マネー相談の仕事をしていると、「貯金ができなくて困っている」「どうやれば貯金を増やせるか」など、貯金に関する多くの人のお悩みに出会います。実際にどれだけできるかは別として、世間のほとんどの人が「貯金はするもの」と考えていることの表れでしょう。

ところが、お金に関する調査を見ていると、貯金がまったくないという世帯も少なからずあることがわかります。そこで、貯金がなくても大丈夫なのか、貯金がないと何が困るのかなどについてみていきましょう。

貯金ゼロの世帯が3割も!?

金融広報中央委員会が発表している「家計の金融行動に関する世論調査・二人以上世帯調査(2017年)」によると、「金融資産を保有していない」という世帯が31.2%あります。残りの約70%、金融資産を保有している世帯での、の金融資産平均額は1,729万円。とはいえ、高額な金融資産を持っている人もいれば、平均よりもかなり少ない額しか持っていない人も実際には多くいますから、少ない順から多い順に並べて中位に位置する中央値は1,000万円。実態としての貯金相場は1,000万円程度ということが言えます。

世間の人が1,000万円前後の貯金を持っているなか、貯金額ゼロという世帯が3割もあるという状況をみて、皆さんはどう思われるでしょうか?

自分の貯金と比べて優位性を感じ、安心する人がいるかもしれませんね。もしくは、貯金がないことを「貯金できない」ことに結びつけ、社会で話題になっている格差や貧困をイメージし、悲観的になるかもしれません。

「貯金がない=生活できない」訳ではない

ここでいう金融資産とは、「定期性預金・普通預金等の区分にかかわらず、運用のため、または将来に備えて蓄えているもの。土地・住宅・貴金属等の実物資産、現金、預貯金で日常的な出し入れ・引き落としに備えている部分は除く」と定義されています。

ということは、生活費はもちろん、必要な消費活動は貯金がなくても行えている状態。つまり、現金・預貯金の流動資産に関しては、「収入額=支出額」である世帯が3割程度あるものと推測できます。

たとえば、働き初めの新入社員をイメージすることができるでしょう。給料をもらいたてで、生活費は払えているけど、まだ貯金ができないというパターンがあります。もしくは、貯金していたけれど、マイホームの頭金や自動車購入などで貯めていたお金を使い果たし、一時的に貯金がないパターンかもしれません。

収入があれば貯金がなくても困らない?

前述調査の金融資産を持つ目的としては、「老後の生活資金」が69.2%、「病気や不時の災害への備え」が62.8%。ほかにも、こどもの教育資金や結婚資金、旅行・レジャーの資金のためなど、さまざまな目的がありますが、前者2つが二大貯蓄目的と言えそうです。

たしかに、公的年金があるとはいえ老後に収入減となることや、不測の事態で収入が途絶えてしまうリスクに備えて貯金をしておかないと、生活困窮に陥る可能性は大いにあります。たとえば、会社員なら、病気やケガで働けなくなっても健康保険の「傷病手当金」という公的保障制度がありますが、支給される金額は給料のおよそ66%の金額。不足する34%分を貯金で対応するから生活のバランスを取れるのが通常ですが、貯金ゼロでは支出を34%分下げなければ、家計がパンクしてしまいます。

貯金ゼロであってもOKな人はどんな人?

「生涯現役」という言葉がありますが、不測の事態に陥ることなく、生活できるだけの収入を一生涯にわたって得つづけられるなら、貯金ゼロでも大丈夫かもしれません。企業は65歳まで継続雇用の体制づくりを義務付けられ、就労年齢が延びていることは誰もが認めることでしょう。実際に、90歳をすぎてもイキイキと働いている人もいるほどです。

生命保険文化センターの調べによると、ゆとりある老後生活費は平均34.9万円。ここでは在職老齢年金などは考慮しないものとして、厚生労働省が想定するモデル世帯の年金額は月22万円程度ですから、それを差し引いても約13万円の収入がなくてはやっていけません。生涯現役で働き、80歳、90歳になっても毎月13万円の収入を得つづけるというのは、現実的に考えても難しいのではないでしょうか。

労働収入ではなく、家賃収入や配当金収入などの不労収入であれば実現可能性は高まるかもしれません。複数の不動産を持っていれば、貯金がなくても不測の事態に陥った時に所有している不動産を売れば現金が手元に入りますから、貯金がなくてもなんとかなるような気はします。

それでも売却して現金を取得できるまでには時間を要しますし、緊急にお金が必要になる場合を考えると、やはり貯金は必要でしょう。冒頭の調査で3割近くの世帯が貯金ゼロとなっていましたが、貯金ゼロで「OKな人」というのは、限りなくゼロに近いのではないでしょうか。

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著者プロフィール: 續 恵美子

女性ファイナンシャルプランナーによるお金の総合クリニック「エフピーウーマン」認定ライター。生命保険会社で15年働いた後、FPとしての独立を夢みて退職。その矢先に縁あり南フランスに住むことに――。夢と仕事とお金の良好な関係を保つことの厳しさを自ら体験。生きるうえで大切な夢とお金のことを伝えることをミッションとして、マネー記事の執筆や家計相談などで活動中。