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2020年10月28日03:47

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私家版(地下版?)ゴジラ案:その14

*ビオランテ

「久しぶりだな白神さんよ」
 玄関をこじ開け押し入るや取り囲んだこわばった表情の女に、嘲笑混じりにぶつける言葉また言葉!
「うちの若いのを連れ込んだそうで」
「どんなふうにお過ごしだったか調べてこいとの命令でね」
「話しづらいってんなら実演してくれていいんだぜ」
「今回も夜通し付き合ってもらいますぜ」
「ビオランテなんて名乗ったのは坊やの趣味かい?」
 瞬間、女の目が青白い憎悪に燃え上がる!
「そう、おまえたちは知りもせずにその名で呼ぶのね。人ならぬ身になるしかなかったものが名乗る名で。じゃあ見せてやるわ、おまえたちがねじ曲げた姿を!」
 とたんに周囲の床が爆発さながらに砕け散り、破片を巻き上げ姿をあらわす大蛇のごとき棘だらけの根また根! たちまちその一本が男の一人に巻き付くや、何本もの棘に貫かれ声も上げずに絶命したその身が泡立つように溶けてゆく!
「う、わぁあぁああーーっ」
 恐慌に陥り我先に逃げ出す男たちを、だが行く手の床を破って続々と出現する根が阻む。引きつった顔の仲間の肩を掴むや蠢く根めがけ突き飛ばすリーダーの血走った目!
「あ、兄貴いっ!」
 悲鳴を上げつつ倒れ込む餌食を呑み込む根の群れの隙間をすり抜けるや、リーダーは仲間たちの断末魔を振り切り出口へと一人ひた走る!


−−−−−−−−−−


 ようやく見えた洋館から聞こえる絶叫に驚き思わず足の止まる省次に、玄関から転げ出た男が気づくや立ち上がろうと足掻きつつ叫ぶ。
「助けて、助けてくれぇえ」
 だが背後の館からガラスの砕ける音とともに伸び上がる巨大な蕾! それがベリベリッと裂けるや足掻く男めがけ弧を描く!
「わぁあ」
 悲鳴は蕾に上半身を丸呑みされた瞬間に断たれ、吊り上がった下半身が酸の臭いとともにもげ落ちる。あまりの光景にすくんで動けぬ省次に、無数の棘を牙さながらに剥き出す蕾が向き直る。だが、
「やめて、ビオランテ」
 その声とともに巨大な蕾を支える長大な茎は縮みゆき、砕けた天窓の方へ戻っていった。放心しつつ見届けた若者は、ようやく玄関に立つ女に目を向けることができた。だが門灯の手前に立つその姿は逆光になって表情を窺うすべがなかった。シルエットの頭の部分が、それでも俯いたように見えた。
「ごめんなさい、酷いものを見せてしまった……」
 くぐもった声がいうそんな言葉を耳にして、ようやく掠れ声で呼びかける省次。
「白……神さ」
 影がはっきりかぶりを振った。
「わかったでしょう? もう私はその名で呼ばれていいものではなくなってしまったの」
 そういうと踵を返し館の中へ戻ってゆく細身の後ろ姿。あとを追おうとしたそのとき大地が地震さながらに揺れ始め、たたらを踏んだその目前で洋館が土台ごと大きく陥没! 玄関どころか2階までも半ば土中に埋もれてしまう。驚愕に立ち尽くす若者は、巨大なものが地中の奥深くへと潜りゆく振動が遠のいてゆくのを体で感じ続けていながらも、知覚が麻痺したような状態をついに脱することができなかった。


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