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古事記『カムヤマトイワレビコの東征』

カムヤマトイワレビコ、イツセ

イツセとイワレビコの旅

タマヨリとアエズの息子、イツセ、イナヒ、ミケヌ、カムヤマトイワレビコの4人はすくすくと育った。

やがて彼らが大人になると、次男のイナヒは海の血が濃く出ちゃったもんだから地上は息苦しいと言って、トヨタマのいるワダツミの宮殿に引っ越してしまった。

そして、三男のミヌケはスクナビコナも向かった常世の国へバカンスに行ったまま帰らない。その後、新羅に行って王様になったらしい。なんて噂も聞こえて来たが、本人からの連絡が一切無いので、本当かどうかもわからない。

そこで残った長男のイツセと四男のイワレビコは2人で日向の高千穂を治めた。



そんなある日、2人は天下を安らかに治めるにはどうしたらいいか話し合っていた。



「つーか、そもそも、この国の民は分かってるんかな??天つ神の御子(みこ)が降りてきたって。わかってないんじゃない??だって、日向(ひゅうが/宮崎県)、端っこ過ぎじゃん。絶対みんな気付いてないって。」



兄のイツセは不満げだ。というのも、ニニギが葦原の中つ国あしわらのなかつくにに降りてきてからと言うもの、平和すぎて、国を治めている実感が全く無かったのだ。

それなのに、本島の方ではまだ悪い国つ神が民を虐げているなんて話も聞く。しかし、こんな端っこに都を構えていては、それを確認することすらままならなかった。



「確かに ・ ・ ・ もっと国の中央に都を置いた方がいいのかな。」



イワレビコが呟くと、イツセは満足げに笑って大きく頷いた。



「やっぱお前もそう思うか?俺もさ、アマテラスの御子的に?東がいいと思うわけ。行こうぜっ!!東っ!!」

「はぁ!?兄貴、マジで言ってんの??つーか、東ってアバウト過ぎじゃない?」

「マジだって!いつまでもココでチンタラしてたらしてられっかよ。本島ではか弱い民が俺らの到着を心待ちにしているはずだ!日向だけ平和になったってしょうがないだろ??俺らはオオクニヌシからこの国を譲ってもらったんだから。全ての民を幸せにする義務があるっ!!」

「全ての民って ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ スケールデカすぎ。」

「俺らならできるさ。お兄ちゃんを信じなさいっ!!」



イツセは仁王立ちで二カッと笑った。こうなったらもう兄は止まらない。イワレビコは呆れながらも「わかったよ、信じる。」とはにかんで笑い、イツセの案に乗った。



こうして2人は覚悟を決めると、妻と子供を日向に残し、日向最強の『久米兵(くめへい)』と共に船に乗り込み旅立った。






まず、一行は九州の上の方に向かった。宇沙(うさ/大分県)に着くと、そこの主は宮殿まで作って2人を歓迎してくれた。他にも、進む度に各地で皆が歓迎してくれるものだから、岡田(福岡県)に1年、多祁理(たけり/広島県)に7年、吉備(きび/岡山県)にも8年と、ついつい長居をしてしまった。

イツセは、のんびりと恵まれた旅路の中で、ふと我に返ると「んあぁ!ダメだぁ!!この優しさに甘えちゃダメだあぁ!!」と言って、さらに船を東へ進めた。



そんなある日、2人が明石海峡を渡ろうとすると、亀の甲に乗って鳥みたいに袖をパタパタさせながら釣りをしてる変人を見つけた。

「兄貴!見ろよ!あそこにちょー変なおっさんがいるんだけどっ!!」

「まじだ ・ ・ ・ あんなバタバタしてたら、魚釣れねぇよなぁ ・ ・ ・ きっと、なんか、すげーおっさんなんだよ。もしかしたら、この辺も詳しいんじゃないか??」

「確かに ・ ・ ・ ・ ・ ・ オレ、道詳しいか聞いてくる!」

イワレビコが、そのおっさんに声を掛けると、この辺の国つ神で、海の道にも詳しいと言うので、竿を下ろして引き上げ、船の中に入れてあげた。
おっさんは、大阪湾の先まで道を案内してくれたので、お礼にサオネツヒコという名前をあげた。



サオネツヒコと別れた一行は、船をさらに進め、大阪湾を超えて、明け方には淀川の支流まで来た。しばらくここで停泊することになり、船を降りようと、陸を見渡したイワレビコは、近くに何かうごめくものをみつけた。

何だあれ。こっちに近づいてくる?人?たくさんいるな ・ ・ ・ 祭りでもあるのか?



「 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 違っ ・ ・ ・ 軍だっ!!!」



慌ててイワレビコはイツセの元に走った。



「兄貴っ!!奇襲だっ!!!」



「え?マジかよ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 俺まだパジャマなんだけどっ!!くそっ!!!皆!!武器を取れっっ!!!戦の準備だっ!!!」



今まで順調にもてなされてきた一行は、完全に油断しているところを突かれてしまった。待ち伏せていたのは、奈良の生駒山のナガスネビコの軍だ。名前の通り、すんごくスネの長い武将だった。



久米兵が敵と激しい攻防戦が繰り広げる中、イワレビコも船から盾を取り出し、奮戦した。そのため、この地は楯津(たてつ/大阪府)と呼ばれるようになる。



「あ"あぁぁぁ!!!っ痛てぇ!!!!」



イツセのただならない声が響ひびいた。慌ててイワレビコが駆かけ寄ると、兄の腹部に矢が刺さっていた。



「兄貴っ!!大丈夫かよっ??」

「っ ・ ・ ・ 大丈夫だ。だが、このまま戦いを続けたら負けちまう ・ ・ ・ 」

「そんなっ ・ ・ ・ !じゃあ、撤退か?」

「あぁ ・ ・ ・ 俺らは日御子(ひのみこ)だ。太陽に向かって戦っちゃダメだったんだよ。一度引いて、太陽を背に戦おう。」

「 ・ ・ ・ わかった。 ・ ・ ・ ・ ・ ・ オイッッ!!久米の兵に告ぐっ!!撤退だ!!撤退するぞっ!!今すぐ船を出せっっ!!!」



久米兵は、ナガスネビコの軍を引き離すことに苦戦しながらも、なんとか浜を離れて船を出した。

こうして命からがら海へと出た船は、南に大きく周り、紀伊(きい/和歌山県)へと向かった。敵がいないことを確認すると一行は船を降り、イツセは血を洗い流した。



「兄貴 ・ ・ ・ 血ぃ、全然止まってねーじゃんか。ちゃんと休んで手当てしようよ。」

「 ・ ・ ・ ・ ・ ・ 大丈夫だ。周辺を平定しながら生駒山まで戻るぞ。」



しかし、流しても流してもイツセの血は止まらなかった。辺りは一面イツセの血で真っ赤に染まり、血沼海と呼ばれるようになった。



フラフラになりながらも足を進めるイツセの呼びかけで、一行は前へ前へと進んだ。しかし、紀ノ川の河口まで辿り着いたところで、いきなりイツセが叫びだした。





「くそぉっ!賤しい奴に傷を負わされたせいで、死ななきゃならねぇのかよっ!!」





そして雄叫びを上げると力尽きてしまったのだ。





イワレビコは、呆然ぼうぜんと立ち尽くした。





いや、だって、奇襲からのここまでの展開早すぎでしょ?今までのんびり兄貴について旅して来たってゆうに、イキナリ戦いが始まって、ここから反撃と思ったらさっさと死んじまうなんて ・ ・ ・ ・ ・ ・ ふざけんなよ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・





・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 兄弟 ・ ・ ・ オレだけになっちまったじゃんか ・ ・ ・ ・ ・ ・





イワレビコがふと我に返り周りを見渡すと、久米兵たちが心配そうに自分を見ていた。彼らの中にも深い傷を負った者は少なくない。兄のために、泣いてくれてる奴もたくさんいる。 ・ ・ ・ ・ ・ ・ 自分がここで弱気な姿を見せるわけにはいかなかった。



「 ・ ・ ・ ・ 先に進もう。ナガスネビコのいる生駒山はずっと先だ。この地域を平定しながら進み、生駒山に着き次第あの男を殺る。」



涙も見せずにイワレビコは前に進んだ。久米兵も静かにうなづくと、黙って彼の後に従った。

タケミカヅチ、アマテラス、タカミムスビ

高天原たかまがはらからのプレゼント

一行は進路を迂回し、熊野(三重県)の森に着いた。

すると、いきなり目の前にでっかい大熊が現れた。『襲われる!』と思い身構えると、大熊はすぐ藪の中に消えてしまった。

「 ・ ・ ・ なんだったんだ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 今の。」

イワレビコが動揺していると、パタリ。後ろで誰かの倒れる音がした。振り返ると、パタパタと久米兵が倒れて行く ・ ・ ・ まずい!大熊の毒気にやられた!!しかし、気付いた時には既に遅く、彼もすぐに意識が遠のき倒れてしまった。大熊は荒ぶる神の化身だったのだ。






彼らの意識が無くなってから、かなりの時間が経った。

すると、どこからか立派な剣を持った男が息を切らしながら彼らの元に走って来た。久米兵を飛び越えイワレビコの前まで辿り着くと思いっきり剣を振りかざす。



「ハッ ・ ・ ・ ・ ・ ・ !!」



その瞬間、イワレビコと久米の兵が続々と目を覚ました。



「長いこと ・ ・ ・ 眠ってたのか ・ ・ ・ ・ ・ ・ ?」



剣を持った男は頭を下げると膝を付き、イワレビコにその剣を差し出した。



「 ・ ・ ・ ありがとう、あなたが助けてくれたのか。あなたは一体 ・ ・ ・ 」

「はっ、私は国つ神のタカクラジと申します。タケミカヅチ様の命で参りました。」

「宝クジさん ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 夢のあるいい名前だな。」

「いえ、タカクラジです。」

「え?あ、悪い。えっと ・ ・ ・ そしたら、その剣はタケミカヅチ様がタカクラジさんに?またこっちに降りて来たのか?」

「いえ、タケミカヅチ様にはお会いしていないんです。実は夢を見まして ・ ・ ・ 」

タカクラジは、その不思議な夢の話しを始めた。



古事記ライン



・ ・ ・ 私は気がつくと、広い部屋に雲がかかったような、不思議な空間を覗き込んでおりました ・ ・ ・

そこには見るからに高飛車たかびしゃな顔をした女の子と、ふわふわした感じの男性が深刻な顔をして座っておりました。そして、いきなり部屋の戸が開いたかと思うと、ヤンキーみたいな男が入って来て、2人の前で膝を付いたのです。



「タケミカヅチっス!!アマテラスの姉御、高木の旦那、お呼びでしょうか!!」



そのお名前を聞いて驚きました。高飛車たかびしゃが天照大神アマテラスオオミカミ様で、ふわふわが高木神タカギノカミ様だったのです。お2人がタケミカヅチ様を呼び出されたご様子でした。



「タケミカヅチさん、急に呼び出しちゃってすみません。葦原の中つ国あしわらのなかつくにが最近、騒がしく乱れているという話しは聞いていますね?」

「ウっす!」

「そこで ・ ・ ・ 」



と高木神タカギノカミ様が言いかけると、天照大神アマテラスオオミカミ様が取り乱したご様子で ・ ・ ・ ・ ・ ・



「それでね、私の子が熊野で困ってるらしいのっ!ねぇ、どうしよう!!あの子達、大丈夫かなぁ??悪い国つ神にいじめられてないかなぁ???」



「はぁ ・ ・ ・ 」



「葦原の中つ国あしわらのなかつくにはあんたが平定させたんだからさぁ、あんたが、あの子達のこと助けに行ってあげてよっ!!」



「はぁ?いや、でも、せっかくお子さんたちに任せたんスから、そこは見守ってやるのがスジってもんじゃないっスか??過保護は良くないっスよ。」

「ぶぅ ・ ・ ・ でも心配なのっ!!!」

「んーー ・ ・ ・ わかりました。したら、わざわざ俺が行かなくても、出雲いずもで使った剣があります。それを熊野に下ろしてやりましょう。熊野には、タカクラジっていう国つ神がいるんス。アイツの家の屋根に穴を空けて剣を落としておいて、目覚めたら事の経緯を伝えときます。」

「そぉ ・ ・ ・ ・ ・ ・ なんか、夢のある良い名前ね。じゃあ、その人にお任せしようかな ・ ・ ・ 。よろしくね、タケミカヅチ。」

「はっ!!」

そう言うと、タケミカヅチ様は天照大神アマテラスオオミカミ様に一礼をし、顔を上げると、そのままスっと私の方を見たのです。彼らからは見えていないと思っていた私は驚いて跳ね上がりました。



古事記ライン



「そこで目が覚めるといつもの私の部屋で ・ ・ ・ しかし、屋根にはぽっかりと穴が空いていて、枕元を見ると夢に出たこの剣が置いてあったので、これは夢じゃない!!と思い、急いでこちらに参った次第です。」

「アマテラス様 ・ ・ ・ オレらのこと忘れずに見守ってくれてたんだ。」

頼れるイツセの死で、拠り所を失っていたイワレビコの心が、なんだか急に軽くなった気がした。

「たいそう心配しておられました ・ ・ ・ 。」

「そっか ・ ・ ・ ・ ・ ・ よかった。オレはてっきりニニギ様がブスを追い返したせいで見放されちまったモンかと思ってたから ・ ・ ・ 」

「へ?」

「え、あ、ごめん。身内ネタだった。そっか ・ ・ ・ ・ ・ ・ と言うことは、この剣はあの時のものなんだな ・ ・ ・ ・ ・ ・ あの出雲いずもの波打ち際で ・ ・ ・ タケミカヅチ様のケツにブッ刺さった、あの ・ ・ ・ ・ ・ ・ 」

「へ??」

「あっ、いや、悪い。 ・ ・ ・ ・ ・ ・ これも身内ネタだったわ。」



この剣はやがて神格化し、フツノ神と呼ばれるようになった。今でも奈良県の石上神宮に祀ってある。



「タカクラジさん、助かったよ。じゃあ、これで。オレらは先を急ぐ。」

「あ、もう少しお待ちください!」

「ん?まだ何か?」

「はい、実は、ここまでの道中、私の頭の中にスピーカー越しのような声が響ひびきまして ・ ・ ・ 」



古事記ライン



プツッ

・ ・ ・ ス ・ ・ ス ・ ・ ・ テステス ・ ・ ・ あーあー。どもー聞こえますかー??高木神タカギですけどー ・ ・ ・ ココ、タカクラジさんの脳みそで大丈夫ですかね?

大丈夫そうですかね。

いやー ・ ・ ・ 熊野なんですけど、他にも荒々しい神がいっぱい住んでいましてね。あんまり山奥とか入らないで欲しいんですよ。高天原たかまがはらから八咫烏(ヤタガラス)を送るんで、道案内に使ってください。それまでみんなには待機するように伝えておいてください。お願いしますねー。

ガサッ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

よし。これでちゃんと伝わったのかな?

・ ・ ・はぁ。思金神オモヒカネが降りちゃってからずっとこんな仕事ばっかだy ・ ・ ・

プツッ

・ ・ ・ ツーッツーッーー ・ ・ ・ ・ ・ ・



古事記ライン



「 ・ ・ ・ ・ ・ ・ とのことで ・ ・ ・ 」

「そ、そっか。 ・ ・ ・ なんか ・ ・ ・ 上は上でいろいろあるんだな ・ ・ ・ ・ ・ ・ 」



イワレビコが『高天原たかまがはらってどこらへんにあんのかな ・ ・ ・ 。』とか考えながら、空をぼーっと眺めていると、やがて一羽の烏(カラス)が飛んで来た。



その烏はすっとイワレビコの肩に止まった。よく見ると足が三本も生えている。

まさか、この烏 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・



サッカー日本代表のエンブレムの元ネタ ・ ・ ・ !!!!!



「フン!俺様が案内してやるよ。ついて来なっ!!」



「しかも、喋った!!」



イツセの死から嫌なこと続きだった一行は、新たな仲間にテンションが上がった。こうして高天原たかまがはらのサポートを受けながら、イワレビコ達の旅は始まった。

『系図』アマテラス、ニニギ、オオヤマツミ、サクヤヒメ、ホデリ、オオワダツミ、豊玉姫、玉依姫、アエズ、イツセ、イナヒ、ミケヌ、イワレビコ、ナガスネビコ

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コメント(11)



日本の始まり

この国の歴史は世界がまだ未完成で、神様すらいなかったところから始まる。

現在の世界は『神の住む天界』『人の住む地上』『死者の住む冥界』の三層に分かれているけれど、その頃は地上も天界もまだ分かれていなくて、冥界は存在すらなかった。ただ世界は混沌と、どこまでもどこまでも続いていた。

そこから長い長い時間をかけて天地開闢てんちかいびゃくしたとき ・ ・ ・ ・ まぁ、つまり、天と地がなんとなく分かれたとき。やっと1人の神が生まれた。

彼の名前は天御中主神アメノミナカヌシノカミ。"アメノ"は苗字みたいなものだから、"ミナカヌシ"が名前になるのだろう。日本に生まれた最初の神だから彼が最高神ってことになる ・ ・ ・ ・ ・ ・ はずなんだが。神話の中で彼が他の神からそんな扱いを受けるシーンは1度も出てこない。言ってしまえば、空気な神だ。ミナカヌシは生まれてから、しばらくの間ボーっとしていたが、特に何もする事が無かったので、取り敢えず姿を隠す事にした。

その後に生まれたのが高御産巣日神タカミムスビノカミだ。名前が長いので、いつもは『高木神タカギノカミ』って呼ばれている。高木神タカギはふわふわした感じの癒やし系で、周りにはよくピヨピヨと鳥が飛んでいる。雲の上と言うよりは森の中に住んでいそうな雰囲気だ。しかしその時は彼もすることが無かったので、すぐに姿を隠した。

続いて生まれたのが神産巣日神カムムスビノカミ。カムムスビは見た目は男、中身は女、そしてその正体はオネェだ。恋バナとイケメンが大好きで、神を結ぶと言う意味の自分の名前を「愛のキューピッドみたいじゃない?」とか言って非常に気に入っている。この時は、彼もすぐに姿を隠してしまった。

その後も2人、宇麻志阿斯訶備比古遅神ウマシアシカビヒコヂノカミと天之常立神アメノトコタチノカミとかいう神が現れて姿を隠した。この最初に生まれた5人が「別天つ神」ことあまつかみと呼ばれる特別な神だ。

最初に生まれた彼らにはまだ性別という概念が無かった。
男でも女でもない『独神ひとりがみ』と呼ばれる神々なのだ。なのでカムムスビは、自分は地上のオネェよりは女性に近い存在なのだと常日頃から主張している。

それからも続々と神が生まれて来るが、別に全員を覚える必要は無い。なんせこの後、別天つ神ことあまつかみの中でも話に出てくるのは、高木神タカギとカムムスビくらいなもんなのだ。あ、あと、空気な最高神のミナカヌシがちょっぴりだけ。

さて、別天つ神ことあまつかみの後にさらに2人の独神ひとりがみが生まれると、その後にやっと性別のある神が生まれた。男女ペアの神が5組だ。この5組のペア神と2人の独神ひとりがみは合わせて、「神代七代」かみのよななよって呼ばれている。

その中で一番最後に生まれた、伊邪那岐命イザナギノミコトと伊邪那美命イザナミノミコトが最初の主人公になる神だ。名前くらいなら聞いた事があるだろう。なんせこれから日本の島々を産む神なのだ。

こうして神々の数が増えてくると、おしゃべりも増え、そのうち天界は『高天原』たかまがはら、地上は『葦原の中つ国』あしわらのなかつくに、いつの間にか発生した冥界は『黄泉の国』よみのくにと呼ばれるようになった。

しかし高天原たかまがはらが活気づく一方で、葦原の中つ国あしわらのなかつくには全く栄える気配が無かった。海は広がっているものの、島も人も見当たらない。それを不思議に思ったミナカヌシは、高木神タカギとカムムスビを呼びつけて会議を開いた。
3人は葦原の中つ国あしわらのなかつくにを盛り上げるにはどうしたらよいか話し合い、その結果、末っ子のイザナギとイザナミを降ろし、国づくりをさせることに決めた。

ミナカヌシは早速イザナギとイザナミを呼びつけ、地上に国を作るよう命じた。そしてイザナギに天沼矛アメノヌボコという、玉飾りの凝った装飾がしてある美しい矛を渡した。この矛には地面を固める不思議な力があるから、小さな島くらいなら作れるはずだ。
イザナギは天沼矛アメノヌボコを受け取ると、まだあどけなさが残る顔の上にハテナを浮かべながら質問した。

「"くに"って ・ ・ ・ 神とか、王とか、人とかがいるやつですか?」

「そうそうそんな感じ。何か困ったことがあったら、いつでも帰っておいで。」

なんて適当に答えて2人を送り出したものの、実はミナカヌシにも国って何なのかよくわかっていなかった。だって、この時はまだ人間どころか島すら無かったのだからしょうがない。

こうして、この国は神々の気まぐれから作られることになった。

イザナギとイザナミ

イザナギとイザナミ

別天つ神ことあまつかみの神殿を出たイザナギは天沼矛アメノヌボコを片手に持ち、呆然ぼうぜんと立ち尽くした。だいたい、国づくりをしてこいって、こんな矛を渡されたものの、コレ一本で何ができるんだろう。

てゆうか、そもそも『国』って一体なんなんだ。

イザナギは取り敢えず、自分たちが降りる場所が必要だと思った。だって地上にはまだ島すら無く、海の上に油みたいな、よくわかんないものがプカプカとクラゲみたいに漂っているだけなのだ。イザナギは、イザナミを連れて天浮橋アメノウキハシに向かった。この頃はまだ天と地の間が近かったので、天浮橋アメノウキハシからは葦原の中つ国あしわらのなかつくにがよく見えたのだ。

「ねぇ、イザナギ!見て見てっ!!水の上になんか変なのが浮いてるっ。気持ちわるーい!!」

葦原の中つ国あしわらのなかつくにを見たことがなかったイザナミは、無邪気にはしゃいだ。超かわいい。彼女のおかげで少しだけテンションの上がったイザナギはミナカヌシに言われた通り天沼矛アメノヌボコで地上をつっつくことにした。

早速、2人が海に矛を突き刺し『こおろ、こおろ』と掻き回して引き上げると、矛の先から塩が滴りみるみるうちに固まって、小さな島ができた。
思ったよりも簡単に島ができたので、イザナギのテンションはさらに上がった。せっかくなのでその島の名前を考えた。

「ねぇ、イザナミ。この島、淤能碁呂島おのごろじまって名前にしない??ここに神殿を作ろうよ。そこで一緒に住むんだ!」

「わぁ!楽しそぉっ!!」

イザナギの提案をイザナミは大喜びで賛成してくれた。こうして、2人は淤能碁呂島おのごろじまに降り、大きな大きな神聖な柱を建てて、それを中心に広い神殿を築いて住んだ。


そんなある日のこと、イザナギはずっと前から気になっていた疑問をイザナミに投げかけた。

「 ・ ・ ・ ・ ねぇねぇ、イザナミ、君と僕って一緒に生まれたのに、なんか形が違う気がしない?? ・ ・ ・ 君の身体ってどんな形してるの?」


「え??なんか、身体の形はできてる気がするんだけど ・ ・ ・ ・ ・ 」


「だけど?」


「うーん、あのね、私の体 ・ ・ ・ 何か足りないところがあるの。」


「へぇ!!実は僕の体もだいたいできてるっぽいんだけど、なんか余計なものがくっ付いてるんだ!!ずっと気になってたんだけど ・ ・ ・ ・ ・ 何でなんだろ??」

好奇心旺盛に目を輝かせるイザナギだったが、正直なところ、イザナミはその答えを知っていた。しかし、ここは取り敢えず、知らないフリをする。

「うぅん ・ ・ ・ なんでかしらね?」

しかし、イザナギは早々に答えを導き出す。

「ねぇ!もしかしたらさ、君の足りたいところを僕の余計なところで埋めたら、なんか良いことが起きるんじゃないかな??」

「えっ!?ヤんのっっ??」

「ん??やる??何を???」

予想外の展開にイザナミは戸惑った。いやいやいやいや。女子の足りないところを男子の余分なところで補うアレって言ったらソレしかないだろ。そう思いながらも念のため確認をする。

「 ・ ・ ・ ・ ・ 本当に分からないの?カムムスビ様にあれやこれや詳〜しく聞かされなかった??」

「なんだよ ・ ・ ・ 。知ってるなら教えてよ。」

イザナギは少しイライラした様子で答える。どうやら本当に分からないらしい。

「うぅん ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ わかった。じゃあ、教えてあげる。」
「やった!」
「でも、その前にしたいことがあるの。」
「何?」
「 ・ ・ ・ ・ ・ ・結婚。」
「結婚??わぁ。楽しそうっ!!なんだか、大人な展開だね!!」

『いや、エッチなことする時点で大人な展開なんだけど。』とイザナミは思ったが、そこはスルーした。取り敢えず、籍さえ入れてしまえばこっちのものだ。イザナミは結婚式の準備をそそくさと進めた。

こうして準備が整うと早速、日本初の結婚式が始まった。イザナミはいつもより豪華な衣装を身に纏い、とっても幸せそうだ。そんな彼女に見とれていたイザナギは、いざ本番になるとガチガチに緊張した。

2人はまず神聖な柱の前に背中を合わせて立った。そして、柱の周りをイザナギは左から、イザナミは右からくるりと周り、出会ったところでハイテンションのイザナミから声をかける。

「まぁ!なんて素敵な方なんでしょうっ!!」

続いてイザナギがドキドキしながら、ぎこちない返事を返した。

「ワァ。なんてキレイなヒトなんだ。」

こうして、日本初の結婚式は、あっさりと終わった。

「よし!これで、結婚成立ねっ♪」

イザナミはとっても満足気だ。一方のイザナギは一瞬で終わってしまった結婚式に戸惑っていた。


「え??早っっ!!本当にこれでいいの??てか、僕の方から、声掛けた方がよかったんじゃない?」


「いいのいいのっ!さっ、お布団に行きましょ♪♪」

イザナミは、イザナギの手を引っぱりさっさと寝室に向かった。

「えっ??イザナミ??ちょと ・ ・ ・ 待ってよ!!え?何っ??なにっ??何すんのっっ??? ・ ・ ・ ・ ちょ ・ ・ ・ 待っ ・ ・ ・ ・ ・ ・ はぅっハート

こうして2人はトントン拍子に初夜を迎えた。



神産み

なんとなく国の形ができ、イザナミはとってもご満悦だった。しかし、そのおかげで最近ご無沙汰ぶさたになってしまったイザナギは、どうもテンションが上がらずにいた。



そんなある日。



「イザナギ、見て見て〜!」

大量の魚や、穀物こくもつを両手いっぱいに抱え、イザナミが満面の笑みで走って来た。

「え??どうしたの?その魚??」

「さっき、人間がココに来てね、島を作ってありがとうって、これくれたの!!」

「は?人間っ?? ・ ・ ・ ・ ・ ・ この島に住んでるの??いつの間に???」



実のところ日本神話にはどこにも人間の起源きげんが載っていない。『神話としてどうなんだ。』という疑問はあるが、この島の人間はみんな、どっかから勝手に生えてきたのか、なんかの神様の子孫ってコトらしい。



「細かいことは気にしないのっ!!そんなことより私ね、この島に暮らす人たちを、幸せにしたいの。だって、私たちが産んだ島に住んでくれてるんだもん!!」

「え ・ ・ ソレって ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ めっちゃ良い考え!!僕もみんなを幸せにしたいっ!!」

「本当っ??よかったぁ〜!イザナギ最近、元気なかったから・・・」

「はぁ??いやいや、気のせいですよ。でも、これから忙しくなるなっ!!だって、みんなを幸せにするためには、たくさんの神様が必要だろ??」



イザナギは嬉うれしそうに二カッと笑って見せた。



こうして、島を産み終えた2人は、続いて神々を産むことにした。
まずは、人々の暮らしを守るため、家に関わる7柱の神々を生んだ。続いて、水に関わる3柱、海の神、河口の神、水の神。自然の神を4柱。風の神、木の神、山の神、野の神。また、子供たちも自分に関わる神を次々と生んで、孫もできた。

と言ってもイザナギとイザナミは神様なので全然老けない。

子供たちはどんどん大きくなり次々と淤能碁呂島おのごろじまを旅立った。みんなが離れて行くのは寂しかったが、日本の島々が豊かな自然に囲まれていくのが実感できて2人はとっても幸せだった。



しかしそんなある日。イザナミが生産に関わる神々を産んでいると、思わぬハプニングが起こってしまう。



「っっっっ!!!あああああああああ!!!痛い痛いイタイイタイイタイ!!!」



神殿中にイザナミの大きな悲鳴ひめいが響ひびいた。

火の神であるヒノカグツチを産んだ時に、イザナミが陰部に大やけどを負ったのだ。彼女はなんとか一命を取り留めたが、高熱が治まらず病の床に臥ふした。

それからというもの、イザナギは毎日毎日イザナミの看病に努めた。しかし、彼女の病は一向に治る気配が無い。ただでさえ苦しそうなのに、イザナミは神産みのことばかり考えていた。

「どうしよう ・ ・ ・ まだみんなが幸せになれるだけの神様が揃そろってないのに。」

「 ・ ・ ・ ・ 大丈夫だよ。神産みは君が元気になってからでいいじゃないか。」

イザナギは安静にするよう促うながしたがイザナミは苦しみもがくと、嘔吐おうとし糞尿を垂れ、そこからも鉱山の神、土の神、生成の神を生んだ。彼女のこんな姿見ていられない。



「イザナミ、神産みはもういいって!お願いだから、じっとしててよ ・ ・ ・ ・ ・ 」



イザナギは、この急な展開に着いて行けないでいた。だって、ついこの前まであんなに元気だったのに。あの何気ない幸せな日常が遠い昔の奇跡にみたいに感じる。日に日に痩やせ細っていく彼女を見ると、胃がキリキリしてどうかなりそうだ。



そして、その日のイザナミは一段と衰弱すいじゃくして見えた。



彼女は最期さいごの時がすぐそこまで近づいて来ている事を感じていたのだ。



『イザナギに、ちゃんとお別れ言わなくちゃ ・ ・ ・ 。』




イザナミは、上半身を起こそうと試みたが、そんな体力すらもう残っていなかった。それを見た彼がそっと肩を抱いてくれた。彼女の身体は切なくなるほど軽かった。



「イザナギ ・ ・ ・ ・ ごめんね。国づくり、最後までできなくて ・ ・ ・ ・ ・ ・ 」



「そんなことで謝らないでよ。イザナミが元気になることの方が大事じゃんか。」



「うん ・ ・ ・ ・ りがと。 ・ ・ ・ ・ ・ でも、私がいなくなっても、もう大丈夫だよ。
・ ・ ・ ・ ・ ・ だって ・ ・ ・ あなたと、たくさんの子供達がいるもの ・ ・ ・ ・ ・ 」



「 ・ ・ ・ 何だよそれ。止めてよ。まるで、死んじゃうみたいだ。 ・ ・ ・ ・ ・ 嫌だよ。君がいない国なんて作ったって意味が無いじゃないか ・ ・ ・ ・ ・ 何のための国づくりかわからない ・ ・ ・ だって ・ ・ ・ 君がいなくちゃ ・ ・ ・ ・ 」



そう言いながらも、どうにもならない状況に、イザナギの目からは大粒の涙がポロポロと溢あふれてきた。イザナミは申し訳なさそうに笑った。



「ごめんね ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ずっと、見てたかったなぁ ・ ・ ・ ・ ・ このくにのこと ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 」



「そんな ・ ・ ・ ・ 嫌だよ ・ ・ ・ ・ ・ ずっと一緒に見守っていこうよ ・ ・ ・ ・ 」



「ううん ・ ・ ・ ・ あと ・ ・ ・ ・ お願いね ・ ・ ・ ・ ・ 」



イザナミの声がどんどん小さくなっていく。



「嫌だ ・ ・ ・ だめだよ、イザナミ ・ ・ お願いだ ・ ・ ・ ・ ・ 目を閉じないで ・ ・ ・ ・ ・ ・ 」



「 ・ ・ ・ ・ ・ ナ ・ ・ ・ ギ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ りが ・ ・ ・ と ・ ・ ・ ・ ・ 」



「イザナミっっ!! ・ ・ ・ だめ ・ ・ ・ ・ ・ 死なないで ・ ・ ・ ・ ・ ・ お願い ・ ・ ・ ・ ・ お願いだから ・ ・ ・ ねぇ ・ ・ ・ イザナミ ・ ・ ・ ・ ・ 」



イザナミは静かに息を引き取った。しかし、イザナギは彼女を抱きしめながら語りかけ続けた。

「イザナミ、イザナミ、愛してる。大好きなんだ ・ ・ ・ ねぇ、イザナミ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 逝いかないで ・ ・ ・ ・ ・ ・ 」



イザナギは何度も何度もイザナミの名前を呼んだが、彼女はもう動かなかった。イザナギの中に悲しみとも怒りともわからない感情が込み上げてくる。



「嫌だ ・ ・ ・ ・ ・ 何でだよ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 大好きなのに!こんなに好きなのに ・ ・ ・ ・ ・ !!!!なんでたった一人の子供のために大事な君を失わなきゃいけないんだっっっ!!!!あ"あぁぁぁっっ!!!!!」



イザナギは周りも気にせず泣き叫んだ。彼の目から、あまりにもたくさんの涙が溢あふれ出たので、その涙から泉の神が生まれるほどだった。



しかし、いくら泣いても、いくらさすっても、いくらもだえても、彼女は動かなかったので、仕方なく出雲いずもの比婆山ひばやまにお墓をつくった。







・・・イザナギは彼女の墓の前でだた呆然ぼうぜんと立ち尽くしていた。







そして自分でもどのくらい経ったのか忘れた頃、後ろから声がかかった。





「 ・ ・ ・ ・ ・ 父上 ・ ・ ・ ・ ・ あの ・ ・ ・ ・ ・ 俺のせいだ ・ ・ ・ 俺のせいで ・ ・ ・ ・ ・ 」





それは、イザナミの火傷やけどの原因となった火の神、ヒノカグツチの声だった。





長い沈黙が流れた。


ヒノカグツチが重い空気に言葉を発することができず押し黙っていると、イザナギはゆっくりと、下を向いたまま振り向いた。







「 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ あぁ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ そうだよ。」







そう言って顔を上げたイザナギと目が合うと、ヒノカグツチは思わず後ずさった。覚悟をして声を掛けたものの、もう頭の中も心の中もがぐちゃぐちゃ苦しくて痛くて言葉が出て来ない。そうしている間に、イザナギは一歩づつ一歩づつ近づいてきた。



「そうだよ ・ ・ ・ ・ お前さえ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ お前さえ生まれなければイザナミは死ななかったんだ ・ ・ ・ ・ ・ ・ お前さえ ・ ・ ・ 生まれて来なければっ!!!!!」



そう声を荒げながらイザナギは十拳の剣とつかのつるぎを抜きヒノカグツチに襲いかかった。ヒノカグツチは覚悟を決め目を瞑った。



ザクッッッ ・ ・ ・ ・ ・



ヒノカグツチの首が宙に飛んだ。イザナギは怒りに耐えられず、自分の息子を殺してしまったのだ。それでもイザナギの心は収まらず遺体をバラバラに切り刻んだ。



「お前さえ ・ ・ ・ ・ ・ ・ お前さえっっ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ !!」



ビチャビチャと音を立て、辺り一面に血が広がった。その血からは次々に8人の神が生まれ、バラバラになった亡骸なきがらからも8人の神が生まれた。火の力をコントロールするための神々だった。



ヒノカグツチがぴくりとも動かなくなるとイザナギは途方に暮れ天を仰いだ。



そしてまた たくさん泣いた。


黄泉の国よみのくに

ヒノカグツチを殺しても、イザナギの悲しみは癒えなかった。淤能碁呂島おのごろじまに帰っても彼女との思い出ばかりがよみがえり、死を受け入れることができない。どうしてもまた彼女に会いたかった。

『いっそこのまま自分も死んで死者の国へ行こうか・・・』

と考えたその時、ふとある事を思いつく。



「 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 死者の国?そうだよ。バカだな ・ ・ ・ ・ 何で気づかなかったんだ。黄泉の国よみのくにに行けばいいじゃないか!!きっとまたイザナミに会える!!共食きょうしょくが済んだら大変だ。急がないと!!」



共食きょうしょくとは死者が黄泉の国よみのくにの住人になる儀式のことだ。黄泉の国よみのくにの釜戸かまどで炊いた飯を黄泉よみの神々と一緒に食べると、現世には戻れない決まりになっていた。

いても立ってもいられず、イザナギは走った。休まず走り続け、黄泉の国よみのくにへと続く『黄泉比良坂よもつひらさか』も駆かけ下りた。するとそこには、この世とあの世を遮さえぎる御殿の石の扉があった。まだ昼間だというのに薄暗く、寒気がする。



「ハァ ・ ・ ・ ハァ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 着いた、ここだ ・ ・ ・ ・ ・ ・ おい!誰かそこにいないか?? ・ ・ ・ ・ イザナミ!いないのか?」



石の扉を叩きながら叫ぶと声が反響はんきょうし、冷たく響ひびいた。返事はない。イザナギはさらに声のボリュームを上げた。



「イザナミ!!イザナギだ!!!迎えに来たんだ!! ・ ・ ・ ・ ・ ・ 誰もいないのか?誰でもいい!イザナギが迎えに来たと、イザナミに伝えてくれ!!!」



「 ・ ・ ・ ・ ・ ・ うそ?本当にイザナギなの ・ ・ ・ ・ ?」



「イザナミっっ!!」



それは、大好きなイザナミの声だった。嬉うれしさで思わず涙が滲にじむ。

「なんだよ、すぐそこにいたんじゃないか。こんなに早く君の声が聞けると思わなかった ・ ・ ・ また君の声が聞けるなんて ・ ・ ・ ・ ・ ・ 」

しかし、扉の向こうのイザナミには、喜んだ様子は無い。イザナギは不安になり、再び彼女に呼びかけた。

「君を迎えに来たんだよ。もう、大丈夫だ。一緒に帰ろう!!」

「イザナギ ・ ・ ・ ・ ごめんなさい。私、あなたと一緒に帰れないの。もう、共食きょうしょくしちゃったから ・ ・ ・ ・ 。」

それは予想した最悪の事態だった。しかし、扉のすぐ向こうにいる彼女をそう簡単に諦あきらめられるわけがない。

「な ・ ・ ・ ・ ・ 何言ってるんだよ!飯を食ったくらいで戻れなくなるものか!!」

「 ・ ・ ・ ・ イザナギ ・ ・ ・ せっかく迎えに来てくれたのに ・ ・ ・ ・ ・ ごめんなさい ・ ・ ・ まだ私が共食きょうしょくを終えていなければ ・ ・ ・ ・ 」

「まだ大丈夫だよ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 」

「イザナギ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 無理だよ ・ ・ ・ ・ ・ 」

「そんな ・ ・ ・ ・ 嫌だよ。僕はただ、また君に会いたいだけなんだ ・ ・ ・ ・ ・ 君に触れたい。抱きしめたい ・ ・ ・ だって、こんなに近くにいるのに ・ ・ ・ ・ ・ 君も同じ気持ちじゃないの?」

「それは ・ ・ ・ ・ ・ ・ もちろん私だって ・ ・ ・ ・ でも ・ ・ ・ ・ ・ ・ 」

長い沈黙が続き、イザナミがやっと口を開いた。

「ハァ ・ ・ ・ わかった。黄泉よみの神々に、戻れないか相談してみる ・ ・ ・ ・ ・ ・ 」

「よかったっ! ・ ・ ・ きっと大丈夫だよ。僕も一緒に行く!!」

「ダメっ!!!」

イザナミは強く拒絶した。予想外の反応にイザナギはひるむ。彼女はそのまま言葉を続けた。

「っっ ・ ・ ・ ・ ・ ・ イザナギを ・ ・ ・ 黄泉よみの空気で穢したくないから。わかるでしょ?だから待っている間、絶対にこの扉を開けないでね。絶対 ・ ・ ・ ・ ・ ・ 約束よ。」

「え ・ ・ ・ ・ ・ あぁ ・ ・ わかった。」

いつもと雰囲気の違うイザナミに違和感を感じながらも、イザナギは承諾した。






イザナミは、黄泉よみの神々の交渉へと向かい、イザナギは扉の前で待つことになった。

イザナギはずっとずっと、待って待って待ち続けた。しかし、いつまでたってもイザナミは帰って来ない。扉に向かって何度か声を上げたが誰の返事もない。外は今頃、真夜中だ。

やっぱり、さっきのイザナミの様子はおかしかった。きっと何かあったんだ。黄泉よみの神々とモメているのか?? ・ ・ ・ 彼女だけじゃ心配だ。僕も説得しに行こう。



「黄泉よみを敵に回しても無理矢理連れて帰ってやる。」



そう決意し、髪に挿していた、竹の櫛を取り火を灯すと、岩の扉をこじ開け中に進んだ。しかし、進めど進めど何も無い。辺りは死臭が漂い、鼻がもげそうなほどだった。彼はさらに奥に進んだ。それでも何も無い。『一度戻って、もう少しイザナミを待とうか』と考え始めたその時、彼の足に何かが引っかかった。



「痛てっ! ・ ・ ・ ・ なんだこれ?」



イザナギが"ソレ"に明かりを近づけると、"ソレ"は大好きな人の声を発した。



「 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ イザナギ?」



「うっ ・ ・ うあああアアアアァァァ!!」



そこには、目が落ち窪み、あちらこちらが腐りウジの湧いたイザナミの姿があった。 ・ ・ ・ と言っても、イザナミと判断できるのは、声くらいなものだ。



「うそだ ・ ・ ・ ・ 嘘だろ? ・ ・ ・ ・ ・ ・ イザナミなのか??」



「 ・ ・ ・ ・ ・ 何で入って来たの? ・ ・ ・ こんな姿、イザナギに見られたくなかったのに ・ ・ ・ あの時のままの私を見ていて欲しかったのに ・ ・ ・ ・ ・ ・ 」



彼女が手を延ばしてきた。イザナギは思わず振り払う。



「うわっ、触るなっ!!」



「そんな ・ ・ ・ ・ 酷い。だから ・ ・ ・ だから入らないでって言ったのに ・ ・ ・ ・ ・
私にこんな恥をかかせるなんて酷すぎる ・ ・ ・ 酷いよ ・ ・ ・ ヒドイ ・ ・ ヒドイひどいひどい ・ ・ ・ ・ ・ 」



イザナミは何かが壊れてしまったかのように同じ言葉を繰り返した。恐怖からイザナギが後ずさると、彼女はピタリと黙った。



「イザナミ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ?」



「 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・コロシテヤル。」



彼女の辛うじて残っていた片側の目と目が合った。イザナギは自分でも情けないと思うほど大きな悲鳴ひめいを上げると、踵を返し一目散で出口に走った。

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