7月に入り、気温35℃を超える猛暑日を観測する地域が増えました。体温を超えるほどの暑さになる日も珍しくなく、例年よりも熱中症警戒アラートを目にする機会が多くなったように思います。熱中症とは、体温の調節機能が働かなくなり体内の水分や塩分のバランスが崩れるなど、命の危険にまで関わる病気。今年は、冷房が大活躍しそうです。

しかし、第一三共ヘルスケアが行った「2023年夏のヘルスケア」調査によると、「昨年と比較して今年の夏の自宅における暑さ対策に変化がありそう」と回答した人が全体の約4割(43.4%)で、該当者に具体的な内容を聞いたところ、電気代高騰の影響などから「冷房の使用方法」と回答した人が約7割(65.0%)という結果に。また「夏場の睡眠に満足できていない」と回答したのは全体の約半数(47.3%)となり、そのうち約8割(78%)が(例年)冷房の使用を控える傾向が見えました。夏場はもともと睡眠の質が低下しやすく、さらに熱帯夜に温湿度の調整をせず眠ると『睡眠熱中症』のリスクが高まると言います。

今回は、『睡眠熱中症』を防ぐための対策法や、睡眠の質を向上させるために今日からできることを、第一三共ヘルスケアの経営企画部で企画戦略リーダーを務める松尾健さんに、お話を伺いました。

  • 第一三共ヘルスケア 経営企画部 企画戦略リーダー 松尾健さん

■睡眠時は気づかないうちに熱中症のリスクも

──最初に、松尾さんが普段行っている業務内容を教えてください。

経営企画部の事業開発グループで、事業開発を担当しています。M&A案件の検討や他社さんとのアライアンス、新規事業の立ち上げに関する検討などが主な業務です。他社さんとの連携を通じて、新しい価値を作っていくことを目指しています。

現在は、情報の発信・収集を含め、睡眠を軸とした新しい事業の立ち上げを検討中です。

──睡眠に着目した事業というのは、具体的にどのようなことをしているのでしょうか。

主にBtoBで『年に1度の睡眠診断運動』という活動を推進しており、現在2年目になりました。健康診断と同じように、従業員が自身の睡眠状態を可視化して、課題を見つけるきっかけを提供する目的で行っています。

具体的には、ご自身のスマートフォンを用いてアプリで睡眠の状態を把握するサービスです。会社側が従業員の睡眠状態をケアするというのは、現実的に難しいところです。2019~2020年は、コロナ禍をきっかけとして、ワークライフバランスを崩してしまう方が増えてしまった時期でもあります。満足できる睡眠がとれないといった社会課題が今後出てくるのではないか? というところに着目し、同じ認識を持つ4社でコンソーシアムという形を作りました。

最終的には、見えてきた睡眠課題に対して個別のソリューションの提供、アドバイスを差し上げるところまで目指していければいいなと思っているところです。4社プラス、パートナー企業として多様な技術をお持ちの他社さんにご協力いただきながら進めています。

──実際には、どのような睡眠の悩みが届いていますか?

参加者のアンケートによりますと、「夜中に目が覚めてしまう」「朝早く起きてしまう」などの悩みがありました。一方で、「十分に寝ているつもりだったが実はちゃんと眠れていなかった」や、逆に「うまく睡眠を取れていないと思っていたけれど、実際に測ってみたら意外と眠れていた」など、自覚とは異なる実態に気付けたというフィードバックもありました。この『年に1度の睡眠診断運動』が一つの安心材料になった方もいたようです。

──生活の一部である睡眠の大切さを、改めて見直すきっかけになっているんですね。最近の暑さは耐え難いですが、熱中症は日中だけでなく、夜間も注意が必要だということをあまり詳しく知りませんでした。

そうですよね。睡眠時も熱中症に注意が必要な理由は、体調変化を自覚しにくいことが一つの大きなポイントだと思います。日中であれば、体温が高く感じたり吐き気がしたりといった自覚症状がありますが、睡眠時は気づかないことのほうが多いです。空気が滞留した状態のところにとどまっていると、身体から熱を逃しにくくなり、気づかないうちに体温が上がりすぎてしまうなどして、『睡眠熱中症』のリスクが高まってしまいます。

■睡眠の質を向上させるためにできること

──『睡眠熱中症』になるリスクを抑えるために、私たちができることはなんでしょうか。

まずは、適切な環境を整えるために、クーラーや扇風機を使用することです。理想的なのは、温度が26℃前後、湿度が50~60%です。扇風機を使用する場合には、風を一箇所で浴び続けると局所的に体温が下がりすぎてしまう場合があるので、首振り機能などを活用して室内の空気を循環させるようにするのが効果的です。

──電気代高騰などの理由から、クーラーの使用を控える方がまだ多いということを伺いました。

そうですね。実際に調査したところ、「昨年と比較して今年の夏の自宅における暑さ対策に変化がありそう」と回答した全体の約4割(43.4%)のうち、該当者に具体的な内容を聞いたところ、「冷房の使用方法」と回答した人が約7割(65.0%)という回答がありました。節約意識が高まっているのは、昨今の共通理解だと思います。ですが、それよりも健康リスクをどう捉えるか? というところに目を向けてもらえたらいいのかなと。特に高齢の方ですと、窓を開けていればそれなりに涼しく眠れていた原体験もあるかもしれませんが、近年は夜間であっても温湿度は高い傾向にあります。

2022年と50年前を比較したデータによりますと、東京では50年前の熱帯夜が9日間だったところ、近年は27日間ありました。現に、東京都のデータでは、熱中症の症状を訴えた人のうち、およそ4人に1人にあたる23.4%の人が午後6時から午前9時の間に救急搬送されています。それだけ、夜間も注意しなくてはいけないということですね。

■出典元
気象庁:過去の気象データ・ダウンロード
東京消防庁(2022年6月~9月)

──健康に危害を及ぼすので対策が必要ですね。では、快適な温湿度を保つほかで、睡眠の質を向上させるためにできることはなんでしょうか。

まずは、夕食をとってから就寝までの時間を3時間以上空けること。お腹いっぱいの状態では眠りが浅くなったり、寝つきが悪くなってしまいます。また寝る直前には、PCやスマートフォンから出るブルーライトをなるべく浴びないことも大切です。そして意外と重要なのは、お風呂に入ることです。

──夏場は特に、暑いからシャワーで済ませてしまおうといった方も多いかもしれません。

できれば布団に入る1~2時間前に、38℃くらいのぬるめでも結構ですのでお湯に浸かり体温を上げることを意識してほしいですね。人間の体は、体温が下がっていくときにだんだん眠くなるという特性があるので、それをぜひ活用してください。通気性のいい素材の寝具を揃えるなどもいいのではないでしょうか。

──最近は、冷感シーツなどの商品をよく見るようになりました。

入った瞬間、ひんやり気持ちいいですよね。ヨガやストレッチなど、軽い運動をするとよく眠れる人もいますし、自分なりの快適な環境を知ることが大切ですね。朝は太陽の光を浴びて体内時計をリセットするようにし、それを習慣化することで、よりよい睡眠をとることができると思います。

──ありがとうございます。最後に、今後の御社の取り組みについて教えてください。

昔と今では、睡眠環境への課題は大きく変わってきているので、改めて新しく、”睡眠”を重要なセルフケアテーマと捉え、事業化に向けて検討していこうと思っています。他社さんとのコラボレーションも含め、製品やサービスの提供に向けて、いろいろな可能性を検討・模索している段階です。弊社のサイト『くすりと健康の情報局』では、ドクターなど専門家の監修をつけ取材をした薬とまた、健康に関するヘルスケア情報を発信していますので、ぜひご覧になってください。