ホンダが新型車「WR-V」を日本に導入する理由は、小さくてゴツくて値段も手ごろなSUVが間違いなく日本で売れると踏んだからだろう。では、WR-Vは小さくて安くてゴツいだけのクルマなのか? 実際に乗るとどう感じるのか、試乗してチェックしてきた。

  • ホンダ「WR-V」

    ホンダ「WR-V」に乗ってみた!

WR-Vのコンセプトはバーサタイル フリースタイラー?

「VERSATILE FREESTYER」(バーサタイル フリースタイラー)という耳慣れない言葉をグランドコンセプトとして登場したのがホンダのコンパクトSUV「WR-V」だ。「VERSATILE」は多様なライフスタイルやニーズに適応できること、「FREESTYER」はさまざまな制約を乗り越え、自由に自分らしいスタイルで生きることをそれぞれ表現している。

既成概念や固定観念にとらわれず、より自由な発想で自分らしい生き方を表現するひとびとの想いに寄り添うクルマ。これがWR-Vの目指した姿だ。250万円以下という価格設定も車両のサイズ感も、ホンダのSUVラインアップにはこれまでなかったクルマだ。

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    「WR-V」の正体は、インドで販売している「エレベイト」というクルマだ。小型SUVは日本でも売れ筋の車種なので、ホンダがエレベイトを日本に持ってくることには納得感しかない

WR-Vってどんなクルマ?

まずは簡単にWR-Vのスペックを確認しておきたい。

ボディサイズは全長4,325mm、全幅1,790mm、全高1,650mm、ホイールベース2,650mm。搭載するパワートレインは最高出力87kW(118PS)/6,600rpm、最大トルク142Nm/4,300rpmを発生する自然吸気の直列4気筒1.5Lエンジンだ。トランスミッションはCVT。見た目からすると4輪駆動があってもおかしくなさそうだが、駆動方式はFF(前輪駆動)のみという潔さだ。

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  • インドで売っている「エレベイト」にはマニュアル車(MT)があるが、「WR-V」はCVTのみとなる

エクステリアのキモはSUVらしいゴツゴツとしたカタチ。「MASCULINE & CONFIDENT」(自信あふれる逞しさ)というデザインコンセプトを体現したという。ボディは上下に厚みがあり、ベルトラインを前端まで伸ばすことでボンネットフードは高い位置をキープ。垂直に切り落とされたフロントにはブラックパネルの大きな四角いグリルが取り付けられている。

ボディの四隅ギリギリに取り付けられたタイヤは215/55R17サイズのブリヂストン「TURANZA T005A」だ。眺めているうちに、ちょっと前のホンダ「クロスロード」(2代目)を思い出したのは筆者だけかもしれないが、最近のホンダ車として珍しいデザインであることは間違いない。

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  • ホイールは16インチと17インチがあり、グレードによって変わる

インテリアはブラックベースのシンプルな水平基調。丸型2眼のコックピットメーターは右がアナログ式スピードメーター、左が7インチTFT液晶メーターの組み合わせだ。ナビ画面の下側には、エアコンなどのマニュアルスイッチを集約。センターコンソールにはレバー式のシフトノブとサイドブレーキレバーがニョッキリと伸びている。詳しい操作方法を聞かなくても、すぐに運転が開始できるほどオーソドックスな仕上がりだ。エントリーグレードのクルマにとって、こうしたシンプルさは美点だといえる。

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  • インテリアは至ってシンプル。操作方法がわかりやすいので免許取りたての人が乗ってもすぐに慣れることができそうだ

ドライバーズシートに腰を下ろすと、アイポイントがそれほど高くない割には前方の見切りがとても良好だ。ボンネットの前端が高い位置にあるだけでなく、左右がさらに1段高くなっているので、車両感覚がつかみやすい。リアシートは足元に余裕があり、座面がわずかに高くなっているので、左右のベルトラインの高さによる圧迫感を感じなくて済む。

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  • 小さいクルマだが後席に座っても圧迫感を感じない

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  • ラゲッジルームはフル乗車でも容量458Lを確保。試乗会場には、まもなく公開のCMに登場する巨大なカートに乗った人形まで用意されていて、収納力の高さをアピールしていた

走りの完成度は?

発売前のクルマということで、試乗は栃木県宇都宮市内にあるホンダの社内テストコースで実施した。

最初にアップダウンと各種のコーナーを組み合わせたワインディング路を走ってみると、車両感覚のつかみやすさと四輪が接地感を失わないセッティングのおかげで、けっこうなスピードでも安心して曲がっていけることがわかった。写真にあるような、コーナーを抜けた先の下り坂で路面が波打ったような場所を通過しても、ボディは姿勢と進路を乱すことなくシレッとクリアしていく。

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  • 車両感覚がつかみやすく、しっかりとした乗り心地

一般道を模した路面は、左右に3%のカントがついていたり、工事現場のようにアスファルトの補修の跡が連続してあったり、踏切があったりと、実際の道路環境により近い設計となっていた。そんな場所をいろんなスピードで通過してみても、直進安定性や乗り心地のよさが最後まで失われないことが確認できた。

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    一般道でも安心して乗れる仕上がりだ

強い加速時には4気筒i-VTECの気持ちいい音を聴かせつつも、パーシャルでは一定の静かさをキープする絶妙のエンジンセッティングも印象的だった。クルマの音と動きがリンクするその感覚は、「エンジン車ってやっぱりいいな」と思わせてくれる。

「ヴェゼル」「フィット」「シティ」で培ったセッティングとノウハウをベースとし、主にタイのテストコースで走り込みを行うことで、サスペンションとステアリングフィールを徹底的に煮詰めたとWR-Vの開発陣は話す。総合的にはかなりすばらしい出来栄えだ。

WR-Vのボディカラーは新色の「イルミナスレッド・メタリック」をはじめとした5色展開。価格は209.88万円の「X」、234.96万円の「Z」、248.93万円の「Z+」の3グレードだ。当面のライバルとなるトヨタ自動車「ライズ」/ダイハツ工業「ロッキー」と比べると、エンジン車同士ではWR-Vの方が高価だけれども、かたや3気筒1.2Lに対してこちらは4気筒1.5Lと強力。そして、ライズ/ロッキーのハイブリッド車よりは手が出しやすいという、かなり戦略的な価格設定がなされている。WR-Vはスタイル、性能、価格の3つをうまくバランスさせたコストパフォーマンス抜群のクルマなのだ。

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