コラム

イギリスだけじゃない、イタリアだってEUに恨み節

2018年06月06日(水)15時45分

イタリアの新首相に就任したコンテ Remo Casilli-REUTERS

<EUに懐疑的な「五つ星運動」と「同盟」が総選挙で躍進し、政治空白が続いていたイタリアで、騒動の末に連立政権が発足、新内閣が樹立されたが、そもそもイタリア政治の混乱の責任の一端はEUにある>

僕は全くイタリア政治の専門ではないが、現在のイタリア政治の動きには関心をそそられる。

イタリア政治の混乱が示しているのは、第1に、「EU懐疑主義」はいわゆるイギリスに特有の病気ではなかった、ということだ。イタリア国民は3月の総選挙で、2つの「ポピュリスト(大衆迎合主義)」党である「同盟」と「五つ星運動」を勝利させた――EUに不満があるから、というのがその大きな理由の1つだ。

第2に、今回のイタリア政治の混乱は、EUに異議を唱えるのが、特に単一通貨ユーロ圏に加わっている国の場合はいかに大変か、というのを示している。イタリア政府はEUとの関係を再交渉で見直し、おそらくユーロを離脱することを望んでいるのかもしれないが、どうしたら実現できるのか見えてこない。EUはただ1つの方向、つまり統合に向かってのみ進み続けていて、後戻りはできない――これこそが、EUに向けられる非難の1つだ。

第3に、イタリア危機は、単一通貨が経済にもたらす悲惨な結果を物語っている。実際のところユーロは、ヨーロッパの国々を「ますます緊密な連合」にまとめ上げようとするための政治的なプロジェクトだった。その前提となり得るほどにはこれらの国々の経済は「同水準に近付いて」いなかったし、今もそうなっていない。イタリアはそのために苦しみ続けてきた国の1つだ。

イギリスが単一通貨ユーロに参加しないことを決定した当時は、親EU派からは「歴史的なチャンスを逃した」と言われたものだった。だがイギリスの選択が賢かったことは、これまでに十分証明されている。

僕はメディアの報道で、ドイツが「EUを動かしている」と憤るイタリアの人々の声を何度か目にしてきた。僕の思うに、ドイツは単一通貨を含む、より強くより大きなEUのために、最善の意図を持って、つまり「良きヨーロッパ人」であろうとの思いを持って励んできたのだろう。それはまるで、自らをヨーロッパの国々に統合させることによって、ナショナリズムに染まった過去を償おうとしているかのようだった。

でも、悪い結果が善意から生まれる可能性だってある。ユーロ圏内最強の経済国ドイツにとっては、確かにユーロは利点が大きい。経済のより弱い他の加盟国のおかげでユーロ価格は比較的低く抑えられ、ドイツの輸出を助けている。だが経済の弱い国々からしてみれば、ユーロは強過ぎ、ドイツ経済のせいで高止まりしているようなものだ。それが、こうした国々の景気を阻害している。

プロフィール

コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『「ニッポン社会」入門――英国人記者の抱腹レポート』(NHK生活人新書)、『新「ニッポン社会」入門--英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版新書)、『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(三賢社)など。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米、ガザ「大量虐殺」と見なさず ラファ侵攻は誤り=

ワールド

トルコ・ギリシャ首脳が会談、ハマス巡る見解は不一致

ワールド

ロシア軍、北東部ハリコフで地上攻勢強化 戦線拡大

ビジネス

中国、大きく反発も 米が計画の関税措置に=イエレン
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 2

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 3

    年金だけに頼ると貧困ライン未満の生活に...進む少子高齢化、死ぬまで働く中国農村の高齢者たち

  • 4

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 5

    ブラッドレー歩兵戦闘車、ロシアT80戦車を撃ち抜く「…

  • 6

    自宅のリフォーム中、床下でショッキングな発見をし…

  • 7

    地下室の排水口の中に、無数の触手を蠢かせる「謎の…

  • 8

    アメリカでなぜか人気急上昇中のメーガン妃...「ネト…

  • 9

    あの伝説も、その語源も...事実疑わしき知識を得意げ…

  • 10

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 4

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 5

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 6

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 7

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 8

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 9

    ウクライナ防空の切り札「機関銃ドローン」、米追加…

  • 10

    「終わりよければ全てよし」...日本の「締めくくりの…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story