最新記事

北朝鮮

芸術家出身の美女が......北朝鮮「高級VIP風俗」の実態

2018年11月15日(木)15時00分
高英起(デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト) ※デイリーNKジャパンより転載

北朝鮮と中国の芸術家の講演を鑑賞する金正恩(今月3日、平壌) KCNA/REUTERS

<北朝鮮が国内における女性への性暴力について認めることはないが、その矛盾は金正恩体制のもとでいっそう激化しているように見える>

9月20日に韓国で出版された「平壌資本主義百科全書」が好評を博しているようだ。著者は東亜日報のチュ・ソンハ記者。チュ氏は北朝鮮の最高学府・金日成総合大学を卒業した脱北者で、北朝鮮社会の内部をえぐる取材では他の追随を許さない活躍を見せてきた。

新著の内容は、これまでにも増して衝撃的だ。筆者も読み始めたばかりなのだが、のっけから引き込まれた。冒頭で紹介されているのは北朝鮮人口の「0.001パーセントレベルの御曹司」のインタビューだ。

北朝鮮で貧富の格差が拡大しているのは周知の事実ではあるが、平壌中心部の外貨専門サービス施設で1日に1000ユーロ単位の遊興費を当たり前のように蕩尽するという「御曹司」の話は、ハッキリ言って想像以上だった。

参考記事:「牛乳風呂」をたのしむ北朝鮮の上流階級

今後も本書のポイントについて機会があるごとに紹介するつもりだが、とりあえず目に入ったのは次のくだりだ。

「彼は常連として通う家屋型のクラブについても衝撃的な話を続けた。一般のマンションに店を構え、芸術家出身の美しい女性が身分の確かな固定客のVIPを相手にお酌をし、接待(ベッドも含む)をする。一晩に普通、100ドル以上だという」

北朝鮮においても、性の売買が行われている事実はつとに知られている。よく知られているのは低所得層の女性たちの、食べていくための生業についてだが、それとは違う金持ち相手の商売があることも伝えられている。

参考記事:コンドーム着用はゼロ...「売春」と「薬物」で破滅する北朝鮮の女性たち

それにもかかわらず、今さらながらこの話が目に入ったのは、少し前に北朝鮮の人権協会が、同国における女性への性暴力実態について証言した脱北者たちを口汚く罵る論評を発表していたからだ。

北朝鮮が海外に向けて発信した「タテマエ論」を真面目に取り合うことほど無駄なことはないのだが、だが今このタイミングにおいては、矛盾を指摘しておく意味は小さくないと思う。何故なら金正恩党委員長は米国や韓国との対話を通じ、「正常国家」への脱皮を目指しているように見えるからだ。

しかし実際のところ、北朝鮮社会の矛盾は、金正恩時代に入っていっそう激化しているように見える。2013年12月に処刑された金正恩氏の叔父・張成沢(チャン・ソンテク)元朝鮮労働党行政部長の判決文は、彼が数多くの女性と不倫関係にあったことを罪のひとつに数えていた。

ほかにも、日本や韓国では問題にならないような「性びん乱」を理由に処罰された北朝鮮国民が、どれほど多いことか。

だが、張成沢氏と同様の行為を続ける金持ちがいかに多くいようとも、彼らはそれによって処罰の対象にはならない。つまりは生かすも殺すも金正恩氏の胸三寸であり、法も何もないということだ。前述したような高級VIP風俗は、自身に忠誠を誓う幹部たちへの一種の「お目こぼし」として、金正恩氏により存在を許されているということなのだ。

[筆者]
高英起(デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト)
北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)、『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)、『北朝鮮ポップスの世界』(共著、花伝社)など。近著に『脱北者が明かす北朝鮮』(宝島社)。

※当記事は「デイリーNKジャパン」からの転載記事です。
dailynklogo150.jpg

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

台湾の頼総統、中国軍事演習終了後にあらためて相互理

ビジネス

ロシア事業手掛ける欧州の銀行は多くのリスクに直面=

ビジネス

ECB、利下げの必要性でコンセンサス高まる=伊中銀

ビジネス

G7、ロシア凍結資産活用は首脳会議で判断 中国の過
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:スマホ・アプリ健康術
特集:スマホ・アプリ健康術
2024年5月28日号(5/21発売)

健康長寿のカギはスマホとスマートウォッチにあり。アプリで食事・運動・体調を管理する方法

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシアの「亀戦車」、次々と地雷を踏んで「連続爆発」で吹き飛ばされる...ウクライナが動画を公開

  • 2

    「なぜ彼と結婚したか分かるでしょ?」...メーガン妃がのろけた「結婚の決め手」とは

  • 3

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を受け、炎上・爆発するロシア軍T-90M戦車...映像を公開

  • 4

    アウディーイウカ近郊の「地雷原」に突っ込んだロシ…

  • 5

    黒海沿岸、ロシアの大規模製油所から「火柱と黒煙」.…

  • 6

    なぜ? 大胆なマタニティルックを次々披露するヘイリ…

  • 7

    批判浴びる「女子バスケ界の新星」を激励...ケイトリ…

  • 8

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 9

    これ以上の「動員」は無理か...プーチン大統領、「現…

  • 10

    戦うウクライナという盾がなくなれば第三次大戦は目…

  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    娘が「バイクで連れ去られる」動画を見て、父親は気を失った...家族が語ったハマスによる「拉致」被害

  • 3

    ロシアの「亀戦車」、次々と地雷を踏んで「連続爆発」で吹き飛ばされる...ウクライナが動画を公開

  • 4

    「隣のあの子」が「未来の王妃」へ...キャサリン妃の…

  • 5

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 6

    ウクライナ悲願のF16がロシアの最新鋭機Su57と対決す…

  • 7

    黒海沿岸、ロシアの大規模製油所から「火柱と黒煙」.…

  • 8

    戦うウクライナという盾がなくなれば第三次大戦は目…

  • 9

    能登群発地震、発生トリガーは大雪? 米MITが解析結…

  • 10

    「天国にいちばん近い島」の暗黒史──なぜニューカレ…

  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 6

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中