冬から春に移り変わる時期は、ちょっと油断すると寒かったり、日中ウトウトしてしまったり、花粉も飛び始めたりと、なにかと「ゆらぎやすい」季節です。新生活の節目でもあり、ストレスも多くかかっています。そんな春こそ心がけたい生活習慣お伝えします。

■頑張りたいのに頑張れないのは、免疫力が落ちているから

だんだんと暖かくなり、日中はかなり過ごしやすくなってきましたね。この春から新しい職場、新しい学校、という方もたくさんいらっしゃるのではないでしょうか。

そんな新生活は明るい気持ちで迎えたいものですが、新しい環境に移るとき、わたしたちの身体にはとてもストレスがかかっています。たとえば、心では「頑張りたい」と思っているのに、なぜか体調を崩してしまったという経験はないでしょうか? やる気を出して新しいプロジェクトを進めているときに急に熱が出たり、やりたかった仕事を任されて張り切っていたら急に風邪をひいたり……。

気持ちに身体がついていかないそんな状態は、きちんと休息がとれていないことから起こります。毎日の睡眠で回復しきれず、徐々に免疫力が下がってしまっていることが原因なのです。

そもそも免疫とは、体内で発生した悪い細胞や外部から侵入したウイルスなどを撃退する自己防衛システムのことをいいます。いくつもの細胞が連動することで「抗体」という物質がつくられ、体内に入った悪いものを撃退するという仕組みになっています。抗体は細胞に記憶された情報をもとにつくられていて、この細胞の記憶に「睡眠の質」が大きくかかわっているといわれているのです。

■睡眠の質は「深さ」で決まる

では、睡眠の質を高めるにはどうしたらいいのでしょう。

まず、睡眠時間が6時間未満になっている人は危険信号です。アメリカの睡眠研究機関が2015年に発表した、18~55歳の健康的な男女164人を対象に行った研究によると、睡眠時間が短い人ほど風邪をひきやすいことがわかりました。風邪ウイルスを含んだ薬を5日間にわたって投与したところ、毎日の睡眠時間が6時間以上だった人に比べ、それ未満だった人は風邪の発症率が2.5倍以上だったのです。

インフルエンザについても、同様の研究があります。1日4時間しか睡眠をとらない生活を4日間続けて5日目の朝にワクチンを打ったグループと、ワクチンを打つ前も打ったあとも8時間睡眠を続けたグループを比較したところ、ワクチン接種から10日目のウイルス抗体の数値が、前者のほうが低くなりました。つまり、睡眠不足が続くと抗体がつくられるスピードが遅くなるということです。

そのほかにも、睡眠時間が6時間未満だと前立腺がんと乳がんの罹患リスクが増加するという研究結果や、5時間未満になると糖尿病の発症率が3倍になるという報告もあります。 ちなみに、平日の睡眠時間を取り戻そうと休日に「寝だめ」をすると、「ソーシャル・ジェットラグ(社会的時差ボケ)」が発生します。これは、体内時計が狂ってしまうことをいい、平日と休日の平均睡眠時間の差が2時間以上になると、身体に時差ボケの負担がのしかかります。そうすると身体に負担がかかり、休日明け憂鬱な気持ちになったり疲れが抜けきらなかったりするのです。

ですから、平日も休日も睡眠時間を一定にすることを心がけるようにしましょう。

■有能な人ほど、「かくれ不眠」に陥りやすい理由

では、長く眠っていればそれで安心かというと、決してそうではありません。なぜなら、「長く眠る=睡眠の質が上がる」ではないからです。

とくに、深い眠りであるノンレム睡眠のときに免疫機能が向上することがわかっているので、いかに深く眠れるかが大切です。浅い眠りのままダラダラ眠っていても、疲れが取れるどころか、取り切れなかった疲れがどんどん溜まっていってしまいます。

実際に、「毎朝すっきり起きられない」「少しの音でも目が覚めてしまう」「電車で座るとすぐ寝てしまう」ということにどれかひとつでも当てはまったら、睡眠の質が悪くなっているサインです。不眠症状がなくても、「かくれ不眠」におちいってしまっているかもしれません。

わたしたち人間は「ブレーキのついていないクルマ」のようなもので、「3秒で走って」はできても「3秒で寝って」はできません。深く眠るためには準備が必要で、この構造を理解していないと、いつでもすぐ休めると思って無理をしすぎてしまいます。

しかし今の時代、常にさまざまな情報にさらされている私たちは、休もうと意識しなければなかなか休みづらい状況にあります。いつどこにいてもスマホがあれば仕事の連絡ができますし、SNSを見て他人に影響されることもあります。せっかく家で休んでいたのに、上司からのメールを見てしまったが最後、「返信しなきゃ」ということで頭がいっぱいになってしまったという経験はないでしょうか。

有能な人ほど、情報を得るとすぐに次のアクションを考えられるので、一つボールを投げ返しても、「次は次は……」と加速度的に反応しなくてはという意識が強くなってしまうのです。

このように、常に何か頭の中でぐるぐる考えてしまう状態を、「マインドワンダリング」と呼びます。これは、「心がさまよっている」という意味で、このような状態になると寝る時間になっても心が休まることがありません。これが体内時計を狂わせ、「眠りたくても眠れない状態」をつくってしまうのです。

スマホの問題については、ぜひ日中のうちから目覚ましをセットするなどして、できるだけ寝る前に見るのは控えるようにしましょう。

■体内時計が整うと、免疫力も高まる

体内時計を調節するには、日中の行動が大切です。すぐできて効果が高い行動は、午前中に太陽の光を浴びることです。

わたしたちは、「深部体温」という内臓など身体の内部の体温の変動によって眠りをコントロールしています。眠りにつくとき、手足から熱が発散されて身体の深部体温が下がり、それによって眠気がおとずれます。逆に目覚めるときには深部体温が上がります。深部体温が高ければ行動が活発になり、低くなれば眠くなるというのは人間の身体の基本的なメカニズムです。

そして、この深部体温は、メラトニンの分泌によって変動します。夜にメラトニンがどんどん分泌されると深部体温が下がっていき、朝になって太陽光を浴びると脳からの指令で分泌がストップ。深部体温も上がっていきます。つまり、太陽の光が眠気を止めるスイッチになっているのです。

さらに、太陽の光を浴びると免疫力を高める効果のあるビタミンDが生成されるため、一石二鳥です。

なかなか午前中に太陽の光を浴びられない日は、ビタミンDを多く含むものを食べるといいでしょう。鮭・サバ・マグロ・イワシなどの魚やキノコ類には、ビタミンDが豊富に含まれているのでおすすめです。

気持ちも新たに頑張りたい季節。大事なときに体調を崩さないように、春こそしっかり自分をいたわる習慣を身につけていきましょう。

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