ここ数年、愛好者が増えているサウナ。リラックス効果や爽快感が得られることから、以前からサウナに通う人は多いが、ブームが起こる度に取り上げられる注意点として「ヒートショック」がある。このヒートショックをサイエンスとして研究を進めてメカニズムを解明、安全なサウナの利用に繋げようという試みが始まっている。研究を進めることになったNTT東日本と八戸工業高等専門学校(以下、八戸高専)に話を聞いてきたので紹介しよう。

  • caption

    サウナ入浴時のヒートショック予防方法について共同研究する八戸工業高等専門学校、NTT東日本のみなさん

「健康的なサウナの入浴方法」解明に向けて

冒頭でも述べたように、サウナは広く人々から愛されてきた入浴方法のひとつだ。高温高湿度の部屋に入ることで、体が蒸されて汗をかく、そして水風呂に入るという行為を繰り返すことで、心身がリフレッシュされるというのが、この入浴方法の概要になる。

一方で、この温度差によっていわゆる「ヒートショック」が起こりやすくなるのも事実で、各方面から注意が促されてきたが、実際にはその具体的な予防方法に言及することはできなかったのが実情だった。八戸高専 産業システム工学科の古川琢磨准教授を始めとした学生らによる研究チームはこの課題に対してきちんと「生体温熱モデル」を構築し、パラメーターの変化から、効果的な入浴方法の解明やヒートショックを回避する方法などを導き出そうという研究を始めている。

NTT東日本もこの研究に同調、バイタルデータの採取に必要な機器類の提供などの具体的な支援はもちろん、同社が保有しているノウハウやアセットを活用して研究促進に貢献すべく、2022年12月には八戸高専との共同研究契約締結をしている。

両組織による共同研究によるデータ収集はすでに始められており、サウナ学会研究奨励賞を受賞するなど、いくつかの成果は確実に出始めている。今回は実際のバイタルデータを計測する実証実験に立ち会うことができたので、当日の模様をご紹介しようと思う。

  • caption

    「SPA銭湯ゆっこ盛岡」(岩手県盛岡市)

サウナを使って実証実験

今回の実証実験の場になる「SPA銭湯ゆっこ盛岡」は、岩手県盛岡市にある大浴場施設で、近隣では最大規模となることもあり、遠方から入浴に訪れる人がいるほどの人気を博している。浴場はもちろんだが、サウナにも力を入れており、ドライサウナ、スチームサウナの両施設が揃っている。今回の実験場となるドライサウナは大型の部屋で温度が安定しており、ゆったりとサウナの効用を楽しむことができる。また、温度は低めに湿度を高く設定しているので、長時間入っても髪が熱くなったり、鼻が痛くなったりしづらいのに発汗性が高いので初心者にも最適な点も特長だ。

八戸高専らによる研究チームはここに室温計、輻射温度計などの各種センサーを設置、被験者の人体深部温度も測定する。人体深部温度の測定は小型のセンサーを飲み込み、Bluetoothにより数値を読み取るという方法を取っている。もちろん、このテクノロジーはIoTデバイスを用いたもので、NTT東日本と八戸高専との協働が早速活かされている形となっており、これによって、これまで得られなかったいわゆる"体の芯"の温度変化がきちんとデータとして解析できるようになるのだ。

サウナとセンサーの準備が整うと実験が開始される。被験者はふたつのグループにわかれ、それぞれ8分間のサウナと2分間の水風呂、5分間の休憩をワンセットとし、これを3回繰り返す。その間、常に各種センサーによるリアルタイムデータを収集するというものだ。

  • caption

    研究チーム一丸となって各種センサーを設置

  • caption

サウナを中心に約1時間近くかかる実証実験だけに、被験者はもちろん、研究チームらも汗だくとなる。ちなみに被験者もNTT東日本のスタッフで構成されており、ここでも協働したことによる連携が活かされている。

  • caption

    被験者はまず、このセンサーカプセルを実験前に飲み込む。ここで測られる温度データはBluetoothで計測に飛ばされる

  • caption

    被験者はグループごとに分かれてデータ採取のためのルーティンをこなす

  • caption

    サウナのあとの水風呂。ファンにはたまらない瞬間だが、一番危険なタイミングでもある。もちろん、このときの体温もリアルタイムで計測されている

  • caption

    先ほどの体内センサーのデータはこのデバイスで受け取る。このほかにも室内気温、外気温、湿度、複写温度等、詳細なデータを持ち帰り、研究室で解析にかけられる

この日採取されたデータの解析は後日行われるが、これまで得られたデータによって生体温熱モデルによって、深部体温の変化などから個人別にいくつかのタイプがあることが分かってきたという。今後はこうしたデータをさらに蓄積することで研究を進め、正しいサウナの入浴方法の解明に繋げたいとしている。

安全なサウナ入浴のために

実証実験が終わった段階で、NTT東日本グループのNTT-ME 東北ブロック統括本部 デジタル改革PT 担当課長 鈴木徹氏、エリアプロデュース担当チーフ 羽田渉氏、エリアコーディネート担当チーフの長内理氏、八戸高専の古川准教授、サウナを提供していただいたSPA銭湯ゆっこ盛岡の支配人 樋口智一氏らに話を聞くことができたので紹介しよう。

  • caption

    (左から)NTT東日本の羽田渉氏、鈴木徹氏、長内理氏

  • caption

    八戸工業高等専門学校の古川琢磨准教授

  • caption

    「SPA銭湯ゆっこ盛岡」の支配人 樋口智一氏

— — 今回のサウナにおけるヒートショック予防法を科学的に解明しようというプロジェクトですが、どのような経緯でみなさんが協働されることになったのですか?

鈴木氏: 私自身がサウナが好きなんですが、周囲の意見を聞くと、危険だとか怖いという方が一定数おられます。しかし、健康にはとても良いものなので、なんとかサウナは危険ではないということを知ってもらいたくて、これをデータ化できればという思いがありました。そんなときに八戸高専の古川先生がヒートショックの研究をされているという話を伺い、お会いすることになって、その場で意気投合した形ですね。

古川准教授:私はサウナで"ととのう"という感覚がどこから得られているのか知りたくて、その興味からこの研究を始めました。入浴というテーマではヒートショックが大きな課題になるので、そのメカニズムの解明が社会貢献にもつながるという思いはありました。ですから、NTT東日本さんから話を伺ったときには喜んで協力したいというお返事をさせていただきました。

— — 入浴施設を経営する立場からみても、ヒートショックの研究はお役に立てそうですよね。

樋口支配人: 今、サウナはブームになっていますが、高齢の方も多いので、冬場は特にお風呂に入ったことで体調を崩される方が増えてしまいます。そういった事故を未然に防ぐという意味でも、きちんと科学的な裏付けのあるデータが得られるとうれしいですね。

— — 様々な入浴施設があると思いますが、個々のサウナによって傾向は変わるのですか?

古川准教授: もちろん変わります。温度と湿度はもちろん、ドアの開閉によっても環境が変化します。SPA銭湯ゆっこ盛岡さんのすばらしいところは、ドライサウナ室のドアが2重になっていて外気が流れ込みにくく、室温が一定であることがあげられます。これは良いデータを取るうえで最適な条件です。

— — 今、実証実験はどのような段階にありますか?

古川准教授: 今日は3回目の実証実験でしたが、これまでの実験で皮膚温度と深部温度に時間差があることが定量的に証明できています。時間にして3~5分の差があり、それがヒートショックと関係しているであろうということが仮説として成り立ちそうな可能性があります。あとは、ヒートショックのメカニズムが血圧の変動と直接関与しているわけですから、それとの関連性が導き出せるかが課題ですね。

— — 早くも成果が見え始めているのですね。NTT東日本側としてはどのように評価していますか?

鈴木氏: きちんとした成果を上げるには複数年はかかるとみています。ですが、この時期に熱反応の予測モデルができたのは素晴らしいことだと思っています。私たちとしてはこうしたデータの集積によって、個人がサウナへの耐性や適応力を知ることができるようになり、自分にとって適切な入浴方法が知ることができれば、それがサウナにとっての付加価値になると考えています。そういった、自分の適性がわかる施設を作ってサービスが提供できるとよいですね。

— — 施設としてサウナを提供しているお立場として、こうしたデータ活用はお客様に受け入れられるでしょうか?

樋口支配人:やはり、危険は回避していただきたいですから、こちらからも正しいデータがあれば提供したいですね。自分の適切なサウナの入浴方法がわかれば、それに沿って安全に楽しんでいただくことができます。せっかくの健康づくりですから、お客様には笑顔でご利用いただきたいです。

— — NTT東日本はIoTデバイスなどの計器類のご提供をはじめ、サウナに入浴する被験者もご提供いただいています。ここにおられるみなさんは、まさに研究に参加されているわけですが、この研究を体験してどのような感想をお持ちですか?

鈴木氏: 古川先生はその道のプロフェッショナルですから、むしろ私たちの体を有効活用していただいて本当に感謝しています。

羽田氏 僕らの体を使ったデータが、これから大勢のサウナ愛好者の方々のためのベースモデルになるわけですから、とても意義深いものだと思って参加させていただいています。隣の長内は、実験の結果まさにベースモデルのど真ん中という結果が出ているんですよ(笑)。

長内氏 (笑) 私は普段からサウナには通っていましたが、心身のリフレッシュには最適だと思っています。この整う感じを安全に大勢のみなさんに味わっていただくために、これからも被験者としてがんばっていきたいと思います。

— — 厳しい条件の中での実証実験ですが、楽しそうに参加されているのですね。ありがとうございます。古川先生やNTT東日本、SPAゆっこ盛岡様は今後の研究結果をどのように活かしていきたいとお考えですか?

古川准教授: まずはヒートショックの解明が前提ですが、それができればもっと身近にデータが得られるような仕組みにしたいですね。例えば最近「サウォッチ※」が開発されて大きな話題になりましたが、そうしたデバイスに今回の研究で得られたシミュレーションプログラムが組み込めれば、サウナ中の血流量から血圧を予測して数値としてみることも可能になります。そうすれば、そのデータからそろそろ上がろうなどといった自分なりのタイミングがわかりやすくなるので、より安全にサウナが楽しめるようになると考えています。

鈴木氏 スマートサウナ室みたいな施設があるのもよいかなと思っています。IoTの技術で安全に制御されたサービスが提供できれば、やはりお客様に安心してサウナを利用していただけますからね。また、ここで得られたデータを基にしたビジネスモデルが構築できれば、私たちの企業グループなら、同じ意識を共有した仲間がいますから全国展開も可能です。組織力で多くのみなさまにサービスをお届けできるのも、私たちの強みだと思っています。

樋口支配人: 入浴方法は自分に合っているか、まずは目安としてそういったデータあればわかりやすいですね。サウナは感覚的なものが大きいので、そういった客観的に見ることができるデータがあれば、自分なりの整え方を知ることができると思います。そういった機会があれば、ぜひ私たちの施設にも入れていただきたいですね(笑)。

— — 今後の研究によってヒートショックのメカニズムが解析され、よりよいサービスにつながることに期待しています。本日はありがとうございました。

※日本サウナ学会代表理事 加藤容崇博士が監修したサウナ専用デバイス