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みんなにやさしい自作小説コミュの童話 機械式

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『機械式』


「かあさん、そろそろ行かないと」

「そうねおとうさん。でもちょっと待ってね。

ねじ巻いてから出かけることにします」

「そうか、それじゃわしも」

外は真っ暗です。

しかしこの日は年に2回しかない記念すべき収差±0の日。

この国では、たいていのお家の子どもはこの記念すべき日の翌日に生まれるので、

お誕生日は大体みんなそろうのです。

だからこの国では登録順に、

子供たちに政府発行のシリアルナンバーが心臓に打ち込まれます。

2ビート家の坊やもこの日、母親が家の庭にあるノーモンと呼ばれる、

どこの家にもある時間あわせに必要な祭壇の上に、子供の心臓をお祭りするのです。

この心臓はお家によって全部形が違います。

すると翌日、たくさんの星の恵みを受けた心臓は鼓動し、

それを生まれた子供の胸に収めるのです。

この世界の人々はみな、神と呼ばれる人間から作られた人型機械で、

その最初の人型、すなわち今の王様であるテュールビヨン王が

最初の仲間を初めて作り、その仲間がまた別の仲間を作ってできた国でした。

なので、王様は世界でただ一人、神様と謁見した方で、みんなに尊敬されていました。

2ビート家の家族も子供のために翌朝、ノーモンに祭られた心臓を取りに行きました。

すると、見る見る父親の顔色が変わっていくのが判りました

「あなた、どうしたの?そんなに怒ると心臓に良くありませんよ」

「おまえ、でもこれを見てくれよ」

「そこで母親は庭の祭壇に出ると口を押さえ、目から涙を流しました」

ノーモンの上に置かれた心臓には心無い者の手で泥が擦り付けられていたのです。

「かあさん、悲しむのはおよし。今から直そう」

「だってお父さん、坊やのお役所への申請は夕方までなのよ」

「うん、とにかくがんばってみるよ」

両親は時計皿と洗い油と工具を持ってくると、

作業室の中に入って行きました

「私たちが旧式の手巻きだからみんなが馬鹿にするのね」

「何を云うんだい、手巻き機械式は由緒正しい初代テュールビヨン王が直々にが手がけた歴史ある ムーブメントなんだよ。

私たちはそれを引き継いでいるんだ。もっと誇りをもちましょう。お母さん」

「でもお父さん。世界は自動でねじを巻かれた機構の心臓を持つものばかり。中には最新の電気式もいるって話よ」

「なんだい、その電気式って」

「歯車も脱進機も香箱も無い新型だって話よ」

「人は人、家は家だよ。わが2ビート家の坊やには、やはりこの心臓を与えるんだ。

それが2ビート家の伝統であり、誇りなんだよ。それにもし、うちが裕福ならもうとっくに…」

「おとうさん…」

お父さんは声を詰まらせました。

2ビート家の坊や、はいまだに目を閉じたままゆりかごの中で横たわったでした。

そしてとうとう夕方近くになりました。

「お父さん。早くしないと日が沈みますよ」

「ああわかった、後このねじを締めてっと、ほぅ、やっと完成だ。

さあ早くノーモンにこれを乗せてくれ」

「お父さん、でも星の恵みが…」

「お母さん、星は昼も出てる。ただ見えないだけなんだよ。いいかい」

「そうなのね、お父さん」

お母さんはねじを八分目まで巻くと、ノーモンの祭壇に心臓を掲げました

するとまもなく、カチカチとちいさな鼓動が鳴り出しました。

「お父さん。この音を聞いてください。坊やの心臓が動きだしましたよ」

「おや、早いね。昼間だからか。

ただ儀式は本当は夜やらねばならない。このことは誰にも言わないことにしよう」

実はこの世界で昼間にノーモンに心臓を祭っていいのは、

王家の坊やだけだったのです。

昔からあの太陽は王家直属の物で、民衆は日の恵みを受ける代わりに、

お城に「太陽税」を納めていたくらいです。

しかし2ビート家の子供には時間がありませんでした。

子供は無事登録を済ませましたが、

シリアルナンバーはZZZが3桁並ぶ目立つ番号になりました。




2ビート家の坊やはその後もすくすく育ち、

やがて幼稚園に入園するまでに成長しました

そのころになると2ビート家の坊やにもやっとお友達ができました。

今では4ビート家の坊やと、8ビート家の坊やと仲良く遊ぶようになりました。

でも、

彼らは2ビート家の坊やと違って自動巻きだったので、お昼寝のときに、

優しい先生にねじを巻かれる2ビート家の坊やのことをうらやましく思い、

みんな先生にリューズを巻いてとおねだりしましたが、

先生は「あなたたちは巻かなくてもいいの。

でもこの坊やは先生がリューズを引いて巻いてあげないと死んじゃうの。

だからみんなも聞き分けてね」

とおっしゃいました。

するとみんなはしぶしぶ

「はーい」と返事をして布団の中にもぐりこみました。

でも8ビート家の坊やは先生の話に納得がいきませんでした。

そんなある日、とうとう悲劇が起きてしまいました。

それは先生がほんの少し子供たちから目を放した隙の出来事でした。

あの8ビート家の坊やが2ビート家の坊やのネジを

「君のネジ、僕が巻いてあげる」といって、巻きだしたのです。

2ビート家の坊やは嫌がりましたが、

体の一回りも大きな8ビート家の坊やは彼の上に馬乗りになって

わき腹にあるリューズを引き出し、カリカリと巻き上げ始めました。

その様子を4ビート家の坊やは横で見てて、

嫌がる2ビート家の坊やがかわいそうになり先生に知らせに行きました。

そして先生がみんなのいる教室に戻ると同時に「パチン」と、

何かがはじける音がして、8ビート家の坊やがあわてて庭に走って逃げてゆく姿が目に入りました。

そのとき、先生が8ビート家の坊やを追いかけようと立ち上がると同時に、

2ビート家の坊やは力尽き、へなへなと床に座り込むとそのまま倒れて動かなくなってしまいました。



驚いた先生は、2ビート家の坊やを抱きかかえると、ベットに寝かせ、

心臓の音を確認しました。しかし、鼓動はもう聞こえませんでした。

そのころすでに8ビート家の坊やはべそをかきながらほかの先生によって捕まえられていました。

そしていったい何があったのか坊やに聞くことにしました。

すると

「2ビートの子ばかり先生にちやほやされるのがうらやましくって、

僕も彼のぜんまいを巻いたんだ。そしたら、

パチンて音がして動かなくなっちゃった」

せんせいは話を聞いて、あわてて救急車を呼ぶと、

2ビート家の坊やのご両親を呼び、一緒に病院に向かいました。

そして、原因が判りました。2ビート家の坊やの心臓のネジは、

巻きすぎてひげゼンマイがねじ切れてしまったのです。

お母さんは悲しみにくれました。

お父さんも泣きました。

だって、切れたひげぜんまいの予備は、もうこの国にはなかったからです。

そして、子供のなきがらをつれて帰ると、その晩、

ノーモンに掲げることにしました。

「お父さん、もうこの子は生き返りませんよ」

お母さんは悲しみながら言いました。

「ああ、でもこの子は夜の祝福をまだ受けてなかったから、

せめて棺おけに入れる前に星々に祝ってもらおうと思ってね」

と、お父さんも言いました。

「お父さん。あたし悔しいよ」

「お母さん。ごめんね、僕に力が無くて」

その晩、2ビート家は悲しみであふれかえりました。

二人はいつの間にか、自分たちを呪い、坊やの不憫を哀れみ、世間を呪っていたのです。

そしてとうとう、2ビート家の人々はどこかに行ってしまいました。

そして、あの坊やの姿もどこにもありませんでした。

町のみんなは2ビートの家族は身投げしたのだと思い始めていました。








だってこの国の周りには大きな海があって、

国民は錆を恐れて誰も海の外には出られなかったからです。

しかし、2ビートの家族はそんな危険を押し切り、

ビロードのガラス瓶の船に家族を乗せると、中からコルクで栓をし、

大きな帆をを張って海を渡ることにしたのです。

もちろん坊やの命を助けるためにです。

お父さんはその昔、ひいお爺さんの生きていた時代に聞かされた、

人間の住むといわれる伝説の国に向かうことにしたのです。

おそらくこのことを知っているのはテュールビヨン王家と、

古くからある2ビート家くらいのものでしょう。

実は、ひいお爺さんはテュールビヨン王家の執事を勤め上げた偉いお方だったのです。

家族は長いこと海を漂いました。あるときは大きな魚に飲み込まれ、

そしてあるときは巨大な見たことも無い

船のスクリューに巻き込まれたこともありました。

空には大きな火柱が上がり、山が噴火し、

やがて冷たい氷で覆われた海原に何年もの間閉じ込められましたが、

それでも2ビート家の人々は必死に生き続け、

とうとう人のすむ国にたどり着いたのです。

実は2ビート家のお父さんは、船出するときに、

ひいお爺さんが残した紙を瓶の内側に外から見えるようにぴったりと貼っておいたのです。

そこには「修理依頼。スイス、ジュネーブの時計の町の○○様」宛

とかかれ、

着払いのスタンプが押されていました。

瓶はやがて漁師の網に掛り、人間に拾われると、その人は親切にも郵便局に届けてくれました。

ちゃんと行き先さえかいてあれば途中でとられることはありません。

○○伯爵の家にたどり着いた事はまさに奇跡だったことでしょう。

しかしそのふるいガラス瓶の中の時計たちのことを知っている人は

誰もいませんでした。

でも、

先代の祖先の文献に時計島の話が出ていて、

初代伯爵があの島の王様を作った記録が残されていたのです。

そこで、興味津々の時計職人たちが大勢集まると

先代の職人技術にみんな驚かせられたのです。


しばらく寝ていたお父さんとお母さんは、

たくさんの人間に囲まれていることを知って大変驚きましたが、

自分たちの自己紹介と境遇と、死んだ我が子の話をすると、

人間たちは悲しみ、そして職人魂に火がともりました。人間たちは家族たちみんなに工場を見せて案内し、今も彼ら人間たちが時計職人であり続け、多くの仲間を作り続けていることがわかりました、


そして人間たちは2ビート家の人々に、

「あなた方の勇気をたたえ、皆さんに何不自由の無い体を与え、

機械式の国のすべての時計の検査に行きましょう」と約束してくれたのです。


その後、家族は人の国で

最新の心臓と

200メートルの防水の体と

計算されつくした万年カレンダーと

すべての星の運行を計算した星座板に

内臓はすべて電気制御にもかかわらず機械式のシステムはそのまま。

なので

地球の重力にもう影響されることの無い脱進機と、

美しい歌声て時を告げる時報

それと、温度と動くことによって巻き上げる二つの仕掛け、

それに、人とのつながりの証としての電波制御の時刻修正機、

錆びてがたがたの体には新しく金張りが施され、

陶器にヒビの入ったダイヤルは新しく焼きなおされ、

風防はサファイアガラスに、そして

バックには美しいエナメルで描かれた花の絵が書き加えられました。


「どうですか?新しい体は気に入っていただけましたか?」


しかし両親はなぜか浮かない顔

「何かご不満でも」

「いえ、お志はうれしいのですが、これはもう私たちじゃありません」

と、お父さんが言いました

「ええ、あたしもたしかに不便を感じてはいましたが、

やはりこれはあたしたちじゃないわ」

とお母さんも言いました

「そうですか、それは残念です、

私たちはあなた方の古い体の歴史的重要性に驚いています。

先祖の作ったものが今こうして動いていること自体不思議に思えて仕方ないのです。

ただ、あの体はもうがたが来ていていつとまるか判りません。

どうかこれからも生きて活躍してほしいのでこの新しい体を受け取ってもらえませんか?

その代わり私たちはいつでもあなた方が昔の体を返してほしいというのならすぐにお返しします。

それに、あなたたちの坊やももこんなに元気になりましたよ」

そういわれて両親が振り向くと、

そこには元気になったわが子の姿がありました。

両親たちは泣きながら坊やの側によりました。

「この子の体は、ひいお爺さんのものでしょう。

それではこの子がかわいそうです。

あのぜんまいも、作られてから200年以上たってます。

どうぞ私たち人間の申し出をお受け取り願えませんでしょうか」

2ビート家の両親はまだ新しい体になじめませんでしたが、

創造者の前ではその体がなじんでいないだけで、

いずれうまく使いこなせるようになることが判っていたのです。

そして3人は深くお辞儀すると、

「ありがとうございました」と素直に感謝し、新しい体を喜びました。



創造者である先祖は今から300年以上昔、海の真ん中に浮かぶ無人島に時計の町を作りました

そこには時計たちが自給自足できるように何でもできる自己完結した王様を置いたのです。

なぜそのようなことをしたかというと、先祖は自分の作品に自信を持っていました。

しかし、いつまで働けるのかを実証するには自分の世代では無理なことを知っていました。

そこで人里はなれた孤島に実験施設を作ったのです。

そして、その島の記録は創設者の死とともに忘れ去られてしまいました。

しかし、それも勇気ある2ビート家の人たちによって再び人が訪れるようになりました。

島で一番馬鹿にされた家族はこうして島一番の存在になり、みんなに感謝されるようになりました。

だって、忘れ去られたと思った新たな神をつれてきたのですから

今日も2ビート家の坊やは元気にお友達と遊んでいます

もう、ぜんまいがねじ切れるようなことはありませんでした。

おしまい

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