キリンホールディングスは9月28日、「拡大を続ける健康食品市場の現在地・未来予測セミナー」を開催。健康食品業界の変遷や、キリンのヘルスサイエンスへの取り組みを紹介した。

1991年に「特定保健用食品(トクホ)制度」、2015年に「機能性表示食品制度」が発足するなど、時代を映しながら拡大を続けてきた健康食品市場の過去・現在・未来を紐解いてみよう。

■紆余曲折を経て拡大を続ける健康食品市場

セミナー前半では、グローバルニュートリショングループ代表取締役 武田猛氏が、「健康食品業界の変遷と未来予測」について語った。

日本における食品の機能性研究の歴史は、1984年、旧文部省が機能性研究の特定研究「食品機能の系統的解析と展開(1984~1986年)」をスタートしたことに始まる。1987年には、旧厚生省が「機能性食品の市場導入構想」を発表。1991年には「特定保健用食品(トクホ)制度」が、2001年に「保健機能食品制度」が発足し、機能性食品の制度化が実現した。

ところが、消費者庁が発足した2009年、「体に脂肪が付きにくい」としてトクホ認定されていた花王の「エコナクッキングオイル」に発がん可能性成分が含まれているとして販売中止に追い込まれる。この「エコナショック」により、トクホへの信頼性が揺らぐこととなった。

健康食品業界にはしばらく逆風が吹いていたが、2013年「日本再興戦略」において食の有する健康増進機能の活用が示されたことで潮目が変わる。同年策定された「規制改革実施計画」の結果誕生したのが、2015年に発足した機能性表示食品制度だ。

以降、機能性表示食品市場は急速に拡大し、機能性表示食品の届出件数は6,698件(2023年9月11日時点)、売上は5,462億円(2022年)にのぼっており、トクホの届出件数(1,053件)と売上(2,860億円)を大きく上回っている。

■時代を映す健康食品 40年のトレンド

前述の通り、1980年代から現在に至るまで、健康食品を取り巻く環境は大きく変化してきた。過去40年の健康食品のトレンドを時系列で振り返ってみよう。

1980年代にはダイエットブームが起き、とりわけ「こんにゃくダイエット」や「ゆで卵ダイエット」など、ひとつの食品ばかり食べる「ばっか食ダイエット」が広まる。バランス栄養食の「カロリーメイト」、機能性飲料の「ファイブミニ」が発売されたのもこの頃だ。

1990年代に入ると、「おもいっきりテレビ」や「あるある大事典」などのテレビ番組の影響もあり、世の中に健康情報が氾濫するように。ガルシニア、ラズベリーケトン、キトサンなどを配合したダイエットサプリメントがブームになったほか、「十六茶」や「爽健美茶」などの無糖茶も発売された。

2000年~2009年にかけては、消費者の健康意識の高まりとともに、食生活に自然素材を活用する流れとなり、黒酢、ヨーグルト、黒豆ココア、小麦ふすまなど、さまざまな素材がブームとなる。また、メタボリックシンドロームなどの生活習慣病予防に注目が集まり、メタボ訴求のサプリメントや飲料などが続々と市場に登場した。

2009年に起きた前述の「エコナショック」でトクホの権威が揺らいだことにより、トクホ飲料は好調だったものの、健康食品業界は逆風にさらされる。その結果、2010年以降は、ギリシャヨーグルトやアーモンドミルクなど「ナチュラルヘルシー」な食品に人気が集まった。

2015年に機能性表示食品制度が発足してからは、急激に機能性表示食品の届出数が増加した一方で、「スーパーフード」や「グルテンフリー」といった、海外トレンドの波及も顕著になっている。

■ウェルネスフードのスタンダートとして期待される「機能性表示食品」

2015年の制度発足以来、機能性表示食品は、現在の日本の健康食品の中核と言えるまでに成長している。その要因として、機能性表示食品は「最終製品による臨床試験(ヒト試験)」または「最終製品又は機能性関与成分に関する研究レビュー」のいずれかにより、機能性の根拠を評価できる制度であることが挙げられる。

前者の「最終製品による臨床試験(ヒト試験)」は、数百万円~数千万円のコストがかかることから、中小事業者にはハードルが高いが、後者の「最終製品又は機能性関与成分に関する研究レビュー」であれば自社作成の場合は無料、外部委託でも100~300万程度のコストで済むことから、トクホよりも幅広い事業者が利用しやすい制度となっているのである。

また、「睡眠サポート」など、トクホでは謳うことのできないヘルスベネフィットの届出が増えており、より多くの消費者の健康ニーズに対応できるようになっているのも機能性表示食品の特徴だ。

武田氏は、「機能性表示食品制度は、誰でも消費者庁ホームページで商品のバックグラウンド・エビデンスが見られる、世界でも類を見ない透明性の高い制度であり、地方の中小事業者など幅広い事業者が活用できる制度。今後、機能性表示食品がウェルネスフードのスタンダートになっていくだろう」と語る。日本で生まれた製品・原料が、安全性と機能性のエビデンスにより、世界で勝負できるようになったのも大きな進歩だという。

■機能性食品市場で光るキリンの「プラズマ乳酸菌」

年々存在感を増している機能性食品市場において、画期的な発明として注目を集めたのがキリンの「プラズマ乳酸菌」だ。

かつては、「免疫の司令塔であるpDCを直接活性化できる乳酸菌は存在しない」といわれていたが、2012 年、キリンが世界で初めて pDC を直接活性化できる乳酸菌として「プラズマ乳酸菌」を報告。2020年8月には、日本で史上初めて「免疫」に関する機能性表示食品の届出が受理された。

キリンのプラズマ乳酸菌関連事業は、2022年の販売金額が前年比4割増と好調に推移しており、さらなる市場拡大を見込んで、2023年の年間製造能力を約2倍に引き上げた。

ヘルスサイエンス領域の規模拡大を掲げているキリンは、中でも「免疫」を最重要領域と位置付けている。その背景として、「免疫」に対する生活者の意識と行動(実践)のギャップが大きいことがある。

キリンが実施したアンケート調査で、85.4%の人が「免疫は健康のために必要だ」と回答した一方で、月1回以上の免疫ケア習慣がある人は11.1%にとどまっている。こうしたギャップがあるからこそ、キリンがこの分野に取り組むことに社会的意義があるという。

「免疫ケア」の浸透に向けて、2023年5月に「げんきな免疫プロジェクト」を立ち上げ、パートナー企業や自治体と連携して「免疫ケア」の啓発を行っているほか、中長期視点での学校での免疫授業にも取り組んでいる。さらに、パートナー企業との協業により、他社商品にも「プラズマ乳酸菌」を配合することで、顧客接点の拡大に努めている。

2023年10月3日には、「免疫ケア」と睡眠の質向上 の両方をサポートする日本で唯一 の機能性表示食品(飲料)として、「キリン おいしい免疫ケア 睡眠」を発売。「おいしい免疫ケア」シリーズを柱として、2024年末には、190万人にプラズマ乳酸菌を届け、2027年に売上収益500億円の達成を目指す。

過去40年にわたる健康食品市場の変遷を振り返ってみると、ライフスタイルや価値観の多様化、健康志向の高まりによって、よりきめ細かなニーズに対応する健康食品が続々と誕生してきたことがわかる。

健康食品業界の健全な発展は、消費者にとっても喜ばしいことだ。今後も、「プラズマ乳酸菌」のような世界的な発明が生まれることに期待したい。