コラム 2022.05.13. 07:08

乱闘の裏技にアイドルチーム登場、解説者絶句…自由すぎた『究極ハリキリスタジアム』

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『究極ハリキリスタジアム』

野球ゲームの移り変わりから見るプロ野球史~第5回:ハリスタ


 プロスピ派、パワプロ派どっち?

 現代の野球ゲーム人気を二分するコナミの『プロ野球スピリッツ』と『パワフルプロ野球』シリーズ。本物に寄せたリアル志向ならプロスピ、野球全般を手軽に楽しみたいならパワプロ的な、その後のゲーム人生を決める選択肢である。




 同じように80年代のファミコン野球ゲーム黎明期も、シンプルな操作からみんなで楽しめる“ファミスタ派”と、ゲームバランス度外視のテレビ中継カメラ再現を目指すリアル主義“燃えプロ派”に分かれていた。

 ……なんだけど、なぜか“ハリスタ派”という言葉はあまり聞いたことがない。

 タイトーから1988年6月28日に発売された『究極ハリキリスタジアム』。5500円のソフトは、週間売上げランキングで『聖闘士星矢 黄金伝説完結編』や『キャプテン翼』といった強力ライバルたちを抑えて1位に輝くヒット作となり、ファミコンで5作、スーパーファミコンでも2作が制作される人気シリーズとなった。



 そういえば、ファミコンブームの頃よくあったのが、「親や親戚がプレゼントを買ってきたら微妙に欲しいのと違ってた問題」である。

 ゲームをまったく知らない親世代にツインファミコンを頼んだらPCエンジンとか、クリスマスのサンタさんにファミスタをねだったらナチュラルにハリスタだった……的な昭和あるあるだ。

 小学生の頃、クラスメートに熱狂的なセガマニアの男子がいたが、きっかけは親が誕生日プレゼントに買ってきたのが、スーファミと間違ったメガドライブ事件からである。

 彼は一瞬絶望するも、せっかく買ってもらったからには……と毎日健気に遊んでいるうちに、セガのちょっと大人な世界観に魅せられたのである。


代打・カズシゲ登場に解説ミスター絶句…のこだわり演出


 任天堂の『ベースボール』から始まったファミコン野球ゲームシーンで、ファミスタや燃えプロに続く第三世代として期待されたのが、野球ゲーム初の選手実名化を実現させた『スーパーリアルベースボール』やハリスタの“88年組”だった(データ好きの野球ファンに根強い人気を誇る『ベストプレープロ野球』も88年7月発売)。

 野球ゲームは一度当たれば、基本システムそのままに毎年最新データ版に更新するだけで売れる。1作目がヒットしたハリスタも、半年後の同年12月には88年シーズン終了時の新データバージョンを緊急発売。いわば、プロ野球はゲームメーカーにとっておいしいジャンルと捉えられていた。


 ハリスタは、細部までサービス精神に溢れた野球ゲームだった。

 試合に勝てば成長ポイントが与えられ、お気に入りの選手を育てられる選手強化システムを搭載。打者時はファミスタ視点、対CPU戦投球時は燃えプロ風センターカメラで操作するオーソドックスな仕上がりだが、演出面に強いこだわりが感じられた。

 なんと説明書がパラパラ漫画になるのだ……というのは置いといて、当時は斬新だった選手の好不調を顔マークで表示。徳光和夫アナ風の実況アナと、長嶋茂雄風の解説者が試合進行する。


 ちなみに、同じ頃のプロ野球界は、ヤクルトのドラフト1位ルーキー・長嶋一茂が話題を独占していた。88年4月27日の神宮球場で、巨人のガリクソンからプロ初安打初本塁打をバックスクリーンにぶち込むと、巨人が勝利したにもかかわらず、試合後のヒーローインタビューには長嶋ジュニアが呼ばれる異常事態。

 このゲームでも、ヤクルトスワローズではなくて、Sチーム(スラローム)の控え選手“なかしま”が登場すると、解説席の長嶋さんは「・・・・・・」としばし沈黙。徳光アナに「おきもちをひとつ・・・」とコメントを求められ、ミスターが「いわゆるジュニアですね。しょうぶはシビアです。きたいしましょう」なんてコメントする芸の細かさである。





 さらに死球を当てられた打者は、A・Bボタンを20回連打したらマウンド上の投手を殴りにいける裏技も。って野球ゲームとして張り切るところが違うんじゃ……と突っ込む間もなく、投手側も殴られたら負傷退場だが、素早く十字ボタンを3回押すと謝って乱闘を回避できてしまう。

 この令和では非常識とも思える「乱闘のエンタメ化」は、ファミコン野球ゲームでは一種のトレンドでもあった。

 他にも、まだ女子野球が今ほど広まっていなかった時代背景にもかかわらず、女性だけの“アイドール”チームも参戦。「こいすみ、おきのめ、なんの、あきな、ごくみ、こくしょ」といった元ネタがすぐわかるトップアイドルたちが顔を揃える(かと思えば控え野手に昭和の大御所“ひばり”の名も)。

 芸人連合チームの“エンターズ”も加わり、パスワードを入力すると新しい選手を登録できた『平成元年版』では、タレントのゆうゆが「今、タイトーが面白いよっ!」とご機嫌にシャウトするテレビCMも話題となった。


異端の“カルチャー系野球ゲーム”


 ファミスタや燃えプロとはまた違うベクトルの“カルチャー系野球ゲーム”として、ファミコンゲーム史にその名を刻んだハリスタは、93年12月に初めてスーパーファミコンで『スーパー究極ハリキリスタジアム』をリリース。

 シリーズ初のNPB12球団の選手実名化に踏み切り(ついでに価格も9500円へと値上げされ)、まだ野茂英雄渡米前にもかかわらず、ニューヨークやアトランタなど大リーグをモデルとした球団も12チーム収録されるなど、のちのメジャーブームを先取りした。

 しかし、この時期の野球ゲームはファミコン時代のような自由さがなくなり、皮肉にもハードの進化や選手実名化で中途半端なリアルさを手に入れると同時にゲーム的な魅力を失う作品も多かった。

 正直、後期のハリスタもこれといったウリや特徴がなくパッとしない印象だ。時代の変わり目、そんなタイミングで94年春にコナミから世に出たのが『実況パワフルプロ野球』だったわけだ。


 ちなみに、93年発売のスーパーハリスタでは、日本テレビ『とんねるずの生でダラダラいかせて!!』で人気が再燃していた定岡正二がスーパーバイザーに就任。

 広告には、「私、定岡正二がスーパーバイザーを務める今度のハリスタは、野球でしか味わえない楽しさがいっぱい詰まっている」と同年に開幕したサッカーのJリーグブームを思いっきり意識するサダ坊のコメントが掲載された。

 なお、スーファミ版のパッケージ・メインイラストを飾るのは巨人の背番号36。そう、93年から巨人でプレーした長嶋一茂である。その後ろにはジュニアを見守る長嶋茂雄監督もいる。

 この年、打率.216、1本塁打に終わった選手をメインビジュアルに抜擢する現代では考えられない人選だが、そこはやはり『究極ハリキリスタジアム』の変わらない意地を感じさせた。一作目で話題となったナガシマ親子ネタを5年後に自ら回収する、ハリスタ特有のこだわりは健在だったのである。


文=中溝康隆(なかみぞ・やすたか)
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