史上ふたり目の「3年連続沢村賞」もほぼ当確の山本史上ふたり目の「3年連続沢村賞」もほぼ当確の山本
シーズンも残り1ヵ月となったプロ野球。前人未到の「3年連続投手4冠」も射程圏内。"NPB史上最高投手"として君臨するオリックス・山本由伸の投球を目に焼きつけろ!【プロ野球2023ラストスパート・ワイド(2)】 
*成績はすべて9月4日時点。山本投手は9月9日の千葉ロッテマリーンズ戦でノーヒットノーランを記録。

■メジャーが誇るレジェンドと同格

大谷翔平(エンゼルス)、ダルビッシュ有(パドレス)、佐々木朗希(ロッテ)......。WBCで日本を世界一に導いた侍エースたちの故障が相次ぐ中、異次元の投球を平常運転で続けるのがオリックス・バファローズの山本由伸だ。13勝、防御率1.34、勝率.722はいずれもリーグトップ。奪三振数こそロッテの種市篤暉(たねいちあつき)に6差の2位だが、3年連続投手4冠も射程圏内だ。

そんな圧巻の成績の中でも、特に際立つのは防御率だろう。2位と1点差近い数字で、キャリアハイの1.39を更新するだけでなく、2011年の田中将大(楽天)が記録した平成以降のシーズン最高防御率1.272の更新も十分ありえそうだ。

山本は何がすごいのか? そんな疑問を野球評論家のお股ニキ氏に投げかけると、「"すべてが"すごいんです」と即答された。

「ビシビシ来るストレート、カクンと落ちるスプリット、ギュインと曲がるカーブ......。全球種が理論上も理想的で、決め球になる。とにかく球筋が美しくて強すぎます」

5年連続で防御率1点台と無双していた日本ハム時代のダルビッシュに近いのか?

「あのときのダルビッシュ以上かも。ダルビッシュも圧倒的でしたが、NPBで最多勝のタイトルは獲得しておらず、NPB通算防御率もダルが1.99に対して、由伸は1.86。フォーム、球筋、コントロール、配球、人間性、再現性、継続性......すべてが桁違いです」

人間性が桁違い、とは?

「怒ったりしないし、イライラもしない。究極の平常心というか、自分がコントロールできること以外は全部関係ない、と泰然自若な印象です」

平常心のなせる技なのか、山本は今、力いっぱい投げずとも打ち取ることができ、再現性も極めて高いという。

近い存在としてお股ニキ氏が挙げるのは、バーランダー(アストロズ)、シャーザー(レンジャーズ)、カーショウ(ドジャース)という、サイ・ヤング賞を3度獲得しているメジャーの生ける伝説たちだ。

「その3投手に共通するのは、圧倒的な100マイルは出さずとも、強めのキャッチボール感覚の力感で抑えられること。力いっぱいじゃないからコントロールもいい。変化球も打者の直前で鋭く曲がる切れ味がある。そんな球をロボットのように、いつでも投げ続けることができるんです」

この水準は日本人では初めて、とお股ニキ氏は力説する。

「佐々木朗希もその水準に近いですが、耐久性が及ばない。村上頌樹も制球と球質は同水準だが、球速が7~8キロ近く違う。最大瞬間風速で『由伸を超えた!』となっても、長い目で見ると誰もかなわない。その点もサイ・ヤング賞3度のレジェンドたちと同様です」

四球は少ないわけではなく、どのシーズンも40個前後だが、これもポイントだという。

「由伸は、打たれちゃいけない場面であえてボール球を投げられる。一流は"四球OK"という意識で試合に臨んでいます。本当にすごい投手は、最後に勝利をつかむ投球ができるんです」

象徴的だったのが9月2日の日本ハム戦だ。伊藤大海(ひろみ)との投げ合いとなったこの試合、伊藤は9回を投げ切り、被安打2、無四球で1失点。対する由伸は7回を被安打4、3四球で無失点。結果的に白星をつかんだのは山本だった。

「あの日の伊藤は絶好調で三振も11個。完投もしたが、初回の2安打のみによる1失点で負け投手に。対する由伸は調子が悪く、2~5回は毎回得点圏までランナーを許しながらここぞの場面でビシビシ投げ込める。三振だって多ければいいわけじゃない。ここぞでは狙って奪える、という余力があることが一番です」

■"史上最高投手"の投球を目に焼きつけろ

8月以降は4勝1敗。しかも直近5試合は33イニングを投げて自責点ゼロと上り調子だ。ここからポストシーズンに向け、どんな投球を見せてくれそうか?

「今季はまだ完封がなく、7回くらいで降りる印象です。WBCもあり、無理をしない、ケガをしないという中嶋聡監督との共通見解もあるのでしょう。それでも、勝負どころの8月、9月にピークを持ってきた。3年連続投手4冠&沢村賞も期待大です」

そして、シーズンオフにはポスティングでのメジャー移籍も有力視されている。

「日本でやり残したことはないでしょう。過去にメジャー挑戦した投手の中でも最高評価のはず。千賀滉大(メッツ)が5年7500万ドルでしたが、由伸はすでにサイ・ヤング賞候補としてみられており、金額も注目度も高い。7年2億ドルくらいはいくのでは」

いよいよ日本球界では見納めに。だからこそ、ここからの期間で、その投球を目撃しておく必要がある。

「由伸のすごさはハイライトだけ見てもわからない。去年9月のソフトバンク戦でも、9回に4番の柳田悠岐をカーブとフォークで追い込み、その日最速の157キロを計測したストレートは低めに外れたものの、球場にどよめきが起こり、最後はフォークで仕留めた。110球を超えた最後の場面でそれができてしまうんです。NPB史上最高投手の投球をしっかり見届けたいですね」