最新記事

トランプ政権

トランプ支配の米政府から、有能な人材が逃げていく

2018年5月19日(土)14時00分
コラム・リンチ、ロビー・グレイマー

イラン核合意からの離脱を表明した後、ホワイトハウスの会見場を去るトランプ(5月8日) Jonathan Ernst-REUTERS

<イラン核合意からの離脱表明とほぼ同時に、国務省のエース級専門家が辞めた理由>

トランプ米大統領は5月8日、イラン核合意からの離脱を表明した。米国務省ではその直後、核拡散問題のエース級専門家が辞職した。政府当局者やアナリストは、17年1月のトランプ政権発足から続く頭脳流出に警告を発している。

辞職したのは核合意の実施を調整する担当者の1人だったリチャード・ジョンソン(38)。数週間前まで、何とか合意を維持しようとイギリス、フランス、ドイツなどとの話し合いを続けていたが、結局この努力は報われなかった。

ジョンソンは辞職の理由を明らかにしていないが、本誌は同僚やスタッフに送ったお別れのメールのコピーを入手した。それにはこうある。「(核合意は)明らかにイランの核武装を防ぐことに成功した。この素晴らしい成果に少しでも関われたことを誇りに思う」

人材流出で国力が低下

制裁関連の部門で働く政府当局者の1人によれば、ジョンソンの辞職は「大きな損失」だ。同時に上級政府職員の相次ぐ辞職という、もっと大きな問題の一部でもある。

複数の政府当局者によると、人材の流出が特に目立つのが国務省だ。トランプはキャリア外交官を軽視し、ティラーソン前長官の下で職員の士気は急低下した。ジョンソンにはフルタイム勤務のスタッフが7人いたが、辞職の直前は部下が1人もいなくなっていた。

トランプ政権が核合意からの離脱を決めるまでは、ジョンソンは政府に残るつもりだったと、ある元国務省職員は言う。「まさに政府にとって必要な人材だった」と、ワシントンのシンクタンク・大西洋協議会の客員上級研究員で元財務省職員のブライアン・オトゥールは指摘する。

「職員を大悪党扱いするやり方がリチャードのような専門家を流出させている。アメリカが超大国であり続けたいなら、そのやり方の逆をやる必要がある。政府に有能な人材がいなければ、国力を維持できない」

トランプが核合意離脱を表明した数時間後、ジョンソンの同僚たちは国務省近くのステートプラザホテルで送別会を開いた。会場には核合意の交渉や査察に関わった現職、元職の国務省スタッフが集まった。「核合意交渉チームのミニ同窓会だった」と、出席者の1人は振り返る。

「辞職の正確な理由を知っているわけではないが、人材を政府内に引き留められないトランプ政権が原因だとすれば、大いに憂慮すべき事態だ」と、オバマ前政権時代の政治任用スタッフで核合意の交渉に関わったジャレット・ブランクは言う。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

アングル:最高値のビットコイン、環境負荷論争も白熱

ビジネス

決算に厳しい目、FOMCは無風か=今週の米株式市場

ビジネス

中国工業部門企業利益、1─3月は4.3%増に鈍化 

ビジネス

米地銀リパブリック・ファーストが公的管理下に、同業
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ」「ゲーム」「へのへのもへじ」

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 6

    目の前の子の「お尻」に...! 真剣なバレエの練習中…

  • 7

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 8

    走行中なのに運転手を殴打、バスは建物に衝突...衝撃…

  • 9

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 10

    ロシア軍「Mi8ヘリコプター」にウクライナ軍HIMARSが…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 6

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 7

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 8

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 3

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈する動画...「吹き飛ばされた」と遺族(ロシア報道)

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 6

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中