にでもできるくだらない仕事が回ってきてさ、社の命運を左右するでもなければ、社会に貢献するでもない」
「でも、そういう仕事をする人も必要なんでしょう?」
「そうだけれど、俺じゃなくてもいいんだよ」
「……」
「言ってみれば雑巾なんだ」
「雑巾?」
「タオルや洋服だった時代は終わって、汚れ仕事をさせられているんだよ。再利用さ。どうせ飼っておくんだから、少しは役に立てようって腹なのさ」
「そんな…」
「脱サラするかな」
「脱サラ?」
「何か割のいい商売考えてさ、楽して暮らそうよ」
「そんな美味い話、ないわよ」
「これでも企画屋だぞ、考えるさ。ほら、この本、読んでご覧」
 と、奥さんに切り出してからは、来る日も来る日も、新しい商売のことを考えておりました。そして、ある日。
「な、あったよ、あった」
「あったって、何が?」
「商売のネタだよ。ぼろ儲けだ」
「呆れた。まだ考えてたの?」
「まあ、聞けよ。いいか、お前、プラシーボ効果って知ってるか?」
「プラ…なに?」
「プラシーボ。偽薬だよ。例えば、ただの小麦粉を固めた錠剤を作るだろ?それを医者が『あなたの病気にはこの薬が効きます』といって患者に処方するんだ。すると、患者はそれを飲むだろ?」
「ええ」
「そしたら、ただの小麦粉なのに、効くんだよ」
「ええ?本当?」
「本当だよ。昔から、病は気からっていうじゃないか。体が治ろうとする力を上手に引き出せば、小麦粉を売って歩いても妙薬になるってわけさ」
「でも、薬なんて、勝手に売っちゃダメなんじゃないの」
「そりゃそうさ。でも、薬だっていわなきゃいいんだ。風説として流すのさ。星の砂を砕いたものを、ぬるめのお茶に溶かして飲むと腰痛に効く、とか、ね?」
「そんなことしたら、薬じゃないってわかっちゃうじゃない」
「大丈夫だよ。プラシーボ効果の話も一緒にすれば、ただの小麦粉でも効くって納得するから」
「偽薬は本当の薬だと思わせるから効果があるんじゃないの?」
「あ」
「…あなたにつける薬が必要ね」
●紙風船、歩道橋、領収書(お題 by kiino)
「俺は所詮ただの紙切れなんだ」
 寂しそうに呟いたのは、cafe bar 「la stanza」の領収書でした。
「せっかく宛名を書いてもらっても、酔っぱらいはくしゃくしゃにして投げ捨てちまうんだ。俺は紙の中でももの凄く役に立たない部類の紙に生まれちまったんだ」
 彼がそう嘆くのも無理もありません。今、彼は、駅から少し離れた県道の歩道に打ち捨てられています。彼を捨てたのは、40代半ばのサラリーマン。しこたま酔っぱらっていて、いもしない上司に罵詈雑言を浴びせた勢いで、財布の中身をぶちまけてしまったのです。
「ああ、もし俺が紙風船に生まれていたらなぁ」
 領収証はしんみりと思いました。もし、もし、紙風船だったなら。あんなことやこんなことが起こったかもしれない。可愛い女の子の息を吹き込んでもらえたかもしれない。さえないサラリーマンの酒臭い息じゃなくて。
「でも、わかってるんだよ。それは叶わぬ夢だって。この県道のように、渡るに渡れない溝のような溝じゃないようなものがそこには横たわってるんだ」
 そのとき、領収証のはるか上のほうから優しい声がしました。
「渡れるわ。あなたにも、渡れる」
「え?」
 領収証は声のするほうを見上げました。
 そこには、ところどころペンキのはげ落ちた歩道橋がありました。
「渡れないところを渡れるようにするのが、私の役目ですもの。上がっていらっしゃいな」
 領収証は誘われるままに、階段を上り、歩道橋の上へと上りました。そのとき、ふいに強い風が吹きました。
「あっ」
 叫ぶまもなく、領収証は県道へと落ちていました。次から次へとやってくる車に踏みつけられ、せっかく書かれた宛名もまるで読めなくなってしまいました。それでも、なぜか、領収証の心は穏やかでした。
「もし、俺が紙風船だったら、ぺしゃんこになったことを哀しんだんだろうな。ペラペラの紙切れも、悪くないね」
訂正:
お題、「ウィンカー、桜、指輪」に対する小咄を掲載する際に、「(お題 by まりえ)」という表示が欠落していました。お詫びするとともに、ここに訂正させていただきます。
●こんぺいとう、折り鶴、アイスティー(お題 by natsuki)
 お祭りに行くと色々な露天が出ておりまして、子供の頃からりんご飴だの、たこ焼きだの、はまたま射的だのに心躍らされていたわけですが、最近あまり見かけなくなったものに「飴細工」というものがございましてーー
「ひゃぁ、すごいねぇ。さっきまでまあるい飴の固まりだったのに、あっちを伸ばし、こっちに切り込みを入れて、ちょいちょいと曲げたりへこませたりして。でもって色をちょちょっとつけたら、昇り龍だ。いやぁ、大したもんだ」
 感心しながら見ていると、飴細工屋のおかみさんが声をかけてきました。
「おにいさん、どうです、おひとつ。ここにないものでも、言ってくれたら、大抵のものは作りますよ」
「そうかい?じゃあ、一つお願いしようかな。そうだな、飴じゃあなかなか作れそうもないものがいいやな。えーと、お茶なんてどうかな」
「お、お茶ですか?」
「おお。俺ぁ、甘くしたアイスティーが好きでさ。ロイホのトロピカルアイスティーがいいな」
「えーと、お茶は、ちょっと…。もすこし、形のあるものになりませんかね?」
「なんだい、できねぇのか。しょうがねぇなぁ。んじゃ、そうだなぁ、鶴なんてどうだい?」
「あ、鶴はできますよ」
「折り鶴ソックリの奴を頼むわ」
「…折り鶴ソックリ」
「そそ、クリソツ。これならいけるだろう。平たく伸ばして、普通に折っていきゃいいんだからな」
「まぁ、できないこたぁないかもしれませんわね。ちょっと聞いてみますな」
 おかみさん、飴細工職人の主人と相談しています。頼んだほうは気楽なもんで、紙でできるもんができないはずはないだろうと高をくくっています。しばらくの問答の末に、おかみさんがやって参りました。
「やってみるそうです。気に入ったらお代を頂戴するということで」
「や、それは、わざわざやってもらうんだから、気に入ろうが気に入るまいが、お代は払うよ」
「いえ、納得して受け取ってもらえない時には、お代は頂けないとのことで」
「そうかい?じゃ、とりあえず、作ってもらうかな」
 と、いうわけで、折り鶴そっくりの飴細工を作ってもらうことになりました。熱い飴を冷めないうちに伸ばしたり曲げたりするわけですから、相当な勢いで鶴を折る羽目になるわけでございます。飴細工屋の主人、近年まれに見る熱のこもり用でございました。
「できたかい?」
「あと少し。もう少々待っていただけますか」
「そうか。折り鶴は大変だったか。ま、気長にまたぁな」
 そうして待っていると、おかみさんがひときわ大きな声をあげました。
「折り鶴、かんせ〜〜〜い」
 みると、確かにそれは折り鶴。首のかしげ具合も見事なまでに折り紙で折ったそのままを再現しておりました。頼んだ男もほれぼれとみとれて、感心することしきりでした。
「いやぁ、たまげたね。こりゃ、どこからどうみても、折り鶴だ。こりゃすげぇや」
「そういって貰えると、苦労して作った甲斐がありますよ」
 店の主人も応えます。
「じゃ、こんなのはどうだい?」
「なんでしょう?」
「天秤」
「天秤?」
「ああ、俺ぁ、その先で店やってんだけどな、天秤が壊れちまって商売あがったりなもんで、暇持て余してこうして遊び歩いてんだよ」
「ご商売を。どんな商いなんですか?」
「こんぺいとうの量り売りでな。重さ量れないと、商売にならねぇんだ」
「天秤だったら、飴じゃなくても作れるでしょうに」
「いやいや、甘いもんを売るだけにな、目方の読み方もできれば甘いほうが都合がいいんだよ」
「天秤にする分には、皿の甘さは関係なさそうですがね」
●トンネル、コーヒーカップ、ステージ(お題 by sarada)
 ちっとも、真っ直ぐに歩けないぜ。
 ぐわんぐわんと頭の中でCsus4が何度も何度も鳴り響いていて、まるで遊園地のコーヒーカップに乗ったあとみたいだ。いや、あれは、ティーカップか。まあ、んなこたどっちだっていいや。
 10年振り(ヘタしたらもっとだ)に浴びたステージのライトは、ラテンを通り越して赤道の熱で俺を灼いた。だらだらと流れ落ちる汗が目に入って、たまらなくしみやがる。
 普段なんのストレスもナシに弾き語れる曲をトチるは、MCでも何喋ってんだかわかんねぇは(でも、笑いは取ってたけどな)、『想定外』のことが続出しやがって、誰かさんには「ぱつんぱつん」とか言われる始末だよ。
 ま、いいや。
 今まで、Liveのない生活を送っていたことを考えれば、昨夜の俺は、出口の見えているトンネルの入り口に立った位のことでしかない、だろ?
●小枝、電話、お守り(お題 by ヒロト)
 「あのさ、前から気になってたんだけれど、このバカでかい携帯ストラップ、なんなの?」
 「あ、これ?えへへ、これね、お守りなの」
 「お守り?って、これ、なんか、ただそのへんの木を切ったものに見えるけど?」
 「うん、丹沢の菜の花台にね、展望台があるんだけれど、その近くの森で拾った小枝なの」
 「…この太さは、小枝って言わないと思うがな。3cmくらいあるじゃん、しかも長さも15cmくらい」
 「いいじゃない、そんなことどうでも」
 「それで?なんでそれがお守りなの?」
 「うん、これ、木だから、水に浮くでしょ?」
 「…うん」
 「だから、こうやってつけておけばね、例えば、池に落っことしても、沈まないから、安全じゃない!」
 「…電話がいかれるだろ」
 「え?どうして?」
 「電子機器は濡れると壊れるんだよ」
 「え、私、濡れても壊れないよ?」
 「…お前、人間だろ」
 「アンドロイドだよ?」
 「……嘘?」
●ハーボット、ブレスレット、DM(お題 by chani)
 「不要だったら、そういってね」
 そう書かれただけの、「チャミー」からの葉書が届いていたことを、あたしが忘れた頃だった。

 ぴんぽーん。
 チャイムの音で起こされたあたしは、重たくて仕方がないまぶたをやっとの思いでこじ開けて、時計を観た。1:38。
 (だれだろう、こんな時間に?)
 そう思いながらインターホンまで這っていく。
 「はい」
 「宅配便です」
 「あ、はい、今開けます」
 いっぺんに目が覚めたあたしは、エントランスのロックを解除すると、慌てて寝間着の上にスプリングコートを羽織った。
 ぴんぽーん、ぴんぽーん。
 玄関のチャイムが鳴る。
 がちゃ。
 「お荷物はこちらですね。ここにハンコお願いします」
 「サインでいいですか?」
 「ええ、結構です。あ、じゃあ、これでどうぞ」
 差し出されたペンで「浅海」とサインすると、配達員は挨拶をして帰っていった。
 受け取った荷物は、そう大きくない箱で、差出人のところには「チャミー」と書いてあった。
 (チャミーって、だれ?)
 そう思った直後に、あたしははっと気付いた。チャミーは、あたしのハーボットの名前だ。でも、ハーボットが実際にプレゼントを送ってくるなんて、聞いたことがない。
 あたしは、怪訝に思いながら荷物を解いた。中には鈍い金色のブレスレット。ブレスレットを手にとって、嵌めてみていると、箱の底に一枚のメモがあることに気付いた。
 「不要だったら、送り返してね チャミー」
 なんだか薄気味が悪くなったあたしは、ブレスレットを外して元の通りにしまった。彼が帰ったら、すぐに返送してもらおう。
 それにしても、とあたしは考えた。あたしがチャミーと交わした会話から、こんなマーケティング情報ができあがるんだ。いくら、ダイレクト・マーケティング全盛の時代だからといっても、ここまで事細か把握されると、なんだか気味が悪い。
 帰ってきた彼にこの話をすると、ダイレクト・マーケティングは、今すごく注目されているからねとひとしきり応じた後、こう言った。
 「ところでさ、ダイレクト・マーケティングはDMって訳されるけれど、そう訳されるものには、他にもいろいろあるのを知ってる?ダイレクト・メール、データ・マイニング、デス・メタル、それから、ほら、ドラコ・マルフォイ」
 「ドラコ・マルフォイって、ハリー・ポッターじゃない」
 「そうだよ?ちゃんと、オンライン訳語辞書に載ってるよ?」
 そんな冗談めいた話であたしを笑わせようとしたのは、彼なりの優しさなんだろう。

 それから数ヶ月後。あたしは、ネットニュースで取り上げられた小さな記事を見つけた。
 「ネット上の電子ペットを通じて得られる個人情報を利用した新手の悪徳商法が急増中」
 その記事によれば、この商法の目新しいところは、商品を売りつけるのではなく、「欲しいけれど、ただで貰うのは気持ち悪い」ものを送りつけて、送り主あてに返送させ、その返送にかかる送料からマージンをとるという、宅配業者を中心とした点だという。
●マニキュア、ささやき、デジカメ(お題 by まりえ)
 土曜の15:00、いつもなら英会話のレッスンが入っている時間だ。でも今日は、講師のMikeの都合で急遽レッスンが中止になったので、ふと思い立って恭子にメールを出した。
 返事のメールには本文はなく、代わりに音声メモが添付されていた。
「思い出してくれてうれしい。あの窓際の席で待ってるわ」
 恭子の声は、秘密めかしたように押しひそめられていた。あの夜の甘いささやき声のように。
 季節外れの道路工事のせいで、いつもは10分もかからない道のりを30分近くかけて店にたどり着くと、もう恭子はその窓際の席に陣取っていた。向かいの席に座り、テーブルに無造作に置かれた右手に手を伸ばすと、恭子はするりと手を引いた。
「まだ、触らないで」
「まだ?」
「マニキュアが乾いてないから」
 あらためて見ると、細い指先の綺麗に整えられた爪には、サーモンピンクがかった真珠色に、小さなオレンジ色の花びらの模様が控えめに散っていた。
「触らなければいいの?」
「え?」
 きょとんとする恭子に軽く笑いかけてから、両手の親指と人差し指でファインダーの形を作って、パシャっと言った。
「なにそれ」
「デジカメだよ。決して充電が切れない、何枚でも、いくらでも綺麗に、写せるデジカメ」
「…変なの。じゃ、今撮った写真、見せて」
「いいよ。ほら」
 そういって恭子の手首を取ると、彼女の目の前にかざして見せた。吹き出した恭子の顔は、一枚だけ取っておいてあるあの夜の写真の笑顔と、同じだった。
●牛、傘、鈴(お題 by kiino)
 二条大橋にさしかかったのは、2:00を少し過ぎた頃だった。信号待ちでふと時計に目をやったので、それは間違いない。雨の夜のこんな時間には、車も人通りもまばらで、(こんな時間に信号なんて意味ないのにな)と思ったのを覚えている。
 鴨川の暗い流れに目をやって、欠伸を一つしたあと視線を前に戻すと、さっきとは全く違う光景が広がっていた。
 たしかにいたはずの前の車がこつ然と消え、信号はおろか、街灯さえも一つもなくなっていた。自分の目を疑い、何度瞬きをしても、どちらを向いても、さっきまでの見慣れた風景は戻っては来なかった。
 何が起こったのかわからずに呆然としていると、後ろのほうからちりんちりりんと鈴の音が聴こえてきた。バックミラーが写し出す暗闇に目を凝らすと、ぎちぎちと車輪がきしむ音とともに、山車のようなものが近づいてくるのがぼんやりと見えた。
 さらに目を凝らすと、それはどうやら、牛車だった。だが、あるはずのところにあるべきものがない。牛車を牽く牛がいないのだ。
 牛のない牛車は、ゆっくりと俺の車の隣りまで来ると、そこで停まった。すると、開けてもいないのにスーッと助手席の窓が下がり、雨に濡れた土の匂いをのせた生暖かい風が吹き込んできた。
「すまぬが、借り受ける」
 そう、声がしたかと思うと、ひゅっと何かが飛び込んできて、すぐにとってかえしてひゅっと出て行った。
 わけがわからず、口を開けてぱくぱくしていると、不意にクラクションの音が響いた。バックミラーに目をやると、後続の車がパッシングをしていた。信号は青で、前の車ははるか先にいた。あわててアクセルを踏んで、今のは夢か?と自問したが、開けたはずのない助手席の窓から吹き込む雨が、幻ではないことを物語っていた。
 それ以外には何も変わったことはないと見渡した瞬間に、ダッシュボードの上に貼付けたカエルの置物が差していた、傘がなくなっていることに気付いた。
●アコースティックギター、海賊、ベルデラード(お題 by WASABI)
「艦長、テラの衛星軌道まであと1光時です」
「わかった」
 艦長と呼ばれた男――ヒルゼンは、ホロコムが映し出すステータスがすべて正常なことを確認してから、館内放送のスイッチを入れた。
「このたびはスターライン航宙をご利用いただき、ありがとうございます。艦長のヒルゼンより、お客様にご案内いたします。本艦はあと3時間程でテラの衛星軌道に到達いたします。衛星軌道到達の1時間前から大幅な減速を行いますので、シートバインダをアンチショックモードに切り替えさせていただきます。お手洗いをご利用の際には、客室乗務員にお申し付けください。トランスポーザーでご案内いたします。残り少ない宇宙(そら)の旅、安全運航で参りますので、どうぞごゆっくりお楽しみください」
 館内放送のスイッチを切ると、ヒルゼンは一つ大きく肩で息をした。それから、副艦長に訊ねた。
「上陸地点に変更はないか?」
「はい。管制から、予定通りの軌道でベルデラードへ上陸との指示が、先ほど」
「うん、そうか。ベルデラードか。君は上がったことがあったかな?」
「いえ、自分はまだ。銀河文化遺産ですから、ホロウォークでは何度も歩いてますが」
「とてもエキゾチックな都市だよ。22世紀頃にテラの首都だったというから、およそ、300年前だ。現代の我々には到底作れない美しさを持っている」
「そうですね。今回上陸したら、セレーヌトにいってみようと思っているんです」
「ほう。それは、また、どうして」
「一度でいいから、有煙煙草を吸ってみたくて」
「ははは、なるほど。銀河広しといえども、有煙を吸ってお縄頂戴とならない数少ない場所だからな」
「それから」
「それから?」
 副館長は少し口ごもった。
「笑わないでくださいよ?僕、やるんですよ」
「やる?」
「ええ、あの、本当に笑わないでくださいよ」
「ああ、わかったよ、笑わない」
「僕、歌を歌うんです、アコースティックギターで弾き語り」
「ア、ア、アコースティックギター?もしかして、Yairi?」
「Yairi、知ってるんですか!?そうです、それです!先祖代々家宝として受け継がれてるらしいんです。まあ、今時、弦なんて売ってないんで自分で作るんですけれどね」
「なるほどね、それは、丘に行ってみたいだろうな。人前で空気を振るわす音を合法的に出せる場所なんてほとんどないし、そもそも、今時、楽器を弾くのなんて、海賊くらいだもんな」
●boy meets girl、中学生、魔法(お題 by jinnee)
 トップシーズンのスキー場は、カラフルなウェアで埋め尽くされていた。薄いピンクのスキーウェアを着た葉子は、リフト乗り場の隣に建つカフェテリアのドアをくぐると、店内を見回して靖の姿を探した。靖は、入り口から一番遠い窓際の席に座っていた。
「先輩」
 葉子は足早にそのテーブルまで行くと、ぼんやりと外を眺めながら煙草をくゆらしている靖に声をかけた。
「ああ、葉子ちゃん。どうしたの、疲れた?」
「ええ、少し。先輩、本当に滑らないんですか?」
「うん、スキーはね、ちょっとヤなこと思い出すからさ」
「何かあったんですか?」
「うん、まあ、やったことはないから、食わず嫌いなんだけれどね」
 そういいながら、靖は煙草を灰皿でもみ消した。
「あ、この曲」
 耳を澄ますように軽く天井を見上げる葉子を、靖は穏やかな笑顔で見つめていた。
「懐かしいな、この曲、高二のときにやったんですよ、バンドで」
「へえ、そうなんだ。スキー場の定番らしいよね」
「そうですね。♪Boy Meets Girl 恋してる瞬間 きっとあなたを感じてる」
 くちずさむ葉子を靖は黙って見ていたが、曲が終わり次の曲がかかると、思いついたように口を開いた。
「高二って言ったけど、もう少しふるい曲じゃなかった?」
「あ、そうです。えーと、私が中学生の頃かな。うん、そうですね、受験勉強で夜遅くまで起きているときに、ラジオで聴いたのを覚えてます」
「そっか。で、どうだった?」
「え、何がですか?」
 靖はさっき消した煙草で灰皿の中の灰を弄びながら訊いた。
「ゲレンデに素敵な人、いた?」
「い、いませんよ。そんな」
「あはは、そっか。じゃあ、よかったね」
「よかった?」
 きょとんとした表情の葉子に、靖は真顔で言った。
「いうじゃない、ゲレンデで知り合ったカップルが、戻ってから会うと『あれ?』って思うって。派手な格好とゴーグルのせいで、ゲレンデにはそういう魔法がかかってるんだよ」
 吹き出した葉子に、靖は真顔のまま言葉を継いだ。
「よかったね、幻滅せずに済んで」
 笑い続ける葉子から窓の外に視線を移した靖が口の中でいった言葉は、葉子には聞こえなかった。
(よかった)

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