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コメント(16)

扉をたたく音がする…

それは、リズムを刻んでる気がしないでもない。
と思ったら

となりのおじさんの貧乏ゆすり…
よくよくおじさんを観察してみると何やら落ち着かない様子で
辺りをキョロキョロ窺っている。

瞳孔が開きっぱなしで、額にはうっすら汗が…
手には中年のバイブル「週刊文春」を持ってはいるが、さっきから一向にページが変わらない。
彼には野望があった。
彼の汗は頬を伝わる程に発汗している。
「約2年に渡る計画」をついに今夜決行する運びとなった。」
緊張と不安で彼は今、いっぱいなのである。
準備はすべて整っている。時期も悪くないだろう…。

テーブルには今川焼きとパンティストッキングが
いよいよ来るであろう『その時』を待ちわびている。

彼が用意したものだ。

誰にも見つかってはならない…。

と、その時思わぬジャマ者が彼を困惑させた。

妻の富子(56)である。
富子はどこかのひどい方言で、彼は今だに富子が話している内容を理解出来ない。

『おんめぇはなんズーによーぉってからにあーしゃのざんぎに行かせたんぎゃ行んげんばぁよかっちゃったんろぅんにぃばーがでねぇのォ。ばぁがだよー、んまったく』

彼はやはり聞き取れず、『すまない』と答えておくことにした。
しかし、今日の「すまない」は、ただの「すまない」ではない。別の意味も含まれている。
それは、彼が今から決行するこの計画によって富子の運命も変わってしまうかも知れないことに対する謝罪だ。

意思の疎通ができたことは一度もなかったがその辺は富子は気にしてはいないようだった。いや、気にしていたのかもしれないが彼にはそれすらも理解することができなかった。

彼はまず、ストッキングを力強く握りしめた。
薄い生地がいやに触りごこちが良くて、いやらしい。
富子も昔は履いていた。
そう、若い頃の彼女は美脚の持ち主だった。そんな彼女に武男はひと目で恋に落ちた。
ひどい方言も乗り越えられると思っていた、25歳の夏。。。

まさにFall in lave

今川焼きは富子の好物なのである。
なんて富子のことを回想していると若い女が店に入ってきた。
たくさんある席の斜め向かいのテーブル席に座った女を
よくよく見てみると昔の富子そっくりではないか!!!

驚いた様子の男に、その女は全てを見透かすように『ニヤリ』
と微笑したのである。
武男の体に一瞬稲妻が走り、彼は雑誌もストッキングも床に落としてしまった。
「まさか、まさか・・・そんな事が・・・」

武男と富子の間には生きていれば20歳になる娘がいた。
しかし彼女は5年前に「ある事件」に巻き込まれてしまったのである。


武男は運命にもてあそばれだした。
今、目の前で動き出そうとしている皮肉な運命を、武男は富子に伝えるべきであろうか。

いや、富子には伝えるべきではない。仮に伝えたとしてもそのあとフォローする自信は武男にはなかった。

富子は武男の前に座り大好物の今川焼きを食べてしまっている。せっかく武男が計画実行のために用意しておいたのに…。
なにかぶつぶつ言いながら食べているがもちろん武男には意味はわからない。

武男はぼんやりと5年前の事件を思い出していた。
・・・・・

今日の狂ったように照りつける日差しに武男はイラついていた。
初めから可笑しな組み合わせではあったのだ。
だがあの時は、特に気にもしていなかった。
しかし、今はどうだろう。
気にせずにはいられない。いられるはずがない。

目の前で起きたこの偶然にただただ狼狽するばかりである。
二つのピースと二人の女が重なり合い、武男を翻弄し始めた。
五年前・・・。

武男の娘である美沙は、この春都内の高校に進学した。新しい友人もできて、楽しい学園生活を送っていたのである。学校帰りに友達と渋谷や原宿へ遊びに行くこともしょっちゅうで、武男を心配させていた。

そんなある日、いつものように渋谷で遊んでいた美沙は、ひょんなことからエリという女に出会う。美沙達が、ガラの悪い男子高校生に絡まれたところを助けてくれたのだ。
エリは美人で、人を惹き付ける強いオーラがあり、それでいてどこか寂しげな目をした女性だった。エリは出会った瞬間から美沙の心を奪った。

美沙とエリは友達になった。いや、美沙がエリについて回っていたと言った方が正しいかもしれない。しかしエリもそれを拒絶することはなかった。エリは美沙が必要だった。
エリの本当の目的も知らずに…。
ある日、エリは『大切な話があるから』と言って美沙を呼び出した。美沙は普段と違うエリの電話の声に少々戸惑ったが、エリの方から呼び出されたのは初めての事だったので嬉しくもあった。

待ち合わせのカフェに行くと、いつものようにエリはそのカフェ特製のキムチジュースを注文していた。真っ赤でドロドロとした、いかにも不味そうなそのジュースを、さも美味しそうに飲むエリが信じられなかった美沙だが、エリはいつも『韓国の血が騒ぐのよね〜』と、冗談めいた発言で誤魔化すような態度をとった。

エリは、美沙が席についたとたん話しはじめた。


数分が経過し、美沙はエリの口から出る言葉がひとつも信じられなくなっていた。ドジで、方言が全く抜けないというかわいい所があり、自分にも父にも惜しみない愛情を注いでくれる母の信じられない過去。エリがどのようにしてその事実を知ったのか、今の美沙にはどうでも良い事だった。ただただ目の前の事実に愕然とするばかりであった。

美沙はエリから、力になるよと言われた事が何よりの救いだった。母の悲しい裏切りを知ってしまった今、自分のやるべき事は、真相を確かめる事に他ならないと強く思った。エリがいればやれる気がしたのだ。母と顔を合わせるのが辛い‥と涙を流してつぶやいた美沙に、エリは家にいてもいいよと優しく言い、キムチジュースを飲み干した。 重みのある韓国の味がした。

エリの計画は、ゆっくりだが確実に進んでいる。
エリの家はJR新宿駅の繁華街から少し離れた薄暗い場所の地下だった。
親、兄弟の姿はなくどうやら一人暮らしのようだと美沙は思った。
どこからか唐辛子の臭いが立ち込めてきていた。
家の中はたくさんの本が乱雑に散らばっていて、電気はなく、蝋燭の火がふらふらと燃えているだけだった。

エリの家を見回しながら美沙は尋ねた。
「一人で住んでるの?」


その瞬間エリの形相が変わった。

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