ログインしてさらにmixiを楽しもう

コメントを投稿して情報交換!
更新通知を受け取って、最新情報をゲット!

lll小説『月迷三国志』lll連載中コミュの第六章:[連合軍解散と月迷軍の再起]一〜五

  • mixiチェック
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
第六章:[連合軍解散と月迷軍の再起]一〜五

【これまでのあらすじ】

長安に都を移すべく洛陽を焼き払い帝共々長安へと遷都した董卓軍を追撃すべく、曹操は自軍を引き連れて出陣して行った。それを追うように劉義も周翔の進言を却下し出陣したのだが、数に劣る曹操軍と月迷軍は董卓軍の猛襲に成す術もなく蹴散らされてしまった。
最悪な事に劉義は月迷軍とはぐれ消息がわからなくなってしまった。
周翔率いる月迷騎馬隊も全滅寸前で後から追ってきた李雪の月迷歩兵隊に助けられ、その場を乗り切ったのだが・・・。





洛陽の火はようやく完全に消火された。
懸命な消火活動が功を奏したというより、
それはもう燃えるものが無くなったという方がいいかもしれない。
周翔率いる月迷軍は洛陽にひとまず戻ってきた。
洛陽にいた二十万近い兵も廃墟となった洛陽を去り数万程となっていた。
連合軍も解散されその後の対処は各軍の大将の判断に任されていた。

「おー李雪か。よく戻ってきたな」

そう声をかけたのは張飛であった。
劉備等はまだ洛陽にとどまっていたようだ。

「わしらも、そろそろ洛陽を後にする事になった。次会うときには強くなっておけよ」

どでかい声でにんまりと笑いながら李雪に話しかける。
しかし李雪はやはり元気がない。

「あれ、元気がないじゃねーか。」
「劉義将軍の消息が不明なのですよ」
「何?!」

さすがに大将の行方不明を聞いて張飛の顔色が少しばかり変わった。

「それでお前は、のこのこと大将の捜索もせずもどってきたのか」

張飛には遠慮のかけらもなかった。思った事をただ言うのであった。
李雪は返す言葉もなくただ張飛の顔を見ていた。
その通りなのだ。周翔の命令とはいえ大将をおいて退却してきた事に自責の念を拭い去れなかった。
だがそんな李雪に対してもお構いなしに張飛は話を続けた。

「大丈夫だろうさ。あの大将の事だ。そう簡単に命を落としやしないさ。兄者(関羽)と互角にやりあったんだからな。そのうちひょっこり戻ってくるさ。なんならわしらも捜索に手を貸すぞ」
「気持ちはありがたいのですが、私の一存では何も決める事ができません。」
「何辛気臭い事言ってやがんだ。うちの大将に相談してみてやるよ」

そう言うと張飛は立ち去っていった。
正直な所李雪にはどうしてよいものかわからないのであった。
宛てがまったくないのだ。ここを守れと言われれば只ひたすらここを死守する事はできる。
突撃せよと言われれば果敢に打って出る事もするだろう。
しかしどうしていいかわからない時には何をしてよいかわからなかった。

周翔はというとその頃、劉延と何やら洛陽内で情報の収集に奔走しているらしかった。
手を尽くして情報を集める事。それは劉延の最も得意とする事ではあったが、
大方退却してきた曹操軍も大将が不在とあって、洛陽においては有益な情報は得られそうになかった。曹操将軍も戻っていない。洛陽には状況を知る者もいないのはわかり切った事であった。
かと言って戻って行っては董卓軍の奇襲に会うとも限らない。
しかし捜索するには一旦出て行ってみない事には有益な情報を得る方法はないのだ。
冷淡に考える癖のあった劉延にしてみれば、死んでいるならすでに死んでいるであろうし、もし生きているのなら生き続けていられるであろうと推察していた。
なぜなら董卓軍にしてみれば、そういつまでも執拗な追撃はしないであろうと読んでいたからである。
長安への追撃に対して対応したのであって、それ以上の思惑は無いはずだからである。その事はきっと周翔も分かっている事なのだろう。言葉には出さないが生きているとすればそう心配する事もないと思っているのかもしれないと劉延は推察していた。

「周翔殿。張飛から話は聞かせていただきました。劉義将軍の消息が不明のようですが・・・。」

劉備は周翔の元へ駆けつけそう切り出した。

「これは劉備将軍。おっしゃる通りでございます。今どう捜索をするべきか思案している所なのですよ。しかしながら宛てもなく捜索したところで簡単に見つかるようなら敵にも見つかっておりましょう。曹操殿も戻られていないようですし、もしや一緒に逃げ切っているのやもしれませんし・・。ただ正直な所どうするべきか分かりかねております。無論、劉義将軍ならば捜索の為に無駄に兵を失ったりしたらそれこそ元も子もないと言うにきまっていますし・・・」
「周翔殿。恐れながら申し上げさせていただきますが、それでも貴方は幕僚といえるのですか。大将の生存をそんな理詰めで考えるべきではないはず。見つかるのかどうかと今ここで思案してみた所で何の意味がございましょう。万に一つでも可能性があるのならとにかく馬を走らせるべきではありませぬか。そなたが行かれないのであれば我々が捜索に行ってみたいと思っております。」

思わず強い口調で言われ、周翔ははっとする思いであった。
常に冷静に物事を判断しようとするあまり、無駄を排しようとするあまり、最も原始的な方策に目が向かなかった。
体は疲労困ぱいではあったが気力を振り絞り、劉備軍の思わぬ支援もあって途方も無い捜索へと馬をはしらせたのであった。
日が暮れれば劉備軍と共に野営した。焚き火を囲んで語らうと劉義の人間の暖かさに触れる事ができた。そしてなお数日間にわたり手を尽くして捜索活動を続けたのであった。
劉延ら斥候態も手を尽くして消息をつかもうと奔走していた。
何せあまりに広いのだ気の遠くなるような捜索であった。
そうこうしている内に洛陽に曹操将軍が帰還したという知らせが入ったが、残念ながら劉義の消息はあの日のあの時以来わからないという事であった。
なにぶんにも曹操自身が弓矢の傷を負っていて厳しい追撃戦を命からがら部下によって救われたらしいのだ。
ただ唯一朗報といえば、追撃の的になっていたのは曹操であって、董卓軍はそれほど激しい深追いはしなかったらしいという事であった。実際劉義将軍の屍も見つかっていないのできっとどこかへ逃げ切っている可能性も決して低くは無かったのだ。とはいえ散らばった全ての屍を確認する術もなく、とうとう捜索活動を引き上げる事を決断した。
十数日に及ぶ捜索活動に尽力してくれた劉備将軍にも深くお礼を述べつつ別れを告げ、零陵へと引き上げる事も決めた。
引き続き斥候隊の劉延らは洛陽近辺に留まり、地道に捜索活動を続けてもらい、たかだか五百にまで数を減らした月迷軍ではあったが洛陽を発つ為荷物をまとめた。最後になってたくさんの者達が命を落とした月迷軍の董卓戦は幕を閉じる事となったのである。

「大将。必ずや生きていてください。我々は零陵でお待ちしております」

そう周翔は叫んで洛陽の地を跡にした。





「趙慶先生。周翔殿から書簡が届いております」
「うむ。そこに置いておいてくれ」
「わかりました。それでは失礼いたします」

零陵の趙慶は相変わらず忙しいが平穏な日々を過ごしていた。
全てが順調であった。体制の基盤も整い零陵城の防備も強化してきた。
零陵の場所柄、公孫候の後任として長沙の太守に任命された孫堅がつい先日、董卓戦から戻ってきた事が一つの気がかりではあった。
良好な関係にあった公孫候が長沙に居た頃ならばさほど問題はなかったのだが、
どうやら孫堅は気性が激しいらしいし、その上に領土拡大の野望も抱いてるようで零陵制圧に力を注いでくる可能性は高かった。
しかし、董卓戦における多大な兵力の消耗もあってしばらくはおとなしくしているだろうと考えられた。
とはいえ董卓戦における消耗は月迷軍とて同じであるし、さすがに規模も違う。
だからこそ徹底的にこの零陵の防備体制に出来る限りの尽力もしてきた。
ただ民政も充実してきたため、周りの地方から多数の民が移住してきてもいる。一年程前に劉義将軍が零陵の太守に任官した頃から比べても倍以上の賑わいと言ってよいだろう。
零陵に民が集まる事を孫堅らは快く思わないであろう。
なにせ集まってくる民といえば孫堅の領土の長沙やら桂陽方面がほとんどなのだから。
無論月迷軍が積極的な移住の進めをした訳でもなく、勝手に評判を聞きつけ移住してきているのだから孫堅に我らを攻める名分はない。
ひとつ言える事は民が集まるようになった事はまさしくこの一年近く民政に奔走してきた成果なのは確かだということだろう。趙慶を中心にしたこの大掛かりな民政の実験は成功したと言っていいだろう。頭の中にあった構想をただ実行してきただけなのだが、それでも当初の予想以上の成果と言ってよいであろう。より広大な領土を治める自信にもなった。
ここまで頑張ってきたのには、太守代理としてただ零陵を守るというのではなく、戻ってくる劉義将軍らをあっと驚かせたい気持ちもあった。
客人として滞在している舜憂もここ数十日間ですっかり月迷軍の文官になってしまった風である。舜憂になら何を任せても期待以上の働きをしてくれる。
きっとこのまま月迷軍に身を据えるだろうと思う。そして彼こそ民政の逸材であるという事も再確認しつつある。なによりも発想が奇抜だ。それでいて現実に応用できてしまう事を思いつく。
このまま月迷軍の一員として生きる事になればうれしい限りだと趙慶は思って見ていた。

こうして零陵では日に日に力を温存しているのであった。
趙慶の目の輝きがそれを物語っているようである。
一通り手を付けていた仕事を片付けると趙慶は周翔からの久々の書簡を手にとって顔に笑みを浮かべつつ読み始めた。
ところが読み進めるごとに顔色の変わっていくのが周りの者にも分かるほどであった。

「嗚呼。何という事だ・・・。」
「どうされました趙慶先生」

隣でその様子を見ていた舜憂が尋ねた。

「劉義将軍が戦闘の最中に行方不明のまま、生存が確認できないらしい・・・。何という事だ。」

それ言ってうな垂れた趙慶はそっと書簡を舜憂に渡し見せた。
順調順調の毎日だっただけに余計に思わぬ知らせに呆然してしまった。
まだ、死んだとは限らないにせよ今までの努力がある意味根底から覆されうるからである。大将あっての月迷軍ではないか・・・。
書簡を読み終えた舜憂も趙慶の気持ちを察してただ趙慶の肩にに手を当てた。
そして一言だけ

「きっと生きておられますよ」

とだけ静かに呟いた。





長沙に戻ってきた孫堅は妻や子供との再会を喜んだ。
孫堅には十七になる息子がいた。彼の名は孫策、誰もが立派な武人になるであろうと期待を抱く程の青年である。血の気も盛んで一日も早く戦に出たいと言っていた。孫堅も次回の戦には一緒に連れて行ってもいいと考えていた。
孫策には同じ年の周瑜(シュウユ)という親友がいた。
彼もまた聡明な青年で互いに切磋琢磨し育ってきた。
毎日のように遊びまわり語り合い、いつか一軍を率いる事を夢見ていた。
孫堅のもう一人の息子の孫権はこの時まだ若干十歳になったばかりであった。

さてゆったりと数日を過ごして孫堅はこの日、程普(テイフ)と話をしていた。
無論長沙を基盤にどう今後の戦略を立ててゆくかについてであった。
いつまでものんびりしている訳にはいかないのだ。
荊州南部は長沙を基盤して南に零陵・桂陽、そして西の武陵から成り立っている。
長沙と桂陽は孫堅軍が平定し領土としている状態であった。
零陵も手にしたいと思っている孫堅にとっては月迷軍がわずらわしい存在と写っていた。
ならば制圧してしまえばいいのだが、董卓戦から戻ってきて間もない今、事を起こす余力が無かった。
とりあえずは兵力の温存につとめねばならない。
現在荊州南部は孫堅軍と月迷軍が二大勢力となっている。
規模は孫堅軍が格段に大きいのだが月迷軍はどうも荊州南部の民心をしっかりと掴んでいるのであった。
それは荊州南部に蔓延していた大規模な賊を大方討伐したからに他ならない。
孫堅も長沙に任官してから桂陽の方の賊は討伐し制圧したのだが民からしてみれば二番手に現れた孫堅より月迷軍の方の印象が強いのだろう。しかも豪族との繋がりも不思議と強固らしい。だからうかつに手をだせば反乱が起こりかねない。
現に事実董卓戦に出かけている間、長沙ならびに桂陽からの民の大規模な流出が起こってしまったのである。任官してから董卓戦に向かう間まで民政を整える十分な時間が無かったのも一つの原因だろう。もう一つは董卓戦に出かける際に無理な徴兵をした事も関係している。
孫堅は、月迷軍を今の内に潰してしまいたいが潰せないという悶々とした気持ちにくすぶっていた。
今は放っておくしかないだろうとの結論に至った。
零陵を攻略できないとなるとどこから手を付けてゆくべきか。
そんな事を戻ってきてからずっと話し込んでいた。

「程普よ。荊州の州牧の劉表もどうも目障りであるの」
「劉表が目を見張っている状態ではなかなか思うように勢力を拡大するのは難しいかもしれません。しかし何にせよ兵力の温存が重要でしょう。兵力さえあればいざとなれば打ちのめす事もできますからな。それまでは静かにしておくのもいいかもしれません。あまり警戒心をもたれるような状況は作りたくないものです」
「うむ。その通りであろう。しかしかといって気にばかりしていては何も事が進まない。とにかくそちの言うように何にせよ兵力の温存をせねばなぬな。今日はもう遅いから話はこれ位にしておこう。明日からは忙しくなるからな。下がってよいぞ」
「はは。では失礼いたします」

この頃孫堅は言葉で言う以上に勢力の拡大、領地の拡大の野望をめらめらと燃やしていた。疲れを知らぬとはこの者の事をいうのであろう。止まっている事が何よりも嫌いなようだ。常に行動していないと気がすまない性格ともいえる。
董卓戦では全国のどの諸侯と結託するのかを見極める良い機会となっていた。
それは他の諸侯等とて同じなのだろうが・・・。





趙慶が書簡を受け取ってから二十日程して周翔率いる月迷軍五百名程が零陵に帰還した。さすがに疲れを隠せずに居る。
趙慶自ら城外まで迎えに出向いた。
激減した兵数に戦闘の過酷さを実感させられていた。
たったこれだけ・・・。知らされていたとはいえ唖然とするばかりであった。

「周翔副将よく戻られたな。ささ、とにかく今日の所はゆっくりお休みに」
「趙慶殿。書簡は届きましたか」
「勿論届いておるよ。だけれどもとにかくその話は明日に」
「そうだな。大急ぎで戻ってきたからくたくただよ」

自分の館に戻った周翔は張っていた緊張の糸が切れるようにぐったりと横になりそのまま眠りについた。次の日目を覚ますと日は既に高かった。
食事を済ませ、昼過ぎに役所へと出向いていった。

「周翔殿。お初にお目にかかります。私は舜憂(シュンユウ)と申します。趙慶殿の招待でこちらに寄せていただいている次第です。どうぞお見知りおきください」

舜憂が周翔に挨拶をしている所に趙慶が姿を見せた。

「そうそう。この者は私と昔ながらの友でして、共に学問に励んだ舜憂。月迷軍の文官として登用しようと考えている所なのだよ」
「そうであったか。舜憂殿どうぞよろしく」

一言舜憂の方に目をやり挨拶を返すと趙慶の方に向き直った。

「それにしても趙慶殿。民政に励んでいたのがよくわかるよ。零陵の活気が見違えるようだ」
「そう言われると頑張った甲斐があったと言うもの。城の防備も強化しておいたし、零陵の人口も倍近くになっておるよ。訓練にまでは手を回せていないが、兵数も董卓戦に出向いた頃の千人から三千程に増えている。」
「そうであったか。これからしっかり鍛えてやらねばならんな。董卓戦で散々に打ちのめされかなり意気消沈してしまっていたけれど、何か光が見えてきた気がする」
「それにしても劉義将軍の安否が気がかりであるな。」
「うむ。だが手は尽くしたのだ。引き続き劉延らに捜索活動をさせている。今はとにかく連絡がくるのを待つ意外にないであろう。今我らに出来る事は劉義将軍が生きていると祈ってとにかく月迷軍の兵力の温存と民政の更なる充実に専念するのみだ。幸い民政は思いの他順調のようだが」
「自分で言うのも何なのだが、これほど成果が上がるとは思わなかった。」
「いやいやホントに素晴らしい手腕で、感服しました。さすがですな」

洛陽からの帰路で零陵に近づくにつれいい知れぬ絶望感にさいなまれつつあった周翔であるが、趙慶との再開と零陵の活気に久々の安堵感を感じる事ができた。
そしてその日を境に趙慶・舜憂は更に民政に励み、周翔・李雪は新しく入った兵士らの訓練に力を注いだ。
董卓戦での最後の修羅場を生き抜いき、零陵に帰還できた兵士達は屈強な者ばかりであった。ある意味では当たり前なのだが、強い者だけが生き残ったといえよう。彼らを中心に兵を編成しなおし、徹底的に新兵を鍛え上げた。
董卓戦で特に力を発揮した者は昇級させたりもした。
あの戦で失った兵力はあまりに大きかったが、
全国の諸侯等の戦ぶりから学んだ無形の財産もまた大きかった。
戦の仕方はそれぞれ独自のやり方があるのだと分かり、
そして自分達のやり方も充分通用するという事もわかった。
しかし他の諸侯らの陣を観察していて周翔が変更を加える必要があると痛切に感じたことが特に一つあった。
それは大将が最前線に立つ必要はないのだという事である。
どの軍も必ずと言っていいほど大将を守る旗本を編成していたし、
大将が前線に立つ場合も大将の命を守る事を最優先に動く旗本がしっかり守っていたのだ。
それまで月迷軍では旗本的役割を負う部隊を特に組織していなかった。
数が少なかったといえばそれまでだが、役割がうやむやになっていたのだ。
これからは敵と戦う兵士とは別に大将を守らせる事に徹する部隊を組織せねばならない。
訓練も他の兵とは別れてするのがよいだろう。
特別の訓練をしなければなるまい。誰か武力に優れしっかりと役割を果たす指揮能力を持った者を探す必要がある。
先が見えず内心相当にうなだれていた周翔であったが、洛陽から戻って数日もすると、すっかりと元気を取り戻し頭の中は以前のごとく高速に回転し始めていた。





劉義は生きていた。確かにあの最後の戦いで危うく命を落としかけたのだが、
一端戦線から逃れるとそれ以上執拗に追われる事はなかった。十数人が追いかけてはいたが、ほとんどの者は途中で諦めたのであった。
しかし追撃を必死に逃れていた際、山岳へと逃げ込んだ事もあり落馬し足を骨折してしまった。馬はそのままどこかへ走り去ってしまったので、
しかたなく近くで身を隠ししつこく追ってきた数人の敵兵が退却するのを待った。
敵の姿が見え無くなると自分自身で折れた足を繋ぎ直したが、長い距離を動けるわけも無く少しづつ山を下り、道を探した。
運よく近くに村があった為、通りかかった村の娘が手助けしてくれた。
そして歩けるようになるまでしばらく世話になる事になった。
助けてくれた女性はこの村の村長の娘らしかった。決して豊かな村ではなかったが村長は暖かく迎えてくれた。野菜のたっぷり入った御粥をすすりながら村長に今までの経緯(イキサツ)を話してきかせた。

「なるほど荊州南部から董卓討伐に駆けつけてきたわけなのですね。ここ数日妙に騒がしいので懸念していました」
「ホントに運が良かったとしかいえませんよ。もしここにたどりつけていなければ山で野垂れ死にしたやもしれません」

白髪に立派な髭の村長だった。穏やかな顔だがしかし眼の奥に力強さを持っていた。そして色々と村の事を話し聞かせてくれた。

「かつてこの村も黄巾族の略奪に苦しみました・・・。何年か前に黄巾族の討伐がなされしばらくは平穏な日々が続きましがね、ですが結局小規模な賊が時々現れては略奪を繰り返してきました・・。いや略奪というより虐殺と言っていいでしょう。私の妻は彼らに殺されました。この子の兄も村を守ろうとして盗賊の輩に殺されたのですよ。一体いつになれば平和な時代が訪れるのでしょうか・・・。ただただ憂いておるばかりですよ」
「そんな事があったのですね。私らの住んでいた長沙は黄巾族がそれほどはびこっていませんでしたが話はかねがね語られていました。今、支那は病んでいます。ホントに・・・・。この世を誰かが、平定せねばなりません。ですが、誰でもいいという訳にはいきませんな。現に董卓が帝を擁してしまい無茶苦茶になっていますでな・・・。」

こんな山奥にまで世の乱れの影響があるのだとしみじみ感じさせられた劉義であった。その後怪我が癒えるまでの間にこの家族や他の村民とも話をした。
折れた骨もだいぶ固まってきたと見え、まだ痛みはあるものの杖をついてなら普通に歩けるまでに回復した。

「劉義将軍殿。だいぶ足の調子もよさそうでなによりです」
「お陰様で。この村は不思議な生命力がみなぎっている気がしてますよ。回復が早いように感じます。ホントにありがたい限りです。お礼をしたい気持ちでいっぱいなのですがね、何分にも何も持ち合わせていないので・・・」
「いやいや。そんな事は気にしていただかなくとも、貴方のような志を持ったお方がおられるとわかっただけで未来に希望が持てるというものですよ。
ところで、怪我が治ればすぐお発ちになるおつもりですか」
「そうですね。私も大将ですから、皆をほっておく訳にもいきません。心配もしているでしょう。責任もあります故・・・・」
「勿論そうでございましょう。お引止めするつもりは毛頭ありません。ただ折り入ってお願いがありまして」
「ほー。どんなお願いかわかりませぬがなんなりとおっしゃってみてください」
「いえ。実は我が娘の恵瑠(エル)を連れて行っていただけませぬか。まだ若いですが、単なる百姓ではないのですよ。実に賢いこでしてなかなか役に立つと思います・・・。薬学の心得もありますし、小さい頃からいつか立派な者に仕えてくれる事を願って育ててきたのです。そんな折天から降ってこられるがごとく貴方様が現れました。もし娘が貴方様の志のお手伝いをしてくれるならば私としてはこれ以上にない喜びであります。ここで出会ったのも何か縁があっての事でしょう。」
「そんな・・・。村長の大事な娘ではありませんか。志といっても私は零陵の太守に過ぎませんし・・・。しかも私どもと行動を共にするという事は時には命がけでありますぞ。」
「大事な娘であるからこそですよ。自分で言うのもなんですが自慢の娘です。村に留めておくならばそれは小乗の善にすぎませぬ。私は大乗の善にこの子を生かしたいのですよ。もっと大きなものの為にこの子には生きて欲しいのです。この私の心配は無用です。今までもなんとかやってまいりました。それよりも我が娘の恵瑠がこの支那の未来の為に万分の一でもその命をかけているのだと思えれば育ててきた甲斐があったというものです。是非娘をお遣いくださいませ。この通りです」

そういうと村長は深々と頭を下げた。

「村長殿。頭をお上げください。そこまでおっしゃるのでしたら連れて行く事にいたしましょう。」
「ありがたき幸せであります。どうぞ厳しく鍛えてやってください」

かすかに涙を潤ませ強い口調で語る村長の熱き嘆願に心を動かされる劉義であった。
この十数日間恵瑠を近くで見てきて、実に気の利く娘であると感じていた。まだ十六になったばかりらしいが、いずれ鍛えれば立派になるやもしれない風格は漂わせていた。
翌日朝食を食べた後に劉義は恵瑠を家の裏手に呼んだ。

「恵瑠よ。ホントに構わないのか。無理についてこなくともよいのだよ」
「いえ。私も許されるなら劉義将軍にお遣いしたく存じます。母も殺され兄も殺され、ただこの地で埋もれてしまっては死んでいった者に申し訳が立ちません。この身が朽ちるまでお供いたす所存にございます」
「いや・・・。まいったな。そこまで言われて連れて行かぬ訳にもいくまい。だがあと数日もすればここを離れねばならない。いつ会えるかもわからないし、ご家族やら村民の皆としっかりと別れの挨拶をしておけよ。」



続きは↓よりどぞ^^
第六章の六〜七
http://mixi.jp/view_bbs.pl?id=23488254&comm_id=2078651

コメント(0)

mixiユーザー
ログインしてコメントしよう!

lll小説『月迷三国志』lll連載中 更新情報

lll小説『月迷三国志』lll連載中のメンバーはこんなコミュニティにも参加しています

星印の数は、共通して参加しているメンバーが多いほど増えます。

人気コミュニティランキング