例えば、hoechste Treu(最高に誠意)のところの小さなトレモロの中に、ホフマンのトリスタンは、対立する愛と義務に板挟みになっている葛藤を表わす。Trug des Herzens, Traum der Ahnung(心をあざむき、予感を夢見る)の愛撫するような弱音にのせて、彼は魅惑的な死の誘惑を伝える。二人は飲み物を口にする。
狂おしくも激しいIsolde, Geliebte!(イゾルデ、愛する人!)と共に、舞台に走り出て、この幕のために、声をエネルギーの激しいほとばしりに合わせる。活気に満ちた、無分別な、あからさまな情欲、甘いLiebeswonne ihm lacht(愛の喜びが彼に微笑む)から、Dem tueckische Tage(ねたみ深い昼)に至るO dieses Licht! Wie lang verlosch es nicht!(おお、この光! この光が消えるまでにいったいどれほどを要したことか!)の繊細なエロティシズムまでの広がりの中で、微妙に変化する色合いによって、明らかにされる情欲。
O sink herniederの部分におけるホフマンの歌唱は、申し分なく美しい音楽性を示して、比類ない。最弱音で始め、柔らかい音色の確実な流れにのって半分の声mezza voceまで高まっていきながら、途切れるころのない、長いフレーズを保って、歓喜にあふれるSelbst dann bin ich der Welt(そして、私自身こそが世界だ)でクライマックスに達する。
彼のso stuerben wir um ungetrennt(そして、私たちは共に死のう)は、弱音に満たされ、暗い響きに彩られ、軽々とした最高音はきらびやかで、催眠術にかけられたように、魅惑的だ。ホフマンは、その力を示す瞬間に向かってのびやかに進むと、抑制していた力を誇示し、何とも美しく、響き渡るEwig!(永遠に!)で締めくくる。
彼は、その愛の大きさを物語る、涙にぬれたような音色で、ob sie ihm folge?(彼女は彼に従うか)と、イゾルデの誠意を問う。弔いの陰うつさと奇妙にうっとりとさせる美しさで、Wunderreich der Nacht(夜の国)への旅を語る。(広範囲にわたる弱音と表現力豊かなレガートで)次第に威厳を増し、死の決意に向かう恍惚感のうちに高揚しつつ、dem Land das Tristan meint(トリスタンの思う国)の魅惑的なイメージを紡ぎ出す。
何ものをも超越する力に鼓舞されて、心の底にうずまく失望感に満ちた怒りをあらわに、彼の純粋な思いに異議を唱えるメロートに向き直る。Wer wagt sein Leben an meiner?(私と命のやりとりをするのはだれだ)、彼は光沢のある鋼のような音色で叫ぶ。
mein Freund war er(彼は私の友だった)は、苦々しいさげすみの気持ちと、弱々しい非難に満たされる。自分の犯した罪に対して、自己正当化を図るとき、トリスタンの血は煮えたぎっている。den Koenig den ich verriet(私は王を裏切った)は、自分の裏切りに対する恐れでいっぱいになって、あえぐように歌われる。
ホフマンはDie alte Weiseを、疲れ果て意気消沈した呈で、暗い、静かな、ものうい音色で始める。
Wo war ich? Wo bin ich?(私はどこにいたのだ。 ここはどこなのだ)は、茫然自失、鈍く、抑揚のない単調さで歌われるが、Meine Herde(私の領民)では、混乱しつつも、多少意識が回復した感じだ。
Wie kam ich her?(どうやって来たのか)には、消え入りそうな生命のぞっとするほど陰うつなはかなさが感じられ、このトリスタンは死の体験からゆっくりと回復しながら、目にしたものを途切れ途切れに思い起こす。
Ich weiss es anders, doch kann ich dir nicht sagen(私は違うように思うが、話すことはできない)は、最弱音ではじまり、肉体から分離したような、死んだ人のような音色がDie Sonne sah'ich nicht(私は太陽を見なかった)の不吉な前兆となる落ち着いて憂うつな気分へと沈んでいく。
Ur-Vergessen(究極の忘却)の弱音のフレーズには、透明な悟りがある。そして、weitem Reich der welter Nacht(世界の夜のはるかな王国に)の最弱音を超えるほどの超弱音は、厳かな畏敬の念を呈する。
それから、Verfluchter Tag mit deinem Schein(光り輝く、ねたみぶかい昼)で、自己を引き裂く苦しみに至る。そこは、呪いそのものが広く広がっていくような響きで歌われる。
次に来るのは、墓場のように陰うつで、悲哀に満ちた、自責の念にさいなまれるBrennt sie Ewi diese Leuchte(この光は永遠に光り続けるのだろうか)だが、これは、優しく穏やかな旋律、Ach, Isolde, suesse Holde(ああ、美しく、たおやかなイゾルデ)へ、そして、半分の声mezza voceの、子どものように無邪気なwenn wird es Nacht im Haus?(ここはいつ夜がくるのか)へと変化していく。
O treue!(おお、なんという誠実さ)は、雄大でゆるぎない。クルヴェナルの友情に対する喜びにあふれた賛歌は、熱っぽい愛の表現だ。それは、das kannst du nicht leiden(あなたは、私の苦しみを体験することはできない)の、抑え難い極限の苦しみに縁取られている。ホフマンは、現実的に体力が消耗してくずおれる瀬戸際が訪れるときには、その声が弱まり、引いていくにまかせ、再びエネルギーを補給する。
イゾルデの船を幻覚のうちに見て叫ぶDort streicht es am Riff! das schiff!(船が座礁しそうだ、ほら、あの船が)は、苦痛に満ちて耳障りに響く。鋼のように引き延ばされる旋律、疲れきってあえぐ最後の言葉、Kurvenal, siehst du es nicht?(クルヴェナル、おまえには見えないのか?)のうちに、声を使い尽くす。
ホフマンのトリスタンは、あの薬を呪う直前、幸せなころを身を切られるようなせつなさで思い起こす。Der Trank! Der Trank!(あの飲み物)の下降する叫びは、幻覚のもうろうとした状態を貫いて響き、この苦悩の人を、苦痛に満ちた現実の世界へと呼び戻す。
この独白の最後の三分の一の、狂乱し、疲れ果て、うわ言へと移行しつつ、ホフマンはO dieser Sonne sengender Strahl(おお、この燃えるような太陽)を、怒りに満ちた非難の調子で、未来をはっきり見ているように歌う。彼はわめきちらし、口ぎたない言葉を吐き出し、犬のように歯をむいてうなり、金切り声でさけび、歌う。そうやって、彼の運命を定めた神々に対して死に物狂いの非難を浴びせる。
最後の力を振り絞って、Verflucht sei fuerchtbarer Trank!(かの飲み物よ、のろわれてあれ)を、砕け散りそうな強さで叫ぶと、あたかもおおかた緊張から解放されたかのように、次の節、Verflucht wer dich gebraut(その薬を作った者こそのろわれよ)で、沈みこむように声の調子をおとし、力尽きて、気を失って倒れたとたんに、その声は、虚無のうちに消え果てる。
悪夢から覚めると、ホフマンは、四番目の独白に優しく愛撫するようにとりかかる。波を越えてイゾルデがやってくる優美でたおやかな幻想を目の当たりにする独白。Wie selig hehr und mild gewandelt(彼女のなんと穏やかに、美しく、優しく見えることか)での弱音の限りなく微妙な陰影のつけかたは、非常に美しく魅力的だ。
そして、Ach! Isolde! Wie schoen bist du!(ああ、イゾルデ! あなたはなんと美しいのか!)で、美しく弧を描いて高まっていくクレッシェンドで、クライマックスを迎える。
彼のsiehst du es endlich?(やっと見えたのか)は、あまりにも真に迫っているので、彼と共演するクルヴェナルは、トリスタンの狂喜乱舞の呈の喜びの声を否が応でも反映しないわけにはいかない。
死の思いに励まされるように、ホフマンは五番目の、すなわち最後の独白、O dieser Sonne(おお、この太陽)へと突進する。彼はここにトリスタンの自尊心、名誉、尊厳、そして、情欲の全てを注ぎ込む。これこそは、究極の皮肉に満ちた自己肯定、つまり、狂気のうちに、喜んで運命を選び取ることなのだ。
彼は、身体的にも役と同一化しつつ、Tristan der Held in jubelnder Kraft(喜びに満ちた力強さを備えた英雄、トリスタン)では、鋭く下降するひとつひとつのシラブルに、幻想と現実を、激しく対比させる。
Mit blutender Wunde bekaempf ich einst Morolden(かつて血を流してモロルドと闘った)で、その栄光に満ちた過去を回想するとき、彼は、この記憶を新たな啓示へと変化させる。本能的な直感のうちに、自分の出生、苦しみ、傷、そして愛の全てを、自己の避け難い運命である、死へとつなげる。
Mit blutender Wunde erjag ich mir heut Isolden(血を流す傷によって、今イゾルデのもとへ飛び立とう)と、包帯を引きちぎりながら、狂気錯乱して叫ぶ。ホフマンは、傷が開いたこと、そして、沸き立つような血潮が流れ出ていることが、はっきりとわかる声で、愛する人の名を低くうめくように発する。
彼は、昇華された苦痛の恍惚のうちに、舞台を横切ってよろめき進みながら、荒々しい、明らかにそうとわかる情欲に身をまかせた様子で、Heia mein Blut! Lustig nun fliesse!(さあ、我が血よ。 喜ばしく流れよ)を吐き出す。最後のフレーズは美しくないが、その迫真の呈は、心に強く訴えかけ感動的だ。