コラム

米イージス艦事故と映画『バトルシップ』の意外な共通点

2017年06月20日(火)15時10分

コンテナ船と衝突した米海軍のイージス駆逐艦。船体右側が大破している Toru Hanai-REUTERS 

<事故を受けて映画『バトルシップ』のテレビ放送が中止になったが、米海軍のイージス艦がエイリアンと戦うという内容を考えると、この時期の放送自粛には理解できるところも>

静岡県の石廊崎沖でフィリピン船籍(運航は日本の企業)のコンテナ船と、米海軍のイージス駆逐艦USSフィッツジェラルドが衝突した事件ですが、意外なリアクションを招いています。日本テレビが今月23日(金)の夜の洋画枠に予定していた米映画『バトルシップ』(ピーター・バーク監督、2012年)の放送を取りやめると発表したのです。

一部には、米海軍から抗議が来るはずもなく過剰反応だという声もあるようですが、この作品の性格を考えると、実はあまり笑えない部分があるのです。この映画は、ハワイ周辺がエイリアンの攻撃を受け、これに対して海自と米海軍が「集団的自衛権」を発揮するという話です。

その中で、まず3隻のイージスのうち米海軍籍のイージス駆逐艦が最初にやられてしまいます。次に海自のイージスがやられるのですが、自衛官に扮した浅野忠信さんは生き残って奮戦するというかなりカッコいい役になっています。その辺のストーリーをふまえると、時節柄ちょっと「遠慮」したのは何となく理解できます。

【参考記事】ロシアの極超音速ミサイル「ジルコン」で欧米のミサイル防衛が骨抜きに?

問題は映画の後半です。モダンなイージスだけでは対抗できないので、最後にはUSSミズーリの亡霊を復活させて、日米が共同でエイリアンと戦うというストーリーになっていきます。言うまでもなくUSSミズーリは、1945年9月に重光外相が降伏文書に調印した軍艦ですから、アメリカにとっては対日戦勝利の象徴であるわけです。その船体を使って日米が頑張るというのは、日米同盟の現在を象徴しているようでなかなか興味深い作品です。

ですが、現時点での問題は、ミズーリの背負った歴史問題ではありません。古式ゆかしい、つまり堅固な装甲を施したミズーリが最後にはエイリアンに対抗し、最新鋭のイージスはやられるというストーリーが、今回の事故で大破した「アーレイ・バーク級」の無残な姿に重なるように見えるからです。

今回の事故に関しては、通常の海難事故として航路を検討し、回避義務がどちらにあるかを決めて責任を明確にする、それでいいと思います。また、亡くなった7人の水兵に関しては、アメリカのテレビニュースでは厳粛な哀悼を示しています。それも、自然だと思います。

ですが、海の安全保障という意味では、色々と考えさせられたのも事実です。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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