9月13~17日の5日間、札幌市を中心に開催されたフェス「NoMaps2023」。メインホールで開催されるカンファレンスのテーマはなんと「人間の逆襲」!?

このSFチックなテーマについて、北海道のビジネスシーンの第一線で活躍中の6人がフランクに話し合った模様をレポートします。

  • 札幌市を中心に開催されたフェス「NoMaps2023」

「人間の逆襲」という謎テーマ!?

網羅する範囲が広くて全体像がつかみにくい印象の「NoMaps2023」。告知ページにはこんな説明が……。

NoMaps2023MAINHALLカンファレンスのスタートは、北海道で新たなシーンを生み出している起業家を招いてのスペシャルセッションからスタート。IT×エンタメ×アート×地域創生etc.てんこ盛りに入り乱れるテーマを語り合います。(告知ページより引用)

スタートとされているセッションなら、核心部分をつかめるのでは、と参加してみました。

モデレーターを務めるのは、NoMaps2023の総合プロデューサーを務める五十嵐慎一郎さんと、NoMaps実行委員の成田智哉さん。ゲストは伊藤翔太さん(トリプルワン代表取締役社長)、松井健太郎さん(インフィニットループ代表取締役会長)、清野光さん(GANON FLORIST)、今啓亮さん(マルゴト代表取締役)の4人。

平日昼間にかかわらず、会場のアスティホールには多くのオーディエンスが集結。

  • 多くのオーディエンスが集結

冒頭、ゲストの紹介を終えてから、五十嵐さんは今回のテーマ「人間の逆襲~シン北海道~」について「スターウォーズっぽくいこうかなと思って」と前フリしながら、その真意をこう説明しました。

五十嵐:今年、個人的にはやっぱりChatGPTがセンセーションだったので。人間を超える知能の出現を体感して、あれ、俺はどうやって働いて、人間は何をすべきなんだろう……と思ったのと、その中でも人間らしく生きるには北海道ってすごくいいな、と思ったのと。そういうフワッとした思いを言葉にしたらこうなりました。

  • NoMaps2023総合プロデューサーを務める五十嵐慎一郎さん 大人代表取締役

このテーマに応じてさっそくAIの可能性に言及したのが、ゲーム開発を手掛けるインフィニットループの松井健太郎さん。

松井:私はVRやAIの新規事業をやっているので、人間に逆襲される側かもしれませんが、AIの進化はすごいビジネスチャンスだと思っています。AIのテクノロジーにはいろんな可能性があるので、起業家が生まれやすい時代だと感じますし、私自身もAIの事業化をいくつか進めています。ただ、多分AIがいくら進化しても人間にしかできないことは必ずあるはずなので、そういう意味では人間の可能性を強く信じている派ではあります。

一方、AIをあまり意識していないのは伊藤翔太さん。「面白いことしかやりません」をスローガンにしているトリプルワンの代表です。

伊藤:エンタメ分野、特にお笑いはAIが担うのは無理と思っていて、そもそもAIがやる時点でオモロじゃなくなっちゃうっていうか…。既存にあるものをアレンジするのはいいかもしれないけど、ゼロイチでつくるのはまだ難しいのでは。例えばピアノをAIに弾かせたらとんでもなく上手いけど、発表会での拙い娘の演奏のほうが感動できたり、北京五輪で話題だった食堂のロボットよりおばあちゃんがつくる豚汁のほうがおいしそうだったりするじゃないですか。俺は「AIが人間に勝てるわけがない」と思っているので、逆襲する必要もないというか、そもそも違う文脈に生きていると思う。

と話した上で「それよりも北海道をマジで変えなきゃいけないと思っているので、シン北海道のテーマの方がいい」と話題をチェンジしました。

  • 伊藤翔太さんはタレント事務所のほか、キャンペーン企画などを仕掛けるトリプルワン代表取締役社長、今年ススキノにスナックも開業

北海道はもっと「クセつよ」になるべき

話題が北海道の魅力について移ったところで発言したのが今啓亮さん。東京で採用代行の会社を立ち上げ、フルリモートで勤務する社員150人を抱えながら、去年、本社を札幌に移転して、社長の今さん1人だけが北海道にUターンしたという。

今:関東に7年住んでいたので「本社を札幌に移してどんなメリットがあるんですか」とよく聞かれるんですけど、マジでないんです(笑)。子どもを北海道の小学校に入れたかったし、親の近くで暮らしたいと思ったから戻ってきただけ。というのも、東京の小学校ってグラウンドが狭いし、体育館に行くのに道路を渡ったりするんですよね。自分が通った小学校みたいに、広いところでのびのびしてほしいな、と。そのためにAIやITを使えるなら使ったらいいし。結局、人間が好きなことやるためのツールでしかないと思っています。

  • マルゴト代表取締役 今啓亮さん

一方、海外での仕事も多いフラワーアーティストの清野光さんは、職人やクリエイター、プレイヤーなど、現場の仕事やアート分野を軽視するビジネス社会に警鐘を鳴らします。

清野:僕はカリフォルニアに行くことが多いんですけど、フードデリバリーはロボットが運ぶし、タクシーを呼んだら自動運転の車が来る。そういう労働をAIがやり始めたら、人間は何をするんだろう、生産性ゼロで貴族のように暮らせるのかと。

この発言に対して五十嵐さんが「生産性ゼロを目指す、がキーワードかもしれないですよね」と同意。成田さんも「AIが仕事をしてベーシックインカムやインフラが整えば、逆に北海道の自然コンテンツが求められるのでは」と、「シン北海道」の姿を提案しました

成田:先日「おやこ地方留学」というプログラムで、東京の子どもたちを夏休みの1週間、(道央南部の)厚真町に招いたんです。東京の高層マンションに住んでいるような子たちは「え、ここ走っていいの?」「道路、勝手に渡っていいの?」みたいな感じで、海も畑もあって馬もいてという環境に相当インパクトあったようで……。かけがえのない体験だって親御さんも言ってくださったんですけど、北海道の自然資本みたいな価値はこれから見直されるんじゃないかなって思っていますね。

  • 成田智哉さんは「境界を越えて世界をかき混ぜる」をコンセプトにしたマドラーCEO、北海道経済コミュニティ「えぞ財団」団長

伊藤:北海道はいい人が多すぎなんですよ。みんなウエルカムみたいな感じですけど、これからは「別に北海道は北海道でやるんで大丈夫です」ぐらいの「クセつよ」になった方が、俺はいいと思ってます。

伊藤さんのクセつよ発言で、会場は大爆笑。うんうんとうなずく人の姿も見られました。

いつしかテーマは「北海道の逆襲」に

北海道の魅力があれこれアトランダムに語られたあと、セッションの終盤は、徐々に現実的な話へとシフトしていきます。

松井:ゆくゆくはAIがもたらす「生産性ゼロの社会」を目指すとしても、そうなるまでの間はどうすればいいのか。そこを埋めていくのが課題ですね。

清野:北海道はプロデュースやブランディングが足りないんですよ。カリフォルニアがアメリカの州になったのも、北海道の開拓の時期とそう変わらないのに、今では映画の本場ハリウッドとしてブランドが定着してますよね。

  • 清野光さんはフラワーアーティスト、作曲家、写真家、建築デザイナー、ブランドオーナーとしてグローバルに活動、「花人間」のプロジェクトでも知られる

伊藤: I LOVE LAじゃなくてI LOVE 北海道っていうTシャツをみんなで着るぐらいのバイブスがないと。中央の指示に従って動きますよ、みたいなのをもうやめて。俺たちこんなにいいもんいっぱいあるから、北海道として独立してやりますって(笑)。もう移住促進もしなくていいです。だから「北海道からの逆襲」の方がいいんじゃない、人間の逆襲より。

と、セッションも徐々にヒートアップしたところで、そろそろシメの時間。

清野:人間って、ストレスがたまると温泉に行ったり、自然に触れたりしたくなる。それはどんなお金持ちでも同じ。コンクリートに囲まれて暮らしていると、体が緑や花を求めてしまうんです。コロナ禍の期間、通販でフェイクグリーンが売れたのも同じことでしょう。自然との付き合い方を見直す時期だと思う。

松井:私は3日間で起業を体験しようという「Startup Weekend」というプロジェクトに関わっているんですが、起業する人は実際、増えてきていると思うんです。でも起業した若者がうまくいっているかというとそうでもない。我々世代がビジネスの仕方とか経験を伝えていくフェーズになってきたのかなと思っています。

  • 松井健太郎さんはインフィニットループの代表取締役会長ほか、ドワンゴと共同で立ち上げたバーチャルキャストの代表取締役社長も務める

五十嵐:NoMapsは、アメリカの「サウス・バイ・サウスウエスト」という、音楽祭や映画祭、インターネット関連新技術などを組み合わせたフェスみたいのを北海道でもやりたいねって、2017年に始まったんですけど。「誰かに喜んでもらえる何かを作れる人」がもっと増えて、そういう人たちが出会うことでシナジーが生まれるお祭りになってほしいと思っています。

IT、エンタメ、人材採用、クリエイティブ……と、さまざまな分野の第一線で活躍するビジネスリーダーが顔をそろえて繰り広げたトークセッション。

楽屋では「アメトーク的に行こう」と打ち合わせたというだけあって、ボケあり本音あり。始終笑いながらも、AIの未来や海外との差、これまで気づかずにいた北海道の優位性を教えてくれる刺激的な内容でした。