軽自動車の販売台数ランキングでも上位を占めるスーパーハイトワゴン。2017年度のランキング1位となったホンダ「N-BOX」を筆頭に、ダイハツ「タント」や日産「デイズ ルークス」、三菱「ekスペース」と、各社このジャンルの車両に対する力の入れ方は並々ならぬものがあるハズだ。

そんな中、昨年12月14日にスズキのスーパーハイトワゴンである「スペーシア」・「スペーシアカスタム」が新型へとフルモデルチェンジを果たした。プラットフォームを一新した新型スペーシアは、強力なライバル車種がひしめくこのジャンルで、勝ち残ることはできるのだろうか? 早速試乗して確かめてみた。

  • スペーシア「HYBRID X」(ボディカラーはツールグリーンパールメタリック ブラック2トーンルーフ)

    スペーシア「HYBRID X」(ボディカラーはツールグリーンパールメタリック ブラック2トーンルーフ、車両価格は税込146万8,800円~)

スーツケースをイメージしたエクステリアデザイン

先代モデルのスペーシアはどちらかというとプレーンなルックス、悪く言えば無個性なルックスであったが、新型はスーツケース(キャリーバック)をイメージしたデザインに生まれ変わっている。取っ手をイメージしたサイドシルエットや、スーツケースに用いられるビードを表現したり、ジッパーを模したフロントグリルを採用したりと、外観で「欲しい」と思わせるデザインが取り入れられている。

  • 車体寸法はともに全長3

    車体寸法はともに全長3,395×全幅1,475×全高1,785mm(「HYBRID Xの2トーンルーフ装着車は全高1,800mm」)

従来モデルでは押し出しの強いカスタムZが人気の中心となっていたが、新型はカスタム系以外でも人気を集めそうな雰囲気だ。むしろスーツケースモチーフは標準車の方が強く、新型スペーシア本来の姿と言っても過言ではないだろう。

  • スペーシア カスタム「HYBRID XS TURBO」(ボディカラーはピュアホワイトパール ブラック2トーンルーフ)

    スペーシア カスタム「HYBRID XS TURBO」(ボディカラーはピュアホワイトパール ブラック2トーンルーフ、車両価格は税込178万7,400円~)

標準車とカスタムでエンジンラインナップに違いが

新型スペーシアに搭載されるエンジンは、新型ワゴンRにも搭載されるR06A型エンジンにISGを組み合わせたマイルドハイブリッド仕様。標準車はNAのみだが、カスタムにのみターボも用意されている。

38kW(52PS)/60N・m(6.1kg・m)を発生するNAエンジンは、平坦な街中を走るには充分なスペック。両側電動スライドドアを備えた上級グレードでも車両重量が870kg(HYBRID X 2WD)となっており、新型プラットフォームHEARTECT(ハーテクト)を採用した結果、ライバル車種よりも軽量に仕上がったというのもその一因だろう。

  • 全車マイルドハイブリッドを搭載

    全車マイルドハイブリッドを搭載

しかし、アップダウンが多い場面や多人数乗車時、高速道路を走行する際は、やや力不足を感じることがありそうだ。その場合は47kW(64PS)/98N・m(10.0kg・m)をマークするターボエンジンを選びたくなるが、標準車に用意されないのは残念至極。標準車のルックスが魅力的になっただけに、ぜひ標準車にもターボエンジンの組み合わせを設定していただきたいところだ。

また、気になる燃費性能は、ベーシックな「HYBRID G」で30.0km/Lとなる(HYBRID GSなどは28.2km/L、カスタムターボは25.6km/L)。これは先代モデルの32.0km/Lより劣る数値となるが、カタログ燃費よりも実際のドライバビリティを重視した結果だそうで、実燃費で言えば先代と大きく劣ることはなさそうだ。もはやカタログ燃費だけで判断する時代は終わりつつあると実感した点である。

普通車にも匹敵するリアシートの居住性

  • スライドドアの開口幅も600mmに拡大し、乗り降りも楽に

    スライドドアの開口幅も600mmに拡大し、乗り降りも楽に

過去の軽自動車はフロントシートがメインであり、リアシートは補助席レベルのものだった。しかし、スペーシアのリアシートは下手な普通車よりも広い。身長170cmちょっとの筆者であれば、余裕で足を組むこともできるほどだ。また、リアシートのスライド量も210mmと大きく、荷室を広くしたいときは前方スライドさせるなど、使い方によってスペースを変更できるのも素晴らしい。

しかし、リアシートを一番後端まで下げると、位置的にリアタイヤの上に座るような形になる。そのため、ややリアサスからの突き上げを感じることもあるので、後部座席での快適性を求めるのであれば、必要以上に後ろに下げずに乗るのがいいかもしれない。

  • コンパクトで室内になじむデザインのスリムサーキュレーター

    コンパクトで室内になじむデザインのスリムサーキュレーター

また、上級グレードであれば車内の空気を循環させるスリムサーキュレーターが装備されるというのも、後部座席の快適性をアップさせるポイントだ。室内空間の広いスーパーハイトワゴンではフロントとリアの温度差が発生しがちだが、このサーキュレーターで空気を循環させることで室内温度の均一化を図ってくれる。さすがにフルパワーで作動させると作動音が気になるが、通常使用であれば問題ないレベルだった。

安全装備は抜かりなしだが……

スペーシアにも単眼カメラとレーザーレーダーを使用した先進安全機能が用意される。歩行者も感知するデュアルセンサーブレーキサポート(自動ブレーキ機能付)はもちろん、誤発進抑制機能、車線逸脱警報機能、ふらつき警報機能、先行車発進お知らせ機能、ハイビームアシストに加え、軽自動車初となる、後退時ブレーキサポートも用意されるのがスペーシアならではの点。これは後方誤発進抑制機能に加え、後退時にも自動ブレーキが作動する後退時ブレーキサポートが組み合わされるというものだ。

  • 単眼カメラとレーザーレーダーで前方を監視

    単眼カメラとレーザーレーダーで前方を監視

一方で、ライバルの「N-BOX」には追従型クルーズコントロールが用意されるのに対し、スペーシアの場合はカスタムのターボに通常のクルーズコントロール(非追従型)が用意されるだけというのは残念なところ。スペーシアは後発車だけに、この辺りは頑張ってもらいたいところだ。

  • 超音波センサーが音の跳ね返りで障害物までの距離を計測してくれる

    超音波センサーが音の跳ね返りで障害物までの距離を計測してくれる

ただし、後方はリアバンパーに内蔵された4つの超音波センサーによる検知であり、前方への検知とは精度が異なるため、過信は禁物だ。

  • エアコンやナビゲーションの情報など、表示内容はカスタマイズできる。もちろん表示そのものを消すことも可能

    エアコンやナビゲーションの情報など、表示内容はカスタマイズできる。もちろん表示そのものを消すことも可能

また、オプションとしてフロントガラス投影式のヘッドアップディスプレイが用意される。これを装備することで、単眼カメラが進入禁止の標識を認識した際、ヘッドアップディスプレイ上に進入禁止マークが表示されるという機能も加わる。しかし、これを装着しようとすると全方位モニター用カメラパッケージというオプションを選択しなければならず、税込7万7,760円(カスタムは7万5,600円)のエクストラコストが発生するため、難しいところだ。

  • ボディの形状を活かした個性的なサイドデカールも全6種を用意している

    ボディの形状を活かした個性的なサイドデカールも全6種を用意している

最近のスーパーハイトワゴンは、押し出しの強いメッキギラギラのカスタム仕様が人気の中心であったが、新型スペーシアな癒し系のデザインは、このジャンルに新たな風を巻き起こしてくれそうな魅力的なものだったと言える。それだけに気になる部分も散見されてしまったが、今後の改良でこの辺りが進化していくことを期待したい。