ニュース 2019.11.11. 23:30

敵将も脱帽した周東の快足 「絶対にいけると思った」23歳の職人芸

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脚で日本に1点をもたらした周東

足でもぎ取った1点を振り返る


 11日、ZOZOマリンスタジアムで行われた『第2回 WBSC プレミア12』のスーパーラウンド(SR)第1戦。侍ジャパンは序盤からリードを許す苦しい展開も、しぶとく食らいついて逆転勝ち。オープニングラウンドからの連勝を4に伸ばした。

 苦しんだ日本の流れを変えたのが、7回の攻撃。先頭の吉田正尚が安打で出ると、稲葉篤紀監督は代走に周東佑京を送る。足で流れを呼び込むスピードスターは、次打者・浅村栄斗の5球目にスタートを切って盗塁成功。この間に浅村は空振り三振に倒れるものの、一死二塁とチャンスを拡大する。

 その後、松田宣浩も空振り三振に倒れて二死となってしまったものの、続く源田壮亮の3球目に意表を突く三盗。これが決まって二死ながら三塁とチャンスを拡げると、直後の4球目に源田がスクイズを敢行。投手前へのゴロとなるも、周東はタッチに来た投手をかいくぐるようにしてホームにスライディング。オールセーフとなって日本が同点に追いついた。


二盗は「少し慎重に」


 足で欲しかった1点をもぎ取り、この試合のヒーローにも選出された23歳の韋駄天は、「自分の仕事ができました」と晴れやかな表情で振り返る。

 「いつでも行けるように、身体を動かしながら気持ちの準備はしていました」。出番がいつになるか常に分からないなか、ベンチでその時を待っていた男は1点を追う7回に名前を呼ばれた。

 一塁塁上に現れた背番号23は、バッテリーからの警戒を受けながらも5球目に盗塁を敢行。見事に二塁を陥れる。この時については、「行けると思った時に行くだけ。初球からタイミングは伺っていたんですが、それがなかなか上手くいかずに慎重になりました」と、少し手間取ったことを明かす。

 そして、相手の意表を突いた三盗について。ここも「ずっと狙ってはいた」と言うが、「博打を打つわけにもいかない場面」と考え、相手にプレッシャーを与えながら、二塁塁上でタイミングを見計らっていた。


バントは「まさか」


 その後、松田は三振に終わって二死となってしまったものの、ここで二塁塁上の周東は相手の変化を感じ取る。「二死となって源田さんが打席に入ったところで、相手の投手の足上げが小さくなった。野手も含めてバッター集中の構えになっていたので、これは絶対に行けるなと。初球を見て、行けるなと思いました」。

 その読みは2球目で確信に変わり、迎えた3球目でスタート。相手三塁も下がっていた守備位置から慌ててベースに入るもタッチはできず、周東は三塁を陥れる。

 「もし送球ミスでもあれば1点取れるなと思いましたし、源田さん的にも三塁に来た方が楽になるだろうなと思って。内野ゴロでも、源田さんの足なら一塁セーフになる可能性もあるので」と、三盗の意図を語った周東だったが、その直後の4球目に目の前で起こったことに関しては「え?でした」と正直な気持ちを吐露した。

 二死走者三塁、カウント2ボール・1ストライクで源田が下した決断はセーフティーバント。これには「バントとは思ってなかった。まさかでした」と笑ったが、「体が反応した感じです。ピッチャーも見えていましたが、あのタイミングなら全然避けれると思いました」と、あっという間に本塁を駆け抜けて日本に1点をもたらした。


「嬉しいというより気持ちいい」


 2017年の育成ドラフト2位でプロ入り。ルーキーイヤーからその快足を武器に二軍で活躍を見せると、今季の開幕前に念願の支配下登録。すると、いきなり一軍で102試合の出場を果たし、リーグ5位の25盗塁をマークした。

 そしてこの秋、侍ジャパンの切り札として代表初選出。今では終盤に「代走・周東」がコールされると、球場から大歓声が沸き起こる。周東が塁にいれば『何か起こしてくれる』、そんな期待を受ける選手になった。

 出番は決まって終盤の、どうしても1点が欲しい場面。「僕が出る状況での失敗というと、勝ち負けに直結してしまうので。今日は特に失敗ができないなと思ってました」とプレッシャーを感じながらも、「しっかりと落ち着いてプレーすることができたなと思いますし、絶対に1点取りたい場面でしっかり仕事ができたなと思います」。男は堂々とした表情で振り返る。


 無事に本塁を踏み、ベンチに戻った後の笑顔にはまだあどけなさも残る23歳だが、「今日みたいな仕事ができるのが一番。そのために呼ばれていると思っているので、気持ちを常に保って、いつも通りのプレーをしたい」と語る顔つきは頼もしい。

 それでも、最後に仕事ができた時の心境を尋ねられると、「気持ちいいですね。嬉しいと言うより。見たか、という感じで」と再び笑顔。若くして職人のような仕事をこなす23歳の韋駄天が、その脚で日本を世界の頂へと導く。


文=尾崎直也

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