香港映画脇役悪役列伝コミュの【男優列伝】アラン･タン(鄧光榮)

1946年9月20日､中国･広東省広州市生まれ。父は広州市内にある劇場のオーナーであった。
香港の中学予科を卒業後は公務員を志望していたが､ラジオ局で英文を広東語に翻訳をする業務に就き､モデルも兼業していた。1963年､数千人の候補者から新作文芸映画の主演に抜擢され､17歳で映画デビュー。その映画のタイトルを取って｢学生王子｣と呼ばれる人気俳優になった。その後1960年代はジョセフィーン･シャオ(蕭芳芳)やチェン･チェン(甄珍)といった若手スター女優と共演し､青春映画を中心に出演を重ねていった。また1968年まではショウ･ブラザース傘下の南国実験劇団の訓練クラスに所属し､同期にはティ･ロン(狄龍)､パック･ビル(白彪)と言った後の人気スターたちもいた。
1972年､台湾の名匠パイ･ジンルイ(白景瑞)監督の映画に主演以降､台湾で30作以上の文芸映画に出演。台湾の人気女優の多くと共演を果たす。また本数は多くないが､カンフーなどのアクション映画にも出演している。
1977年に香港へ戻り､自らの映画会社ウィング･スコープ･フィルムを設立し､アクション映画の制作と主演に邁進していく。同時に斬新な企画や気鋭の映画人の発掘にも意欲的に取組み､1987年にプロデュースも兼ねてチョウ･ユンファ(周潤發)と競演した”香港ノワール”映画『マカオ極道ブルース』(87年､映画祭上映)では脚本にブレイク前のウォン･カーウァイ(王家衞)を起用した。この作品でウォン･カーウァイの才能を認めたアランは､彼の監督デビューをバックアップし､結果的にデビュー作『いますぐ抱きしめたい』(88年)と『欲望の翼』(90年)を送り出した。『欲望の翼』の香港での興行成績は惨憺たる有様で､アランは深刻な損失を被ったが､その後『欲望の翼』は国内外で多数の映画賞を授与しウォン･カーウァイは国際的な評価と名声を手にすることとなった。
またアランは黒社会組織三合会傘下に属するグループのリーダーでもあり､1989年に中国･北京で勃発した天安門事件の際､中国当局が指名手配した学生リーダーら21人を海外脱出させようという機運が香港でも高まり､事件に抗議していた映画人ジョン･シャム(岑建勳)から相談を受けたアランは､黒社会のネットワークを使って学生たちの国外脱出に協力した。これは｢黄雀(こうじゃく)行動｣と呼ばれる有志による香港経由の海外脱出作戦の端緒ともなった。
その後も映画出演を続けていたが､93年の『黒豹天下/ブラックパンサー』(ビデオのみ)に主演以降は､映画界からは離れ実質引退状態にあった。そして2011年3月29日､心不全で死去。享年64歳。生前の映画出演は110本以上に昇った。

＜主な出演作品＞
激怒の鉄拳(73)、虎狼反撃のテクニック(84)、マカオ極道ブルース(87)、武闘派烈伝、仁義なき抗争(90)、獅子よ眠れ(92)、黒豹天下/ブラックパンサー(93)