最新記事

中国社会

受験格差が中国を分断する

2017年3月14日(火)10時30分
ローレンス・ティシェイラ

中国の受験戦争は熾烈だ(写真は山東省済南市の大学で大学院入試のための授業に参加する学生) China Daily / REUTERS

<入学枠削減で名門大学はますます狭き門に。教育面で優遇されている富裕層への怒りはピークに>

中国・江蘇省の省都・南京にある田家炳(ティエンチアビン)高校。肌寒い1月の夕方、太陽が地平線に沈む頃になると、生徒たちが教室から疲れた姿で出てくる。「高考」と呼ばれる大学入学共通試験を5カ月後に控えたある女子生徒は、校門のそばで母親から激励の言葉と、プラスチック容器に入った夕食用の弁当を受け取った。

中国の高校生は大変だ。それは親たちも分かっている。

だからこそ昨年5月、田家炳やその他の高校に通う子供を持つ多くの親たちは抗議行動に訴えた。中央政府が裕福な沿海部の江蘇省にある一流大学(「国家重点大学」と呼ぶ)の入学枠のうち3万8000人分を、貧しい内陸部10省の生徒に割り当てると発表したためだ。その分、地元の生徒の枠は減らされる。

発表の翌日、1000人以上の親が南京市の省政府庁舎の教育部周辺に殺到。「公平な教育を! 高考入学枠削減反対!」と書かれたプラカードを手に大声で抗議の声を上げた。

ネット上のソーシャルメディアには、地元警察が怒る親たちを逮捕し、暴行を加え、連行する様子を撮影した動画や写真が次々に投稿された。自分の体に火を付けた親の情報も少なくとも1件あった(焼身自殺のふりは、中国では怒りの意思表示としてよくある戦術で、実際に命を落とすことはまずない)。

同様の抗議行動は江蘇省内の13都市に加え、同じく削減の対象とされた湖北省でも発生した。人口が多く裕福な湖北省は、入学枠が4万人分削減された。

田家炳高校の校門前で、ある母親が抗議に参加した理由をこう説明した。「江蘇省の受験生は毎日午後9時30分まで教室に残って勉強しているのに、政府は発展の遅れた省の生徒たちをえこひいきしている」

ただし、彼女の怒りは貧しい省の人々ではなく、大都市のエリート層に向けられていた。

上海や北京のような「一級都市」の正式な住民(都市戸籍の保有者)は、教育面で優遇されている。例えば重点大学の合格率は、江蘇省では9%だが、北京の高校生は24%だ。

この数字は制度の産物でもある。中国の大学は地元出身者を優先的に入学させるルールになっているが、清華大学、北京大学、復旦大学などの名門大学はほとんどが北京や上海にある。

【参考記事】一般市民まで脅し合う、不信に満ちた中国の脅迫社会

「上流層は国を見捨てた」

同時に、大都市のエリート層が既得権益を独占している状況の表れでもある。江蘇省の親たちは長年、こうした格差にいら立ってきた。そこへわが子が名門大学に進学できるチャンスがさらに小さくなるという発表があったのだから、怒るのも無理はない。しかも北京や上海は、大規模な入学枠削減の対象になっていない。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

米5月雇用、予想上回る27.2万人増 失業率4.0

ワールド

バイデン氏、ゼレンスキー氏と会談 支援遅れ謝罪し追

ワールド

ロシア中銀、4会合連続金利据え置き 7月利上げ示唆

ビジネス

日銀会合、国債買い入れ減額の議論進展が焦点 市場動
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナの日本人
特集:ウクライナの日本人
2024年6月11日号(6/ 4発売)

義勇兵、ボランティア、長期の在住者......。銃弾が飛び交う異国に彼らが滞在し続ける理由

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    我先にと逃げ出す兵士たち...ブラッドレー歩兵戦闘車が、平原進むロシアの装甲車2台を「爆破」する決定的瞬間

  • 2

    「世界最年少の王妃」ブータンのジェツン・ペマ王妃が34歳の誕生日を愛娘と祝う...公式写真が話題に

  • 3

    カラスは「数を声に出して数えられる」ことが明らかに ヒト以外で確認されたのは初めて

  • 4

    「出生率0.72」韓国の人口政策に(まだ)勝算あり

  • 5

    なぜ「管理職は罰ゲーム」と言われるようになったの…

  • 6

    ウクライナ水上ドローンが、ヘリからの機銃掃射を「…

  • 7

    アメリカ兵器でのロシア領内攻撃容認、プーチンの「…

  • 8

    正義感の源は「はらわた」にあり!?... 腸内細菌が…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    世界大学ランキング、日本勢は「東大・京大」含む63…

  • 1

    ラスベガスで目撃された「宇宙人」の正体とは? 驚愕の映像が話題に

  • 2

    ウクライナ水上ドローンが、ヘリからの機銃掃射を「回避」してロシア黒海艦隊に突撃する緊迫の瞬間

  • 3

    「世界最年少の王妃」ブータンのジェツン・ペマ王妃が34歳の誕生日を愛娘と祝う...公式写真が話題に

  • 4

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃の「マタニティ姿」が美しす…

  • 5

    我先にと逃げ出す兵士たち...ブラッドレー歩兵戦闘車…

  • 6

    キャサリン妃「お気に入りブランド」廃業の衝撃...「…

  • 7

    「サルミアッキ」猫の秘密...遺伝子変異が生んだ新た…

  • 8

    アメリカで話題、意識高い系へのカウンター「贅沢品…

  • 9

    カラスは「数を声に出して数えられる」ことが明らか…

  • 10

    「自閉症をポジティブに語ろう」の風潮はつらい...母…

  • 1

    ラスベガスで目撃された「宇宙人」の正体とは? 驚愕の映像が話題に

  • 2

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 3

    ウクライナ水上ドローンが、ヘリからの機銃掃射を「回避」してロシア黒海艦隊に突撃する緊迫の瞬間

  • 4

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 5

    「世界最年少の王妃」ブータンのジェツン・ペマ王妃が…

  • 6

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 7

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃の「マタニティ姿」が美しす…

  • 8

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 9

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 10

    我先にと逃げ出す兵士たち...ブラッドレー歩兵戦闘車…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中