原始仏典コミュの長部経典 第10経 『スバ経』２　聖なる戒律　中戒・大戒

　　（『原始仏典　第一巻　長部経典①』春秋社　P450から）



［草・樹木を刈ってはならない］
　一三、「また、修行者・バラモンたちのなかには信者からの布施を受けながら、次のような草・樹木、すなわち根から繁殖するもの・幹から繁殖するもの・節から繁殖するもの・枝から繁殖するもの・種子から繁殖するものの五つを刈ることに専心している者もいる。しかし、かれは、そのような草・樹木を刈ることから離れている。これがかれの戒律の一つである」

［貯蔵してはならない］
　一四、「また、修行者・バラモンたちのなかには信者からの布施を受けながら、次のような貯蔵物、すなわち食物の貯蔵物・飲み物の貯蔵物・衣服の貯蔵物・乗物の貯蔵物・寝台の貯蔵物・香料の貯蔵物・香辛料の貯蔵物を使用することに専心している者もいる。しかし、かれは、そのような貯蔵物を使用することから離れている。これがかれの戒律の一つである」

［娯楽にふけってはならない］
　一五、「また、修行者・バラモンたちのなかには信者からの布施を受けながら、次のような娯楽、たとえば、舞踏、歌、音楽、見せ物、物語り、手につけた鈴による音楽、鉢を使った音楽、太鼓の音楽、遊女のダンス、賤民の奇術、象・馬・水牛・牡牛・山羊・牡羊・雄鶏・うずらの闘技、棒術、拳闘、レスリング、軍隊の演習、軍隊の点呼、閲兵のような娯楽に専心しているものもいる。しかしかれは、それらの娯楽に専心することから離れている。これがかれの戒律の一つである」

［賭博遊戯にふけってはならない］
　一六、「また、修行者・バラモンたちのなかには信者からの布施を受けながら、次のような賭博遊戯、すなわち八目碁、十目碁、無目碁、石蹴り、駒抜き、サイコロ投げ、棒撃ち、手形当て、球遊び、草笛、鋤遊び、ブランコ遊び、［ヤシの葉で作った］風車遊び、物差遊び、車遊び、弓遊び、文字当て、考え当て、身体障害者のまね遊びのような賭博遊戯に専心しているものがある。しかしかれはそれらのどの賭博遊戯からも離れている。これがかれの戒律の一つである」

［寝台にこだわってはならない］
　一七、「また、修行者・バラモンたちのなかには信者からの布施を受けながら、次のような高い寝台・大きな寝台、すなわち非常に高い長椅子、［獣の彫り物のある台の］ソファー、長い山羊の毛で覆われた、彩色された［白い］ウールの布の、［花の刺しゅうのある］ウールの覆いの、マットレスのある、［ライオン、トラなどの刺しゅうのある］ウールの覆いの、両側に縁取りのあるウールの覆いの、片側に縁取りのあるウールの覆いの、［宝石の刺しゅうのある］絹の覆いの、シルクの覆いの、踊り子のための羊毛の敷物の、象の敷物の、馬の敷物の、戦車用の敷物の、カモシカの革を縫った敷物の、最高のカモシカの敷物の、天蓋付の敷物の、頭部と足部に枕のある寝台に専心しているものもいる。しかしかれは、それらの寝台に専心することから離れている。これがかれの戒律の一つである」

［装飾・粉飾にこだわってはならない］
　一八、「また、修行者・バラモンたちのなかには信者からの布施を受けながら、次のような装飾・粉飾、すなわち塗香、マッサージ、入浴、棒を使ったマッサージ、鏡、アイ・シャドウ、点眼剤、花束の芳香剤、ほお紅、軟膏、ブレスレット、ネックレス、杖、シリンダー型の薬入れ、［もとは決闘用の］刀、日傘、飾りたてられたサンダル、ターバン、ヘアーバンド、宝石、ヤクの尻尾で作った箒、［長い房飾りのついた］白い服に専心しているものもる。しかしかれは、それらの装飾・粉飾に専心することから離れている。これがかれの戒律の一つである」

［雑談にふけってはならない］
　一九、「また、修行者・バラモンたちのなかには信者からの布施を受けながら、次のような子供っぽい話、すなわち、王様の話、泥棒の話、大臣の話、軍隊の話、恐怖の話、戦争の話、食べ物の話、飲み物の話、衣服の話、寝具の話、花束の話、香料の話、親戚の話、馬車とともまわりの話、村の話、町の話、都会の話、国の話、女の話、［男の話、］英雄の話、街角の話、井戸端の話、使者の話、とりとめのない半紙、天地創造の話、海洋の話、［世界の果ての］ある・なしの話に専心しているものもいる。しかしかれは、それらの子供っぽい話に専心することから離れている。これがかれの戒律の一つである」

［いい争いをしてはならない］
　二〇、「また、修行者・バラモンたちのなかには信者からの布施を受けながら、次のようないい争い、すなわち『おまえはこの教えと戒律を知らないが、俺は知っている。おまえに分かるときが来るだろうか』『おまえは間違った考えをしている。俺は正しい』『俺のいっていることは的を射ている。おまえのいっていることは的を外れている』『おまえは、先にいうべきことを後でいい、後でいうべきことを先にいった』『おまえの論理は逆立ちしている』『お前の説は論破された。おまえは間違っていた』『自分の考えから離れるために、遊行せよ。もし可能ならそれを否定せよ』といういい争いに専心しているものもある。しかしかれは、それらのいい争いに専心することから離れている。これがかれの戒律の一つである」

［他人に使い走りになってはならない］
　二一、「また、修行者・バラモンたちのなかには信者からの布施を受けながら、次のような使者になること・使者を遣わすこと、すなわち『ここへ行け。そこから来い。これを運べ。むこうからそれをもってこい』という国王の、王の大臣の、クシャトリヤの、バラモンの、資産家の、子供の使者になること・使者を遣わすことに専心しているものもいる。しかしかれは、それらの使者になること・使者を遣わすことに専心することから離れている。これがかれの戒律の一つである」

［詐欺・饒舌から離れよ］
　二二、「また、修行者・バラモンたちのなかには信者からの布施を受けながら、ペテン師であり、［お金のために］詩を唱えるものであり、占い師であり、詐欺師であり、手品師であり、利益を求めてやまないものもいる。しかしかれは、それらの詐欺・饒舌から離れている。これがかれの戒律の一つである」

［占いをしてはならない］
　二三、「また、修行者・バラモンたちのなかには信者からの布施を受けながら、次のような似非科学、間違った生活手段、すなわち手相占い、吉凶相占い、［雷などの］前兆占い、夢占い、体の特徴による占い、ネズミの布を噛んだ痕による占い、火の献供、スプーンによる献供、穀類の殻の献供、糠の献供、白米の献供、ギー（バター）の献供、オイルの献供、口による献供、血の献供、身体の痣による占い、地相占い、政治の占い、幸運の呪術、悪魔の呪術、大地の呪術、蛇［に噛まれたとき］の呪術、毒薬による呪術、サソリ［に噛まれたとき］の呪術、ネズミ［に噛まれたとき］の呪術、鳥の呪術、寿命占い、矢を避ける呪術、獣のことばが分かる呪術によって生活するものもある。しかしかれは、それらの似非科学から離れている。これがかれの戒律の一つである。
　二四、また、修行者・バラモンたちのなかには信者からの布施を受けながら、次のような似非科学、間違った生活手段、すなわち宝石の相の占い、杖の相の占い、衣服の相の占い、剣の相の占い、矢の相の占い、弓の相の占い、武器の相の占い、女性の相の占い、男性の相の占い、男の子の相の占い、女の子の相の占い、男の召使いの相の占い、女の召使いの相の占い、象の相の占い、馬の相の占い、水牛の相の占い、牡牛の相の占い、［去勢した］雄牛の相の占い、山羊の相の占い、羊の相の占い、鶏の相の占い、うずらの相の占い、蜥蜴の相の占い、イヤリングの相の占い、亀の相の占い、獣の相の占いによって生活するものもある。しかしかれは、それらの似非科学から離れている。これがかれの戒律の一つである。
　二五、また、修行者・バラモンたちのなかには信者からの布施を受けながら、次のような似非科学、間違った生活手段、すなわち『王たちが出発するだろう。王たちが帰還するだろう』『味方の王たちが近づくだろう。敵の王たちが退却するだろう』『敵の王たちが近づくだろう。味方の王たちが退却するだろう』『味方の王たちが勝利するだろう。敵の王たちが敗北するだろう』『敵の王たちが勝利するだろう。味方の王たちが敗北するだろう』『このものが勝つだろう。このものが負けるであろう』というような占いによって生活するものもある。しかしかれは、それらの似非科学から離れている。これがかれの戒律の一つである。
　二六、また、修行者・バラモンたちのなかには信者からの布施を受けながら、次のような似非科学、間違った生活手段、すなわち『月食があるだろう』『日食があるだろう』『星食があるだろう』『月日を正常に進むだろう』『月日は正常に進まないだろう』『星は正常に進むだろう』『星は正常に進まないだろう』『流星が見られるだろう』『地平線の発光があるだろう』『地震があるだろう』『雷があるだろう』『月日星の上昇・下降・混濁・清澄があるだろう』『月食によってこのような結果があるだろう、云々』『日食によってこのような結果があるだろう、云々』『星食によってこのような結果があるだろう、云々』『月日が正常に進むことによってこのような結果があるだろう、云々』『月日が正常に進まないことによってこのような結果があるだろう、云々』『星が正常に進むことによってこのような結果があるだろう、云々』『星が正常に進まないことによってこのような結果があるだろう、云々』『流星が見られることによってこのような結果があるだろう、云々』『地平線の発光によってこのような結果があるだろう、云々』『地震によってこのような結果があるだろう、云々』『雷によってこのような結果があるだろう、云々』『月日星の上昇・下降・混濁・清澄によってこのような結果があるだろう、云々』という占いによって生活するものもある。しかしかれは、それらの似非科学から離れている。これがかれの戒律の一つである。
　
［呪術を施してはならない］
　二八、また、修行者・バラモンたちのなかには信者からの布施を受けながら、次のような似非科学、間違った生活手段、すなわち妻を娶る日を決めること、婿を取る日を決めること、平和条約を結ぶ日を決めること、戦争する日を決めること、貸し金を回収する日を決めること、お金を支出する日を決めること、幸運を呼ぶ呪術、不運を呼ぶ呪術、堕胎させる呪術、人を発声できないようにする呪文、人の顎を動かなくする呪文（しゃべらさないようにする）、両手を上に挙げさせる呪文、耳が聞こえなくなるようにする呪文、鏡を使って神託を得ること、少女から神託を得ること、巫女から神託を得ること、太陽を崇拝すること、偉大なものを崇拝すること、口から火を吹くこと、吉祥天を将来することによって生活するものもある。しかしかれは、それらの似非科学から離れている。これがかれの戒律の一つである。

［医術を施しはならない］
　二九、また、修行者・バラモンたちのなかには信者からの布施を受けながら、次のような似非科学、間違った生活手段、すなわち願をかけること、お祈りをすること、土の家で呪文を唱えること、鬼霊の呪術、精力を増すこと、精力を減らすこと、地相を占うこと、土地を清めること、口を清めること、身体を清めること、犠牲をささげること、嘔吐剤の使用、下剤の使用、清めのための嘔吐、清めのための下痢、頭痛治療（頭を清めること）、耳にオイルを注ぐこと、目を洗うこと、鼻の治療、点眼剤を使うこと、目に軟膏を塗ること、眼科医となること、外科医となること、小児科医となること、［木の］根と薬を与えること（調剤）、薬の効力を消すこと（解毒）によって生活するものもある。しかしかれは、それらの似非科学から離れている。これがかれの戒律の一つである。
　三〇、バラモンの子よ。これらが、世尊が賞賛されたという戒律のまとまりである。また、そこへ多くの人々を導き、そこへ住まわしめ、そこにおいて多くの人々を安住せしめた聖なる戒律のまとまりである。しかし、さらになされるべき戒律もある」
「アーナンダよ。不思議なことである。驚くべきことである。アーナンダよ。この聖なる戒律のまとまりは、完全である。不完全ではない。アーナンダよ。わたしはこのように完全な聖なる［207］戒律のまとまりを、これ以外の修行者・バラモンのあいだには見いだすことはできない。アーナンダよ。もし、これ（仏教）以外の修行者・バラモンが自分の［教団の］なかに、このように完全な聖なる戒律のまとまりを見いだせば、かれらは、これのみで満足し、『これで十分である。これで修行者の目的は達せられた。さらになされるべき戒律はまったくない』というであろう。しかし、尊者アーナンダは、『さらになされるべき戒律もある』という」

　　　　　『原始仏典　第一巻　長部経典①』春秋社　P450-458