株式会社LIFULLの社内シンクタンク「LIFULL HOME'S総研」は9月29日、「地方創生の希望格差 寛容と幸福の地方論Part3」を発表した。同シンクタンクは、2021年から地方創生に関する調査研究を毎年発表している。今回発表された「地方創生の希望格差 寛容と幸福の地方論Part3」は、3年間にわたる「寛容と幸福の地方論」シリーズの完結編にあたる。

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「地域の希望」に着目した今回のレポートでは、47都道府県の「地域の希望」をランキング化。「希望」にも地域格差が存在することを明らかにするとともに、「地域の希望」の効果や、「地域の希望」に影響を与える要因などを分析している。

「地域の希望」の効果

今回のレポートでは、「地域の未来に明るい希望が持てなければ、将来のWell-beingは構想できない」との考えのもと「地域の希望」に注目。47都道府県の在住者を対象にした調査の結果、「地域の希望」は個人の持続的Well-beingを高め、定住意向など地域社会への態度をポジティブにすることがわかった。

【1】個人の幸福度

居住する地域の未来への希望の高さは、個人の幸福度(Well being)と強い相関関係があり、「地域の希望」が高い層と低い層では、10 点満点の幸福度で 2.8 点の差がある。

【2】将来の幸福度

「地域の希望」が高い層と低い層では、自分の10 年後に対する見通しに大きな差があることもわかった。希望[高]のグループでは、56.6%が10 年後の人生が「良くなっている」と回答。希望[中]では「変わらない」が 55.2%、希望[低]では「悪くなっている」が 54.4%を占めた。

【3】定住意向

「地域の希望」は、地域への定住意向を高める一方、未来に明るい希望が持てない地域からは人口が流出する懸念が明らかになった。希望[高]のグループでは85.8 %が定住意向を示している一方で、離脱意向を示したのはわずか4.8 %。希望[低]では 34.9%が定住意向、38.4%が離脱意向を示している。

【4】挑戦意向

希望[高]のグループでは、まちおこし・まちづくりに関わる新しい活動を自ら始める挑戦意向が4割を超える一方で、希望[中]や希望[低]では挑戦意向は1割前後にとどまる。特に、希望[低]の45.4%は「全然やりたいとは思わない」と挑戦を拒否する傾向が鮮明になっている。

【5】地域へのコミットメント

「地域の希望」によって、地域へコミットメントする意向も大きく異なる。希望[高]のグループでは、起業のほか投資や金銭的な支援意向も3 割を超える反面、希望[中][低]では、人助けや地元消費にすらあまり積極的ではない。

47都道府県「地域の希望」ランキング、沖縄が1位

調査の結果、「地域の希望」には地域間格差が大きいことも明らかになった。「地域の希望」にまつまわる4つの設問の回答をもとに、47都道府県の「地域の希望」をランキング化したところ、1位は「沖縄県(総合指標:13.12)」であった。次いで、2位が福岡県(12.53)、3位が東京都(12.41)、4位が神奈川県(12.40)、5位が愛知県(12.21)となっており、大都市が上位にランクインしている傾向が見てとれる。

一方、最下位は秋田県(10.29)。46位が徳島県(10.70)、45位が青森県(10.72)、44位が山形県(10.90)、43位が新潟県(10.94)となっており、東北、四国地方と日本海側の県で「地域の希望」が低い傾向にある。1位の沖縄県と最下位の秋田県を偏差値化してみると、沖縄県が88、秋田県が33となり、その隔たりは大きい。

「地域の希望」を損なうのは「人口減少の認識」と「地域内格差」

「地域の希望」ランキングにおいて、人口の多い都市圏を有する都道府県が上位を占めているのとは対照的に、人口減少が著しい秋田県、徳島県、青森県が下位に並んだことから、「地域の希望」の地域間格差には人口の増加・減少率が大きく影響していると考えられる。

【1】人口減少の認識

調査からも、「地域の希望」と人口増減率の相関関係は、0.873 と非常に高く、「人口減少の認識」は、「地域の希望」を最も大きく損なう要因であることが明らかになっている。

47都道府県在住者に「人口増減の認識」を聞いたところ、希望[高]のグループの55.2%が「人口は大幅に増えている」、46.5%が「人口は緩やかに増えている」と回答。反対に希望[低]のグループでは「人口は大幅に減っている(51.2%)」「人口は緩やかに減っている(31.7%)」と、人口減少を認識している旨の回答が目立った。

【2】地域内格差の認識

「人口減少の認識」に次ぐ「地域の希望」を損なう要因が「地域内格差の認識」だ。とりわけ、人口減少地域における希望[低]のグループは、「若者と高齢者の世代間格差(45.3%)」「生まれた家庭環境による格差(44.7%)」が大きいと認識していることがわかった。

「地域の希望」を育むのは「政治行政への信頼度」や「まちの動き」

「人口減少の認識」が「地域の希望」を損なう最大の要因である一方、人口減少を認識していても、「地域の希望」が高いグループも存在する。では、「地域の希望」を育む要因には何があるのだろうか。

「生活環境の満足度」「ひとの動き」「まちの動き」「社会の動き(DX、GX)」「ロールモデルの存在」「政治行政への信頼度」「政治行政の評価」など、さまざまな要素と「地域の希望」の関係を分析した結果、最も「地域の希望」への貢献度が大きいのは「政治行政への信頼度」、次いで「まちの動き」「ロールモデルの存在」であることがわかった。

また、「生活環境の満足度」においては、近隣の居住環境(街並み景観や治安の良さ)」「地域の雇用環境(仕事内容や賃金水準)」「趣味や娯楽、レジャーを楽しむ余暇環境」が「地域の希望」に与えるプラスの影響が大きいことが明らかになっている。

【1】政治行政への信頼度

希望[高]のグループと希望[低]のグループでは、地域の政治行政への信頼度が真逆であることがわかった。人口「減」×希望「高」のグループでは、信頼度が42.7%、不信頼度が14.8%。一方、人口「減」×希望「低」のグループでは信頼度が17.5 %、不信頼度が46.1%となっている。

【2】まちの動き(地域の変化)

公共空間の整備活用やまちづくりの活動、子育て支援・対応の施設の充実が「地域の希望」を高めることが明らかになった。ビルやマンションの都市開発よりも、「知名度やブランドイメージの向上」「リノベーションしたおしゃれなお店や施設が増えた」のほうが希望[高]と[低]の差が大きくなっている。

【3】ロールモデルの存在

「ロールモデルの存在」も「地域の希望」に与える影響が大きく、希望の高い地域には、「生き方が面白い人」がいる傾向が顕著に。人口増減の認識にかかわらず、希望[高]のグループでは「いる」「いそうだ」の合計が35%にのぼる一方で、希望「低」のグループでは1 割台にとどまっている。

「地域の希望」につながる変化を起こすカギは「寛容性」

今回の研究から、「地域の希望」は個人の持続的Well-beingや地域社会への態度にプラスの影響をもたらすが、地域間格差が大きいこともわかった。

地域から希望を奪う要因として、人口減少や地域内格差があるが、人口減少地域においても、政治行政への信頼度や地域のひと・まち・社会の変化が「地域の希望」を育んでいる。特に、政治行政への信頼が「地域の希望」にもたらす効果は、人口減少によるネガティブ効果より2倍ほど強いことが明らかになった。

同シンクタンクの過去の研究は、「寛容性」が人口移動のファクターXであることも解明している。「地域の希望」につながる「地域の変化」を起こすためには、ファーストペンギン(先陣を切って挑戦する人)の出現を促す、多様性に寛容な気風を育んでいくことが大事だと言えるだろう。