コラム 2017.09.20. 10:30

ソフトバンクの強さの根源

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9回を締めたサファテに駆け寄るソフトバンクナイン(C)KYODO NEWS IMAGES

白球つれづれ~第29回・最強王国へ、孫正義と王貞治のチーム作り


 ソフトバンクホークスがリーグ優勝を飾った翌日の17日、球団のオーナーでもある孫正義が埼玉・所沢にあるメットライフドームにやってきた。前日は社業で優勝の一瞬に立ち会うことが出来なかったが、監督の工藤公康以下ナインを祝福。本来なら地元の福岡に戻ったところで自らの胴上げも期待したいところだが、西武戦の後は北海道に移動して地元に凱旋するのは23日の楽天戦まで待たなければならない。文字通り世界を股に駆け回るビジネスマンも野球のオーナーとしての喜びは格別なのだろう。異例の所沢訪問となった。

 その孫が球界に参画を決めたのは2005年のこと。前身のダイエーが経営危機に陥り、救世主の形で引き継いだ。この時の記者会見で新オーナーとしての抱負を次のように語っている。
孫正義

「ビジネスというだけでなく、スポーツを愛する気持ちで夢のある球団にしていきたい」。さらにその先に「クラブワールドカップ構想」まで披瀝する。つまり、日本一のチームに満足することなく将来はメジャーのチャンピオンチームとの世界一決定戦までを視野に入れる。

 毎年、発表される世界的な経済誌「フォーブス」による長者番付でその総資産は2兆2000億円(2017年)を超す。2011年の東北大震災の時は個人で100億円の義援金を送り、今春のトランプ米大統領誕生の際も、個人としていち早く面会すると米国での雇用創出を申し出るなど経済人としてのスケールは群を抜いている。

 常に世界を視野に事業を展開する孫にとって、野球もまた国内だけで留まるわけがない。かつて、野球の日米対決を提唱したのが巨人だった。創立者の正力松太郎の遺訓として今でも「巨人軍憲章」の中に残っている。だが、球界の盟主として君臨した常勝軍団の頃ならともかく、今やチーム内は数年来の不祥事と戦力的にも再建の途上ではそんな余裕もない。黄金期の中心にいた王貞治は今やソフトバンクの球団会長として孫の絶大な信頼を受けている。「世界の王と孫」の野望こそが現チームの強さの根源にあると言っていい。


3つのキーワード


 今年のリーグ優勝を見ていくとホークスには他を圧する3つのキーワードが挙げられる。「補強」「育成」と「強化」だ。

 巨人と並ぶ「金満球団」と呼ばれるが、もちろんその側面はある。今季はA・デスパイネをロッテから獲得、昨年は長距離砲の不在に泣いたがこの助っ人が19日現在(以下同じ)34本塁打、100打点の2冠。内川聖一の故障離脱の穴まで埋めてしまった。51セーブをマークし日本記録を快走中のD・サファテも元は広島、西武に在籍していたのをマネーゲームで獲得したもの。メジャー帰りの和田毅や川崎宗則らの復帰も豊富な資金力なしにはできない補強だ。

 一方で、地道な育成も花開いた。今や侍ジャパンの投手陣にあって欠かせない存在となった千賀滉大だけでなく、一時は先発ローテ入りを果たした石川柊太や鉄砲肩を誇る甲斐拓也はいずれも育成ドラフト組。中でも愛知・蒲郡高出身の千賀は、高校時代は全くの無名。地元のスポーツ店店主が「肘の使い方が柔らかいピッチャーがいる」とスカウトに進言、これがシンデレラストーリーの出発点となった。

 そして、素質はあってもじっくり強化して中心戦力に育ったのが東浜巨や上林誠次らだろう。亜大のエースとして鳴り物入りで入団した東浜の場合、ルーキー時代から3年は鳴かず飛ばずの時代が続く。すると球団は150キロを投げられるための体幹強化に重点を置いた体力作りに専念させて再教育。ようやく昨年、一軍に定着すると今季は16勝をあげてエースの座を手に入れた。

 さらなる王国づくりの拠点としたのが昨年、福岡県筑後市に完成したファーム施設の「HAWKSベースボールパーク筑後」である。

 天然芝と人工芝の2面のグラウンドに室内練習場を完備。中でも目を引くのが室内練習場に設置されている「トラックマン」という最新の設備。元々、軍事用に開発されたレーダーシステムを野球に転用。投手なら回転数や回転軸を、野手なら打球の速度や角度、飛距離を解析して数値化。この映像やデータがたちどころに一軍の工藤監督やスカウトらに送られて情報を共有できる。今年になって各球団でも導入されてきたが、このスピード感もIT企業ならでは、だろう。


未だ夢の途中

王貞治

 資金は出しても、野球に関しては王に全幅の信頼と権限を与える孫に対して、王は孫が球場にやってくると必ず前に出ることなく三歩下がって従う。あのイチローも認める人格者の所作である。

 野球界と経済界の違いはあっても世界を知る二人の英雄。最強コンビの最強のチーム作りはまだ夢の途中にある。

文=荒川和夫(あらかわ・かずお)

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