ソニーが基本的に好きコミュのベターマックスと井深さんとロンパールーム

うちの死んだ親父は「ソニーのものづくりの良心」といわれた技術者だった。死後、会社の部下だった人から聞いて初めて知ったのだが、親父がいなかったら、CDはこの世に誕生していなかったという。
　1975年に家庭用VTRが市販される前、1972年頃から我が家に「研究用」と称してVTRがあった。それは相当にがさばるものだった。1本のテープを使い回し続けていた。ベ―タマックスである。以来、30年近くのVHSとのビデオ戦争が終焉するまで、我が家は頑なにベータマックスを使い続けた。
　トランジスタラジオ、トリニトロンテレビ、ベータマックス、ウォークマン、ソニー製品はいつだって独創的だった。我が家はソニー製品に囲まれながら、生まれ育った。
　ソニーの創業者の井深大さんは幼児教育に熱心な人で、社員の子弟が小学校に進学するときに、自らランドセルを謹呈し、テレビの幼児番組の「ロンパールーム」に出演するというのがお約束だった。ぼくもこうして井深さんから直々にランドセルをもらい、「ロンパールーム」に出演した。昭和40年のことである。
　町工場に毛の生えたようなソニーが世界に冠たる企業に成長していくことと我が家が豊かになっていくこと、日本の高度経済成長とぼくの少年時代は完全にシンクロしていた。いまから思えば実に恵まれていた夢のような時代だった。
　ソニーは凋落し、気が付けば、我が家にソニー製品は一つもない。代わりにアップル製品はたくさんあるけれど。
　ビデオからDVDになり、きっと何年かしたら、新たな記録媒体が生まれているのだろう。テレホンカードが誕生したときも「20世紀最大の発明」といわれたものだった。いまでは信じられない話だが、往時茫茫である。亡くなる直前、うちの親父はスティーブ・ジョブスとも仕事をしたことがあると知ってたまげたことがあった。