若い頃から、ライターに対して一種の憧れとこだわりがあった。

機能的には100円ライターで何不自由ないのは分かっているのだが、その何十倍もの金額を払ったライターに強い愛着を感じ、毎日肌身離さず持ち歩いていたものだ。

■紙巻きタバコはやめたけど、ライターは日常生活の必需品だった

ポケットの中にライターの重みを感じ、手で握って金属のひんやりした感触を確かめ、用がなくても取り出しては、蓋をカチンカチンと開け閉めしたり、シュボッと着火だけしてすぐに消したり。
考えてみると、手慰みにこうしてお気に入りのライターをいじったり眺めたりするのは、小さな心の安らぎを求めてハンドスピナーのようなフィジェットトイで遊ぶのに似た感覚だったのだろう。

ライターを毎日持ち歩いていた理由は、お察しのように、僕は喫煙者だったからだ。 いや、お恥ずかしい限りだが、僕はこれまでの人生で何度も禁煙に失敗し、実はいまだに喫煙者なんだけど、お陰様で(誰の?)今や紙巻きタバコからは脱却、加熱式タバコに完全移行して8年が経過する。

紙巻きタバコ&ライターの組み合わせで持ち歩いていた喫煙セットは、加熱式タバコ&デバイスの組み合わせに変わった。
でも今回はそんなことではなく、ライターの話をしたいのだ。

  • 現在のMy喫煙具セット

紙巻きタバコ時代の最後に使っていたライターは、骨董屋で見つけた古いZIPPOで、大切にしていたのだが、もうこれからは必要ないと思い人にあげてしまった。

だけど紙巻きタバコをやめてからも、ライターが日常生活の必需品であることに変わりはなかった。

■お香、蚊取り線香、バーベキュー、ランタン、薪ストーブ…使用シーンは数多い

まず僕は、仕事をしている自宅の自室でよく香を焚く。
アジアっぽいスパイシーな香りが好きだし、それに紙巻きタバコを吸っていた頃の名残りだろうか、加熱式タバコで出る水蒸気とは違い、空間に長く漂う白い煙を見ていると気持ちが落ち着いて、仕事が捗る気がするのだ。
1日に少なくても3〜4本のお香を点けるので、そのたびにライターを使う。

  • いつも部屋でお香を焚いている

また、虫に刺されやすい体質の僕は、蚊が多い夏場、屋内でも屋外でも蚊取り線香をよく使う。
郷愁を誘う香りや、やはり空間に白煙が漂う様が好きという理由もあるが、長年の経験から、やはり除虫菊の虫除け効果は抜群だと実感しているからだ。

デュアルライフ(2拠点生活)実践者の僕は、普段過ごしている東京の家のほか、山梨県に"山の家"を持っており、そちらではさらにライターの使用場面が多い。
春・夏・秋にはよくバーベキューをするし、ウッドデッキで夜にオイルランタンを灯す日も多い。
冬場は、ストーブの薪に着火する用もある。

  • ランタンに火をつける喜び

紙巻きタバコをやめて愛用のZIPPOを手放した僕だったが、こうして日常的にライターを使うことに改めて気づき、1年ほど100円ライターでやり過ごしたのち、またオイル式の"ちょっといいライター"を買い求めることに決めた。

でもZIPPOをまた買うのは能がない。
そこで手に入れたのは、IMCOのライターだった。

  • ワンアクションで着火できるIMCO『スーパー』

■IMCO『スーパー』は青春時代の思い出のライター

IMCOのライターを買うのは、これが初めてではなかった。
大学生の頃、100円ライターを卒業すると、まず念頭に浮かんだのはやはりZIPPOだったが、僕は微妙にひねくれていたので、使っている人の多いZIPPOではなく、誰も持っていない少々マニアックなライターを探すことにした。

お金はないので、いいライターと言っても手頃な価格で、それでいてかっこいいやつはないかと探した結果、とある雑貨屋で見つけたのが、オーストリアのメーカーIMCO社の『スーパー』というライターだった。

かなり気に入っていたのだが、そのライターは1年ほど使ったのち紛失してしまった。
なくした場所は、高田馬場のビリヤード場だ。 平成初期の当時は今と全然違い、ビリヤード場のような場所はタバコ吸い放題だった。台の横に備え付けられていた灰皿の脇に、僕はライターを置き忘れてしまったのだ。
1時間ほどして気づきビリヤード場に戻ったときには、すでに誰かにパクられていたという、学生時代の悔しい思い出だ。

青春時代のちょっとした曰くつきな、思い出のIMCO『スーパー』を、50代の僕は再び愛用しているのである。

  • 手に馴染みやすいデザインだ

IMCO『スーパー』は、ZIPPOと並ぶオイルライターの元祖のようなもので、前身である『トリプレックス』が最初に発売されたのは、第二次世界大戦勃発前の1937年だった。
現在でも買える『スーパー』は、『トリプレックス』に若干の改良を加え、大量生産向けに簡素・軽量化が図られたものだが、基本的な構造やデザインは1937年の元祖とほとんど変わらない。
この歴史を感じるデザインが、IMCO『スーパー』の最大の魅力と言ってもいいだろう。

ちなみに、本国のIMCO社は2012年に倒産してしまったが、2013年に日本の輸入代理店だった柘製作所がブランドライセンスを引き継ぎ、かつてと変わらぬ姿で復刻して販売している。

  • 分解してのメンテナンスも簡単

■何十年も変わらぬデザインと機構。IMCO『スーパー』の魅力とは

IMCO『スーパー』は、男心をくすぐるようなメカメカしいデザインと、よく考えられた機能的な構造を持っている。
上端の凸部を親指で押し下げると、バシャッという音とともにとキャップが上にあがり、オイルが染み込んだ芯に着火する。
100円ライターと同様のワンアクションで着火できる便利な構造だが、100円ライターと違うのは、親指を離しても火はついたままであることで、着火状態のままロウソクやランタンのように置いておくこともできる。
消化ももちろんワンタッチで、開いたキャップを指で押し下げればOKだ。

IMCO『スーパー』の機構でもう一つ特筆すべきは、円筒形のオイルタンク外側に、可動式の風防カバーが付いていることだ。
風防を閉じて使えば、火は小さいが風に強く、開いて使うと風にはあおられるが、大き目の火がつくようになっている。

  • 風防を開けると火が大きくなる

オイルやフリント(着火石)は、入手しやしいZIPPO用のものを使うことができる。
アメリカのZIPPOは、IMCO『トリプレックス』よりも早い1933年に最初期モデルを発売している。
だが、フリントやオイルなどの消耗品は、IMCO社が1918年に販売開始した『Ifa』というオイルライター(通称・『トレンチライター』)の規格に合わせて設計された。
だから現在のIMCO『スーパー』が、ZIPPOの消耗品を使えるのは当然なのである。

  • 消耗品はZIPPOの純正品が使える

オイルライターといえば、シェアや知名度は格段に上なZIPPOが代名詞になっているが、より由緒正しいのは実はIMCOの方だと言える。
まあそんな蘊蓄は、どうでもいいんだけどね。

昨今はキャンプブーム花盛りなので、屋外での調理や焚き火などで、ライターを使用する場面も多いだろう。
ぶっちゃけコスパ的にも便利さ的にも、100円ライターやチャッカマン式ライターの方がずっと分はあるのだが、かっこいいオイルライターを使っていると、とにかく気分がいい。
そもそもキャンプなんていうのは不便を楽しみにいくようなものなんだから、IMCO『スーパー』のような雰囲気のあるオイルライターを使ってみることをおすすめしたい。

ちなみにIMCO『スーパー』は、標準モデルであれば2000円台で買えるので、アウトドアシーンでガンガン使い、壊したりなくしたりしてもそんなに痛くはないということも最後に言っておこう。

お金がなかった学生時代になくして感じたあの心の痛みは、もはや感じられなくなっていることがちょっと寂しかったりもする。

  • オイルタンク下の刻印もかっこいい

文・写真/佐藤誠二朗