FIREなどの早期リタイアまではいかなくても、60歳で仕事を辞めたいという人も多いことでしょう。60歳で仕事を辞めたいなら、最低でもどんなことを現役時代にしておけばよいのでしょうか?

「FIRE」という言葉が注目されています。FIREとは、Financial Independence, Retire Earlyの略で、『経済的な自立を実現させて、仕事を早期に退職する生活スタイル』のこと。FIREに憧れるものの、いざ実行となると敷居が高いところ。それなら、60歳で仕事を辞めるのは実現できるかも……。

とはいっても、誰でも60歳で仕事が辞められるものではありません。60歳で仕事を辞めたい人は、どういうことをしておくべきでしょうか?

◆1)住宅ローンは完済、教育費は別貯め

一番避けたいのは、リタイア後も多額の固定費がかかること。リタイア後の基本生活費はできるだけコンパクトにしたいものです。

まずは、住宅ローンの返済が60歳までに終わるようにしておきましょう。住宅ローンの返済が残っていると、家計の収支はかなり悪化します。退職金でローンを完済する計画もアウト。退職金はリタイア後の生活の基盤となるものです。現役時代に住宅ローンは完済しましょう。

同様に、60歳を超えても子どもの教育費がかかる人も要注意です。教育費は予想以上にかかります。自分たちの老後のお金を教育費にあてることは厳禁です。最低でも学費分は自分たちの老後のお金とは別に貯めておきましょう。

◆2)個人型確定拠出年金iDeCo等で年金上乗せ

老後の生活の支えとなるのは公的年金(老齢年金)でしょう。60歳から75歳(※)の間で好きな時から年金が受給できます。65歳以降に年金を受け取る「繰り下げ受給」をすると、65歳で受け取るはずの基準額より1カ月あたり0.7%年金額が増額されます。

※昭和27年4月2日以降生まれの人、受給権発生日が平成29年4月1日以降の人が該当

70歳まで繰り下げをすると42%、75歳までで82%も65歳受給時より年金額が増えます。生涯受け取れる年金ですから、長生きのリスクに備えるために、少しでも年金額を増やしておきたいところ。

そのためには、私的年金を準備しましょう。私的年金で生活する期間を設け、公的年金の受給開始を遅らせるのです。年金額を増やすと、年金だけで生活できる可能性が高くなります。60歳でリタイアするなら、少なくとも、70歳までは私的年金等で生活費をまかない、70歳以降から公的年金を受給するようにしましょう。

この私的年金として、税制メリットがある「個人型確定拠出年金(iDeCo)」を利用するとよいでしょう。年金の上乗せをしっかりしておくことが大切です。

◆3)受給できる年金額を確認

老後生活の収入は公的年金がメインとなります。その年金額を知っておかないと、リタイア可能かどうかも判断できません。将来の年金額を知るには、「ねんきんネット」を利用しましょう。年金記録を確認し、年金見込額を試算することができます。将来の働き方などで年金額の変化をシミュレーションすることもできます。

毎年、誕生月に送られてくる「ねんきん定期便」に記入されているアクセスキーと基礎年金番号があれば、すぐに利用することができます(アクセスキーがなくても、基礎年金番号がわかれば利用できます。基礎年金番号がわからない場合は、ねんきん定期便から基礎年金番号を知ることも可能です)。

2)で準備したiDeCoなどの個人年金を利用し、公的年金の受給を70歳以降にできそうな場合は、受給開始年齢と受給額を把握しておきます。

◆4)基本生活費を把握

老後の家計の収入がわかれば、次は支出を把握する必要があります。毎月の生活費が年金受給額以内におさまる家計を目指したいからです。一般的には、リタイア後の生活費は現役時代の7割程度といわれています。ということは、現役時代の生活費を把握しなくてはいけません。

現在の毎月の支出(教育費や住宅ローンを除く)を把握するために、3カ月間は全ての支出を家計簿につけます。スマホの家計簿アプリなどもありますから、まずは使いやすいもので全支出を管理します。また、年単位で支出するもの(固定資産税、車関連費用、年払いの保険料など)もリストアップしておきましょう。

1年でかかる生活費がわかれば、老後の生活費も予想できます。税金やマンションの管理費などは現在の金額を、食費や交際費などの生活費は今の7割と仮定して老後の生活費を予想します。

◆5)60歳までに貯めるべき金額を把握・計画

最後に、60歳までに用意するべき預貯金額を知り、その金額を貯めることができるのであれば、60歳リタイアは可能ということになります。3)で年金収入を、4)で老後の生活費を把握することができました。まずは、年金収入で老後の生活費がまかなえるかどうかがポイントです。年金受給の繰り下げなどを検討し、まずは基本生活費を年金額内に収められたら、リタイアOKのサインです。

年金額が少なくて基本生活費がまかなえそうになければ、赤字額の総額をだしてみましょう。100歳まで生きると考えて計算すると安心です。最低でも、その金額を60歳までに預貯金で用意できなくては、60歳でリタイアは難しいでしょう。

次に、基本生活費以外に必要になりそうなお金を把握します。リタイア後に海外旅行に行きたい、月に一度は温泉旅行に行きたいなどの基本生活費とは別の費用。マイホームのリフォーム代なども予定があれば加算します。体が不自由になったら有料老人ホームに入りたいなどの希望がある場合は、必要な金額を試算しておきます。これらの老後のイベント費用の総額をだしてみましょう。

最後に、医療費や介護の費用も考えておかなくてはいけません。予備費も含めて1人あたり2000万円は考えておきたいところ。これらの総額が60歳までに貯めるべき金額となります。

◆毎月の赤字、老後のイベント費用、医療介護費を60歳までに貯める!

これらの老後の基本生活費の赤字分(基本生活費が年金でまかなえない場合)、老後のイベント費用、医療費介護費といった老後に必要となるお金が把握できました。60歳で仕事をリタイアしたい場合は、その金額を60歳までに用意しなくてはいけません。

退職金などを考慮し、残りは60歳までに貯められるように計画をたてましょう。それが実行できれば、60歳でリタイアが視野に入るでしょう。今現在の生活費の把握、老後費用の設定、計画的な貯蓄計画と実行ができれば、60歳で仕事を辞めることが可能になるでしょう。

文:福一 由紀(ファイナンシャルプランナー)

大学卒業後システムエンジニアとして勤務。2人の子どもを出産し退職後FP資格を取得。女性のFP仲間とともに会社を設立し、セミナー、執筆、各種メディアへの企画監修、コンサルティングなどを行っている。

文=福一 由紀(ファイナンシャルプランナー)