最新記事

米朝関係

シンガポール米朝首脳会談の夢から覚めて

The Singapore Honeymoon Is Over

2018年7月20日(金)17時40分
ダニエル・ラッセル(オバマ政権時代の元米国務次官補)

訪朝日程を終えて非核化への進展が見られないまま平壌をたつポンペオ(右、7月7日) Andrew Hamik-REUTERS

<歴史的会談は壮大なトランプ劇場だった? ポンペオ米国務長官の手ぶら帰国が示唆する不都合な未来>

マイク・ポンペオ米国務長官にとって、北朝鮮との交渉を進展させるというドナルド・トランプ米大統領の宣言を現実化するのは決して簡単なことではなかった。7月6~7日に平壌を訪問したポンペオには、いくつもの大きな障害があった。

障害の一部は、トランプ政権が自ら招いたものだ。タカ派で有名なジョン・ボルトン大統領補佐官(国家安全保障問題担当)が非核化の期限を1年と発言したことに加えて、北朝鮮が核戦力の隠蔽をもくろんでいるという米当局の報告書が漏洩したことで、ポンペオは極めて困難な立場に立たされていた。

金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長は、望むものは仲介者を抜きにトランプ本人から直接、手に入れられると確信している。トランプは米朝首脳会談の後の記者会見で「高額」かつ「挑発的」な戦争ゲーム(米韓合同軍事演習)をやめ、いずれは在韓米軍を撤退させたいと発言していた。

これを受けて、金がトランプを「御しやすい相手」と考えたとしても無理はない。そしてトランプが側近をないがしろにする傾向があり、かつての側近の多くがホワイトハウスを去っていることを考えれば、金にとっては、大きな代償を払ってポンペオに譲歩する理由はない。

覚えているだろうか。レックス・ティラーソン前国務長官が北朝鮮との対話の可能性を模索して、トランプに「時間の無駄」と切り捨てられたことを。北朝鮮への先制攻撃を大統領に進言したH・R・マクマスター前大統領補佐官(国家安全保障問題担当)も事実上、更迭されたことを。また、ジェームズ・マティス国防長官が在韓米軍と米韓合同軍事演習は必要不可欠だと、繰り返し主張していたことを。

金は覚えている。そして彼は、米朝首脳会談前に米側の交渉担当者たちが核兵器や弾道ミサイルの放棄を書面で約束するよう強く求めていたものの、そんな約束を一切書かなくても、トランプはシンガポールで喜々として合意文書に署名してくれたことも覚えているだろう。

アメリカを「些細な問題で煩わせろ」というのが、金ファミリーに伝わる戦略だ。そうすればアメリカはいつまでたっても「完全かつ検証可能で不可逆的な非核化」のような核心の問題に到達できない。少しずつ少しずつ進展させれば、小さな譲歩でさえ高く評価される。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

「バーゼル3」最終規則、25年1月適用開始をEU最

ワールド

南ア総選挙、与党ANCが過半数割れの公算 開票始ま

ワールド

ロシア軍、ハリコフ州で増強 攻勢には不十分とウクラ

ワールド

EU、エネルギー憲章条約脱退で合意 気候変動取り組
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:イラン大統領墜落死の衝撃
特集:イラン大統領墜落死の衝撃
2024年6月 4日号(5/28発売)

強硬派・ライシ大統領の突然の死はイスラム神権政治と中東の戦争をこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ハイマースに次ぐウクライナ軍の強い味方、長射程でクラスター弾搭載可能なATACMS

  • 2

    仕事量も給料も減らさない「週4勤務」移行、アメリカで増加中...導入企業が語った「効果と副作用」

  • 3

    中国海軍「ドローン専用空母」が革命的すぎる...ゲームチェンジャーに?

  • 4

    地球の水不足が深刻化...今世紀末までに世界人口の66…

  • 5

    「天国に一番近い島」で起きた暴動、フランスがニュ…

  • 6

    メキシコに巨大な「緑の渦」が出現、その正体は?

  • 7

    都知事選の候補者は東京の2つの課題から逃げるな

  • 8

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 9

    プーチンの天然ガス戦略が裏目で売り先が枯渇! 欧…

  • 10

    ウクライナ、ロシア国境奥深くの石油施設に猛攻 ア…

  • 1

    ロシアの「亀戦車」、次々と地雷を踏んで「連続爆発」で吹き飛ばされる...ウクライナが動画を公開

  • 2

    自爆ドローンが、ロシア兵に「突撃」する瞬間映像をウクライナが公開...シャベルで応戦するも避けきれず

  • 3

    「なぜ彼と結婚したか分かるでしょ?」...メーガン妃がのろけた「結婚の決め手」とは

  • 4

    中国海軍「ドローン専用空母」が革命的すぎる...ゲー…

  • 5

    黒海沿岸、ロシアの大規模製油所から「火柱と黒煙」.…

  • 6

    戦うウクライナという盾がなくなれば第三次大戦は目…

  • 7

    ハイマースに次ぐウクライナ軍の強い味方、長射程で…

  • 8

    ウクライナ悲願のF16がロシアの最新鋭機Su57と対決す…

  • 9

    「天国にいちばん近い島」の暗黒史──なぜニューカレ…

  • 10

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 3

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 4

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 5

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 6

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 7

    ロシアの「亀戦車」、次々と地雷を踏んで「連続爆発…

  • 8

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 9

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 10

    自爆ドローンが、ロシア兵に「突撃」する瞬間映像を…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中