ログインしてさらにmixiを楽しもう

コメントを投稿して情報交換!
更新通知を受け取って、最新情報をゲット!

ep.人魚は<箱庭>の夢を見るか?コミュの嘘

  • mixiチェック
  • このエントリーをはてなブックマークに追加




昨日の嘘が今日、本当になろうとしていた。

「俺さ、彼女と別れるから」

まあ、本当にしようとなんて思ってもいなかった。

「拓真、拓真ってば」
「ん」

多分、この上の空になっている数十秒の間に俺は感じ始めていた。
いやもしかしたらこのずっと前、昨日ふと零した冗談交じりの嘘を思いつく前から知って居たんだと思う。

「実は・・・」
「浮気でもしたみたいな」
「えっ」

正直、彼女の話なんてどうでもよかった。
その時の彼女の顔なんて見ていなかった、ただ声がそう驚きを伝えた。
彼女が浮気していたとしてもきっと怒ったりはしない
どうしてかって彼女を愛すことは僕にとっての自己満足でしかなくて
彼女に何も求めていなかったからだ。
彼女を好きでいてなんとなく彼女が僕を好きでいるんだなと思うだけで
僕は満たされていた。

「図星、か」
「あのね、実は私好きな人が出来たの」
「そっか」

「怒らないの」
「その必要はない」
「優しいね」

彼女の言葉は右から左へ流れていく
意味なんて理解しようと思っていなかった
とりあえずその言葉の流れに合うような言葉を呟くだけだった

・・・・優しい、か

スムーズな言葉の流れが乱れる


「何が言いたいの」
「怒らないから、私殴られると思ったの。長い間一緒にいたから」
「は?長い間一緒にいたのと怒りと殴られるっていうのの関係性は」
「・・・・」

どうしてかイラついた。
彼女の潤んだ目が憎たらしく思えた。


「で、他に言いたい事は」
「ありがとう、楽しかった。ごめんね」

「それ他の人のこと頭の中にいっぱいにして言う言葉か。そういう礼儀はいらないな」

たった一つの言葉で僕の中の思考回路はちゃんと機能するようになっていた。
僕は優しいという言葉が嫌いらしかった。


彼女はまた「ごめんね」と呟くと部屋を出て行った。


次の日、友人が「どうしたんだよ、やけに明るいじゃないか」と笑うと
「俺、嘘ついてないっすよ。昨日、彼女と別れました」と言って笑い返した。

友人は不思議そうな顔をすると「あの子可愛かったのにな、勿体ない」と言って「俺が狙っていい」と続けた。
「いや、あいつ好きな人いるんですよ」
「お前振られたのか」
「いいえ、俺は予知能力あるんで振られる前に振ってやりました」
「ははは。お前強くなったな」
「そうでもないですよ、早めに別れるって口にしててよかったっすよ」


久しぶりにお酒を飲んだ。



きっと彼女は振られてまた寂しさを埋めに戻ってくるだろう
彼女は僕と違って気持ちだけの自己満足じゃ足りないんだ
誰かが自分の全てを埋めてくれると思っているんだ


ふとそんなことが浮かんで自分はさびしがり屋なんだなと思った
友人は「実はずっとお前のこと好きだったよ」なんて苦笑して
「あ、そうそうお前の彼女のこと好きだったよ」と言い直して
がはがはと笑って「じゃあ、またな」と手を振った。


幸せは掴めない
でもきっと感じることは出来るのかもしれない。
そして時々、零した嘘が実は未来を予感させるものだったり
最終的には嘘じゃない本当だったりして。


言葉は不思議だ、きっとその日の嘘が嘘と言われるには案外時間がかかるのかもしれない。




コメント(0)

mixiユーザー
ログインしてコメントしよう!

ep.人魚は<箱庭>の夢を見るか? 更新情報

ep.人魚は<箱庭>の夢を見るか?のメンバーはこんなコミュニティにも参加しています

星印の数は、共通して参加しているメンバーが多いほど増えます。

人気コミュニティランキング