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2021年03月21日15:21

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3/19 複製芸術家 小村雪岱 装丁と挿絵に見る二つの精華@日比谷図書文化館

この日は3時から新宿で特定健診。朝7時以降は絶食、家にいると空腹で時間が経つのも遅く感じるから、思い切って出かける。



先月三井記念美術館で見た「小村雪岱スタイル」(こちら)は原画も多く、他作家とのコラボで、美しさにたっぷり浸れた。
でも、雪岱の業績を語るなら「印刷物」にあり。本の装丁、新聞小説や雑誌の挿絵、広告、さらには書体…当時は誰もが「知ってる」「見たことある」アートディレクター、大人気だったのでしょう。竹久夢二が乙女たちに人気なら、こちらは大人に幅広く浸透していたんだね。
本展は、真田幸治氏の監修で膨大なコレクションを展示。いやはや、よくぞここまで集めたものです。すごいです。
三井と同じ図柄を違った形で見られたりして、これは両方見たからの特典。三井で「美術品」として触れたものについても、仕事としての側面からもう一度見ることにより、少し深く鑑賞できました。
そして作品目録が素晴らしい。会場にあるものと同じ解説で、しかも挿絵入り。ただで配布よ。ここの企画展は、たった300円なのに時々とんでもなくいいものをやる。密を避けるために1時間以内の鑑賞でお願いの注意書きもあり、小さな会場なので、その目処でいたが、30分以上はオーバーでした。
入り口はダメなのに、会場内は写真撮影可。アルバムにしました。


https://photo.mixi.jp/view_album.pl?album_id=500000112627462&owner_id=2083345

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https://www.library.chiyoda.tokyo.jp/hibiya/museum/exhibition/komurasettai.html
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大正3年9月、小村雪岱は文豪・泉鏡花による書き下ろし小説単行本『日本橋』で、装幀家としてデビューします。鏡花の小説世界を愛した若き無名の日本画家は、その画号「雪岱」も鏡花によって授けられました。以後、装幀家としてばかりでなく、挿絵画家としても後に「雪岱調」と言われる独自の画風で邦枝完二の新聞連載小説「おせん」などを手がけ、雑誌や新聞などの印刷複製物で活躍します。さらには舞台装置家としての面も見せ、装幀、挿絵、舞台装置と三つの分野で才能をいかんなく発揮しました。  
本展では日本画家という出自を持ちながら、装幀家、挿絵画家という職能で輝きを放つ雪岱の仕事に注目、特に挿絵画家としての仕事については、監修者・真田幸治氏の膨大な個人コレクションから当時の雑誌や新聞を用いてふんだんに紹介します。雑誌のページ全体を使って大胆にレイアウトする様など、印刷物を通した複製芸術家としての雪岱の世界をご堪能ください。

1【鏡花本】
2【新聞連載小説の挿絵】
3【雑誌の挿絵】
4【九九九会の仲間たちの装丁本】
5【資生堂意匠部】
6【大衆小説作家の装幀本】




三井では、「小村雪岱」誕生(泉鏡花が名付けた)の《日本橋》が恭しく展示されていたが、こちらではたくさんの袖珍本の装丁が見られる。
これらのデザインの格好良さは、函の装丁と本の表紙、さらには見返しの絵のデザインを全く変えているところ。それでいて、物語が繋がっていて、もし本文中に挿絵があるならそことも繋がっていて、ひっくるめて「本の世界」に入っていかれそう。
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文章(小説や随筆)から絵を引き出すって、読解力もすごいんだろう。泉鏡花がぞっこんだったのは、自分の作品世界をこんなにも理解していくれる人がいるんだという感激があったからじゃないか。打ち合わせを重ねてクライアントの要望に応えるというんじゃなくて、「これが私が感じ取ったあなたの作品世界です」と言われ、下図を提示、それが思い描いていたイメージぴったり、あるいはそれ以上だったら作家としてどんなに嬉しいか、想像してしまうなぁ。



昭和一桁代の新聞小説の展示。
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小説が載っているその紙面ごと収集したものや、その部分だけ切り取って収集したもの、はたまた絵の部分だけ切り取ってスクラップ帖に貼ったものなど、きっと入手先が違うのだろう。コレクター(研究者)にとってはどんな形の収集がありがたいのかな。でもまずは手に入れることが先決か。
紙面ごと収集のものは、当時の広告やニュースについ目がいってしまう。
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大正から昭和にかけては、本当、性病の広告が多い。ああ、金子みすゞは、好きな人と添い遂げられず、女遊びの旦那さんから性病を移されて、しかも離縁されて夭折したんだっただよなぁ、と悲しく思い出したり。

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二段目の傘がいっぱいの絵は、三井で見たのとちょっと違う。三井のは、右下の方に頭巾をかぶって人混みに紛れて逃げる?おせんだったが、こちらは男たちが何やら話を交わしている。おそらく、新聞連載から単行本発行になる時描き変えたんだろう。

そんな絵が他にもあって…

新聞小説の《お傳地獄》
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水に沈んでいるシーンと、薦で運ばれるシーンは、雑誌のこの挿絵↓と同じシーンではないかと思い、想像していたら楽しくなった。


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群衆のシーンもよくみられるパターン。
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細い線に黒と白だけの塗り分けなのに、スピード感や熱気、ざわめき、いろいろ感じられる。



女だけじゃなく、歌舞伎役者や相撲取り、火消し鳶が主人公と思われる小説の挿絵もまたカッコよく、こんな姿は月岡芳年の錦絵を思い出す。
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こちらは下絵のコーナー。フォト
挿絵原画の紙は恐ろしく薄く、厚手の紙にラフに描かれた挿絵した図を透かして描いた。

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傘で隠れた顔の位置も確認して描く。余白には、その人の顔も描いておく。雨の中地面を歩く小鳥、それだけの彩色原画が三井にあった。

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馬乗りになられて今まさに刺されそうな女。手足の位置を何度も描き直し。

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親指ほどの小鳥のカット。極細の、迷いなき線!

こちらは原画コーナーフォト
黒白のコントラスト、配分がすごくうまいのだが、それだけでなく、直線使いが小気味よく、粋なんだなぁと改めて思う。
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小説挿絵ではない雑誌のお仕事も見事。
付録のようにこんなカラーの口絵があると嬉しい。雑誌を捨てる時に切り取ってしまうよね。
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こんなヌードの袋入り付録もあった。フォト
山下裕二先生が、小村雪岱の女性には清潔感があるといっていたけれど、なるほど、確かに色っぽくてもエロっぽくない。

「ホーム・ライフ」という雑誌。フォト
「春の女」の左ページは小村雪岱だが、右ページは藤田嗣治!
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雑誌もくじのデザインもおしゃれだ。フォト

「婦人の友」の表紙に、丸ビル?や青物市場の近代的建造物も。
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日本家屋の方がいいが、」それでもなぜかやはり雪岱調だ。

三井の日記の時に書き忘れたが、雪岱が資生堂意匠部に在籍して、資生堂の意匠や書体に大きく貢献したこともとても大事なポイント。特に、「花椿」でご存知の少しレトロで麗しいあの資生堂書体は雪岱文字が源流です。
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わかもと本舗が昭和14年に販売した団扇。三井で原画を見たものもあり。雪岱の早すぎる死と戦争という時局の厳しさがなければ、夏の風物詩として定着していたのではないだろうか、と解説。確かに53歳没は早い、太平洋戦争突入の年に病没か。

小村雪岱の死を悼んで編まれた「小村雪岱画集」の表紙は、三井の展示ケースに梅柄の香合と並んであったこの生地だった。ここでまた出会えました。
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鏑木清方の著作を装丁したのは雪岱(清方自身が小村雪岱に依頼)というのも面白い。なぜなら、清方は装丁作家として雪岱よりも早くに活躍しておったのに、鏡花本の装丁を雪岱に譲渡していた間柄だから。一方、鏡花没後の全集装丁に小村雪岱は依頼を辞退、清方を推挙している。
お互いの才能を認め、称え合うというのは、ほとんど聞くことない美談、まして商業デザインの世界なら。こういうエピソードは、作品をますます善きものにする。自分の仕事に誇りを持ち、鍛錬を積み重ね、他人の才は素直に認め称える。
才能があり、歴史に名を残しても、あまりに悪評判だと鑑賞する気になれないのは、本当の審美眼がないからだと言われるかもしれないが、どうせ私は素人なのだから、それでいいと思っています。表面だけの美しいものは見たくない(笑)



3月23日まで。

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