今年は新型コロナウイルスの影響でマスクをつけての生活が浸透している。感染予防のためと子供たちもマスクをつけ通学する姿を目にするようになった。

しかし、暑くなると心配になるのが熱中症のリスクである。マスクをつけていると熱がこもり、より熱中症になりやすいのではと心配する声も多い。実際、スポーツ庁は体育の授業でマスクの着用は必要ないとの見解を示し、日本小児科医会は2歳未満の子供にマスクは危険であると呼び掛けている。

そこで今回は小児科医の竹中美恵子医師に、子供の熱中症対策や夏のマスクの使い方についてうかがった。

  • 子供の熱中症、対策は?

夏のマスクは要注意

―――マスクで熱中症になりやすくなるのは本当でしょうか?

マスクで熱中症になりやすいのは本当です。マスクをつけているとたとえ30度の気温の中にいても口の周りの温度は5度から10度ほど高くなります。

暑い時には熱を放散して体の温度を下げますが、それができないと体の体温がどんどん高くなります。それに加えて、マスクをつけていると口の中がいつも潤っていて乾燥を感じないため、あまり水分を補給しようという気持ちになれません。そうすると脱水になり体の温度が下がりにくく、熱中症になりやすくなります。

――子供にマスクは必要ですか?

乳児は必要ありません。幼児も絶対に装着しなければいけないということはありません。

マスク着用によるトラブルも考えておきましょう。現時点では日本で子供のコロナ感染症の感染による重症化の報告はないため、マスクは絶対に必要という状況ではありません。しかし、ソーシャルディスタンスを保てない場合や、人混みの中にやむなく行かなければいけない場合はマスクを着用したほうがよろしいでしょう。

―――新型コロナウイルスが不安ですが、できるだけマスクをつけさせたほうが良いのでしょうか?

子供の重症例は日本では今のところ報告されておりませんが、今後心配になるのはマスクをつけることによる熱中症のリスクのほうです。幼児や小学生は外遊びや体育の時間にマスクを着用することで熱中症のリスクがぐっと上がってしまいます。

中国の学校ではマスクを装着したまま1,000メートル走を行い亡くなった学生が相次いでいました。自分の唾液や唾が飛ばないようしっかり距離を保てているのであれば装着は必要ありません。マスクによるかぶれも深刻な問題です。子供が嫌がる場合はつけなくて良いでしょう。

―――子供がマスクをしている時、保護者が気をつけることはありますか

体調に不安がある場合は顔色を見なければいけないことが多く、唇の色や、顔色から伺い知ることのできる体の異変は大きなものがあります。唇は体の状態のバロメーターと言っても過言ではないので、そこを覆い隠すことで体調の悪さを発見できないかもしれません。近くにいる大人は頻繁に顔色を確認するため、マスクの中(内側)を時々覗くようにすべきだと考えます。

熱中症になったらどんな症状が出る?

―――子供が熱中症にかかった時、どのような症状が見られるのでしょうか?

まずは気分が悪くなったり、頭が痛くなったり、お腹が痛くなったり、めまいがしたりと、いつもとは違う症状が出てきます。おしっこの回数が少なくなったり熱が上がってきたり、体が熱く汗が出にくくなってきたり、気分不良を訴えるようであったら要注意です。

問いかけに答えられないほど意識がしっかりしない場合はすぐに受診が必要です。自分で「喉が渇いた」と水分を補給できるようであれば、すぐに水分を摂り涼しいところでゆっくり寝かせましょう。

―――乳幼児の熱中症の場合、症状のポイントはありますか

乳幼児は自分で訴えることができないため、顔色を見ることがポイントです。おしっこの色が濃くなっていないか、回数が減っていないかなどをチェックしましょう。汗の量もいつもより少なくなっていないか、唇が乾いていないか、熱が出ていないかそのようなポイントもしっかり把握していく必要があります。

―――乳幼児の熱中症を予防する方法を教えてください

まずはしっかりと水分を摂ることです。そして暑くなりすぎないように炎天下での屋外遊びは休憩をとりながら無理のない範囲で行いましょう。水分の目安としては1日5回から10回ほどしっかりおしっこが出ていることですが、乳幼児の場合はそれ以上に必要です。おむつに出ているおしっこの色を確かめ、濃くなっていないかどうかをチェックしましょう。濃くなっているようだったら水分がまだまだ不足している証拠です。唇が乾いていないか、汗がしっかり出ているかも確かめましょう。

それと、体を冷やせるようにベビーカーの後ろに冷たいシーツなどをして扇風機などをかけてあげるのも良いでしょう。

―――小学生の熱中症の予防対策を教えてください

小学生も乳幼児と同じく、しっかりと水分を摂り、炎天下での屋外遊びは休憩をとりながら無理のない範囲で行いましょう。

また、マスクをしているとなかなか喉が渇かないため、水分を摂るのが遅れがちになってしまいます。汗をかいた後は経口補水液をしっかり摂り、汗をかいていなくても体温を下げるために冷たい水分を補給することで体温のコントロールをする必要があります。

暑い時には15分から30分の間に1回、少なくとも1時間に1度は水分を補給するように心がけましょう。涼しい服を着ることも大切です。

もし冷やせるのであれば、首の付け根、脇の下、太ももの付け根など太い血管が通っている側を冷やすのが効果的です。

―――熱中症が疑われる時、どのように対処すれば良いのでしょうか

熱中症が疑われる時はまず水分が飲める状態であれば水分を摂ること、できれば経口補水液がおすすめですが、冷たい飲み物であれば何でも良いです。そして体の中から冷やしましょう。

体の外を冷やすことも大事です。冷たい水または水道水でも何でも良いので体にかけて扇風機などの風を当てることが大切です。体の表面をクールダウンすることによって熱が上昇しすぎるのを防ぎましょう。

無理はせずにゆっくりと横になって体温が下がるのを待ちます。その間もこまめに水分補給をしておきましょう。自分で水分が摂れない状況だとすぐに搬送が必要です。

―――コロナ対策と熱中症予防、どちらも気をつけていきたいですね

プールの中や海で遊んでいても、室内にいても熱中症は起こります。普段はマスクをつけている生活でも、周りに人がおらず十分な間隔を保てる場合は、外にいてもマスクを外し口元が熱くならないように心がけましょう。

マスクをしていると口元の温度は外気の温度に比べて5度から10度高くなり、湿度は100%近くになります。口元が熱帯雨林のような状況になってしまうため、とても過ごしにくくなります。

感染症が怖い以上に熱中症もとても深刻な病気です。最悪の場合、命を落とす可能性があります。この夏は特にマスクとの共存の上での暑さしのぎなので、周りにいる大人たちが十分に気をつけてあげましょう。しっかりこまめに水分補給をすること、そして体を冷やすことが大切です。