大学でまちづくりや設計を学び、ワンストップリノベーションサービス「リノベる。」で累計約700組の住まいづくりに寄り添ってきた小野寺七海さん。住宅購入の先にある人生も見据えた住まい方の提案を通じて、お客様にとっての「らしい暮らし」と、CO2排出量を抑えた環境にも優しい住まいづくりを推進しています。

連載にあたり、マイナビニュースの読者のみなさま約500名にリノベーションに関する疑問についてアンケートを実施し、沢山のご質問をいただきました。第6回の「住まいのお手入れ」に続き、今回は「マンションの資産性」についてお話しします。

  • 「築43年のマンション × 将来的な売り貸し」を想定した「リノベる。神奈川 横浜ショールーム」

リノベーションによって資産価値は上がりますか? (40代・男性・会社員)

リノベる 小野寺七海さんからの回答

「リノベーションは、暮らしに合わせた機能・価値の再生」なので、理屈上は上がると言えますが、中古マンションの価格は景気動向や需給のバランス等、様々な影響によって変動するため必ず上がると言い切るのは少し難しいです。一方で、中古リノベーションの資産性を、購入時価格と売却時の差額=リセールバリューと捉えると、次のように考えることができます。

まず事実ベースでは、新築の供給量が減っており、相対的にもこれまで以上に築年数を重ねた建物が増えていきます。以下は国土交通省が発表した分譲マンションの築年数の将来予測です。現在、築40年以上のマンション数は全体の約2割ですが、20年後にはその数が約4倍に増加すると予想されています。つまり、中古に対するマイノリティ感は減っていき、中古購入が一般的な選択肢になっていくでしょう。また、利便性の高い場所には既にマンションが建っていることが多いため、中古マンションの方が立地がよい物件が多いという特性もあります。立地の良さは資産価値にもつながります。

  • 引用元:国土交通省 築後30、40、50年以上の分譲マンション戸数

今回のご質問である「リノベーションで価値が上がるか? 」は、将来的な資産性、リセールバリューがあるか、と言い換えることができますね。今の日本は、築年数が経過すれば価格も下落する傾向にありますが、一定の築年数を超えると下落幅が緩やかになり、横ばいになります。さらに、その中で評価されるのは、「この物件なら、購入したい」と思ってもらえる物件です。オーダーリノベーションをされるお客様のご自宅は、周辺環境も含め、暮らしやすさにとことんこだわった、まさに唯一無二の住まいです。だからこそ、次の誰かにとっても、唯一無二の価値となりうる可能性を秘めています。

愛を持って創りあげた住まいが、次の誰かの価値になる

では、実際に弊社でリノベーションをされたお客様の売却事例を見てみましょう。

2017年、O様が単身の時に中古マンションを購入してリノベーションを施し、お気に入りのキッチンや、こだわりのヘリンボーンなど、想いの詰まった住まいが完成されました。

ほどなくしてご結婚された後も、愛着のあるお住まいで生活を送られていましたが、遠方にご転勤が決まり、一時、相場よりも高い価格で賃貸に出すことになります。しかしこの時、賃貸オーナーとしての大変さを実感されたそうです。その後、パートナーのお仕事が都心で始まるものの、以前のお住まいからは少し遠いため、住み替えを検討され始めました。

売却検討の最初に決めたのは、以下の項目だったそうです。

・想いを受け継いで大事に住んでくれる人が見つかったら、売る
・最低限の金額を決めて下回ったら売らずに住み続ける or 再び賃貸に出す

そして、売却活動から4カ月、ついに運命のお相手に出会います。まさに「この方に買ってもらいたい!」と思える方だったそうです。

”価値観が共有できる方に出会えたら売却したいと思っていたので、ご縁があってよかったです。2組目に内覧に来ていただいた方でしたが、この方に買ってもらいたい……!と思える方でした。趣味も同じで感性が合うので、これからどんなお住まいになるのか楽しみです。

素材をひとつひとつ選んで創り上げた住まいは、床についたシミすらいとおしく思っています。手放すかとても悩みました。実際にこの部屋と離れるときには普段泣かない夫も涙していました。

引っ越しはしますが、いい物件とのご縁があればまたリノベーションしたいです!”

一般的に売却物件の内覧は、ご質問のやりとりと室内を一通り見たらお別れするものですが、弊社担当者の話では、O様と買主様は久しぶりに会うご友人のようにソファで歓談が始まったそうです。

今回売却されたO様の場合、リノベーションでこだわったポイントやデザイン性の高さを十分に理解いただける買主様に出会い、双方にとってメリットのあるお取引きが実現できました。リノベーションした住まいの付加価値として、買主にとっては、こだわりのぎゅっと詰まった物件を手間と時間、自分で作るよりもコストをかけずに購入できるのは、大きなメリットと言えるでしょう。

こういった点からも、「この物件だから、購入したい」と思ってもらえる理由になると言えるかと思います。O様の事例は、実は稀なことではありません。弊社も13期目に入り、同じように納得の売却をされるお客様が続々増えています。

物件が新たな価値を持ち、次の誰かの価値あるものになる。これもリノベーションの魅力の一つですね。

リノベーション前提の物件選びの目利きポイントは「管理」と「立地」

ではリノベーション前提とした物件選びでは、何を見ればよいでしょうか? 大事なポイントを2つに絞ってご紹介します。

まず一つ目。連載第3回でも申し上げた通り、まずは物件の管理状態をしっかり見ましょう。ご自身が安心して住むためにも、建物としての安全性は非常に重要です。

二つ目は、立地です。これは必ずしも駅が近いということや、商店街が近いということだけではありません。あなたにとって、心地よい理由がある場所。それが、誰かにとっての心地よさにつながる可能性があります。春は窓から桜が一杯見える、とっても綺麗な夕日が入る…。もちろん、駅が近いことや買い物の利便性はニーズが高いですが、そこも含め、ご自身が「ここだから、買いたい」と思えるポイントを見つけることが大切です。

  • 撮影:古末拓也

自分が大切に思っている住まいを、次の誰かが想いも含めて引き継いでくれる。大きなお買い物である住宅購入で、そんな愛溢れるバトンタッチができる可能性が、リノベーションにはあると思うのです。