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2021年09月27日07:43

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土曜は……

 土曜は、午後、映画2本。

 1本目は、シネマジャック&ベティで、
 「走れロム」。

 これは、釜山国際映画祭ニューカレンツ部門最優秀作品賞受賞ほか多くの映画祭で注目されたベトナム映画。
 監督は、新鋭チャン・タン・フイ。

 ベトナムでは、政府公認の宝くじの末尾2桁の数字を当てる”闇くじ”(ダー)が、当局の厳しい取り締まりがありながらも、庶民の間で人気となっている。
 首都サイゴンのスラム街に建つ古いアパートの貧しい人々も闇くじに熱中していた。そこで宝くじの当選番号の予想をし、胴元との連絡係として生計を立てている14歳の孤児ロムは、生き馬の目を抜くような厳しい日々を過ごしながら、生き別れになった両親を捜すために密かにお金を貯めていたが……

 この映画、ベトナム庶民に根づく「闇くじ」の実態、そして、通常は目に触れる事のない、スラム街の人々や孤児の厳しい生き様を描いていて興味深い――もっとも、そんな内容はベトナム政府にとって具合の悪いものであったようで、公開版はベトナム政府による検閲で一部シーンがカットされたものだと言う……そんな事情があったせいか、シーンの切り替えに違和感があり、話が繋がっていない感もあったのが残念。これはオリジナルを観たかったものだが……

 だが、そんな事情も吹き飛ばしてしまうのが、スラム街に暮らす人々の、そして、主人公の少年ロムの、暴力的なまでに「生きる」エネルギー。
 中でも、ロムと、同じく孤児の少年・パックが、金を奪い合い、そしてサイゴンの街で繰り広げる追走劇は圧巻だ。
 取っ組み合いの格闘シーンも、これはガチ――実際の空き地で、水たまりの中を転がり、殴り、噛みつき……ロムが倒したパックを跳び上がってから踏みつけるのには唖然……あれ、下手するとあばら骨折れるぞ――最後には動けなくなるまでやってる。
 追走劇だって、日本映画によくある感動させる為に走るのではなく、生きる為の戦いだ――だが、そこに憎悪はなく、動物的な、その場限りの衝動によるものなのだ。そんな世界には圧倒される。

 映画は、そんな生のエネルギーの発露を描き、終わる。
 エンドロールで、バスに乗り、自ら走る事のないロムは、そんな世界から抜け出す事が出来た、と言う事か……


 その後、横浜に戻り、買い物や用事を済ませてから、夕方、T−JOY横浜で、
 「総理の夫」。

 これは、「キネマの神様」の作家、原田マハの20万部超えのベストセラー小説「総理の夫 First Gentleman」を、田中圭と中谷美紀の共演で映画化したもの。
 監督は、「チア・ダン」の河合勇人。

 相馬財閥の御曹司ながら、鳥類学者として日夜研究に勤しむ夫、相馬日和と、民心党と共に連立与党を組む前進党党首を務める妻、凛子の夫妻。
 ある日、携帯の電波も届かない北海道の僻地での野鳥観察から戻った日和は、突如、取材陣に囲まれて、凛子が日本初の女性総理に選出されたことを知る。
 それから、日和は予想もしていなかった“総理の夫”としての激動の日々に巻き込まれて……

 この映画を、河合勇人監督は、ポリティカル・フィクションではなく、ハートウォーミングな夫婦のホームドラマにしたかったと言う。
 そんな訳で、映画は、妻が総理になってしまった男と周囲の騒動を、コメディとして描いて行く――田中圭が得意とする「え?」と言う困惑のリアクションが立て続けに観られる導入部は掴みとしてはまずまずで、面白く観られる。中谷美紀演じる相馬凛子の名前通りに凜とした佇まい、優しくも毅然とした姿勢は、女性リーダーとして様になっており、説得力がある。
 だが、現実の政治を反映することもなく、また、女性がリーダーとなる事の意味も問わない物語はどうにも食い足りない――原作小説が執筆されたのは2011年だと言うが、その時代故に現実味があった、少数野党連立による政権交代は、今や実現には遠く、その一方で、世界に目を向ければ女性の国家指導者など珍しくもない、と言う状況……しかも、間近に迫った総裁選の結果次第では、日本でも女性総理が誕生する可能性さえあるのだ。そんな現実に合わせ、物語はアップデートするべきではなかっただろうか?先日公開された「キネマの神様」も、原作の時間軸をそのままとしたせいで、不自然さを感じるものになってしまったのだが、本作もまた原作のアレンジをしくじっているように思う。
 また、細部のリアリティに乏しいのが映画から現実味を失わせ、物語は更に現実を離れて行ってしまう……

 クライマックスとなる凛子の会見シーンも脱力ものだ。
 日本映画にありがちな主人公を走らせて盛り上げる、と言うのはいい加減に止めて欲しい(都心なのだからタクシー捕まえた方が早い)し、クライマックスが演説と言うのも工夫がない。小説ではなく、映画なのだから、言葉よりも映像で心を動かして欲しかった所だ。
 しかも、凛子は妊娠して辞任、って……10年前ならいざ知らず、首相在任中に出産をした女性がいる現実に照らし合わせても、「出産と仕事は両立出来ない」と言うのを描いてしまうのはどうにも納得出来ない。映画であればこそ、現実を超えた奇跡を描くべきではないかと思う。
 監督が作りたかったのがホームドラマだとしても、これは、あまりに工夫がないだろう。映画の中でさえ、女性は家庭と出産に縛られ、夫の手助けなければ羽ばたく事も出来ない、と言う旧態依然とした価値観を見せつけられる事に悲しくなる人もいるのではないだろうか?
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