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2020年11月22日08:46

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友だち幻想[読書日記805]

題名:友だち幻想
著者:菅野 仁(かんの・ひとし)
出版:ちくまプリマー新書
価格:740円+税(2018年9月 初版第29刷発行)
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今年の夏に買った本です。
買った時はコロナ禍の自粛期間が明けたばかりで、再開した本屋に行って沢山の本を買い込みました。また、本屋や図書館が閉まると困ると思ったので。

さて、本書ですが、帯に数多くの著名人からの推薦文が載っています。
その一人、茂木健一郎さんの文章を引用します。

“近いと大変で遠いとさびしい
 他人との「間合い」のとり方。
 共感という幻想から自由になる方法。
 刊行から十年の「現代の古典」には、生きる上で
 大切な「心の智慧」が詰まっている”

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目次は次のとおりです。

 はじめに――「友人重視指向」の日本の高校生
 第1章 人は一人では生きられない?
 第2章 幸せも苦しみも他者がもたらす
 第3章 共同性の幻想――なぜ「友だち」のことで悩みは尽きないのか
 第4章 「ルール関係」と「フィーリング共有関係」
 第5章 熱心さゆえの教育幻想
 第6章 家族との関係と、大人になること
 第7章 「傷つきやすい私」と友だち幻想
 第8章 言葉によって自分を作り変える
 おわりに――「友だち幻想」を超えて

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印象に残った文章を引用します。

【第1章 人は一人では生きられない?】《一人でも生きていける社会だからこそ〈つながり〉が難しい》から。 
“こうした現代的状況を目の前にして私が言いたいのは、「だから、一人でも生きていけるんだよ」ということではありません。みんなバラバラに自分の欲望のおもむくままに勝手に生きていきましょうといったことでもありません。
 「一人でも生きていくことができる社会だから、人とつながることが昔より複雑で難しいのは当たり前だし、人とのつながりが本当の意味で大切になってきている」ということが言いたいのです”(20p)

【第3章 共同性の幻想――なぜ「友だち」のことで悩みは尽きないのか】《ネオ共同体――現代の新たな圧力》からは2つ。
1) 
“今私たちが目の当たりにしている同調圧力は、現代における新たな共同体への圧力(これをネオ共同体と呼んでみましょう)なのではないかなと私は考えています。
 日本社会はハード的部分(=物的環境や法的な制度)では十分近代化したのかもしれませんが、ソフト部分(=精神面や価値観)ではまだまだムラ的な同質性の関係性を引きずっているような気がします”(55p)
2)
“「同調圧力」「ネオ共同体」という言葉をキーワードにして、自分たちの身のまわりをとらえなおしてもらうと、意外に見えてくるものがあるのではないでしょうか。
もちろん「ねえみんな、これって、 "同調圧力" だから、もう少しゆるやかな関係にしようよ」「そうだね、じゃあその辺バランスよくやっていこう」なんてことには、すぐにはならないでしょう。
でも、言葉には他の人とのコミュニケーションの手段であると同時に "自分の内面の気持ちに輪郭を与える" という大事な働きもありますよね。もやもやした気持ちが言語化できただけでも、精神的にずいぶん違ってくるのではないでしょうか”(58p)

【第3章 共同性の幻想――なぜ「友だち」のことで悩みは尽きないのか】《「やりすごす」という発想――無理に関わるから傷つけあう》から。
“ニーチェは、「ニヒリズム」という言葉で有名な哲学者ですが、もうひとつ「ルサンチマン」というキーワードに焦点を当てて、ものを考えた人です。
 ルサンチマンとは「恨み、反感、嫉妬」といった、いわば人間誰もが抱きうる「負の感情」のことです。
 誰でも、自分がうまくいかなかったり、世の中であまり受け入れられなかったりしたときに、自分の力が足りないんだと反省するよりも、往々にして「こんな世の中間違っているんだ」と考えたり、うまくいっている人たちを妬んだりするものです。
 そんな感情を自覚して、「どうやりすごすか」を考えることが大切です”(72p)

【第4章 「ルール関係」と「フィーリング共有関係」】《ルールは「自由のため」にある》から。
“ルールを大切に考えるという発想は、規則を増やしたり、自由の幅を少なくする方向にどうしても考えられてしまうのですが、私が言いたいことはそういうことではありません。"むしろ全く逆"なのです。
 ルールというものは、できるだけ多くの人にできるだけ多くの自由を保障するために必要なものなのです。
 なるべく多くの人が、最大限の自由を得られる目的で設定されるのがルールです。ルールというのは、「これさえ守ればあとは自由」というように「自由」とワンセットになっているのです”(86p)

【第6章 家族との関係と、大人になること】《君たちには無限の可能性もあるが、限界もある》から。
“大人になるためにかならず必要なことなのだけれど、学校では教えないことが二つあります。
 一つは、先に述べた「気の合わない人間とも並存しなければならない」ということと、そのための作法です。
 もう一つ教えないことは何かというと、「君にはこういう限界がある」ということです。そもそも人間が生きているかぎり、多かれ少なかれ限界や挫折というものは必ずやってくるものです。
 それを乗り越えるための心構えを少しずつ養っておく必要があるのですが、いまの学校では、「君たちには無限の可能性がある」というようなメッセージばかり強くて、「人には誰でも限界がある」「いくら頑張ってもダメなことだってある」ということまでは教えてくれません”(115p)

【第7章 「傷つきやすい私」と友だち幻想】《「友だち幻想」》から。
“価値観が百パーセント共有できるのだとしたら、それはもはや他人ではありません。(略)
 思っていることや感じていることが百パーセントぴったり一致していると思って向き合っているのは、相手ではなく自分の作った幻想にすぎないのかもしれません。つまり相手の個別的な人格をまったく見ていないことになるかもしれないのです”(128p)

本書は、高校生ぐらいの読者を想定して書かれていますが、大人にもドキッとする指摘があります。
そんな例を【第6章 家族との関係と、大人になること】《大人になるということ》から引用して締めくくりにします。
“精神的自立についていえば、このごろは、いつまでたっても精神的に大人になりきれていない人も多いようです。
 精神的自立ということをどのようにとらえるかにもよるのですが、私は「自分の欲求のコントロール」と「自分の行いに対する責任の意識」というものが重要な構成要素だと思っているのですが、この二つをキチンと兼ね備えた大人というのはなかなか数少ないのかもしれません。(じつはかくいう私もこの点に関してはまったく自信がありません)”(114p)

私も、いい年齢ですが「自分の欲求のコントロール」と「自分の行いに対する責任」が完全にできている自信はありません。
ですが、これからは「自分の行いに対する責任」を持って生きていきたいと思いました。

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菅野 仁(かんの・ひとし)
1960年宮城県仙台市生まれ。
89年東北大学大学院文学研究科社会学専攻博士課程単位取得。
東北大学文学部助手などを経て、96年宮城教育大学教育学部助教授、06年より同大学教授。16年より同大学副学長(学務担当)を兼任。専攻は社会学(社会学思想史・コミュニケーション論・地域社会論)。
G・ジンメルやM・ヴェーバーなど古典社会学の現代的な読み直しをベースとし、「“自分の問題”として〈社会〉について考えるための知的技法の追求」をテーマに、考察を続けている。
著書に『18分集中法――時間の質を高める』(ちくま新書)、『教育幻想 クールティーチャー宣言』(ちくまプリマー新書)、『ジンメル・つながりの哲学』(NHKブックス)、『愛の本――他者との<つながり>を持て余すあなたへ』 (PHP研究所)、共著に『社会学にできること』(ちくまプリマー新書)、『コミュニケーションの社会学』(有斐閣)、『いまこの国で大人になるということ』 (紀伊国屋書店)、『はじめての哲学史』(有斐閣)など。
2016年、没。

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