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2021年06月10日04:31

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“映画とは何か?”を忘れかけていた自分に気づきました。デレク・ジャーマン監督「カラヴァッジオ」(1986)とフランチェスコ・ロージ監督「総進撃」(1970)。

何の関係もない2本の映画ですが、まずデレク・ジャーマン監督の映画については基本的に関心がありません。しかし矢崎仁司監督から“デレク・ジャーマンの「ブルー」という作品から、映画は新しい時代を迎えた”と言われたので、気にかかっています。僕は「ザ・ガーデン」ぐらいしか見ていなかったから、契約期間中にデジタル・リマスター版を見ることができて幸いでした。

ルネッサンス期の画家カラヴァッジオを描いた作品です。色彩感覚と小道具などによる映像美術が興味深い作品でした。ティルダ・スウィントンが若くて魅力的なのに驚きます。でも浴槽に入ったままタイプライターを叩くなんて、ダルトン・トランボかよ、みたいな。←こういう反応が無関係な方には縁がない作品かも。いや、こういう反応そのものが、すでにデレク・ジャーマンの趣旨から外れていると言えますけど。

今から35年前に、LGBTQの世界がどういう扱いを受けていたかという、社会的な問題もまた別の話。それらを社会的な問題と受け止めることが、すでに“無意識の偏見”なのでしょう。そういう問題ではなく、この映画に描かれたドラマをどう受け止めるかがポイントなのですが、僕は残念ながら空振り三振してしまいました。

フランチェスコ・ロージという監督さんは、「シシリーの黒い霧」が注目されたころ名前を知りましたが、最初に見たのは「真実の瞬間」でした。闘牛士が牛にとどめを刺す、その瞬間を映像に収めているドキュメンタリー。たまたま東京に出てきていたときに、新宿文化劇場で見ました。

当時のATGは、プリントを何本か焼いて全国同時公開という方式ではなく、1か月上映を順にやっていく形だったように記憶しています。だから大阪で上映されるずっと前に見たことになる。そんな時間差を自慢する時代でした。早く観た人間が“偉い”とは言わないけど、“やったぜ”みたいな(苦笑)。

その後字幕の仕事をやり始めて、「シシリーの黒い霧」のほか何本かロージ作品に字幕をつけました。というか、イタリアやフランスの作品をビデオ化するという配給会社さんと組んでいたということです。

しかしこの「総進撃」という作品は全く知りませんでした。第一次大戦のイタリアとオーストリアの塹壕戦を描いています。高地にある陣地から逃げてきたイタリア軍の将軍が、オーストリア軍が大砲を設置する前に奪還しようとする。しかし尉官ら直接兵士を指揮する連中から、無謀な作戦と無視されるという展開です。

ルイス・マイルストンの「西部戦線異状なし」があり、スタンリー・キューブリックの「突撃」という映画を見てしまっている僕にとって、雑然と混乱が渦巻くイタリア軍の陣営がなんともよく分からず、顔が分かる俳優がジャン・マリア・ボロンテとアラン・キュニー程度だという苦しい鑑賞でした。そういえば最近「1917」という映画もあったっけ(と知らぬ顔)。

しかし戦争映画です。製作費はかかったろうな。屍役のエキストラ代だけでも大変だ(ピンク映画が何本か作れる)と思う。そして「突撃」のように軍隊という存在に対する明確なメッセージは感じられず、ただただ混乱した前線の模様だけが展開します。それでいて、軍の規律を守るために戦意をなくした兵たちを次々処刑します。

それらに対する感情が、そう簡単に反戦へとつながるはずもなく、また軍隊の存在そのものを疑う大きなモーメントにもなりません。ただただ、不条理な場面が連続するだけ。僕はとてもついていけませんでした。

しかし、なのです。デレク・ジャーマンの「ブルー」が“新しい映画の地平”を切り拓いたのだとしたら、それを見ていない僕はその後の映画の展開を辿っていないわけです。ロージの「総進撃」を、焦点ボケの戦争映画と片付けるのは簡単ですが、それではフランチェスコ・ロージという監督を見捨てることになる。

ということで、もっと作り手の側に寄り添って、映画を考える必要があるという基本的な姿勢を、なんとなく夢想したのでした。世界一わがままな映画ファンのひとりなので、その程度の発想ですが、そう感じさせる“作家性”が、今回の両者にはあったということですね。“じっくりことこと煮詰める”時間が、僕に残されていればいいのですが。

もし残されていない場合は、“じっくりことこと煮詰める”ことは“大作家芸術大学”の若者たちにお願いしたいと思っています。ワッハッハ(と大笑いしながら舞台下手に去る)。
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