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2020年06月12日21:23

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「深夜の酒宴/美しい女」

読書日記
「深夜の酒宴/美しい女」
椎名麟三 作
(講談社文芸文庫)

「美しい女」:電車の車掌であり運転士でもある男。彼の人生には次々と常軌を逸した狂気に近い女性が現れる。しかし男は常に心の奥底に理想とする「美しい女」の幻想を抱き続け、けして凡人の道を踏み外さない。

ユーモア小説という解説もあるが、とんでもない暗黒小説。
登場する女性たちが平穏な人間性を捨て去っている。最初に登場する娼婦として生きる女性はかなり自暴自棄だが、それがなぜかはわからぬうちに気が違ってしまう。妻となる女性は常に頑なな態度で言動が強く、ひとときもくつろがない。最後に心を寄せてくる女性もふわふわと主体性がなく不可解な行動をとり不気味だ。
かたや主人公の男は電車の仕事を愛する自分から一歩も出ようとはせず、崩れゆく家庭や混乱する労働の現場をどうしようとも思わない。耐えるというのでもない。ただ幻想の「美しい女」の面影を心に抱くばかりだ。

したがってこの作品に登場する人物には普通の意味での共感出来る人生や生活というものがなく、奇態な人生が進行するばかりで、まさに地獄を行くような、読んでいてまったく快活としない暗澹たる思いに苛まれる。
どういう意図があって作者はこれらの人物を設定したのか?
これはもしかしたらキリスト教思想の仮想実験であるかもしれず、そうだとすればいよいよわからない。
梅崎の「幻化」や藤枝の「空気頭」など得体の知れない傑作はあるが、この作品もその仲間かもしれない。とりあえず稀に見る奇作だと思う。
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