ホンダがミニバンの「オデッセイ」にマイナーチェンジを施し、11月6日に発売する。外観を一新し、使い勝手を向上させた新型は、既存のオデッセイユーザーを中心に需要が見込めるとホンダは考えているようだが、ここ数年で競合が次々に撤退していったことを考えると、上級ミニバンを求める幅広い顧客に響くのではないかとも思える。

  • ホンダの新型「オデッセイ」

    マイナーチェンジした新型「オデッセイ」

競合なし? 「オデッセイ」の現状

ホンダの上級ミニバンである「オデッセイ」が2度目のマイナーチェンジを行った。外観の見栄えが大きく変わり、別のクルマのようだ。室内ではダッシュボードの様子が変わっている。そのほか、細かな点で使い勝手を改善しており、開発責任者は「従来のお客様の買い替えにつながるのではないか」と期待を語った。

現行のオデッセイは2013年にフルモデルチェンジをした5代目で、7年の長きにわたり販売を続けている。競合といえるのはトヨタ自動車「エスティマ」だが、こちらは2019年に生産を終えた。日産自動車「プレサージュ」は2009年、マツダ「MPV」は2016年に販売終了となっているので、現状でオデッセイと競合する車種は他社になく、この大きさのミニバンを希望する人は、ほかに選択肢がない状況だ。

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    新型「オデッセイ」の価格はハイブリッド車が419.8万円~458万円、ガソリンエンジン車が349.5万円~392.94万円。リフトアップシート車は358.2万円~378.2万円だ

オデッセイの販売動向を見ると、新型コロナウイルスの影響を受けながらも2020年4~9月の集計で45位(日本自動車販売協会連合会の乗用車ブランド通称名別順位)に着け、健闘している。半年で4,000台強という販売台数は必ずしも多くないが、SUV人気の中にあって同社の「CR-V」より上位にあるということは、日本のミニバン人気に火をつけたオデッセイの根強いブランド力や、商品性の高さに注目し続ける消費者が残っている証だろう。

では、マイナーチェンジでオデッセイはどう変わったのか。その魅力は不変なのか。そのあたりを探ってみたい。

マイナーチェンジの中身は

今回のマイナーチェンジの目玉は、冒頭に紹介した内外装の刷新だ。ことに外観は、ボンネットフードの高さを7cm上げてグリルを大きく見せることにより、別のクルマのような雰囲気に仕上がっている。

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    ボンネットフードを高くしてグリルに厚みを加えたことで、「車格が1段階上がった」とホンダ開発陣は話していた。グリルのデザインは横線(写真)が基本で、網目状のグリルはアクセサリーだ

ヘッドライトはLEDとし、ウィンカーには流れるように点滅するシーケンシャルランプを採用。厚みのある顔つきの印象は、後ろ姿にも統一感がある。リアコンビネーションランプもLEDとなった。

室内では、大きなナビゲーション画面がまずは目につく。サイズは従来の7インチから10インチに拡大した。ダッシュボードの造形も変更し、助手席側には大きな収納を用意。座席には撥水・撥油の表皮を使い、汚れを拭き取りやすくした。

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    ナビゲーション画面が大きくなった室内

機能装備では、スライドドアに静電センサーを使った自動開閉機能を採用している。キーを所持してクルマに近づくと、スライドドアの窓下端にLEDの光が点灯し、そこに手をかざすと反応して、光の流れる方向へ手を動かせばスライドドアが自動で開く仕組みだ。閉じる際も、同じく手の動きで容易に操作することができる。

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    手をかざして横方向に動かすことで、スライドドアを自動で開閉できる機能を搭載

他社には、リアゲートと同様に、車体下へ足を蹴り込む動作でスライドドアを自動開閉させる仕組みがあるが、キーや取っ手を直接操作しなくても、スライドドアを開閉できる新たな手法として興味深い操作方法である。

もうひとつ、スライドドアには予約ドアロックという機能を採用している。これは、フロントドアを閉じたあとでスライドドアを閉じる際、あらかじめフロントドアの取っ手のロックボタンを押しておくことで、スライドドアも、閉じたあとに自動的に施錠される機能だ。同機能を使えば、スライドドアが閉じ切るまで近くで待っている必要がなくなる。施錠されたかどうかは、ハザードランプとチャイムの音で確認できる。

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    予約ドアロック機能を使えば、スライドドアが閉じ切る前に車を離れることが可能に

リアゲートにはパワーテールゲートを採用。これは他社にもあるように、リアバンパー下へ足を蹴りだすように差し入れると、リアゲートが自動で開け閉めできる機能である。従来から要望があったそうだが、マイナーチェンジの機会を捉えて実装した。

そのほかには、メーター内のTFT液晶画面の大型化、運転席のカップホルダーの改善、小物入れの改善などを実施した。

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    リアゲートは電動に

走行性能では、特に乗り心地を改善したという。タイヤの扁平率を高くし、ホイールリムには共鳴音を抑えるレゾネータを取り付け、静粛性を向上させた。窓ガラスには遮音機能のあるものを採用。ガラスの板厚を増やしたりもして、室内の静けさを高めた。安全面では、運転支援の「ホンダセンシング」に後ろへの誤発進抑制機能を追加した。

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    運転席にカップホルダーを取り付けたり収納を増やしたりしたのは、「オデッセイ」ユーザーから不満点を聞き出し、要望に対応した結果なのだそう

「オデッセイ」の立ち位置

ここで改めて、そもそもオデッセイというのはどんなミニバンなのか、その特徴を見直してみたい。

1994年に初代オデッセイが誕生したときは、3列の座席により7人が一緒に移動できるクルマとして、家族や仲間と出掛ける嬉しさが人々の共感を得た。他社は、それまでワンボックスカーというキャブオーバー型(前席下にエンジンを搭載)のクルマで同様の価値を提供してきたが、ワンボックスカーの基は商用バンであり、前席下にエンジンを搭載する構造からも、必ずしも快適な乗り物ではなかった。

それに対し、ミニバンのオデッセイは、乗用車の「アコード」を基に開発された多人数乗車の多目的車(MPV)であり、快適さが格段に違った。走行性能も高く、都市高速で軽快な操縦性を楽しむことができた。そうした軽やかな運転感覚は、エスティマやプレサージュをはるかに上回っていた。

のちに3代目のオデッセイで車高を下げ、走りをもっと突き詰めようとしたが、そこまでしなくてもオデッセイは元来、運転しても同乗しても快いミニバンだったのである。

使い勝手で特徴的なのは、3列目の座席を折りたたんで荷室床下に収納できるところだ。こうすることで、ステーションワゴンのような荷室を得ることができる。2列目にベンチシートを選ぶと、それを前方へ折りたためば、まるで商用バンのように大きな荷室となった。とりわけ3列目の座席が床下に収まる方式は、他のメーカーでは採用されず、3列目を左右に分割し、荷室側面にはね上げる方式がとられた。しかしそれでは、荷物を積むのに邪魔になる。また、重い座席が車体の上の方に折りたたまれるので、重心が上がり、操縦安定性にも悪い影響を与える。

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    「オデッセイ」の3列目シートは床下に収納することができる

オデッセイはこのように、ミニバンといえども乗用車と同じように快適に移動できるクルマであることを忘れなかった。同時にまた、荷室を広く確保できるようにするなど、実用性も高かったのである。その基本的特徴は、5代目の現行オデッセイでも変わらない。他社のミニバンが消え去るなかオデッセイが生き残った背景には、単に流行に流されるのではなく、人を中心とするホンダ哲学があったのである

今回のマイナーチェンジでは、助手席と2列目のリフトアップシート車が設定された。日本の高齢化社会を踏まえた、体調のすぐれない人にやさしい車種の設定といえる。年齢を重ねると、筋力はもちろん、関節の動きにも制約が出て、ミニバンのような高めの座席には座りにくかったり、降りる際にも地面に足が届きにくかったりする。

ホンダセンシングに後方誤発進抑制機能が追加となったことは、ことに大柄で後方確認がしにくくなりがちなミニバンのような車種を運転する上では安心をもたらしてくれる。

それだけでなく、そもそも運転支援機能には、ミニバンのように大人数で移動できる車種にとって、車酔いを起こしにくくする効用もある。車線維持機能を活用すれば、運転者の余計なハンドル操作が減り、同乗者の体がゆすられにくくなるため、車酔いを起こしにくくなるのだ。特に3列目の座席に座る人にはありがたい機能といえるだろう。

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    3列目に乗る人は車酔いになりがちだが、運転支援機能をうまく使えば揺れを抑制することができる

競合車がなくなった今、それらに乗っていた人たちの次の選択肢としては、オデッセイ以外に選びようがなくなった。これまではメーカーや販売店との縁で代替を続けてきた人も、上級ミニバンを買うならホンダへ行くしかない。そこで、オデッセイに触れ、体験してみると、オデッセイがなぜ上級ミニバンとして一世を風靡し、なおかつブランドとして定着し、そして今日まで生き残っているかを実感するだろう。同じミニバンでも、オデッセイはそもそも作りが違うのである。

ホンダとしても、一時代を築いた元祖ミニバンとして、オデッセイをそう簡単に終わらせることはできないはずだ。SUVが人気だとはいえ、ミニバンを利用したい人がいなくなるわけではない。今回のマイナーチェンジを経て、次期オデッセイが登場するときには、一歩先の電動化が期待される。電気自動車(EV)なりプラグインハイブリッド車(PHEV)が追加となれば、クルマから自宅に給電できる「ヴィークル・トゥ・ホーム」という機能も使用可能になる。人々の暮らしによりいっそうの安心をもたらすクルマに生まれ変われるのだ。また、福祉車両も視野に入れたユニバーサルデザインも進化すれば、世代を超えた家族のクルマにもなっていく。

オデッセイへの期待は、途絶えることがないと考える。

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