教育現場にiPadなどのデバイスを導入することのメリットは理解し、自分の学校にもぜひ導入したいと考えているものの、「どういう感じで授業に取り入れていけばよいのか?」「iPadを導入する予算をどう確保すればいいのか」と悩んでいる先生は少なくないと思われます。

そのような考えを持つ先生に対し、アップルが8月の夏休み期間を利用し、iPadを学校の授業で活用するためのヒントや流れをレクチャーする無料プログラム「教師向けサマーセッション」を全国のアップルストアで開催しています。

特にApple 京都では、各地のストアにはない特別なセッションを用意。8月9日(金)から8月30日(金)の毎週金曜日、教育の場でiPadを巧みに活用しているエキスパートの先生「Apple Distinguished Educators」 (ADE) を招いてのセッションを開催。実際の授業での活用事例を解説するとともに、体験型のワークショップも実施します。初日となる8月9日に開かれた特別セッションを取材しました。

  • 8月の毎週金曜日、Apple 京都でApple Distinguished Educators (ADE) の先生を招いての特別なセッションが開かれている

  • セッションの申し込み対象は学校の教職員だが、一般の人も立ち見でよければ見られる

iPadを利用し、授業にさまざまな要素を取り入れている

「創造的な学びとiPad-写真を使ってインタラクティブに教えよう」と題されたセッションに登壇したのは、東京成徳大学中学・高等学校の英語科教諭である和田一将先生。和田先生は、従来からの授業でありがちな暗記や筆記による学習とは別に、日ごろから親しんでいる写真を用い、みずからの発見やひらめきによる創造的な学習で英語を身につける授業を実施しています。

  • Apple Distinguished Educators (ADE) の資格を持つ、東京成徳大学中学・高等学校の和田一将先生

具体的には、あるテーマを設定したうえでiPadで身のまわりの風景を撮影し、その写真にイラストや文字を書き加えて被写体をキャラクター化したりセリフを加え、そのテーマについて1枚の画像でストーリーを作って語る、という内容です。

  • 和田先生が「フードロス」をテーマに、東京で作成したサンプル。飲食店の建物をうまく豚の顔に見立てつつ、豚にメッセージを述べさせている

和田先生がこのようなiPadを用いた授業を実践しているのは、さまざまなメリットがあることを実感しているから。「英語が苦手だったり、英語の先生が苦手だったりすると、そのうち生徒は英語を嫌いになってしまう。しかし、iPadを使った授業は写真を撮ったり絵を描いたり、ストーリーを考えるといった多くの要素が詰まっており、何かしら生徒が夢中になる部分が備わっている。何か1つでも夢中になる点があれば、結果的に英語を嫌いにならずに済む」と語ります。

実際、ペーパーテストではいまひとつ点数が芳しくなかった生徒も、iPadを用いた授業を始めてから、とても熱心に取り組むようになったといいます。和田先生は「日ごろの学びにiPadを取り入れると、次第に学び自体が好きになっていくのを実感できる」とも付け加えました。

大人でもがぜん夢中になる

セッションの説明を終えると、和田先生の考えを基にしたワークショップが実施されました。セッションに参加した先生には、11インチiPad ProとApple Pencilが貸し出され、店舗の外に出て美しい造形や彩色が多い京都の街を撮り歩いていきます。Apple 京都の周囲は近代的なビルが建ち並ぶ一方で、大通りから一歩入ると風情のある建物や歴史のあるアーケードがあり、今回のセッションをApple 京都で開いた理由が分かったような気がしました。

  • 京都の中心街にある有名なアーケードをiPadで撮り歩く和田先生(右)

  • 風情のある建物を見つけては撮り歩く先生たち

  • 自身のiPadを持参した先生も多かった

店内に戻ったら、写真アプリのマークアップ機能を使って絵を描いたり、文字を加えたりしてストーリーを作り上げる流れです。作業時間は20分ほどでしたが、どの先生たちも脇目も振らず仕上げに取り組んでいました。大人でもこれだけ夢中になるのですから、学生ならば時間を忘れて没頭することでしょう。

  • 写真を撮影したあとは、Apple Pencilで絵や文字を描き加えてストーリーを作り上げていった。参加者の表情はみな真剣そのもの

  • 「環境問題」というテーマに沿った作品が次々と生み出されていった

  • 英語で仕上げる先生の姿も見受けられた

ひととおり完成したあと、何人かの先生が作成した作品がお披露目されました。フォトウォークは10分ほどの短い時間だったにもかかわらず、環境問題というテーマに沿ったよい作品がズバズバと生み出されていました。「僕は絵を描くのが苦手だから」という先生も、絵文字を拡大して貼り付けるなどしてうまく作り上げていました。

  • ごみの減量を訴える内容にまとめた作品

  • 京都の歴史的な建物の喪失を懸念する内容の作品。看板の足を犬の足としてうまく利用したことを評価する和田先生

  • こちらは和田先生の作品。2棟の建物を親子になぞらえ、奥にある銭湯の煙突から上る煙を強調した

ネタはすべて「Everyone Can Create」に載っている

生徒を学び好きにさせるなど、iPadを用いた学習はいろいろなメリットがあると感じました。ただ、通常の授業をこなすのも「時間が足りない」といわれる昨今、プラスアルファでiPadを用いた授業を実施する余裕はあるのでしょうか? 意外にも、和田先生は「時間が足りないと感じることはまったくない」といいます。

「iPadを用いた授業なら、英語の時間でも歴史や社会、美術など多くの要素が盛り込まれるため、同時にそれらの科目の授業をこなすことと同等になる」と語ります。さらに「ドリルなどは家でもやれる。学校に来ないとできないことだけを授業でやれば、時間が足りなくなることはない」とも語ります。

今回のセッションで用いた「iPadで撮影した写真に絵や文字を描いてストーリーを作り上げる」という内容は、実は和田先生が考えたのではなく、アップルが無料で配布している「Everyone Can Create」に載っていたものだといいます。Everyone Can Createは、iPadを教育で活用するためのノウハウやコンテンツが詰まった教材で、Apple Booksのアプリで入手できます。これを参考にすれば、自身で授業の内容を1から考え出す必要がなくなるわけです。

  • 「Everyone Can Create」の「写真」編。分かりやすい内容で構成されている

  • 今回、和田先生がセッションで実践した内容は、まさにこの「写真でキャラクターを作る」の内容そのものだ

授業へのiPadの導入を検討している先生に対しては、「まずはEveryone Can Createを参考に少しずつ始めてほしい。無理をしてすべての授業をiPadでこなす必要はなく、教科書やノートも並行して使って問題ない」とアドバイスします。生徒自身が“自分には将来このような体験が必要だ”と感じており、先生が細かく指示しなくてもちゃんと進めていくそうです。

ちなみに、和田先生の学校でiPadを導入した際はICT機器整備の補助金が出たそうで、「助成金が出れば導入費用の問題はほぼ解決できるレベル」といいます。自治体によって制度は異なるとみられますが、まずは調べて相談してみるのがよさそうです。

8月中にあと3回の特別セッションを実施

和田先生のセッションは今回限りとなりますが、Apple 京都ではほかのApple Distinguished Educatorsを招いた特別セッションがあと3回開かれるので、そちらも注目です。

8月16日の金曜日は「創造的な学びとiPad - 音楽で高める言語表現」として、小学校教諭の堀力斗先生が登壇。iPadの「GarageBand」を使い、詩の音読にBGMを重ねていく内容のワークショップが開かれます。

8月23日の金曜日は「創造的な学びとiPad - 視覚化による本格的な学び」とし、高校の化学教師である小谷隆行先生が登壇。iPadの「Tayasui Sketch Pro」を使い、元素の性質を学びながら元素記号をみずからデザインしていきます。

8月30日の金曜日は「創造的な学びとiPad - 日常にあふれる数学を発見しよう」として、数学科の教諭である芥隆司先生が登壇。日本人が最も美しく感じる比率だといわれる「白銀比」をテーマに、身の回りのものから白銀比を見つけ出して動画で撮影し、Clipsのアプリケーションで解説のビデオクリップを作成します。

  • それぞれのセッションは、Everyone Can Createの内容に沿って進められる。興味のある人はApple Booksでぜひダウンロードしておこう

いずれも「Today at Apple」のWebサイトで参加を受け付けていますので、興味のある教職員の方は早めに予約してみてください。セッションはストアの店内で開かれますので、教職員ではない一般の人ものぞいてみるのもよいでしょう。