2021年4月に改正高年齢者雇用安定法が施行され、定年を70歳に延長するなどシニアの働く環境を整えることが努力義務化されました。

老後資金や年金問題から、できるだけ長く働くことがスタンダードになりつつある昨今ですが、実際のところ高齢になっても働けるのか、体力はどうか、どのような活躍方法が考えられるのか、不安に思う人は多いのではないでしょうか。

そこで、60歳の定年を65歳に延長し、さらに65歳を過ぎてからも最長70歳まで働ける継続雇用制度を取り入れている太陽生命の現役シニア社員にインタビュー。

現在も部長職に就き活躍している石田徹さん(63)に、60歳を過ぎても働くことを決めた理由や、仕事のやりがい、年を重ねて見えてきたことなどについて語っていただきました。

  • 石田徹さん(63)/太陽生命保険株式会社 法務コンプライアンス部 コンプライアンス・オフィサー。コンプライアンスが順守されているかを監視・調査したり、支社長への支社経営のアドバイスなどを行ったりすることで、コンプライアンス違反の未然防止と早期是正に取り組んでいる。

■「仕事を続ける」選択肢があるということ

現在、法務コンプライアンス部のコンプライアンス・オフィサー(部長職)として勤務する石田さん。以前、太陽生命では57歳が役職定年でしたが、2017年に定年を60歳から65歳に引き上げたと同時に、役職定年を廃止しました。

石田さんのおもな役割は、全国の支社を訪問しコンプライアンスがきちんと機能しているか、ルールが守られているかをチェックすること。さらに、パワハラやセクハラといった問題がないかどうか、現場の職員からのヒアリングもしつつ、職場環境を確認しているといいます。

当の石田さんは、65歳まで役職を持ったまま働けて、かつ 65歳を過ぎてからも最長70歳まで嘱託社員として働き続けられる制度をどのように受け止めているのでしょうか。

「会社として仕事がある以上は働かせてもらえるというのはありがたいというのが率直な感想です。今までの40年間で培ったものを生かせるのはいいなと感じました」。

生き方は人それぞれですが、仕事を続ける選択肢と続けない選択肢、両方があるのはいいことだと考えていらっしゃるそうです。

■私生活も充実させながら"細く長く"働く時代に

60歳で退職して趣味を楽しむなど、さまざまな生き方の選択肢があるなかで、石田さんはなぜ働き続けることを選ばれたのでしょうか。

「『人生の岐路』みたいなことは全然考えず、それまでの延長線上で今に至っているというのが正直なところです」。

「もし終日を費やすような趣味があったら退職して楽しむことも考えられますが、私の場合、会社が終わってからランニングをすることもできます。平日の日中は仕事、土日や平日の夜を趣味に費やすくらいがちょうどいいですし、そのほうが健康的だと感じています」。

お話をうかがうなかで、もともと会社員生活が充実していらっしゃった方なのだという印象を受けました。

「昔は遅くまで働くことが当たり前の時代もありましたが、今はワークライフバランスを重視する時代になっています。ワークライフバランスが整った環境だからこそ、60歳を過ぎても働き続けることを選べたというのはありますね」。

「仕事一辺倒ではなく、私生活も充実させながら細く長く働くという時代になりつつありますが、それが一番人間として自然だと思っています。今は仕事も私生活も両方楽しめているので、この延長でどこまでいけるかなという感じですね」。

■「これまでのキャリアを生かせている」実感が一番のやりがい

従来は、60歳を過ぎると嘱託社員となり、仕事内容も報酬もガラッと変わるというイメージがありました。現在も部長職として働くなかで、どのような点にやりがいを感じられているのか、うかがってみました。

「やはりこれまでの経験を生かせたとき、例えば支社を訪問した際に、ヒアリングに基づいて改善のアドバイスをしたり、現場の職員と支社長の橋渡し的な役割を担えたりしたときに非常に手ごたえを感じます」。

これまでのキャリアを生かせているという実感があることが、一番のやりがいだという石田さん。ときに現場の職員から「人生相談」のような話を聞くこともあるそうです。

「若い頃に比べるとどうしても知力・体力は衰えますが、この年になると過去の経験が何よりの強みです。たくさん失敗もしてきましたし、そのなかでコツもつかんできましたから、それを後輩に伝えるのは私たちの年代しかできないと思うんです。保険という目には見えない商品を扱っている以上、簡単に言語化できないノウハウもたくさんあるので、そこは経験という時間軸が生きてくるところですね」。

■働き続けるメリットとデメリットは表裏一体

やりがいがある一方で、フルタイムで仕事をするというのは決してラクなことではありません。ましてや、60歳を過ぎて役職付きで働くことに苦労はないのでしょうか。

石田さんの場合、仕事の内容そのものに大きな苦労や不安はないものの、若い人とはまた違った悩みがあるのだそうです。

「90代の母を介護施設に預けていますが、月に1回は自宅で看るようにしています。仕事を優先しなければいけないと思うときに、介護施設から電話がかかってくるとドキッとしますね。休めないわけではないのですが、役職を持って働くということには責任が伴うので、プライベートの突発的な用事に悩むと思います」。

やはり、60歳を過ぎても役職付きで働くことにはメリット・デメリットの両方があります。とはいえ、石田さんの場合は、総合するとメリットのほうが上回っていると語ってくれました。

「金銭面のメリットは当然ありますね。これまでの給与水準の延長線上で働けるのはありがたいです。ただ、私が一番大きなメリットとして感じているのは、責任を持って仕事を続けられること、社会とつながっている実感が持てることです。給与の多い少ないで仕事の継続を考えることはないと思います」。

「デメリットと言えるかわかりませんが、責任があるからこそ、介護と仕事の板挟みになってしまうことです。定年再雇用とは緊張感が違うと思います。反面、緊張感があるからこそいい意味で気が張っていられるのも事実で、メリットとデメリットは表裏一体だと感じます」。

■年を重ねたからこそ表れた"変化"

仕事に対して、力むことなく自然体で向き合っている印象の石田さん。年を重ねたことで、仕事への姿勢にも変化があったといいます。

「若い頃は、筋トレでいえば120%のワークアウトをして筋肉をつけるような働き方をしていた時期もありました。今は変に力まず、良い意味で結果的にうまくいくことが多いと感じています」。

「年を重ねて人への向き合い方も変わりました。支社を訪問した際は、支社長とも形式ばることなくフランクに話せますし、向こうも本音を言ってくれる感じがします。適度に力が抜けてきたのがいいのかもしれません」。

石田さんは、現時点で65歳以降も継続して働くことを希望されているといいます。

「いざそのときになって自分の心身が今と同じ状態であれば、このまま仕事を続けたいという気持ちです」と、率直に心境を明かしてくれました。

そのうち体力的な問題が出てくることも懸念されているそうですが、同時に「仕事を続けていることからくる緊張感があったほうがいいのでは」とも考えているそう。

「仕事を続けていると通勤の負担などもありますが、仕事を辞めてしまったら足腰が弱くなるかもしれませんし、緊張感は結果的に長く元気でいられることにつながるのかもしれません」。

■「これまでの経験から得たものをつなげていきたい」

最後に、65歳以降の働き方についての展望をお聞きしました。会社の制度上、65歳以降は嘱託社員となるため、業務内容も変わる可能性が高いそうですが「人の役に立ちたい」という気持ちは変わらないのだとか。

「経験に基づいたノウハウ・知見でもいいですし、自分の失敗事例でもいいですが、私がこれまでの経験から得たものを後輩が役立てられるような形でつなげていきたいですね」。

「仕事って、スポーツと同じでコツがあるじゃないですか。私自身、過去に新しい仕事を与えられて右も左もわからなかったときに、誰かの一言で急に色々なものが見えてきたという経験があります。趣味でサッカーをやっているのですが、子どもに蹴り方のコツを教えたらその通りにできた瞬間って、すごく嬉しいんです。仕事のコツを人に伝えたり、アドバイスをしたりするのは、それに近い感覚がありますね」。

「『天職』とまでは言いませんが、人の相談を受けてアドバイスをすることは今後も続けていきたいと思っています」と、笑顔で語ってくれたのが印象的でした。

※撮影時のみマスクを外しています