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2020年07月24日16:26

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『はちどり』はどこへ飛んでいくのか

■韓国映画『はちどり』SNSや口コミで公開劇場拡大へ!公開初週比230%増
(cinemacafe.net - 2020年07月09日 13:02)
https://news.mixi.jp/view_news.pl?media_id=25&from=diary&id=6151152

■『はちどり』「先生は自分が嫌になったりしない?」孤独な少女が憧れの大人に問う本編映像
(cinemacafe.net - 2020年06月20日 16:32)
https://news.mixi.jp/view_news.pl?media_id=25&from=diary&id=6127646

 観劇中、終始、不快感に襲われていた。
 『はちどり』は1994年の韓国・ソウルを舞台にして、一人の14歳の少女の眼を通して当時の世相を描写した映画である。ここに提示された韓国文化の様相、これが何とも嫌らしくて鬱陶しい。言っちゃあ何だが、こんな国には生まれたくないと思わせてしまうものなのだ。

 こう言うと、嫌韓厨が小躍りして喜びそうだから、いささか注釈が必要になる。何が嫌かって、出てくる男どもがどいつもこいつもミソジニストばっかりで、露骨に女性を蔑視しているやつらばかりなことなのだ。感情を爆発させて、すぐに女性を恫喝する。何かに付け、「ああ!?」と叫んでは女性からの反論を封じようとする。女は男に従うのが当然だという文化が、何の批判も受けずにまかり通っている。
 主人公の父も、兄も、学校の教師も、みんな同じだ。男と女との関係は、支配と被支配でしかない。最初、父親の主人公への愛情が全くないので、継父かと思ったくらいだ。

 そして韓国の学歴偏重社会にあっては、有名大学に入り、一流企業に就職することだけが人間としての価値を認められる唯一の方法である。それ以外の価値観は一切認められない。マンガ家になることを夢見る主人公などは、その時点で人生の落伍者に認定されているのである。
 心が病んで自殺した叔父は、父から敗残者扱いをされるし、主人公に恋心を寄せたカレシは、母親の反対にあってあっさり主人公への思いを諦めてしまう。自分を慕ってくれた後輩の少女も、いつの間にか離れていく。
 強い男は正義で、弱い男は負け犬、そうした価値観の中で翻弄されていくうちに、主人公も少しずつ、心のバランスが壊れていく。

 時代劇ではなく、ほんの四半世紀前の現代劇でその始末なのだから、韓国文化は未だに男尊女卑が横行する前近代的な社会なのだろうと判断せざるを得ない。
 日本も事情はたいして変わらんだろうと言われればその通りではあるが、『はちどり』を観ていてイライラしてしまうのは、女性差別主義者な男どもに対して、女性が殆ど反抗の手段を持たないでいることだ。女性差別を告発する映画は、世界を見渡せば数多く挙げることができるが、みな、男の横暴に対して勇敢に戦いを挑むものが殆どである。
 それが、本作の主人公は、見事に何もしない。状況に流されるばかりで、自分の目の前で何が起きているのかを把握することすらしようとしない。

 父や兄は、なぜ自分に無関心なのか。
 叔父はなぜ自殺(したらしい)のか。
 親友の少女はなぜ自分を裏切ったのか。
 カレシは母親に何を言われたのか。
 後輩の少女はなぜ自分から離れていったのか。
 そして、彼女にとって唯一の理解者で「救い」であった、漢文塾の先生は、なぜ突然、塾を辞めてしまったのか。

 いくつもの「ほころび」を観察しながら、主人公はそれらの「理由」を深く追求しようとはしない。知ろうとしても分からないことの方が圧倒的に多い。この歪んだ文化の中にどっぷり浸かっていることが、彼女の心を麻痺させてしまっているから。自分の心のストレスが、何に起因するものなのか、自覚できない状態に置かれているから。
 物語の後半、聖水(ソンス)大橋崩落(1994年10月21日、施工業者の手抜き工事が原因で、32人が死亡した実際の事件)は、韓国社会のその「ほころび」の象徴として描かれる。複雑かつ重層的に重ねられてきた社会のひずみが、現実に、人間の命を奪ったのだ。
 悲劇に至るまでの様々な予兆を感じながら、主人公は何もできなかった。何をすればよかったのかすら分からなかった。社会に流されるばかりで、彼女の中には何にもなくなっていたから。14歳とは、そういう年齢なのである。

 主人公のような少女は、韓国社会のどこにでもいたのだろう。
 数々のハラスメントに唯々諾々と従うしかなかったのは、少女の母親から既にそうである。連綿と継続されてきた差別の歴史、それらに異を唱える映画は、韓国ではなかなか生まれなかった。この「告発」の映画は、韓国の女性たちがようやく立ち上がった端緒となる作品であるように思える。
 タイトルの「はちどり」とは、キム・ボラ監督によれば、「希望、愛、生命力」の象徴であるということだ。韓国の女性たちは、それらをずっと奪われてきたのだ。最後の悲劇の果てに、少女が観た未来に、それらはあったのか―――少女はやはり何も語らない。彼女の微笑みをどう感じるかは、観客の想い次第である。


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