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妄想漂浪団コミュのOriginal novel

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【夢の島】


「大地に抱かれ、明けない夜に再び生まれる事が出来るのならば、暗闇の中で生涯祈ろう・・・ただ純粋に」


【夢の島 第一章(幼虫)】

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 「ゆーちゃん・・・だめだよっ」

 「マイちゃんは、ボクの事を愛してないんだ・・・だから一緒にお風呂に入れてくれないんだっ」


困った顔で口を閉ざして、じっとボクを見つめるお姉ちゃん。

子供にしてはえらく策士で演技に長けた奴だった。

何時からだろうか・・・何をどう言ってどう振舞えば人の気を引けると知ってしまったのは。

泣くことも拗ねて見せる事も、すんなり出来てしまう。

ただ、そこには純粋で無邪気な子供ならではの欲求が溢れていたのであろう。


 「ボクは誰からも愛してもらえないんだ、だからマイちゃんもボクを嫌いになっていくんだっ」


とても11歳の子供が言うことではない。

愛?そんなものはもちろんわかるはずも無いが、ただ言葉の響きとこの言葉で人が大きく揺らぐ事を

面白く、自分の我侭を受け入れてもらう手段として使っていただけだ。


 「ん〜あたしは、ゆーちゃんの事を嫌いになるわけないでしょっ?」

 「そんなのわかんないよっ、だって・・・マイちゃんは中学生でおっきいし、ボクが子供だから愛せないんだ!」

 「ボクがマイちゃんよりおっきかたら、嫌われないもん。愛してくれるんだもん!」


なんともかみ合わない話だが、おそらく子供だということへの反発心もあったのだろう。


 「わかったわよっ、じゃぁ一緒に入ったらおねえちゃんがゆーちゃんの事嫌いじゃないって信じてくれる?」


簡単なものだ、ものの10分としないうちに彼女は自分を受け入れてくれる。

しかし、すぐには「うん」とは言わない。心の中で「もう少し...」と自分に言い聞かせる。


やがて子供二人でも狭い、小さな海に顔を沈める。

母の記憶がない自分にとっては、暖かい海の中で女性というものを必死に探す。

10・・・20・・・30・・・ 段々頭がボーっとし、息が苦しくなり目の前の白い肌に顔を付け

ぐっとしがみ付く。

驚いて、彼女は湯船から出るが何も言わないまま目をそらすんだ・・・。

その態度が何故か無性に痛く、熱くもあった。



夜だというのに、辺りから蟲の鳴く声が耳をつんざく。

この季節は嫌いだ・・・ほっといても自然に髪は乾き、くしゃくしゃと彼女にしてもらえないからだ


 「ねぇ、マイちゃんドライヤー使わないの?」

 「ん?だってタオルだけでほっといても乾くし、髪痛んじゃうからしないよっ」


私は彼女はまだ小学校の頃からドライヤーで、黒く長い髪を乾かしていた事が無性に好きでたまらなかった。

あの時は何故そんなに彼女が髪を乾かす姿を見たかったのかは分からなかったが、今では全てが

自分の中に欲していた事なんだと思える。


 「明日は、滝君も靖子もこっちに着くって言ってたからさ、ゆーちゃんとは別々に寝るねっ」


何となく分かってはいたが、聞きたくはなかった。

そして自分はそれを嫌だとは言えない事もわかっていた・・・。


マイちゃんとは幼稚園時代からずっと同じ団地のお隣さんだった為にか、よくお互いの家に遊びに行き

一緒にお風呂や食事をとったり、ちょっと大きな布団で二人でお昼寝を夕方までしていた仲だった。

しかし何時だろうかか、そういう当たり前で安らぐ時間をマイちゃんが少なくしていったのは


 「滝君はここには来た事ないからさ、絶対驚くよねー こんな網の中で寝たりなんてねっ」


昔はおじいちゃんと、お婆ちゃんがいたからこの広い和室で寝ても安心出来た。

しかい今年は、お父さんとマイちゃんのパパはずっとはなれの茶室で夜遅くまで将棋をさしながらお酒を飲んでいる為

もう二日間も彼女とこの広い網の中で、瞼が重いのを我慢している。

それも今夜で終わりを告げられ、いつもに増して瞼が重くなるのを必死でこらえる。

 「こなければいいのに・・・」

彼女に聞こえるか聞こえない程度の声で何度か呟く。

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コメント(10)

 【夢の島 第二章(わけ)】

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 「優也、お前進路決まったんか?」

 「ん〜決まったというか、タッキーにそのまま店手伝えって言われてるしなぁ」

長いようで短い高校生活も、あっというまに最後の年になり、周りを見渡すと就職活動してる奴や

既に大学の推薦を取り付けて、たまにしか学校に来ない奴やら、部活で最後の思い出を作るんだなんて

暑苦しい奴やら様々だ。

結局この三年間は「映研」でマッタリと自作フィルムなどを作ったり、学園祭用の作品やら年に2回行われる

アマチュア映画際などへの参加と、タッキーの店で年齢をごまかしてバイトに明け暮れてた三年間だった。

駅前からちょっと裏路地に入って、ホテル街入り口手前角の雑居ビル5階にある「ナイトラウンジSEED」

でウェイターを高1の夏からタッキーに誘われやっている。

何故学校に内緒でこんなバイトをやっているかというと、三つ訳があった。

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?親父と二人暮しで「学費を払って飯も食わしてやってるんだ、だから週末は家にいるなよ」と言われているからだ。

?とにかく金が欲しかったが、普通のバイトでは彼女にプレゼントが出来ないと思ったからだ。

?タッキーが人手不足を良いことに無理やり手伝わせたからだ。
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?と?はいいが、?の理由ははっきり言って認めたくはないが仕方なかった。


バイトで遅くなり終電を逃して歩いて家に帰ったら、夜中の2時過ぎになってしまった事があり

もし、親父が起きてたら酔ってるに違いなく、確実に怒鳴られたり殴られたりすると思っていた・・・。


むしろその日は酔って殴られたり、怒鳴られる方がよかった・・・。


古いアパートの二階に目を向けると、豆電球の暗い明かりが点っているだけだった。

階段も老朽化しているので、一歩ずつ音を立てないよう上っていき、ようやく部屋の前までたどり着くと

鍵がかかって無かったが、「無用心だな、まぁ酔いつぶれてるんだろう」と思い戸をあけた。

「ぎぃっ」という音をたててしまった事に一瞬「やばいっ、親父起きなきゃいいが」と思ったが次の瞬間

そんな事を気にする必要もなかったと感じた・・・。




獣の叫び声ともうめき声とも取れる音が、母の仏壇のある部屋の奥から響いてくる・・・。




恥ずかしい事に、三年間の間で彼女がいなかった訳じゃないが、獣のように本能を晒し交わる事は

醜く、知ってはならない事だといつもかわしていた。


だが、そんな自分でもこの先の函の中で何が起きてるかは流石に想像はつく。

ただ・・・そんな事の意味よりも、ひたすら恐ろしい言葉が後から後から自分の頭に広がっていく。



 「楽にしてあげようよ・・」「動かなくなれば怖くなくなるよ・・・」「ほら、それを握って・・・」「母さんも喜ぶよ」



獣が断末魔の声を上げた。



 「あぁっ!−」



それと同時に一気に扉をあけ、飛び降りるように階段を駆け下り、ひたすら暗闇の中を走った・・・

遠くの方で自分の名前を呼ぶ声が聞こえた気がしたが、振り向く事など出来るわけもなかった。

鼓動が限界を遥かに超えて耳の奥で激しく鳴り響き、そのまま公園のベンチに倒れこんだ。

 「何故、何故自分は逃げ出したんだっ・・・出来た筈なのにっ!」

 「母さん・・・ごめんなさい・・・・ごめんなさい・・・」

もう指一本動かせない・・・瞼も開けられない・・・。



少しずつ心拍ッ数が下がるにつれて、深い闇に飲み込まれていった。



どれくらいそうしていたのだろう・・・



聞きなれた暖かい声がする。

 「ゆーちゃん?・・・ゆーちゃん!」

そして、柔らかく細い腕が背中をゆらす・・・。

 「マイ・・・さん?・・・」

 「どうしたの!こんな時間にこんな場所で倒れてるなんて」

 「えっ・・・ゆーちゃん・・・何で・・・」

いつも暖かく優しい声が一変して、怯えた冷たい声になった。


握り締めたままだった、しっかりとそれを。


見られた事のショックか、彼女の声が上ずって冷たくなったから、力が抜け足元にそれは刺さった。

 「ん、ゆーちゃんとりあえず家においで」

怯えてた筈の彼女はそう言って鞄にそれをしまい、何も握ってなかった手を少し震えながら握ってくれた。

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【夢の島 第三章(必然)】

■必然【前編】■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

 「とりあえずこれでも飲んで、私の好きな紅茶なんだけどどうかな?」
 
 「おれ・・・どうしてここにいられるんだろう・・・・・」

ただ手を引かれるがままに、ここに来てしまった。

さっきまで力いっぱい握り締めていたものが手を離れ、代りにティーカップを握っている

この部屋の空気のせいか、さっきまでのおぞましいものが消え、軽く眠気にも似た感覚に包まれている。

 「んと、少しでも口に入れてみて落ち着くからさ」

最初は細かい波をうっていたそれもようやく静まり、琥珀色の透き通った水面の底に薔薇の模様が薄っすらと見えた。

彼女に言われるがまま、そっと口に含む。

乾いた喉を伝い、ゆっくりと体を温めていく・・・。

ひと口ふた口と飲むにつれ、芯から安らいでいくのがわかる。

 「マイ・・・さん。」

 「おれ、ごめんなさい・・・本当に、今ここにいる事もさっき握り締めてた・・」

 「うん、びっくりした」

 「けど何か小さい頃のゆーちゃんを見てる気がして、連れてきちゃった」

あんな状態の自分を見たのにも関わらず、彼女は少し懐かしいような顔でオレを見てそう言った。

 「何か昔からさ、ゆーちゃん怖がりで泣き虫だったし、まるで怖くて縁の下で震えてるネコみたいだったしねっ」

 「あ、えっとさっき持ってたものはとりあえず捨てちゃうからね」

 「あともう今日は遅いし、明日は学校もお休みだろうから今日はシャワー浴びてここで寝ていって」

彼女はオレがそうなっていた経緯も聞かずにそう、ただ幼馴染に対して昔と変わらぬ優しい目で見てくれる。

 「何も聞かないんだね、マイさん・・・」

 「ん、今日はいいんじゃなぃ? こんな時間だけど久しぶりにゆーちゃんと逢えたんだし」

その言葉が耳に入った瞬間、一気に自分の中の感情が溢れ出し、嗚咽しながら彼女の胸に飛び込んでしまった

まるで赤子が母の胸に飛び込むように・・・縋るように。

そして、そっと抱きしめてくれ、背中を「ポンッ ポンッ」と泣きじゃくる子供を落ち着かせるように叩いた。

 「ゆーちゃん、大丈夫だから・・・」

 「今日はもう寝よ・・・」

外はもうじき夜が明ける頃なのに、この部屋は柔らかい間接照明の明かりで包まれ

その明かりも小さな明かりだけを残して消える。

そのまま彼女はそっとまたオレの手をとってベッドへ導いた。

二人で寝るには少し狭いベッドに、二人は重ねたスプーンのように寄り添って横になった。

女性を抱く事はあっても、女性に後ろから抱かれる事などなく、彼女の柔らかく暖かい感触が

オレを包み込む、深く暗く。
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【夢の島 第三章(必然)】

■必然【後編】■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
「なんで・・・マイさんだと、怖いって感じないんだろう・・・」

 「ゆーちゃんはねぇ、きっと私じゃなきゃだめなんだよ」

 「ずっとね、昔にさ」

 「私がゆーちゃんを愛してないって言っては拗ねてたでしょ?」

 「あれってさ、他の人に言ったことある?」

もう10年以上前の子供の頃を、彼女はちゃんと覚えていてくれた。

今思うと、なんて可愛げのないいやらしい子供だったと思えるが、確かに彼女以外にそうやって

気を引こうとはしなかった。

 「ないよ・・・」

 「でも、オレは付き合った人ともこういう風にはしなったし、出来なかったのに・・・」

 「今日のゆーちゃんってさ、凄く透けてるっていうか、んーなんか体が無い感じがしてさ」

 「透けてる?」

確かに透けているという表現は正しいのかもしれない、自分が何をどう感じてどうしたかったのか

今となってはどうでもよかった、ただこの部屋と彼女に引かれる手の感覚しかなかったのだから。

 「うん、だからね、そんなゆーちゃんを埋めれるのは私しかいないなって思った・・・」

 「埋める・・・埋めれるなら、埋めて欲しい・・・」

 「暗くてそこに明りがなくとも、包まれて埋もれたいよ」

背中の心地良い感触がそんな言葉を言わせる、ずっと・・・ずっと言えなかった言葉が

 「少しずつ・・・少しずつでいいからね、目を閉じて私を感じて、ゆーちゃん・・・」

最初は涙の跡をゆっくりと湿った舌先がなぞり、片手は痛んだ心臓のあたりをそっと撫でる。

不快な感覚はなく、頭がぼーっとして少しこわばった体が緩やかに融けていく

・・・そう固体が液体になるように。

やがて重なりあった体が少しずつ彼女の吐息と、湿った舌先で熱くなってくるのが分かった。

そして彼女にひたすら身を任せ、少しずつ彼女で埋められていく・・・。

これも同じ・・本能なんだろうか。

分からない・・・

しかし、その行為は明らかに自分が思っていたものとはかけ離れていて、肉体も心も熱く満たされる

 「ゆーちゃん・・・熱いよ・・・苦しいよ・・・」

 「うん、苦しい・・・マイさんで埋まっていくのが・・・」

 「でも、もうゆーちゃんは私で埋まっちゃうんだよ、だからもう平気だよ」

 「平気じゃないよ・・だってもう何も欲する事が無くなっちゃうよ」

そう言うと彼女は寂しげな笑みでオレを見つめ、ゆっくりとキスをしながらオレを包み込んでいった。

初めて味わう感覚は体の半分をゆっくりと溶かしていく・・・。

母親の仏壇の奥から聞こえて来たような獣の声とは違い、切なげでかすかに濡れた小さな響きだった

それを押し殺すように、彼女の口はオレの口を塞ぐ。

そして、二人は体の芯が悦び震え、全てが満たされ彼女に包まれたまま瞼を閉じた。




「平気だよゆーちゃん・・・」




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【夢の島 第四章(熟成:前編1)】■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
 「ゆう!、悪いんだがちょっと急ぎで[XO]買ってきてくれっ」

 「え、まだスーツ着替えてもいないんですけど」

 「今日は若瀬さんが久しぶりに来るから、最低でも[NAPOLEON]は持ってきてくれ」

出勤していきなりタッキーのつかいっぱだ。

まぁ、早い時間暇な時は表通りまで出て、キャッチをやらされるし、

店の女の子と一緒に降りた時なんか、ずっとその子達のご機嫌取りだし

それから比べたら、つかいっぱのがまだ気が楽だ。

それに表通りは店の前と違い、そそくさと奥のホテル街に消えていく輩ではなく

キャッチしているオレをまじまじと見る奴や絡んでくる人も多く、

また駅前とあって、すぐ傍に交番や、知り合いがバイトしている店などがある為

極力顔は伏せつつ、仕事をしているふりをしなければならなかった。

まぁ、それでも何人かでスーツを着込み、言葉巧みに上の函へ誘い込むのが妙に快感でもあった事は否定できない。


これに関しては意外と幼い頃から、難なく人の心を揺らすのが出来てたのが功を奏して、キャッチ率も高く

それがバイト代に歩合として上乗せされていたのはよかった。


 簡単なものだ・・・


ようは、金を持っていて時間があり、女性に対して積極的になれなそうな男を見つけて

あとは、呪文のようにをささやけばいいのだから。

よく、団体でノリのいい輩をキャッチしてくる仲間内がいるが、あれは結局大した売り上げにはならない。


キャッチの歩合には二種類あり、一つは純粋に「数」で付くパターン。

そして、もう一つのパターンは「その日使った金額の内の5%」だ。

これは毎月頭のミーティングの時に、選択をする。

お店によって、形態は違うのであろうが、ここ「SEED」ではそういったシステムだった。

当然、経験の無いボーイはキャッチでどの人がどれくらい使うかなんてのは分からないので

「数」をとる。

だが、これでは一人キャッチしても微々たるもので、また団体を狙って声をかけても今度は店に

入りきれないという状況になってしまう。

そこで自分は%を取る。

ターゲットは、なるべく早い時間帯に来そうで、時間と金に余裕がある年配の人に呪文をささやく。

ただし、この時に一人は狙わない。

確実に二人組にターゲットを絞るのさ。

これも簡単な話だが、一人をキャッチしてしまうと当然そこには女性が一人付かなくてはならない。

では、10人キャッチしたらどうなるか、言うまでも無い。

そんな客ばかりだと女性が足りなくなり、当然最後には酒も減らず女性ばかり酔ってしまい

売り上げにもならなくなってしまう。

それだけではなく、あまりにも一人の客ばかりだとソファーに相席やカウンターに並んで飲む

事になってしまい、結局売り上げは伸びない。


 だから二人なのさ・・・

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【夢の島 第四章(熟成:前編2)】■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

まず、二人なら女性は一人で事足りるし、話題がなくなれば二人に振れる。

それに、一人が女性に酒を飲ませるともう一人は食べ物を与える。

指名がかさなり、しばし待たされている時でも、男二人で会話が成り立つ。

など、まだまだ要素は一杯あるがとりあえずそれだけでも割がいい。


そして呪文は、丁重にこう言う・・・


 「すいません、ちょっとうちの子達を助けてもらえませんか?」


これが最初だ。

なんでそんな言葉を?と思うであろうが、そう思った時点で半分は呪文にかかってる。

当然、普通の人なら「9時までサービスタイムで○○○円で飲み放題ですよっ!どうっすか」

などという、ありふれたキャッチに惑わされるのだろうが、オレが狙うターゲットは

「時間」「金」「年輩」それに「女性に積極的になれない人」だからだ。

まず最初の一言で足を止めさせ、第一段階が完了する。

それは、こっちの格好を見れば嫌でもありきたりなキャッチトークを聞かされると構えている所に効く。

 「当然、はっ?」

と、疑問に思う。

これで興味を持たせ、尚且つ「どういう意味?」と向こうから会話(質問)をさせる事により

質問=聞きたい=欲求に変化する。

これで第二段階が完了だ。


あとはどう持っていってもいいが、一番良い呪文としては


 「今日実は、うちの子に酷いセクハラをする常連のお客様がいらっしゃるんですよ」

 「出来ましたら、そのお客が来る前に少しでも彼女と楽しんで頂けないでしょうか?」


こんな話ですっかり、二人組みは「人助け=店に行く事への罪悪感」が無くなり。

 「楽しんでいただけないか=期待感」を持ち、函へ入るのだ。

簡単な話で、結局人の持ちうる核なる欲求を開放しやすい状況を作ってあげさえすれば

人は自ずとして、扉を開くものなのだ。


だが、今買出しをしにいっている酒を飲む若瀬さんはそうではなかった。

完全にこちら側を読み透かして、それでも尚上ってくれた方だった。

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【夢の島 第四章(熟成:中編)】 ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
「おにいさん、あなたの働いているお店は私のような年寄りでもいいのかね?」


なんだこの人は、いつもこちらから自分の中での定義に沿って、想定どおりにお客を揺らし

自分の欲求と、収入を満たす事を基軸としていたのに、向こうからこんな若造に寄ってきただって?

俺は自分のペースとストーリーを壊されるのが昔から嫌いだった。

たかが?と思われるだろうが、実際この仕事を手伝い初めてまともにこの老人のような姿勢で

尋ねられた事などなかった。



逆に、不意をつかれこちらが揺らされてしまった事を自分で認識してしまった事があまりにもショックだった。

しかも、「私のような年寄りでもいいのかね?」だと、それにも釈然としない部分があった。

普通なら、何も考えずに「お、ラッキー勝手に客が着いた」などとだけ安直に考えるのであろう。

だが、自分はそうではない人種だと知っている。



まず、「私のような年寄りでもいいのかね」とはうちの店がどういう類の店だかをこの老人は想像している

事が分かる。もしくは他に想像しているようなお店に行った事があり、確認の為に言ったとも受け取れる。


だか、そうでは無いであろう。


この界隈ではこの老人を見かけた事もなく、「私のような(年寄り)・・・」と自分の歳を自分に尋ねる内容の根

としているし、他の店での経験があるのであれば、老人を入れない店など無い事を知っている筈だからだ。


そこで疑問に思うのは、更に他にも別の店のキャッチが溢れかえっているこの通りで、何故自分のような

若く、目立たない者に尋ねたのか?

そんな事を瞬時に考えた中で、既に自分がいつもしている事の逆をやられた事に気づき固まったいた。


最初の言葉で、固まり、自分自身で「何故?」と思い、知りたいと変わってしまっていたのだ。


普段では決してこんな事を聞き返す事は無い自分だが、もう既に彼に魅かれていたのだ。

自分以外にそうさせるその老人に・・・


 「あの、何故私にそんな事を聞かれるのですか・・・?」

 「あなたでは、駄目なのでしょうか?」

そう、老人は幾つものしわが刻まれた穏やかな顔で聞き返した。

なんて事をきいてしまったんだ・・・返す言葉すら失った。

そんな自分をよそに、老人はそこから立ち去るでもなく、ただ一言

 「それでは、お店に案内していただけますか?」

そう言った。

完全にもう彼のペースで、そのまま大した会話も出来ずエレベーターの前まで連れていった。

本来なら、こんな事は自分の中では許せなくいてもたってもいられない筈なのだがその日は

何故か違っていた。

何て長い時間なのだろう、エレベーターが降りてくるまでの僅かな時間だというのに永遠とも感じれる

時だ。

また、その老人の風体が更にその空気を増長させる。

たいして高級そうな身なりではないが、スラックスにはちゃんとアイロンの線が綺麗にでて

上着も年季は相当なものだが、型崩れもせず大切にされてきた跡が伺え、何よりも靴が程よく

磨かれている事、そして長めな白髪を後ろで綺麗に結ってあるいわゆる「ロマンスグレー」と

いう雰囲気を醸し出してしたからである。

ようやくエレベータが着き、先に乗り込み彼がゆったりと乗り込む。

そして更なる味わった事の無い密室の空気の中で確実に自分の心拍数を上げていた。

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【夢の島 第四章(熟成:後編1)】
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 「いらっしゃいませー」

いつも見慣れた店のドアをあけ、皆の声を聞き、ようやく仕事中なんだと自分を巻き戻した。

入り口を入って右奥は女性の待機用のbox(ソファーの事)があり、自分のお客を持たない者や新人は
通路の両サイドに立ってお客様が自分に着くまで待っているか、ボーイと一緒に外へ出てキャッチをする。


 「香奈さん、お客様をテーブルにご案内ください。当店は初めてでいらっしゃいますので宜しくお願いいたします。」


いつもと変わらぬ口調で言えていたかは分からないが・・・

そして、この店では早い時間でお客様が少ない場合と、初回のお客様の場合はエスコートさせる担当をこちらで決められる

ルールとなっている。

この日は先の自分の動揺もあり、迷わず香奈さんを選んだ。

香奈さんは特に美人であったり、話がうまい訳ではないが素朴な中に人を安心させるような雰囲気を持っているので

着ける事にした。

彼女に対する見解は意外にもタッキーと同じで、二人とも何か思うところがある場合は彼女を選択している。

 

 「いらっしゃいませ、香奈です。それではこちらの席へご案内させていただきます。」


お客様を席に着けると、先ほどはろくにお店のシステムや料金などを説明できてなかったので、本来は担当の女性が

メニューを出して、リクエストをきくのだが、今回は彼のペースでろくに説明も出来てなかったので自分で席へ

行った。


とりあえず、やることをやらなければ・・・



 「お客様、失礼いたします。本日は初回でいらっしゃいますので、特に席に着いた者でご指名が無い場合は順次担当がかわりますが
 ご指名の際には指名料といたしまして一人1,000円頂戴いたしておりますので、ご指名の際には一声スタッフまで
 お伝えください。」


 「また、お飲み物に関しましてはハウスボトルでウイスキーですと[ホワイトホース]・[ワイルドターキー]


 [カナディアンクラブ12Y]・[バランタイン ファイネスト]となっております。」


 「他には焼酎[鏡月]・[ジンロ]とになっております、生は最初の一杯は無料で二杯目以降は一杯につき700円となります。」


 「また、ボトルを入れる場合はお好きなものをご用意させていただいております。」


 「よほど特別な物で無い限り、ご用意できますのでお好きな銘柄をお伝えください。」


 「それでは最初は香奈がお相手させていただきますので、ごゆっくりお楽しみください。」


よし、いつもどおりに出来ているな。

さっきまでの緊張というか、衝撃な感覚もいつのまに解けていた。

オレの考えす過ぎだったな、ただの遊びなれない小奇麗な大人しい老人に違いないな

そう思い、お客の傍を離れまたキャッチに戻ろうとすると彼は


 「それでは、せっかく初めて来ましたので、マーテル XOなどありましたら頂けますか?」


 「おっと、まだ香奈さんで宜しかったでしたね、あなたもブランデーとかは飲まれますか?」


何だと、いきなりマーテル XOだと?


余談だが、XOとはブランデーを樽熟成した年数す符号で、ブランデーは、熟成年数の異なる原酒を混合して造られているが、

フランスのコニャック地方とアルマニャック地方で作られた物は、それらの販売製造の管理をする事務局の規定により

混合される原酒の最も熟成年数が低い物の年数にによって

☆☆☆(スリースター)
VO(Very old)
VSOP(Very special old pale)
NAPOLEON
XO(Extra Old)

などの符号を表示することが法律で決められている。

物にもよるがマーテル社のXOクラスだと、だいたい仕入れ値でも1万以上する、それを店で出すとなれば


最低でも、かけ三(仕入れ値×ことの三倍が売値で夜では基本最低相場)はするというのに・・・

試しているのか?それともただの金持ちか本当に遊び慣れてない老人なのか?

一旦平静になった自分が再び揺らされる・・・

だが、ここはまず香奈さんの答え方で様子をみてからにしよう。


 「あ、はぃ。 私はワインとかでしたら好きでよく飲みますがブランデーって同じ葡萄が原材料でしたよね?」


 「はい、よくご存知ですね。同じ原材料ですが大変よく熟成されておりますので、貴女の様な方には私と同じでお口に合うか
 

 は分かりませんが香りを楽しむだけでも構いませんから、良かったら一度お試しになってみませんか?」


頗る柔らかく丁寧な口調で、簡潔に彼女に老人は薦めた。
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【夢の島 第四章(熟成:後編2)】
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「はい、では私もご一緒させていただきますね」


 「では、よろしくお願いいたします。っと・・お名前も伺ってなかったですね。お店に案内していただいて名前も知らないで
 

  私のお願いをするのは失礼ですね。」


 「若瀬と申します。あなたのお名前伺えますか?」


又だ・・・彼は私の想定する人というものの枠に収まらない。

決して自分が若いからというだけの話ではない。

私も形は違えど同年齢の祖母と祖父に可愛がられてきたし、酔いつぶれた親父を迎えに行く先の店主も同じくらいの老人なども

周りにはいる。

だが、彼は不意に私が構えてない所で偶然か、はたまた何を思ってか自分の想像できる範囲外から揺らすのだ。


 「早瀬優也です。」


想定外な問いに少しあてられていたのだろう、フルネームで名乗ってしまった。


 「では、優也さんツバメを運んできてください。お願いいたします」


 「承知いたしました、在庫をみてきますので今しばらくお待ちくださいませ」


精一杯の抵抗というか、何とか彼の中で未だ見えない何かに抗うつもりで答えた。

本来自分の歳ではこんなやり取りは出来ないのだが、たまたま2年の時に自主制作でとった映画のモチーフに

ワイン樽を使ったことがあり、その際に酒屋の店主がツバメの話をしてくれたのでたまたまその愛称をしっていたのである。


ツバメはフランス語でMarletteと書き、マーテル社が最初に覚醒した際に黄金のツバメがそれを祝福するかのごとく

姿を現し、原酒の入った樽の上を飛び回ったという話から現在のマーテル社のシンボルとして付けられたそうだ。



だが、そうそうXOクラスが出るわけでもなく、在庫は無くXOではないがそれに勝るとも劣らないコルトンブルーという

同社から出しているものがあったので、そちらの方が価格も少し押さえられていて、女性でも飲みやすい口当たりなので

それをまずは持っていった。


 「若瀬様、せっかくのご注文でしたがただ今スグにご用意出来るのがこちらになてしまうのですが、いかがいたしますか?」


内心彼が直接希望したものでは無いが、それしか無かった事に感謝をしていた。

彼の出方を伺える・・・ここからは自分のペースでやらせてもらうとそう、したたかに思っていた。


 「そうですか、それは残念ですが他の物でしたらこちらの物意外もあるのですよね?」


 「はい、他にもナポレオンクラスや、VSOP以下などもございますがこちらの物もブランデーをお好きな方でしたらお口に


  合うかと思いまして。いかがでしょうか?」


「ブランデーをお好きな方でしたら」と言う振りが、自分なりの反撃でもあった。


本当にブランデーを好きな人なら、このコルトンブルーでも良いはずなのだから・・・


 「ふふ、優也さんは女性に優しい方ですね」

 「え?何ででしょう?」


確かに薦めたお酒は女性でも口当たり良く飲めるものだが、そんな説明などは何もしていないのに、この老人・・・


 「いえ、ではこちらで構いませんのでお願いできますか?」

 「あ、はぃかしこまりました」


動揺を悟られる事はもう避けたくて仕方が無かったし、お店の売り物は女性であって自分では無い為、ボトルの準備をし

その席を離れた。

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【夢の島 第四章(熟成:後編3)】
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その後本来ならば、まだお客も少ないので店内ではなく又下に下りてキャチをしなければなのだが・・・

既にその老人から目が離せなくなっており、フロアーマネージャーに取り入りフロアースタッフをしていた。

なんだ・・・これは・・・何故?・・・自分はいったい何を彼に見せて彼は何を感じ取って・・・

いや・・感じ取るとかのレベルではない・・・


全てを見透かされ試されている・・・、そんな感じだ。


そうこうしている間に女性を入れ替えるタイミングになったので、平静を装って

 「若瀬様、別の者が代りますので、ご指名のほうはいかがいたしますか?」

 「ありがとう、でもせっかく私のような物をこんなに楽しませてくれる彼女がいますので、そのままこちらへいただいても
 
  いいですか?」

 「はい、では香奈さんにご指名をいただくという事でよろしいですね?」

 「そうですか、では指名をさせていただくとしましょう。よろしくお願いいたしますね香奈さん」

 「はい、ご指名ありがとうございます、楽しいお話とお酒いただいてうれしいです」

そう言ってその日は、ボトルを歳の割には香奈さんと二人で、半分ほど飲みお会計となった。

 「ありがとうございました、若瀬様。 またお時間ありましたらお立ち寄りください。」

 「はい、今日は大変楽しませていただきました、叉よらせていただきますね優也さん、香奈さん」

そう言って礼儀ただしいというか、スマートに彼は帰っていった。

店が閉まると、送りの車が早番で出たまままだ帰ってこなく、終電も無くたまたま香奈さんと話す時間が取れたので

ゴミ出しと明日の発注伝票を書いた後に、待機boxで香奈さんに尋ねた。


 「香奈さんお疲れ様でした。今日はずっと若瀬さんのお相手でしたね、疲れたりしてませんか?」

 「いいえ、とても楽しく安心できるお客様でしたので、つい私も仕事を忘れて楽しんでしまってましたから」

二人が話している内容は流石に傍にいるわけではないので、聞き取れなかったが、いつも人一倍お客に気を使う彼女が

こんなに、気持よく酔っているのを見るのは初めてで、尚更彼女の笑顔が自分を困惑させていた・・・。


 「若瀬様は何かオレの事をいってましたか?」

 「えぇ、真っ直ぐで優しい方だと」

 「ただ・・・」

 「ただ?ただ何ですか?」

 「いえ、よくはわからなかったのですが、可愛そうな方とも・・」

なんだって?「可愛そう?」あの出会ってからのやり取りの中で彼は自分の何を見たっていうんだ!

言葉にならない、怒りとも取れる感情が水面下でふつふつとわいてきていた。

そのさなかに迎えの車が付き、黙り込んでしまった自分に何を思ったか香奈さんは

 「また彼は来て優也さんに会いにくるんだと思いますよっ」

彼女はそういって店を出て行った。

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【夢の島 第五章(目線)】
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見られている・・・

そう思うようになって、もう何ヶ月が過ぎただろう・・・

もう三年の12月ともなれば、学校はほとんど行かなくても卒業は出来るし

映研の年明け最後の出展作品を出す為のネタを考えたり、SEEDのバイトを

早い時間から入ったりしていた。

学校を昼過ぎには出た後は、デジカメを片手に持ち気ままに出勤時間まで

河川敷や、商店街や公園などをふらついて作品を作る為のネタ集めなどをするように

なっていた。

今回は流石に最後の作品となる為、まだタイトルも決まってないが「人の繋がりとは何たるか?」

という事をテーマに撮りたく思っていた。

だが、不思議なもので公園や河川敷などへ行くと幼少の頃マイさんやみんなで遊んだ辺りばかり

いってしまい、ろくに写真も撮らずに座り込んでボーっとしてしまう。

そんな事をしている間に辺りは日も落ち、バイトの出勤時間になる・・・

「ふぅ、結局たいした物が撮れなかったなぁ」

時計を見て、慌てて急ぎ店に向かう。

「やっばいな、急がないと又タッキーにからかわれるな・・・」

駅に向かい、隣の駅まで乗る時にいつも思う事がある・・・。

「だれかの目線を感じる・・」

いつも慌てて駆け乗るせいか、その目線を探す余裕は無い。

この日も下手すると遅刻ぎりぎりだったのだが・・・

ようやく駅の前まで来た所で、足が止まった。

改札の手前で、ホームレスの女性らしい年配のおばあさんが

同世代くらいの男に絡まれていた・・・

「てめぇ、オレが捨てたタバコをいちい拾うんじゃねぇよ!!このゴミババァ!!」

「気持わりぃだろうがっ!!」

酷い言い様だ、スグ近くに喫煙場所があるのにも関わらずその老人の傍で

火の消えてないタバコを捨てて、挙句の果てには何の抵抗も出来ない老婆を

足蹴にしている。

「ずぅばせん・・・」「ずぅばせん・・・」

老婆はしきりに頭を抱え、横に倒れたまま何かを言っている。

「あぁ? 何言ってんだかわかんねぇんだよっ、」

「ゴミのくせに偉そうにオレの視界に入ってんじゃねぇよっ!!」

「あぁっ・・・」「ぐぼっ、げふぉんげふぉん・・・」

日の落ちた駅前でのこの光景を多くの人が視界に入れているにも関わらず

誰もそれを止めようとはしない・・・。

そんな街かここは・・・。

そればかりか、そんな光景に魅かれ、いつの間にか野次馬が周りに出来ていた。

「人は人の不幸を哀れんで、遠目で見たいのだ・・・・」

「まるでテレビで見る、ドラマやニュースの様にしか映っていないのだろう」

そして野次馬に囲まれた輪の中で、その男は恍惚の笑みを浮かべ怒りではなく

その行為を楽しんでいた・・・・。

みるみるうちに、老婆は動かなくなって行く。

「くそっ」

目立つ事は避けていたのに。

何の得があるわけでもなく、周りから称賛を浴びたいわけではないが

古い記憶の中の祖母と被せてしまったのだろう。

野次馬を掻き分け、一気にかけよると同時に目の前に黒い影が横切った・・・

「おぉっ凄い迫力ですねぇ〜」

「あっ、お兄さんちょっと待ってください!!」

「ちょっとせっかくなんでアングル変えますので、」

「あっ?なんだおめぇは!!」

「はぃはぃ、ちょ〜っとそこのギャラリーさん場所空けてねぇ〜」

「な・・・なんだコイツ・・・何をやってるんだ・・・」

何時からそこにいたのか分からないが、こんな状況の中で無邪気な顔で近づき

動画を撮っている彼?に全ての人がこの場の空気を飲み込まれた。

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